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Vol. 26
今回は裸眼3Dディスプレイを取り上げます。
これはメガネやゴーグルをかけずに立体的に見ることのできるディスプレイです。
もう15年以上前から製品化されている技術ですが、昨今のVRブームにより再び注目を集めています。
■執筆者 町田 聡(まちだ さとし)氏 プロフィール
アンビエントメディア代表 コンテンツサービスプロデューサー。プロジェクションマッピング、デジタルサイネージ、AR、3DメディアのコンサルタントURCFアドバイザー、(財)プロジェクションマッピング協会 アドバイザー。著書に「3D技術が一番わかる」技術評論社、「3D マーケティングがビジネスを変える」翔泳社 などがある。弊社非常勤顧問・(財)最先端表現技術利用推進協会 会長。
  Twitter:http://twitter.com/machida_3ds
  facebook:http://facebook.com/machida.3DS
  HP: www.ambientmedia.jp

再び注目を集める裸眼3Dディスプレイ 〜大型化とコンテンツ制作が容易に〜

■立体視対応のVR映像(3DVRビデオ)とは?

VRやARが注目される中、その視聴方法はゴーグルやメガネ一体型のデバイスで視聴する以外に、シアター形式で臨場感を体感する方法など様々な表示方法が登場しており、その多様化する表示方法の一つとして、今裸眼3Dディスプレイが注目されています。その理由は、裸眼3Dディスプレイであれば視聴者側がデバイスを付けずに立体視が可能な点、つまりゴーグルやメガネをかけなくとも立体視できる点にあるといえます。VRゴーグルが2眼であることで分かる通り、本来VRは立体視で見ることが前提で考えられてきました。ただし、最近は立体視以外に視界を広く覆うことで得られる臨場感自体をVRの要素として採用していることも多いようです。つまりインタラクティブな2D映像で視野を覆う方法です。もちろん、これでも臨場感は得られますが、ここに立体視がはいることでさらに体験レベルは高くなり、シミュレーションなどにも有効と考えられます。

このような背景から、今後は裸眼3Dディスプレイを活用したシアターが注目されてくることは確実です。


■裸眼3Dディスプレイの全盛期

ここで、「裸眼」と書かれていることに注目してください。
では、「裸眼3Dディスプレイ」と「3Dディスプレイ」はどこが違うのでしょうか?

ここでいう裸眼とは、英語で「Glassless 3D」あるいは「Glasses-free 3D」といわれる通り「メガネをかけない」という意味です。つまりメガネをかけなくとも立体的に見ることができるディスプレイということです、一方「3D映画」やしばらく前に登場した「3Dテレビ※」、立体視対応の「3DVRシアター」などでは3Dメガネが必要ということになります。 
※一部の3Dテレビは裸眼対応のものがありました。

裸眼3Dディスプレイを使用した製品で印象に残るのは、15年ほど前に登場したシャープのノートPC「Mebius PC-RD3D」でした、このノートPCは3Dと2D表示がボタンで切り替えられる当時としては画期的な製品でした。これ以外にも単独で使用できる裸眼3Dディスプレイ(PCを接続する必要あり)がたくさんありましたが、ここ数年はほとんど姿を見なくなりました。それはテレビの3D機能が姿を消したのと同じタイミングで、原因はいくつか考えられますが、主にコンテンツ制作の難しさとメーカー乱立によるディスプレイ側の粗悪品が出回ったことがあると思われます。

コンテツ制作の難しさについては、3D撮影ができる人材不足や本格的な3D撮影ができる機材が高価であった点などがあげられますが、これは裸眼3Dに限ったことではなく、メガネ式でも状況は同じといえます。裸眼3Dコンテンツについては、さらに2視点からより多くの視点を持った多視点に変換するためのソフトウエアが未成熟であった点があげられます。つまり変換して作成された中間視点の映像に違和感を感じたり、ディスプレイ側のレンズピッチと変換画像の位置が合っていないなどの問題がある製品が一部でありました。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
写真1 裸眼3Dディスプレイ全盛期のPHILIPSの
製品ラインナップ(10年前)
2008年オランダでの国際放送展IBC(International Broadcasting Convention)にて筆者撮影。
ちなみにPHILIPSは裸眼3Dディスプレイから撤退している。
写真2 9視点、42インチの裸眼3Dディスプレイを9台使用した
9面マルチデモ(126インチ相当)、同じくIBC 2008 PHILIP製 筆者撮影。
当時としては意欲的なデモであり、高い臨場感が得られていた。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 図1 裸眼3Dディスプレイのしくみ(レンチキュラー方式)
この図は2視点(=左右)の場合の図、通常裸眼3DディスプレイはスマホやPCなどの小型の場合は2視点でも構わないが、それ以上大型で使用する場合は4視点から9視点以上の多視点が採用される場合が多い。その場合のレンチキュラーの構成は、図のかまぼこ状の並びを短冊状にして、さらにずらして配置するなどの工夫がされる、映像もLRではなく、市松状に1から9までの多視点映像が並ぶ、この1から9までの画像は通常は2視差の映像からソフトウエア変換でその間を補完したものを作成し、それが表示される。(もちろん9台のカメラで9視点を正確に撮影したものをレンズの位置に合わせて並べても良い)

■最新の裸眼3Dディスプレイ

10年前には多くのメーカーが裸眼3Dディスプレイを製品化していましたが、現在ではそのほとんどが製造をやめてしまいました。そのような中、当時の技術やノウハウの多くは中国に集まっており、最近では中国製の裸眼3Dディスプレイで良いものが出てきています。

三友(ミトモ)株式会社が販売するOAKTAIL製もその一つで27インチから85インチまで豊富なラインナップがそろっています。中でも85インチは裸眼3Dディスプレイでは珍しい縦置き、しかもこれだけ大きいと実物大の人の再現も可能です。迫力があるのでサイネージとして高い注目を集めるには十分な大きさといえます。

OAKTAILのラインナップにはこの他、縦横兼用の27インチ(4K、4視点)、横専用の42インチ(2K、9視点)、同じく55インチ(2K、5視点)、同じく65インチ(4K、9視点)、縦専用の65インチ(4K、4視点)などがそろっています。またコンテンツは2視点の各種フォーマット(Side by Side、2D+Depth、などに対応、ただし機種により最適フォーマットは異なるようです)に対応しており、2視点のコンテンツは内蔵の多視点用再生プレーヤーでリアルタイムに多視点変換されて再生することができます。もちろん、最初から多視点になっている多視点用のMultiTileフォーマットの再生も可能です。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
写真3(左) 縦型の85インチ(2100H x 1220V x 535D、325Kg)、
筐体内に再生機能内蔵、4K解像度、4視点

写真4(上) 横型の42インチ再生機能内蔵、2K解像度、9視点。

従来はこの2視点から多視点への変換ソフトを別途使用して多視点用コンテンツを制作する必要がありましたが、その点が楽になっています。Side by Sideが利用できればコンテンツ側の負担は格段に減るので、今後はこのフォーマットが全機種で扱えるようになることを期待したいと思います。

また、裸眼3Dディスプレイによるマルチ画面もラインナップされるとのことで期待したいと思います。
2008年に筆者がみたPHILIPSのものは、単なる展示デモでしたが、今回のシステムはマルチ画面用の再生プレーヤーなども整備されているのでより手軽に裸眼立体のマルチ画面が構築できるようになります。この技術を活用することで、視点の位置が制限されるものの、裸眼3Dシアターの構築も可能になると思われます。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
写真5 マルチ画面に対応した再生ソフト、様々なレイアウトに対応している。
※製品出荷時期は販売店の三友株式会社にご確認ください。

■リアルタイム表示に対応したソリューションも登場

株式会社たしてんでは、リアルタイムで裸眼3Dディスプレイに表示できるシステムを構築しています。
これは外部PCで裸眼3D用の多視点映像出力を行い、HDMIで裸眼3Dディスプレイに接続するというものです。写真6はUnityが技術デモとして公開しているものを、そのまま株式会社たしてんで開発したソフトウエアでリアルタイムかつインタラクティブに裸眼立体視対応して出力しています。つまりUnityプロジェクトがあれば、そのまま裸眼立体視対応になるということです。

このソフトの特長はディスプレイ側のハード的な視点数より多くの視点数で出力することも可能など、多視点での裸眼立体視を知り尽くした開発会社だからできる技といえます。ちなみに写真は65インチの9視差仕様のディスプレイですがそこに24視点で表示させています。

写真6

このようにマルチ画面やインタラクティブが可能になると、裸眼3Dディスプレイもデジタルサイネージ用途以外に、VR用表示装置としても活用できることがご理解いただけると思います。表示装置としては準備が整いつつありますので、今後の課題は立体視対応のコンテンツの制作から表示までのワークフローと撮影時と表示時の立体感をいかに再現するかという経験が重要になるかと思います。

※社名・製品名は一般的に各社の登録商標または商標です。



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