「VR元年」を象徴するように、最近もVRに関するさまざまな話題が続いています。それらの中から今回は、スマートフォンに関連する分野を取り上げ、タイプ別に紹介します。さらに、インタラクティブ系、パッケージ系、ライブ系などのVRコンテンツについても見渡していきます。 |
見渡せばVR元年(2)〜いろいろあるVRの種類〜
VRに関する話題はまだまだ尽きることがないようです。先日もスマホ向けの通信やグラフィック関連チップセットの大手ベンダーである米国のQualcomm(クアルコム)が視線追跡機能や手の動きをトラッキングできる機能などを搭載したHMDのリファレンスモデルを発表したようです。クアルコム自身がHMDを販売する目的ではなく、クアルコムが開発したモバイル用プラットフォームで映像やグラフィクスに強いSnapdragonのVR強化版としてその機能を示すと同時に、このチップセットを採用して製造各社にハイエンドHMDの製品化を促す目的です。しかも、このHMDはスマホもPCも不要なスタンドアローン型です。そのほか、コンテンツの分野でもドコモがVR配信の専用サービスを7月に開始し、8月末には10万ダウンロードを超えているとのことです。今回はこれらVRに関する様々な話題のなかから、スマートフォンによるVRの世界をみていきます。
■いろいろあるVRの種類
まずはVRのカテゴリによる分類を把握しておきましょう。(図1)
メディアのニュースを見ていると様々なVR関連の動きが報じられていますが、その内容が多義に渡るため、各話題の関連性が分かりにくい状態になっています。これらを理解するためにはまずVRの種類を整理しておきましょう。VRの種類が分かれば、ニュースの話題がどこの分野のことなのか、理解の助けになります。
▲図1 VRデバイスのカテゴリ分類 |
「スマホ系」
GoogleのCardboadやサムスンのGearVR(写真1)に代表されるようにスマホをHMDの表示装置として使用するタイプです。HMDやビューアのコストも安く、下は数百円〜2千円、上は1万5千円(GearVR)程度でそろえることができます。
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▲写真1 Cardboad(左)とGearVR(右) |
コンテンツは360°全周動画を見ることが中心で、360°全周映像のVRに対応したYoutubeの視聴もできます。その手軽さから今後最も普及するタイプと考えられます。スマホの能力も年々向上していることを考えると、今後はリアルタイムCGを含めたインタラクティブ系のコンテンツにも用途が広がっていくでしょう。スマホ系はゴーグル型の本格HMDタイプからビューアタイプの簡易なものまで形態もいろいろで(写真2)、最も種類が多く、特にゴーグル型は一見するとスマホが中に入っていることが分からないので、PC系やスタンドアローン型と区別がつかないことがあります。このあたりも話題が混乱する原因になっているのかもしれません。
▲写真2 スマホ系の様々なHMD |
「スタンドアローン系」
スタンドアローン系とは、HMDの中にCPU、センサー、表示装置、通信機能、メモリーの全てが入ったものです(写真3)。前述のクアルコムのチップセットがターゲットとしているタイプです。スタンドアローン系の利点は、どこにでも持ち運べてこれ1台あればすぐにコンテンツを見ることができる点とスマホのように見ているときに電話がかかってくるということがないという点です。SDカードスロットがついている機種もあるので、コンテンツの差し替えも容易です。
イベントなどでもセットアップの手間がなく、スマホに比べて単機能なので邪魔な操作が入る必要もなく、さらに動き回るとしたら線がないという利点もあります。今後はPC自体がより小型高性能になることで、HMD型のPCとして大きく成長する可能性のあるタイプです。透過型HMDとしての発展も見込まれており、その場合はAR対応も可能であることから大きく注目されそうです。 |
▲写真3 スタンドアローン系HMD |
「セパレート系」
セパレート系は、PCやゲーム機などの本体にHMDを接続して使用するタイプです。
Oculus RiftやHTCVive®、ソニーのPlayStation®4などが該当します。HMD側はセンサーと表示装置を担当し、本体側ではCPUやGPU、グラフィック出力、アプリケーションソフトを担当します。ですので、ゲーム機のように専用機であればセットで使用する問題はありませんが、HMD側と本体側を別に準備する場合はインテグレーションの問題が起きるので、一般的にはアプリケーションの提供先から本体とHMDをセットで導入するのが間違いないと思われます。※ゲーム用途などの場合はHMDをサポートしたゲーム専用機などHMDベンダーが推奨しているPC構成を確認したうえで導入する必要があります。
「シアター系」
今のVRブームはHMD=VRとの認識があるようですが、実はHMDはVRの表示方法の1つにしかすぎず、HMDをつけずにVRを体験する方法もあります。それがシアター形式でのVR体験です。
その最初のものは、1991年ごろイリノイ大学で開発された没入型の投影環境CAVE®といわれています。最大で周囲6面(前後左右上下)をスクリーンで囲み、インタラクティブな立体映像をリアプロジェクションして、3Dメガネをかけ、センサーをつけてその内側で体験するというものです。HMDよりは大掛かりですが、スクリーンが離れているのでよりリアルな没入感を体験することができます。立体視を採用しなくとも、また面数は6面なくとも、用途によりその没入感は十分であることを考えると、視聴者の視点範囲も広がり同じ空間で複数の人が体験を共有することも可能になるので、今後シアタータイプのVR環境の需要は大きくなると考えられます。従来は大きなスクリーンサイズを体験するためには影にならないように、リア投影が必要でしたが、最近の超短焦点プロジェクターやプロジェクションマッピングの技術を採用することで省スペースでも複数面投影を実現することができるようになりました。筆者も現在このタイプのVRシアターを企業のショールームや自治体の観光シアターとして手掛けています。HMDタイプに比べて年齢制限がなく、装着の運用管理も必要ないとの理由で採用されることが多くなっています。
■VRコンテンツの種類
コンテンツの話題も多くなってきましたが、その内容は様々で、中にはなにがVRのコンテンツとして最適なのか、VRの利用方法自体に対して混乱する方が多いようです。そのような場合は「VRとはなにか?」、「VRとはどうあるべきか」という教科書的な理解ではなく、VRの臨場感や没入間を活かすことで、有益な利用方法を見出だすことが大切で、それを実現するのに最適なコンテンツやハードを選択することが必要と思われます。現在では「VR=向いたほうに映像が変わる」程度に理解するのが良いかもしれません。
「インタラクティブ系」
双方向インタラクティブ系ということもできます。
ここでは、単に「向きを変えるとそちらの映像が見える」という片方向のインタラクティブではなく、双方向のインタラクティブ性をもつものとします。
HMDにあるセンサーや視聴者の動きを感知する外部からのセンサーと表示がリンクすることで、その変化をリアルタイムで表示できるものです。立体視対応の映像が表示されるのが一般的ですが、必ずしも立体映像の必要はありません。
「パッケージ系」
360°の映像(横方向だけなど部分も含みます)を指します。360°撮影されたもの、あるいはCGで制作した360°動画も含まれます。こちらも立体撮影や立体レンダリングをしたものと、そうでない単眼用のコンテンツの両方があります。いずれの場合も左右の視差を持つコンテンツを動画で制作する際は、天地の方向に矛盾が起こるので難易度が高く、天地を使用しない水平方向だけ(シリンダー状)の立体映像もあります。今後は撮影が楽なシリンダーでの360°映像コンテンツは増えていくと思われます。また、単眼での撮影をしてそれを2眼のビューアで見る(左右に同じものを表示する)ことも2D映像への没入間を高めるためには効果があるので、その方法も普及するでしょう。
「ライブ系」
ライブ撮影をしたものをストリーミング配信する方式です。撮影自体はパッケージ系と変わりませんが、リアルタイムで配信するために360°全周撮影したものを(通常のビデオ方式xカメラ台数分の魚眼撮影したような映像)リアルタイムに合成して360°全周映像に変換する必要があるところが特殊といえます。この技術はまだ発展途中ですが、将来はカメラアレイの中に合成機能も組み込まれて、より簡単に高画質の360°全天周映像がライブでみられるようになるでしょう。特に、2020年の東京オリンピックなどスポーツ系での需要が今後高まると思われます。
以上のように、VRコンテンツは実写への注目が以前に増して増えてきています。
VRが登場した初期の時代はインタラクティブが主流でしたが、多くの人が視聴する時代になると、映像が主流になり、そこにインタラクティブ性が付加されていくことになるでしょう。
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