未来を「体験」する万博展示の現場から

「ロボットエクスペリエンス」に見る技術と感性の融合 ─

はじめに:
未来社会の「設計図」を描く場としての万博

2025年大阪・関西万博の開催にあたり、筆者は株式会社フォーラムエイトが出展する「ロボット&モビリティステーション」パビリオンの期間限定展示、「未来の月と宇宙のバーチャル体験」の監修を外部協力者として担当した。

本稿では、その企画の背景、展示内容、技術構成、来場者の反応を通じて、万博という場が未来の社会と技術の関係をどのように可視化し得るのかを考えてみたい(図1)。

【図1】 パビリオン全景

展示の概要:宇宙開発の現場を疑似体験する

本展示は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の協力のもと、実際の宇宙施設や探査機に関する公開データを活用し、3種類の体験コンテンツで構成された。これらはいずれも、フォーラムエイトが開発・保有する高精度な3Dシミュレーション基盤とVRインターフェースを活用し、来場者に没入的な「体験」を提供するものである(図2)。

  • 国際宇宙ステーション「きぼう」での無重力遊泳体験
  • 月面探査機の操縦体験
  • 宇宙建設現場における重機操作シミュレーション

いずれも6軸モーションチェアとVRシステムの複合制御により、映像と身体感覚の両面から臨場感を高める設計となっている。

360°宇宙遊泳体験

月面走行シミュレーション体験

宇宙建設シミュレーション体験

【図2】 シミュレータ体験風景

技術と設計思想:
VRは「伝える手段」である

こうした体験型展示を成立させるためには、宇宙や建設、ロボティクスといった複雑で専門的な領域を、単なる視覚的演出にとどまらず、来場者の身体感覚を通じて理解可能なものへと翻訳する工夫が求められる。

特に、月面探査機の操縦体験では、月面特有の重力・摩擦条件を模倣した挙動を再現するため、物理シミュレーションエンジンが効果的に活用された。ここで重視されたのは、「未来っぽさ」ではなく、現実に基づいた動作設計である。そこにこそ、展示の信頼性と深みが宿る。

来場者の反応と展示の社会的インパクト

展示期間(2025年5月1日〜6月1日)中には、延べ148,159名がパビリオンを訪れ、そのうち57,439名が本展示を実際に体験した。混雑時には長い待機列ができるほどの盛況であり、想定以上の関心の高さがうかがえた(図3)。

【図3】 会場風景

来場者の反応も極めて好意的で、「重機のリアルな操作感に驚いた」「子どもが宇宙に興味を持つきっかけになった」「まるで無重力空間にいるようだった」といった感想が寄せられた。SNS上でも「アニメとコラボしてほしい」「万博らしからぬアトラクション!」といった声が散見され、教育的・娯楽的価値の両面から注目を集めている。

本展示は、単なるアトラクションではなく、「技術の社会実装の在り方」や「次世代の学びのデザイン」にも一石を投じる試みとなった。

万博と民間技術の共創に向けて

フォーラムエイトが提供したVR・シミュレーション技術は、本来は社会インフラや建設設計などの専門分野で培われてきたものである。しかし今回、それが教育や体験、啓発といった領域に応用されることで、新たな意味や価値が生まれたと感じる。

国際博覧会という「未来社会の実験場」において監修者としてプロジェクトに携わる中で、専門家チームのメンバー、そして、世界中からの多様な来場者と交差する場面に数多く立ち会えたことは、非常に意義深い経験であった。今後もこのような展示を通じて、学術的・技術的視点から貢献していきたいと考えている。

おわりに:テクノロジーと市民の距離を縮める

大阪・関西万博は、2025年10月13日まで開催されている。「ロボット&モビリティ エクスペリエンス」は、その中でも最先端技術を人々に開かれたかたちで提示する、貴重な試みのひとつである。

本展示が示したのは、未来技術がいかに人々の感性に訴え、関心を喚起し、行動を促すかというプロセスである。言い換えれば、「テクノロジーを社会とつなぐデザインとは何か」という問いに対し、一つの具体的な応答を提示したと言えるのではないか。

技術は単なる手段にとどまらず、社会との対話のメディアでもある。未来に向けて、こうした“体験”を起点とした共創の場がさらに広がっていくことを期待している。

(執筆:福田 知弘)

(Up&Coming '25 盛夏号掲載)




Up&Coming

LOADING