■講師プロフィール
高梨和光[タカナシ ワコウ]<工学博士>
現在、清水建設株式会社 土木事業本部設計部
■講演レポート
高梨氏は、津波をはじめとする流体の研究がご専門です。そこで、専門家の立場から、津波被害の特長、そして昨年発生したスマトラ島沖地震によるインド洋津波の被害について、解説ならびに検証をして頂きました。
日本においては、過去に大きな地震発生とともに大きな津波の被害も発生していますが、近年の地震は内陸型の地震も多いために、地震が起きても津波は発生しないと思われがちの状況を大変危惧されておられました。そこで、国内での過去の津波被害の例として、昭和三陸津波(1933.3.3)、南海地震津波(1946.12.21)(図1)、チリ地震津波(1960.5.22)、日本海中部地震津波(1983.5.26)、北海道南西沖地震津波(1993.7.12)などについて、写真を交えて被害状況をご紹介頂きました。そして、過去に関西地区に被害をもたらした安政南海地震津波(1854.12.24)の被害状況を、文献からご紹介頂きました。この地震は、1946年の南海地震と同じ震源で発生しているものですが、地震および津波による家屋流出・倒壊は1万を超え、さらに大阪では水死者が400名以上に及んだ事が示されておりました(「渡辺偉夫著、日本被害津波総覧【第2版】、東京大学出版会」より)。また、独自に実施された想定南海地震による津波のシミュレーションから、津波の高さが大阪湾口では2m以上にもおよぶことがわかり、過去の被害状況が現実に起こりうると説明されました。
続いて過去最悪の被害となった、インド洋津波による被害状況を多数の写真と図を用いてご紹介頂きました。犠牲者数は合計30万人(2005年1月現在)にもおよび、過去の大きな津波を発生したチリ地震(M9.5、1960)やアラスカ地震(M9.2、1964)、津波の発生していない唐山地震(M7.5、1976)、西寧地震(M7.9、1927)、関東大震災(M7.9、1923)のどの地震よりも多い犠牲者数となってしまいました。また、今回の津波被害では、多くの写真だけでなく動画(図2)が残されており、これを多数ご紹介されました。津波被害の経験のない方でも、津波に飲み込まれる怖さを改めて感じ取る事ができたのではないかと思います。さらに、津波のエネルギーの強大さを示すものとして、津波により大きく地形が変形している現状も、多数の画像でご紹介されました(図3)。また、今回の津波では全ての津波現象、津波による遡上、海底形状や海岸形状による津波増幅とレンズ効果、津波トリトン、トラッピング現象、まわり込み現象や島による遮蔽効果などが写真などを通して捉えられており、津波研究においても非常に重要な情報が得られているとの事でした。
最期に海に囲まれた日本では、地震と津波というデュアルハザードの考慮が必要であると提唱されました。実際に、北海道南西沖地震(1993)では、地震、津波、さらには火災による被害が重ねて発生しており、危機管理の重要性を指摘されました。そして、津波性能マトリクスの考え方を提案され、津波に対する設計概念も提案されました。
我々は、巨大な地震では大きな津波も発生しうる事を、改めて認識する必要があると感じました。
参考文献
講演日/講演会場
・2005年 9月28日(水)/大阪会場 |
▲工学博士 高梨 和光 氏
▲セミナー会場
▲図1 南海地震津波(1946.12.21)
▲図2 インド洋津波の状況
(Banda Ache)
▲図3 インド洋津波の前後
(Banda Ache)
[from Space Imaging、HP] |