土石流時の安定計算における堆砂面について、『土石流・流木対策設計技術指針 解説 2016年4月』(以下、指針)の6ページに次のような記述があります。
土石流時の場合、土石流荷重は最も危険な状態とし、堆砂地が土石流の水深(Dd)分だけ残して堆砂した状態で土石流が本堰堤を直撃したケースを想定する(図−3参照)。 |
これは、土石流時の安定計算において、土石流による全荷重が堰堤に作用するように堆砂面を下げて安定計算を実施しなければならないということを意味しております。指針の図−3に「本来の堆砂面」と「計算時の堆砂面」を追記したものが図1です。「本来の堆砂面」がある位置は、計算時に土石流の水面となります。
図1 不透過型砂防堰堤 越流部の設計外力図
(H<15m、上段:土石流時、下段:洪水時)
改訂前の指針(2007年3月)では、これが越流部の安定計算に対してのみの適用となっていましたが、改訂により非越流部の安定計算に対しても適用されるようになりました。改訂後の指針(2016年4月)の15ページに次のような記述があります。
(1) 非越流部の安定計算
非越流部の本体の断面は、非越流部にかかる設計外力に対し、越流部と同様の安定性を確保する。
(略)
ただし、本指針2.1.3.2(1)解説Aのように土石流ピーク流量を袖部を含めて対応する水通し断面とする場合は、次の(a)、(b)のとおり堆砂面を想定したうえで、複数の断面で安定計算を行う。
(a) 計算を行う断面において、堆砂面を水通し天端の高さとしても土石流の水深が当該断面での袖部の高さを上回らない場合は、水通し天端まで堆砂した状態で安定計算を実施する。
(b) 計算を行う断面において、堆砂面を水通し天端の高さとすると土石流の水深が当該断面での袖部の高さを上回る場合は、袖部を上回らないように堆砂面を下げ、全土石流流体力が、堰堤(袖部を含む)に作用するとして、安定計算を実施する。 |
上記の記述において、特にご注意頂きたい点を青字にしました。この「土石流ピーク流量を袖部を含めて対応する水通し断面とする場合」とは、「土石流ピーク流量に対する越流水深」あるいは「最大礫径」によって水通し断面を決定する場合において、地形等の理由により水通し断面を適切に確保できない場合に、袖部の一部を水通し断面として扱って設計する場合を指します(図2)。
図2 土石流ピーク流量を袖部を含めて対応する水通し断面
上記の(b)を基に作成した設計外力図が図3です。今回は、その入力方法を紹介します。
図3 不透過型砂防堰堤 非越流部の設計外力図(Dd>H’)
入力方法
まず、形状画面において、図4のように入力を変更します。堰堤タブの中にある水通し断面タブを開き、[水通し高さに設計水深を使用する]を「しない」としてください。これを「する」とした場合、設計流量画面における越流水深および設計流量から水通し高さが自動で決定されてしまうため、土石流ピーク流量に対して袖部を含めなくても対応できる水通し断面となってしまいます。
次に、その下にある[土石流ピーク流量に対する袖部の越流]を「考慮する」としてください。すると、その下にある[土石流が袖部を越流する場合の対応]の入力が有効になりますので、これを「堆砂面を下げる」としてください。もし、地方自治体等が発行している同様の文書に、堆砂面を下げない場合も照査しなければならない旨の記載がある場合、これを「堆砂面を下げない」とするデータを作成してください。
図4 入力画面