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第3回
「カイザー・プロジェクトと3D CAD普及への期待、
CIM進展の課題」
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はじめに |
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「CIM(Construction Information Modeling(/ Management)」のアーリーステージはそれ(CIMの可能性に着目し、まずはその試行的な採用を広げようという現状のスタンス)で良いと。だけど、(CIMの本格的な利活用への移行が期待される)セカンドステージになってもそれをやっていると、行き詰ってしまうのではないかなと思うのです」
建築分野における「BIM(Building Information Modeling)」利用の蓄積をベースに、その手法をわが国の幅広い建設分野に応用しようという「CIM」。国土交通省を中心とした公共事業へのCIM導入を推進する体制は、2012年から形成されてきました。そこでは、基準や制度面をまず固めてからというCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)に際して取られた手順とは異なり、試行工事などで実際にCIMを導入、課題を探りつつそれらの解決を図っていこうとのアプローチが進行しています。
関西大学総合情報学部の田中成典教授は、CALS/EC構築の一環として電子納品を支えるCAD製図基準の検討や、2次元(2D)CADに関する国際規格に則ったCADデータ交換標準「SXF」の開発などを主導。自ら代表として近年取り組んだ「関西大学カイザー・プロジェクト」(2008年6月〜2012年12月)では、建設業界全体で汎用的に利用できる3次元(3D)CADエンジンを開発してきた経緯があります。
そうした観点から同教授は、あくまでCIMの初期の取り組みとして現行の考え方に理解を示しながらも、今後の展開については可能なところから定式化を図っていく必要がある、と説きます。その背景として、現状のスタンスのまま進むと、皆が「我流」でモデルを作成。CIMの掲げる「建設事業の各段階における効率性向上、公共事業の品質確保やトータルコスト縮減」を実現するための、「ライフサイクル全般にわたり関係する情報の一元的な共有・活用」が難しくなるのでは、との懸念を示します。
連載第3弾では、初期の検討段階からCALS/ECに深く関わるとともに、CIMが公共事業の新たな建設管理システムへと発展していく上で欠かせない技術や制度上の課題などにも精通されている関西大学総合情報学部・田中教授にお話を伺いました。
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画像処理やWeb関連の多彩な研究を同時進行
「実社会のニーズに即した研究の実践」を掲げる田中研究室では、1.復元・認識・生成の3分野を柱とする画像処理、および2.インターネット上の情報の収集・解析・編集 ― に関する研究を通じ、新たな知識の創出を目指すとしています。
田中教授には、関西大学学生センター副所長としての顔もあります。その重要な役割の一つが、皇帝を意味する「カイザーズ(Kaisers)」のチームネームを冠した関大の体育会全体をサポートすること。それには候補学生への入試対策から入学後の学習、課外活動、卒業後のキャリアデザインまで含まれ、対象となる学生数は現在2,000名強に上ります。
バスケットボールなどの試合を水平方向から撮影する際、距離画像センサを用いることで選手がコート上のどこにいるかという空間情報を取得する研究などは、そのような自身の環境と深く関わるもの。これについては新しいメディアとしての可能性も期待されます。
また同研究室では、1.リアルワールドを正確に反映したサイバーワールドを構築し、そこでオープンスタンダード(オープンレジストリ、オープンデータおよびオープンサービスより構成)を核とする新しい気づきのサービス「アウェアネスサービス」を展開。一種のファブラボ(街の研究室)として機能させようという構想、2.6次産業向けの、EC(電子商取引)の運用面にフォーカスした新しい支援サービス「Smart ECソリューション」、3.スマートフォン分野の新ビジネスを意図したAndroid用アプリの開発とその教育普及 ― など、先進の画像処理やWeb関連技術を活用する多彩な取り組みにも力を入れています。
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発明の名称:対象領域抽出装置
出願番号:特願2010-242283(平成22年10月28日)
公開番号:特開2012-093295(平成24年5月17日)
発明者:田中教授,東京大学柴崎教授,西田,和泉,足立,上野,平松の各氏
出願人:田中教授,柴崎教授,関西総合情報研究所,フォーラムエイト
特許番号:特許第5546419号(平成26年5月23日(登録日)
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点群データに注目、連携大学院を通じた新たな展開も
「今、最も注目しているのは、点群データです」
田中教授はその具体例として、1.車両に搭載したレーザスキャナやGPS、カメラなどを利用して3D形状を計測するモービルマッピングシステム(MMS)、2.航空機などに搭載して高密度・高精度な地表測量を行うレーザプロファイラ(LP)、あるいは3.無人航空機(UAV)や4.設置型のフィールドビューア、5. ゲーム用システム(Kinect)などを用いる3Dモデルの各種生成法を列挙。近年これらに取り組んできた背景として、従来からの3Dモデル生成技術では、高度化・多様化する活用ニーズに対応した画像処理や動画像処理を行っていくには限界にある、との考えを述べます。
一方、大学が研究機関の研究者を教授・准教授として迎え、大学院生が当該機関の研究環境を活用しながら研究指導を受ける「連携大学院」。関西大学大学院総合情報学研究科では国土交通省国土技術政策総合研究所と協定を結び、2年前から同制度を運用しています。
▲連携大学院
例えば、MMSやLP、フィールドビューアなどを使い計測した点群データから3Dモデルを生成し、東日本大震災の前後の河川土工を再現。点群データを利用して特定断面における両者の差分を出すことで堤防形状の崩壊を検証したり、さらにその手法を応用してトータルステーション(TS)を用いた任意断面での出来形管理に繋げたり、といった試みはそうした一環として取り組まれたものでもあります。
▲河川研究概要
CIMに向け求められる3Dベースの各種標準化
「私たちが主に行っているのは、まず(CIMの前段として必要となる)地形や土工空間を精緻に3Dで表したいということなのです」
例えば、橋梁などを3Dで設計しようとしても、「土木CAD製図基準(案)」にせよ、「道路橋示方書」にせよ、基本的に2Dの図面の描き方、あるいは2Dで描かれた図面をベースとした技術基準が定められているに過ぎない。つまり、3Dで設計するのに基づくべき基準がないのが現状。そもそも道路や河川土工、海岸などを設計する際、そこに共通するのは「地形・地盤」であり、それを正確に表現しなければ、その上にどのようなプロダクトモデルを載せたとしても正確な検査は出来ない、と田中教授は説きます。
その意味では、前述の点群データを用いた各種方法による精緻な3Dモデルの作成は新たなソリューションになるはず。しかも、そこから派生する検証や出来形管理などの技術的なブレークスルーに加え、風や水、音などの解析を反映した3Dモデルならではのシミュレーションも可能です。CIMにしてもそうしたメリットが期待されるのに、3Dの設計で手本とすべきものがないまま、現行の「ザクっとした」CGレベルの3Dを作り続けていて良いのかとの疑問が持たれました。
その問題をクリアするにはまず、3Dの土工を適正に描くための表記標準化が必要。とはいえ、何もない中でいきなりすべての工種について作成するのは難しい。そこで最初のステップとして、最も基盤となる「土」を対象とした3Dの表記標準化(地形を対象とした3次元製図基準)の検討が関西大学・窪田諭准教授を中心に社会基盤情報標準化委員会(委員長:柴崎亮介東京大学教授)内で動き始めている、と位置づけます。
その上で求められるのが、3DベースのCAD製図基準です。これについて田中教授は、CIMで扱われるのは情報モデルで、そこには3Dの形状情報のみならず、プロセスが入ってこなくてはいけない。オブジェクト指向の考え方を例にすれば、クラス(オブジェクトの型)の定義があってインスタンス(オブジェクトの実体)は作られるのに、「既存の技術で何が出来るか」といった現行のCIMの進め方はルール(クラス)がないまま、いきなりインスタンスを作ろうというようなもの。これは、初期のアプローチ(アーリーステージ)としては良いとしても、今後(セカンドステージ)はやはり基準となるものを整備しなければ、プロジェクトのライフサイクルを通じた情報の活用がいずれ行き詰りかねない、と解説します。「(そのことに皆が気づくであろう)このセカンドステージが勝負だと思うのです」
わが国建設業界に3D CADを普及させる仕掛けづくりを目指して取り組まれた「関西大学カイザー・プロジェクト」。その、国交省の助成の下、田中教授が代表を務め、フォーラムエイトも参加した4年半にわたる活動の成果として、2012年末までには「時間項を考慮した汎用3D CADエンジン」の開発を完成しています。
フォーラムエイトはこれを受け、同エンジンを実装した土木専用3D CADソフト「3D CAD Studio」を開発。他方、田中教授が国交省近畿地方整備局や国総研とともに開発中の河川管理ソフトの中で同エンジンの実装も計画。同教授は現時点では唯一の実装例である3D CAD Studioの普及と、この新たな試みの展開に期待を述べます。
今後の課題、求められる対応
少子化が言われる今日、3DをベースとするCIMを目指す方向は間違っていない、と田中教授は明言。ただ、そのためにクリアすべき課題として、1.CIMモデルを作成するためのルールの定式化、2.土木分野の専門知識を持つエンジニアと、3Dの世界を理解する若い人をどう繋ぐか、3.作成されたモデルが正しいかどうかを、誰がどう判断するか ― を列挙。そこでの、1.官による確かな構想とそれに基づく仕様の策定、2.CADやGISのベンダーによる的確な対応、さらに3.官や産をサポートし、CIMが本当に使える仕組みとなるべく学による追求 ― という三位一体の取り組みを描きます。
「3D CADのデータは(2D CADのそれと違い)確実に2次利用できるものなのです」。したがって、従来のように土木構造物を単産品として捉えるのではなく、作成した情報の2次利用により効率が上がり、コストダウンを図ることも出来る、というところを皆が意識していくべきと言います。
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▲田中研究室の皆さん |
(執筆:池野 隆)
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(Up&Coming '14 盛夏の号掲載) |
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