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第2回
「CIMの高度活用への期待」
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はじめに |
「CIM(Construction Information Modeling(/ Management))って、何に使うの」 ―
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一般社団法人 道路・舗装技術研究協会(パロウエイテック)理事長の稲垣竜興氏は、まだ明確になっていない要素の多いCIMへのこうした問いに対し、「防災・減災みたいなところに、究極(的には活用されて)いく」との観点を描きます。したがって、設計者をはじめCIMに関わる人々には「(CIMが私たちの)生活の補助になるもの」という位置づけ(あるいは方向)を目指して欲しいと期待。そのためにも、多岐にわたる関係者にそのような認識を持ってCIMに振り向いてもらえるようにしていきたい、と自らのスタンスを述べます。
建築分野で利用が進む「BIM(Building Information Modeling)」の手法を広範な建設分野に応用しようというCIM。国土交通省により公共事業へのCIM導入の検討が方向づけられて以来、官民のさまざまなレベルの取り組みが進展。それらの活動や蓄積を通じ、当初は拡散しがちだったCIMの概念、技術的課題、具体的な活用イメージなどが次第に整理されつつあります。
そこで本連載では、CIMの利活用、関連技術の開発や研究などに先進的に取り組まれている各界のキーパーソンに順次取材。多彩なアングルからCIMの可能性や課題、進むべき展開方向などを紹介しつつ、CIMの更なる理解浸透と普及拡大を目指します。
連載第2弾では、道路・舗装に関する技術や道路施設の保全などの面からCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)に深く関わり、CIMに通じる独自の知見をお持ちの道路・舗装技術研究協会理事長の稲垣竜興氏にお話を伺いました。 |
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道路や舗装の技術に関する多様な活動 CIMに通じる道路管理DB開発でノウハウ蓄積
一般社団法人 道路・舗装技術研究協会(東京都港区)が設立されたのは、2011年3月。同協会は、環境に配慮し持続可能な道路および舗装に関する技術の、革新・発展に直結する研究開発を推進するため、国内外の産学官にわたる広範な技術者等と連携。併せて、道路および舗装施設に関する保守技術の普及や理解増進を図る、との目的を掲げます。
その上で具体的に、
1) |
技術者育成支援の一環として「舗装施工管理技術者資格試験準備講習会」および「舗装技術講習会」の開催 |
2) |
道路資産や舗装の維持管理に関する技術および手法、道路構造物や舗装に関するデータベース、RFID(Radio Frequency Identifi
cation)を利用した構造物管理システムなどの研究開発 |
3) |
舗装、地下埋設物、地下空洞などの3次元(3D)表現による設計、維持管理、防災・減災支援などCIMに繋がる研究 |
4) |
Webサイトを通じた技術情報の提供 |
5) |
道路および舗装に関する技術の広報や図書の刊行 |
― などの事業を展開しています。
稲垣氏は、同協会での活動の傍ら、公益社団法人 日本道路協会の舗装委員会舗装性能評価小委員会で元・委員長を務めるなど対外活動に注力。また、自身がかつて旧・財団法人
道路保全技術センター(2011年解散)に情報技術部長として在籍当時、基本的な道路資産の情報をカバーする道路管理データベース(DB)システム「MICHI」の開発・運用に携わった経緯があります。
「そういう中で、極端な言い方をしますと、(近年注目を集める)CIMに似たような(考え方の)ものを既につくっていたのです」
ただ、個別の建物を扱うBIMに対し、同氏が専門とする道路の場合、擁壁や橋梁などそれぞれ独立した多様な構造物により構成されます。そこで同氏らは、道路管理用のDBを開発するに当たり、BIMとの基本的なスタンスの違いを想定。個々の構造物をスタンドアローンで捉えるのではなく、一定区間の道路に各種構造物を内包する「面(あるいは、一定の幅を有する線)」として考慮。その結果、当該区間を管理するための「道路の平面図(舗装データ)は最終的に舗装が預かる」という流れが形成されてきた、と振り返ります。
一方、その間に培ったせっかくのノウハウや技術的蓄積を継承し、活用できないかとの発想から道路・舗装技術研究協会の組織化に繋がっています。
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一般社団法人 道路・舗装技術研究協会 理事長 稲垣 竜興 氏 |
CIM対象を個別構造物から「面」へ 防災・減災などメリットの広がりに期待
公共事業の調査・計画から設計、施工、維持管理、さらに更新に至る一連のプロセスにわたってICT(情報通信技術)を駆使。とくにプロジェクトの初期段階から、3Dの形状情報に各種属性情報などを包含する3Dモデルを導入し、フェーズを越えて関係する情報を一元的に共有・活用する(連携・発展させる)ことで建設生産システム全体の効率化を図ろうという、「CIM」。設計段階の比較検討や合意形成をはじめ、施工性の向上、維持管理の高度化など、さまざまな効果を実現する新しい建設管理システムの構築が描かれます。
「従来(検討されてきたアプローチで)は、例えば、(トンネルを建設するプロジェクトであれば)トンネルをつくるための設計補助としてCIM(の仕組み)が使われるわけです」
つまりそこでは、トンネルという独立した構造物の建設に向け、「現場でどれだけ使いやすいか」「効率的に作業が出来るか」といった観点からCIMの、主として設計を支援する機能面に焦点が当てられています。
しかし、せっかく3Dモデルを介することにより多大な効果をもたらすのであれば、その対象を当該構造物のみに限るべきではない。トンネルを含む一定区間の道路を「面」として捉え、それを構成する各コンポーネントについても3Dで考えるべき、と稲垣氏は着目しました。
そうすることで、個別構造物だけでは制約のあるような、エリアを対象とした津波や冠水といったシミュレーションなど、CIMによる防災・減災支援の可能性の広がりが期待されました。それには、「面」を3Dで把握するためのデータベースの整備が不可欠。当該エリアの地図はもちろん、埋設物や空洞など路面下に関するデータの取得も必要になります。
「(単に)設計支援(のみ)ではなく、防災・減災(に対応するシミュレーション環境)をきっちり構築すれば何万もの人の命が助かる、というようなものに出来ないか」。同氏はCIMへの自身の思い入れをこう表現。2011年の東日本大震災を契機に温めてきた着想をCIMの流れの中で具体化したい、との考えを示します。
「(その意味で、前述の)『MICHI』のデータはすべて個別のデータであり、舗装データはそれらを連結しています。だから、舗装データを3D(モデル化すること)で(そのようなDBの構築が)出来るのではと(思うのです)」
その際、基本的な個別の3Dデータは現行考えられているCIMの仕組みの中から収集できるはず、と想定。問題は、それら個別のデータをどう繋ぐか、繋いだデータをどのように表現するかということ。つまり、単に現象をシミュレートするのではなく、個別構造物に加えて人の行動パターンをも反映させたい。そのためには文化人類学的なアプローチを組み込むことも求められてきます。
こうした試みでは「それをすることで誰が得するか」を明確にすることが成功のカギと言えます。それだけに、次代に向けて理解を得られるような新機軸を打ち出していく必要がある、と稲垣氏は説きます。
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第7回 デザインコンファレンス 土木・CIMセッション 稲垣氏特別講演
「道路・橋梁・トンネル・舗装技術の過去〜現在〜未来、CIM の導入への対応」より抜粋 |
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CIM進展に向けた課題と自身の取り組み
CIMの高度活用への期待に触れる一方、稲垣氏はその進展に向け、関係者へのCIMに対する認識を広げていくことの重要性に言及。そのためには、一般の技術者に「面白い」と思って振り向いてもらうきっかけをどう創出するか、が自らの課題と述べます。
そこで現段階では、自身が執筆する「舗装技術講座」を今年1月号から連載中の「舗装」(建設図書 刊)あるいは「道路建設」(日本道路建設業協会 刊)といった専門誌への寄稿、関連図書の刊行、協会主催の講習会などを通じた広報に力を入れています。
また、CIMの具体化アプローチとして、3軸加速度センサーの動作を実験的に計測するスマートフォン(iPhone)用無料アプリ「加速度センサーロガー」(リグレックス)、および自身がコンセプトを開発してフォーラムエイトが製品化した「道路損傷情報システム」の活用可能性に注目。とくに前者については、「総点検実施要領(案)【舗装編】」(2013年2月、国土交通省)に基づくIRI(乗り心地指標)の測定に使えないかと、自ら昨年、iPhoneに同アプリをインストールして試行。その有用性が実感されたといいます。
人間の挙動も含め、道路に関わるすべてのデータが有機的に関連して動くような仕組みをつくって、CIMを「防災・減災」という日本が直面する重い課題に取り組むための道具にしたい。その際、同氏が重視するのは道路を利用する人の存在です。
「そこに視点がいかないと、どんな設計コンセプトも本当のものではないと思うのです」
(執筆:池野 隆)
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(Up&Coming '14 春の号掲載) |
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