地盤FEM解析エンジニアリングのための入門講座の7回目です。今回は、第6章「地盤と構造物の相互作用」について説明します。
この相互作用の問題を解く場合に、地盤、構造物、及び、両者の境界面をそれぞれモデル化する必要がある。モデル化やそれに必要なインターフェースについて説明します。
■図1 地盤と構造物との相互作用
多くの地盤工学問題には地盤と構造物とが相互に絡んでおり、これらの問題を地盤FEM解析で解こうとするとき、地盤、構造物、および両者の境界面をモデル化する必要がある。図1に示すように、トンネル解析にはトンネル支保工および地盤・支保境界面を考慮することが重要である。
地盤と構造物との相互作用を考慮する地盤FEM解析に構造物(例えば、土留め壁、切梁、トンネル支保工、アンカー、基礎など)を含む必要がある。二次元または三次元連続体要素(ソリッド要素)を用いて構造物をモデル化することは、理論的には可能であるが、実際には不利な点がある。一般に構造物の大きさが全体の解析領域に比べてかなり小さいため、二次元または三次元連続体要素を用いて構造物をモデル化すると、要素数が非常に多く、要素の形状が悪くなることがある。
また、多くの地盤構造物の設計に必要なのは、構造物の詳細な応力状態ではなく、曲げモーメント、軸力、およびせん断力の値である。構造物をモデル化する二次元または三次元連続体要素の応力が算出されれば、構造物の曲げモーメントなどは求められるが、追加の計算が必要となり手間がかかる。
このような不利な点を補うために、構造物の形状あるいは変形の様態から、その特徴を生かして簡便なモデル化を施した要素、すなわち構造要素を用いることがある。梁要素やシェル要素はその代表的なもので、三次元の構造物をそれぞれ一次元、二次元に退化させた要素である。これまでに多くの構造要素が提案されており、それぞれメリットとデメリットがあるので、構造要素を用いる場合、その特性を理解し、解こうとする問題に適した構造要素を選ぶ必要がある。以下に梁要素について簡単に紹介する。
図2に梁要素における節点荷重と節点変位の符号規約(正方向)を示す。これらの符号規約は梁理論の断面力の符号規約との間に相違がある。断面力の符号規約は、慣例によれば、軸力は引張を正、せん断力は時計回りを正、曲げモーメントは上側圧縮で下側引張となる1対の曲げモーメントを正とする。
■図2 梁の符号規約(正方向) 左:梁要素の節点荷重と節点変位、右:梁理論の断面力
まず、軸方向の荷重がゼロの場合を考える。梁の長さに比べてその断面の高さが桁違いに小さい梁にはベルヌーイ・オイラー(Bernoulli-Euler)の仮定あるいは平面・直角保持の仮定が成り立つ。
梁の軸方向のひずみは次のように与えられる。
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(1) |
ここに、uは軸方向の変位関数である。図3に示す曲げによる梁の変形様態より、軸方向(x方向)の変位uとy方向の変位vとの関係が得られる。
■図3 梁要素の変形様態(a:変形前、b:変形後、断面ABCDの回転角)
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(2) |
式(1)と式(2)より、次式が得られる。
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(3) |
また、梁理論より、断面力の曲げモーメントとせん断力は次のように y 方向の変位 v と関係付けることができる。
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(4) |
梁要素は4つの自由度があるため、要素内の y 方向の変位分布を完全3次多項式で近似する。
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(5) |
3次多項式は梁の支配微分方程式、および2つの梁要素が共有する節点での変位と回転角の連続性を満足できる。
梁要素の2つの節点での y 方向の変位と回転角を用いて、a0〜a3 を決めることができる。
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(6) |
ここに、θ=dv/dx は微小な回転角である。式(6)より、a0〜a3 を求め、式(5)に代入すれば、要素内の y 方向の変位関数が次のように表せる。
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(7) |
せん断力および曲げモーメントにおける梁要素の節点荷重と梁理論の断面力の符号規約を留意し、式(7)と式(4)より、次式が得られる。
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次に、軸方向の効果を導入する。その場合、1つの節点で3つの自由度がある。軸方向の荷重と変位との関係は次のように与えられる。
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ここに、Aは梁の断面積である。
軸方向の効果とせん断力及び曲げモーメントの効果を組み合わせれば、梁の軸方向をx軸とする局所座標での力と変位との関係は次のように与えられる。
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(10) |
土留め掘削などを二次元平面ひずみ解析に適用する場合、切梁などの奥行き方向に一定間隔で配置される構造物においては、奥行き方向単位長さの曲げ剛性EI、伸び剛性EAを用いればよい。
さらに、ソイルセメント柱列土留め壁やH鋼と吹付けコンクリートからなるNATMトンネルの支保工などは合成梁(梁要素)として計算できる。合成方法の一例を以下に示す。
■図4 合成梁の例(左:ソイルセメント柱列土留め壁、 右:NATMトンネル支保工)
まず、軸方向の荷重について考えよう。簡単のため、合成梁は2つの部材から構成されるとする。合成梁の軸方向の荷重はP = εEA、部材@とAの軸方向の荷重はP1 = ε1E1A1、P2 = ε2E2A2で表せる。部材@とAのひずみが合成梁のひずみと等しく(ε = ε1 = ε2)、合成梁の軸方向の荷重P = P1 + P2 、面積A = A1 + A2であるため、合成梁の剛性Eは、次のように求められる。
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(11) |
次に、曲げモーメントと曲率 ρ の関係より、合成梁の曲げモーメントはM = EIρ、部材@とAの曲げモーメントは M1= E1I1ρ1、M2 = E2I2ρ2 で表せる。部材@とAのひずみが合成梁の曲率と等しく(ρ=ρ1=ρ2 )、合成梁の曲げモーメントM = M1+ M2であるため、合成梁の断面二次モーメントは、次のように求められる。
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(12) |
また、設計及び施工に際して曲げ耐力を期待しない部材においては、その部材の曲げ剛性をゼロとし、式(12)に代入し合成梁の断面二次モーメントを求めればよい。
地盤と構造物との相互作用問題には、構造物と地盤との間に相対変位が生じることがある。連続体要素を用いて解析すると、連続体要素の適合性より、要素境界でも隣り合う要素同士の変位が連続であるため、図5(a)に示すように構造物と地盤との境界で生じるはずの相対変位がなくなる。そのため、いくつかの地盤と構造物との間の不連続的挙動をモデル化できる手法が提案されている。
- 薄い連続体要素を用いる。その要素の構成則も連続体要素のものと同じである。
- 地盤と構造物との間にバネ要素で繋ぐ。
- 厚さがゼロまたは微小な厚さを持つ特殊なインターフェイス要素(ジョイント要素ともよばれる)を用いる。
- 地盤および構造物はそれぞれモデル化し、その間には適合性や力のつり合い条件を満たす制限条件で繋ぐ。
その中で、ゼロ厚さのインターフェイス要素が最も使われている。以下にインターフェイス要素について紹介する。
■図5 地盤と構造物との境界面のモデル化
(a:連続体要素、b:薄い連続体要素、c:バネ、d:インターフェイス要素)
■図6 アイソパラメトリック・インターフェイス要素
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■『新版・地盤 FEM解析入門』目次構成 |
第1章 |
地盤工学におけるFEM 解析
地盤FEM解析の必要性・体系、解析種類、数値解析の誤差 |
第2章 |
地盤FEM 解析の基礎理論
力学の基礎、平面ひずみ問題と軸対称問題、有限要素法の基礎 |
第3章 |
地盤FEM 解析のためのモデリング技術
解析目的、手法、条件、トンネル掘削解析における応力解放率 |
第4章 |
地盤材料の構成則
応力不変量、線形弾性構成則、非線形弾性構成則 、弾完全塑性モデル、段塑性構成則 |
第5章 |
材料パラメータの決め方
等方線形弾性構成則、弾完全塑性モデル、破壊接近度法のパラメータの同定方法 |
第6章 |
地盤と構造物の相互作用
構造物のモデル化、インターフェイスのモデル化 |
第7章 |
非線形解析
増分法、Newton-Raphson法、繰返し計算における収束条件 |
第8章 |
せん断強度低減法による安定解析
せん断強度低減有限要素法の紹介と応用例 |
第9章 |
液状化に伴う自重による変形解析
解析手法、パラメータ、解析事例、柔構造樋門の設計との連動機能 |
第10章 |
解析事例
盛土の斜面安定、 擁壁杭基礎の盛土載荷問題、トンネル拡幅工事、推進工法による地盤への影響解析 |
第11章 |
GeoFEAS の操作方法
トンネル掘削に伴う近接杭基礎への影響解析、せん断強度低減法による斜面の安定解析 |
第12章 |
地中熱解析について
地中熱について、地中熱解析とは |
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