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第1回
「CIMの進展は、何がポイントなのか?」

はじめに  
世界の広範な建築事業で利用が進む「BIM(Building Information Modeling)」。その手法を社会資本整備の分野に応用しようという「CIM(Construction Information Modeling(/ Management))」では、公共事業のライフサイクルにわたってICT(情報通信技術)を駆使。プロジェクトの初期段階から3次元(3D)の形状情報に各種属性情報などを包含する3Dモデルを導入し、一連のプロセスで関係する情報を連携・発展させつつ、建設事業全体での生産性向上に繋げることが意図されています。

 一方、国土交通省によりCIMの導入について検討していく考え方が示されて以降、関係者の間ではそれぞれの観点の違いに応じ、CIMという概念に対して多様なイメージが描かれてきました。それが、民間主導のCIM技術検討会や政府主導のCIM制度検討会による取り組み、産学官の連携によるさまざまな試み、民間各社におけるBIM活用の蓄積などを通じ、CIMの概念や技術的課題、具体的な活用イメージが次第に整理されつつあります。

 そこで本誌はCIMの更なる理解浸透と普及拡大を目指す連載をスタート。CIMの利活用、関連技術の開発や研究などに先進的に取り組まれている各界のキーパーソンに順次取材。CIMの可能性や課題、進むべき展開方向などについての考え方をご紹介してまいります。

研究室ではモデリングやVRのソフトを積極活用


 橋梁をはじめとする各種構造物の研究と、公園や道路、河川といった公共空間のデザインを専門とし、それらを通じて「モノづくり」の楽しさ、逆にそれを生み出すまでの苦しさ、それらを乗り越えた先の達成感を学生に伝えたい ― 関教授は自身が指導する「構造・デザイン研究室」のターゲットについてこう表現します。

 その研究室で今年度、力を入れて取り組まれたものとして、1)人が渡れる橋「X Web Bridge(クロス・ウェブ・ブリッジ)」の製作、2)400年以上使われている石積み用水路(群馬県甘樂町)の空石積みによる補修、3)フォーラムエイト主催「Virtual Design World Cup(VDWC)」への参加、4)海外での職場体験(香港の構造事務所)―の4イベントを挙げます。

 そのうち橋の製作は、学生が設計条件に対応したデザインを行い、構造解析し、材料を選び、加工。それを駿河台キャンパスから船橋キャンパスに運んで組み立て、学園祭で披露し、
来場者に渡ってもらおうというもの。学生はそこで、モデリングソフトの実践的な活用も経験することになります。

 また、VRコンペ(VDWC)への参加は学生の未来を読む力を育むことが目的です。その過程では自ら調査・分析し、コンセプトを立案。デザイン完成後はコンセプトポスターを作成するなど、VRソフトを使う技能習得のみならず、一連の流れを理解する有効なトレーニングの機会になる、と重視しています。

日本大学理工学部 土木工学科・関文夫教授

3DモデルなどCIMに通じる技術と自身の関わりの推移

「20数年前、PC鋼線を3Dで配置すると作成した3Dモデルにより応力計算などが自動で出来る『PC橋の自動計算プログラム』の開発に、2年ほど取り組みました」。関教授はゼネコン在籍当時の、自身のCIMにも通じる初期の活動を振り返ります。
 ただ、すべて2Dベースで表現されていた図面に対し、3Dで座標を持たせたり、モデリングしたりすることの難しさに直面。対話式でデータ入力する際、当時の設計の流れをそのままシートにして入れようとするとうまくいかず、それをクリアするには新たに3Dのモデリングソフトが必要との結論に到達。実用化にまでは至らなかった経緯があります。

また、詳細設計を施工図に出来ないかという取り組みでは、鉄筋の組み合わせ配置によっては矛盾を発生。そこで、必要以上に正確過ぎるところを一つひとつ直していくと膨大な手間を要するなど、実用化の難しさを実感。実務にはある程度のスピードとともに適正なラフさが必要との認識を得ました。

 さらに、20年ほど前に東名足柄橋の建設に関わった際、斜張橋の線形によっては斜材が遮音壁に当たる箇所を事前に把握するため、外注して作成したモデルを使い、自ら3Dのソフトで検証しています。 そうした経験を重ねる中で、フォーラムエイトがまだ開発中だった3DリアルタイムVR「UC-win/Road」のことを知り、関心を持つようになりました。

データ共有の、想定される制約と期待される活用

 その後、自身の仕事はデザインへとシフト。それとともに、同じデータベースを使おうとすると、「企画から計画、設計、プレゼンテーションまで」「構造計算や詳細設計」「施工」の大きく3段階にギャップが存在する実態が浮かび上がってきたといいます。

 また、建築と異なり土木ではつくる対象の種類が多く、土工ではデータをそのまま使えても、鉄筋コンクリートやPCを扱う精度になれば問題になり得る。モノによっては前述のギャップを越えて(例えば設計と施工の間で)データを共有しようとすると、エラーへの対処に追われることになる。あるいは、設計から本格的な構造計算に繋げようとすると、精度が全く違うため、新たに造形を洗練する工程が必要になり、実用化は
難しい ― といった状況が想定されました。

 それに対し関教授は、かつて自身が海外で経験したプロジェクトに言及。プレゼンまで2、3週間という時間を優先し、データ共有はなかったものの、概略のベースモデルのCADデータを基にCG作成や構造計算、積算などの作業を並行して実施。基のデータの粗さに起因するCGの問題は、仕上げのレンダリングでカバーした、と解説。「計画から設計」の間で同じデータを共有、モデリングして構造解析を示し、それをVRに反映して完成後の空間を可視化する、といった面では大いに威力を発揮するはず、とCIMのもたらし得るメリットの一端に期待を示します。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
X Web Bridge(画像は関文夫教授により提供 /image provided by Fumio Seki)

CIM活用への期待と課題、注目される「プロデュース」機能

データ共有により多方面のことを同時に出来るのがCIMの魅力で、それはすなわち、「企画から設計の、モデリングソフトを使ってプレゼンするところ」と、関教授は語ります。
 その際、同氏が注目するのは、プレゼンに関わるプロセスでの「プロデュース」する機能の重要性です。そこでは、事業そのものはもちろん、関連する技術や発注者の目的などを適正に理解し、各分野の専門家から成るチームを構成。プレゼンに使うVRの精度などを状況に応じて的確に発注者に対し提案することが求められます。

 そうした活用の仕方が手軽に出来るようになれば、設計の質が上がり、(大きく言えば)日本のモノづくりが変わっていく。ただ、そのためには、データの共有化に向けたモデリングのある程度の統一化、企業の技術力向上を促すような公共事業の発注の仕組みの改善、およびそれらを反映した建設業のビジネスモデルの変革も必要になる、と説きます。

 一方、建築分野におけるBIMと違い、CIMの用いられる土木の対象は多種多様です。 「(それだけに、CIMにより)何もかもすべて一本でやろうというのではなく、どこまでこれが使えるかというように、柔らかな発想でいろいろやってみたら良いのでは思います」

構造・デザイン研究室

(執筆:池野 隆)
 
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