Vol.10
Engineer's Studio(R) |
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太 |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー、有償セミナーを体験レポート |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望など、全12回にわたってお届けする予定です。
【プロフィール】
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。日経BP社の建設サイト「ケンプラッツ」で「イエイリ建設IT戦略」を連載中。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式ブログはhttp://ieiri-lab.jp |
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●はじめに
建設IT ジャーナリストの家入龍太です。コンピューターによって行う構造解析の種類は、単純なものから、複雑なものまで様々です。フォーラムエイトが開発した有限要素法による構造解析プログラム「Engineer's
Studio(R)」は、最も複雑な部類の弾塑性動的解析を効率的に行うことが可能です。
曲げや軸力などによって部材の内部で発生する材料の降伏やひび割れなどを考慮した複雑な解析では、部材の内部を細かく分割し、独立した弾塑性特性を持つ要素の集合体としてモデル化します。
この要素のことを「ファイバー要素」と言います。部材内部の位置によって応力やひずみ状態の違う"繊維"が集まって部材が構成されているというイメージから、このように名付けられたのでしょうか。
そして弾塑性解析では、時々刻々と変わる動的荷重に対して、各ファイバー要素の応力やひずみ、降伏度合いなどを小刻みな時刻歴ごとに求め、積み上げていくという膨大な計算が必要となります。「Engineer'sStudio(R)」はこうした解析でも、短時間でモデルを作成し、高速で計算し、解析結果を分かりやすく表示できます。
ひと昔前のコンピューターによる構造解析事情を知っている人は、現在、パソコンでこのような膨大な計算ができること自体、信じられないかもしれませんね。
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▲ファイバー要素の概念図 |
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▲ファイバー要素を使った橋脚のひずみ解析結果。
橋脚の高さ方向、断面上の位置による損傷度合いが分かる |
●製品概要・特長
Engineer's Studio(R)面内は、入力データを作成するプレ処理部分から、ソルバーにあたる計算エンジン、そして結果を分かりやすく表示するポスト処理部分まで、すべての機能をフォーラムエイトが独自で開発した有限要素法解析プログラムです。
解析用のモデルや荷重などを設定するインターフェースは画面の左端にツリー構造で表現し、その項目をクリックすると必要なデータを設定できるようになっています。
解析にはファイバー要素のほかM-φ、梁や平板、バネの各要素が用意されています。膨大な数の要素を、効率的に作成・設定するため、3次元CAD
のように矩形拡大・縮小、縦横移動、囲み選択といった編集機能も売り物です。マウス操作で梁要素や平板要素を作成したり、移動・回転したりできます。
ファイバー要素の弾塑性特性は、土木構造物や建築物によく使われるコンクリートや鉄筋、鋼板、PC鋼材のほか、炭素繊維やアラミド繊維などに対応したデータが用意されています。構造物の各ファイバー要素には、対称・非対称のバイリニア、トリリニアの曲線やコンクリートのヒステリシス曲線などを適用します。
要素ごとに応力-ひずみ曲線を設定できるほか、どこまで降伏が進んでいるかやひび割れの有無まで考慮します。また炭素繊維やアラミド繊維は、引っ張り側だけの特性を考慮します。耐震補強などでこれらの繊維で巻き立てた柱や橋脚などの挙動も表現できます。
実際の構造物をモデル化するときには、材料以外の条件も考慮する必要があります。例えば、橋梁の可動支承はある程度の範囲を超えると動きが拘束されたり、落橋防止装置などはある一定の変位を超えてから部材として機能したりといった「ギャップ」があります。こうした独特な拘束条件も表現できるのは便利ですね。
これだけ複雑なモデルを解析するために、ソルバーとなる計算部には「PARDISO(Parallel
Direct Solver)Sparse Matrix Solver」を採用しています。また、解析する構造物の特性によってモデル化に必要な要素や弾塑性特性、ひずみや変位の照査機能などは大きく異なります。そこで「Engineer's
Studio (R)」では、モデル化や解析計算、結果の照査などを細かくオプション化して、必要な機能だけを購入できるようになっています。
基本となる「Engineer's Studio(R)ベース」は33万円(税別。以下同様)で、これに必要なオプションを購入する仕組みです。オプションとしては「固有値解析」(2万円)、「鋼製部材ひずみ照査」「道路橋残留変位照査」(各3万円)、「M-φ要素」「非線形バネ」(各7万円)、「平板要素」(10万円)、そして「前川コンクリート構成則」(65万円)、などが用意されています。
すべての機能をセットした「Engineer'sStudio (R) フルオプションセット」は150
万円と割安になっています。
ボックスカルバートなどの断面を対象に、断面内の変形や応力だけを扱う「面内解析」に使える「Engineer's
Studio(R)(面内)」は20万円、「活荷重1本棒解析オプション」は2万円とリーズナブルな価格設定です。
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▲解析対象となったボックスカルバートの断面図 |
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▲コンクリート部分に適用した弾塑性特性データ |
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▲カルバートの側壁に作用する土圧・水圧の設定 |
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▲組み合わせ荷重による軸力、せん断力、
曲げモーメントの解析結果。
グラフと数値で表示される |
●体験内容
9月7日、フォーラムエイト東京本社で開催された「Engineer's Studio(R)面内活用セミナー」に参加しました。この日はテレビ会議システムを使って、福岡営業所の解析チーム、松山洋人さんが講習を進めました。テレビ会議システムといっても音質はクリア。まるで講師が目の前に立って話をしているかのように、リアルな中継でした。
午前中は「Engineer's Studio(R)」の製品説明とボックスカルバートの2次元線形解析の実習です。午後はファイバー要素によって橋脚のような単柱をモデル化して非線形時刻歴応答計算を行ったり、配水池の壁を対象に「分散ひび割れモデル」による鉄筋コンクリート壁構造物の非線形解析の実習を行ったりしました。
午前中の実習は幅6m、高さ5.1mのボックスカルバートを教材に、「Engineer'sStudio(R)面内」で変位や断面力を計算するものです。荷重としては死荷重や上載荷重、土圧・水圧、地盤反力を想定しました。
プログラムを起動し、解析モデルを作成する画面を開きます。すると画面の左側には「入力ナビ」として、設定すべきモデルや材料、境界条件、荷重などの項目が一覧表として表示されています。どんな設定が必要なのか、全体像がよく分かります。
画面上部のメニューは、最近のExcelやCADソフトなどに採用されているリボンメニューです。モデルを作成したり、結果やレポートを表示したりするときには、それぞれ別のリボンメニューが水平方向に広がり、プルダウンメニューに比べて作業はずっと効率的になりました。
まずはツリーの一番上にある「モデル設定」で、作用させる荷重の種類や最大・最小モーメントを自動計算するかどうかなどをチェックボックスにチェックします。続いて、コンクリートの強度や弾性係数「E」を設定します。
ボックスカルバートの断面形状の入力は、「断面エディタ」画面で頂版・側壁・底版の部材厚や単位幅(1m)当たりの断面二次モーメントを表形式で入力。続いて断面の四隅の接点座標をマウスとキーボードで入力します。
最後にカルバートの上部と側壁、底版に作用する土圧や水圧の分布を入力し、組み合わせる荷重のチェックボックスにチェックを入れると解析準備完了です。
そしていよいよ解析です。リボンメニュー上の「FEM解析」のボタンをクリックするとすぐさま計算は終わりました。組み合わせ荷重ごとに曲げモーメント図や各部分の変位、反力などが画面上にグラフで分かりやすく表示されます。また、報告書の作成に便利なように、モーメント図などはDXF形式でエクスポートできるほか、数値データも取り出せます。
さらに「Engineer's Studio(R)面内」の解析結果は、鉄筋コンクリートの断面計算ソフト「UC-win/Section」のデータとしてもエクスポートでき、各荷重の組み合わせに対する許容曲げ応力度の照査などを行えます。
午後の実習はまず、高さ5m、幅1mの正方形断面を持つ鉄筋コンクリート製の単柱を、ファイバー要素を用いて非線形時刻歴応答計算するものでした。使用ソフトは「Engineer's
Studio(R) Ver.1.06.03」で、初版は従来の「UC-win/FRAME(3D)」の後継製品として2009年2月にリリースされました。
3次元の鉄筋コンクリート構造物のモデルを作るのは、思ったよりもずっと簡単でした。柱の外形は、既に矩形や円形などがアウトラインエディタに用意されており、必要な形をマウスでドラッグしてきて寸法を入力するだけです。また、鉄筋の配置も矩形や楕円、小判などのパターンが用意されており、それを基にして鉄筋径やピッチなどを入力していきます。
次に高さ方向の長さを入力すると、単柱の外形が立ち上がります。
ここから「ファイバー要素」の材料弾塑性の設定作業です。コンクリート部分は画面左側のツリーの下部にある「ファイバー要素の定義」からヒステリシスサムネイルを開き、マウスで「コンクリート」を選ぶと複雑なヒステリシス曲線が適用されます。鉄筋部分は「バイリニア(対称)」の弾塑性特性を選びます。
次はコンクリート部分の分割です。断面方向には縦横50ずつの要素に分割し、高さ方向には10分割します。コンクリート部分の要素数は、50×
50×10=25,000個にもなる計算です。16本の鉄筋も、それぞれ長さ方向に10分割され、160個のファイバー要素になります。
こうして、2万5160個のファイバー要素で構成された単柱の3次元モデルに、X、Y、Z
の3方向に地震加速度を作用させます。今回は3001ステップの時刻歴からなる加速度応答計算を行いました。
応答変位の計算結果をアニメーションで再生すると、300ステップ目くらいから変位が大きくなり、最大変位は600ステップ目の手前でした。高さ方向に10分割された断面のひずみ分布を見ると、コンクリートが圧壊したり、ひび割れたりしている様子が分かります。
続いて、平板要素を用いた配水池の解析も行いました。
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▲単柱の高さごとの損傷度合い |
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▲単柱の断面位置での損傷度合い |
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▲配水池内部の地震時動水圧による
変位コンタ図 |
●イエイリコメントと提案
材料の降伏やひび割れ、ダンパーによる振動の減衰など、実際に構造物に発生する力学的な現象を再現できる「Engineer'sStudio(R)」は、今後の建築・土木の世界で幅広いニーズがあるでしょう。
まずは3次元CADやBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)による設計手法の普及による曲線を生かした建物デザインの増加です。
こうした建物は、柱が斜めに立っていたり、屋根と壁の区別がつかないデザインだったりと、従来の柱と梁という単純な要素だけでは正確な構造解析が難しくなります。その点、フレームや平板、ファイバー要素などを組み合わせて複雑な形状をモデリングし、忠実なモデリングができることは、強みとなります。
東日本大震災をきっかけとして、地震や津波などの災害時に建物や土木構造物の一部が壊れても全体の崩壊を免れる"フェールセーフ化"が社会的ニーズとして高まっています。
また、これからは地球環境保護や公共事業費削減の観点から、建物や構造物をスクラップ・アンド・ビルドするのではなく、補修や補強を行ってリニューアルし、長寿命化を図ることが課題になっています。 建物に免震装置や制震ダンパーを取り付けたとき、地震動などに対する挙動を正確に求めるためには、材料や支点などの弾塑性特性を忠実に反映して計算する必要があります。
「Engineer's Studio(R)」は、今後、これらのニーズに対応できる有限要素解析プログラムとして、ますます活用の範囲が広がっていきそうです。
●製品の今後の展望
構造物が複雑になればなるほど、解析モデルの作成にかかる手間が増えてきます。「Engineer's
Studio(R) Ver.1.06」では、平板要素に接する地盤バネを自動生成したり、分布荷重や死荷重を自動的に計算したりする機能などを新たに搭載し、モデリングに要する時間はかなり短くなっています。
今後はBIMによる設計のほか、「アルゴリズミックデザイン」と呼ばれるコンピューターによって生成する形状を生かした設計手法への対応も課題です。3次元CADとのデータ交換機能が強化されれば、BIMのワークフローで使える有限要素解析ソフトとしての位置づけが高まるでしょう。そのため、UC-1シリーズの土木設計ソフトと同様に、BIMのデータ交換標準である「IFC形式」との互換性向上に期待します。
●次回は、「UC-win/Road Ver.6」体験セミナーをレポート予定です。 |
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(Up&Coming'11 晩秋の号掲載) |
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