Vol.9
VR-Cloud(TM) |
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太 |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー、有償セミナーを体験レポート |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望など、全12回にわたってお届けする予定です。
【プロフィール】
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。日経BP社の建設サイト「ケンプラッツ」で「イエイリ建設IT戦略」を連載中。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式ブログはhttp://ieiri-lab.jp |
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●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。
コンピューター上に街並みや道路、駅などの仮想的な3次元モデルを作り、その空間内でクルマや人などの流れを再現する「バーチャルリアリティー」(以下、VR)の技術は、施設などの計画・設計に広く使われるようになりました。
フォーラムエイトの「UC-win/Road」は、VRソフトの代表的な製品です。道路設計やシミュレーションに強く、様々なプラグインやソフト開発キット(SDK)が評価されています。その結果、これまでにフルライセンス版だけでも1,000本以上、ビューアーライセンス版も3,000本以上が世界中で使われています。
VRを使うと、まるで完成後の世界に行ったかのように、その状況をいろいろな角度からリアルに見たり、検証したりできるので、計画内容の説明や合意形成、問題点の予測など、幅広い用途に活用できます。
例えば、2010年に供用を開始した首都高速道路の大橋ジャンクション(東京都目黒区)では、地下トンネルの中央環状線と高架の3号渋谷線の高低差約70mをらせん状ループでつなぐという前例のない設計の検証にUC-win/Roadが使われました。また2010年に行われた「第9回
3D・VRシミュレーションコンテスト」では、関西大学総合情報学部が、大阪の魅力を向上させるため、阪神高速道路を地中化する提案をUC-win/Roadでプレゼンテーションしました。
一方、VRソフトは広い範囲の3次元空間に動きを加えて扱うため、ハイスペックのパソコンが必要でモバイルやリモートでは使えないという課題もありました。また、多くの人に使ってもらうためには、操作が難しく、インストールやメンテナンスに時間がかかるという点もネックになっていました。
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▲大橋ジャンクションのVRモデル
(資料:首都高速道路) |
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▲高架橋撤去前(上)と地下化後(下)の大阪の街並み
(資料:関西大学総合情報学部) |
●製品概要・特長
そこでフォーラムエイトは6月21日、UC-win/Roadなどの設計用VRソフトを、インターネット上のサーバーで動かす「クラウドコンピューティング」で提供する「VR-Cloud(TM)」というサービスを始めました。これによって、前述の問題点はすべてクリアされます。
つまりユーザー側にはインターネットにつながったパソコンさえあれば、あたかもハイスペックのマシンが手元にあるかのように、UC-win/Roadなどの本格的なVRソフトを使えるのです。メンテナンスもほとんどサーバー側で行うので、ユーザー側は何もしないで大丈夫です。さらにモバイル対応のクライアントソフトを開発すれば、Androidなどの携帯端末でも利用できるようになります。
これまで、ハイスペックなコンピューターやグラフィックボードがないと使えなかったVRをクラウドで動かすためには、サーバーとユーザーのパソコン間でスムーズなデータ伝送を行う必要があります。
例えば、UC-win/Roadで作った街路で運転やウオークスルーを行うとき、ユーザー側から出す「右」、「左」、「移動」といった指示を速やかにサーバーに伝えてUC-win/Roadで処理し、その結果を瞬間的にユーザーの画面に表示できないと、とても実用にはなりません。
そこでVR-Cloud(TM)には「a3S(Anythingas a Service)」という独自開発の伝送技術を実装し、パフォーマンスを従来の4倍以上に向上させました。
ユーザー側に高性能なグラフィックボードがなくても、このような処理が行えるのは、「a3Sモジュール」ではUC-win/Roadによって作られたイメージをビデオフレームに圧縮して、ユーザー側にストリーミングしているからです。つまり、OpenGLのようなグラフィックボード用の信号ではなく、テレビのようなビデオ信号として送るのでシンクライアントのような低スペックのパソコンでも使えるのです。
a3Sモジュールがあれば、UC-win/Road以外のアプリケーションでも簡単にクラウド化することができます。フォーラムエイトは、a3Sの技術について、特許申請を行いました。
VR-Cloud(TM)は今後も、機能が続々と追加されていきます。8月8日にリリースされた「バージョン1.1」では、視点や視覚の移動などでのマウス機能が強化されました。それまでは画面上に表示された矢印アイコンやキーボードの矢印キーを使っていたものが、マウス操作一つでできるようになったのです。
さらにユーザーがマウスやキーボードで出した指示をサーバーに送り、処理した結果をユーザーの画面に送り返して表示するまでの時間も、従来は0.2〜0.3秒かかっていたものが、0.1秒以内に短縮されました。これだけレスポンスが早いと、ドライビングシミュレーターでも十分に使えます。
今年10月末には「バージョン2.0」をリリースする予定です。このとき、Android版への対応や、複数のユーザーごとに別々の画面をストリーミングする機能などを追加します。
さらに2012年3月末にリリースされる「バージョン3.0」では、音もストリーミングできるようになります。
これまで、3Dゲームのクラウドシステムはありましたが、シミュレーションや設計対応のVRアプリケーションをクラウド化したものはありませんでした。VR-Cloud(TM)は、その先駆的なシステムになります。
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▲VR-Cloud(TM)で、クライアント側の
ユーザから見たUC-win/Roadの画面 |
▲VR-Cloud(TM)の心臓部とも言える
「a3Sシステム」の概念図」 |
●体験内容
7月22日の午後、フォーラムエイト東京本社で「VR-Cloud(TM)セミナー」が開催されました。講師を務めるのは、VRCloud(TM)開発チームリーダのスーリエ・クリストフさんです。セミナーの講師は今回が初めてとのことでしたが、流ちょうな日本語でプレゼンテーションを進めていきました。
今回のセミナー参加者は、若い人が多く、会場はいつもよりも明るい感じでした。というのも、11月4日に最終審査と結果発表が行われる「Virtual
Design World Cup〜第1回 学生BIM&VRデザインコンテスト オン クラウド」のワークショップに参加している大学生もVR-Cloud(TM)を体験しに来ていたからです。
セミナーの前半は、クリストフさんがVR-Cloud(TM)の基本やメリット、技術的な仕組み、今後の開発予定などを1時間15分ほど解説しました。その後、15分間の休憩をはさんで、いよいよVR-Cloud(TM)の体験です。 |
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体験したのはUC-win/Roadをクラウド化したシステムです。クリストフさんはまず、既に作られている街の3次元空間内を移動したり、視点を変えたりする方法について説明しました。操作方法はとても簡単です。参加者は早速、手元のパソコンを操作してVR-Cloud(TM)の使い勝手を試していました。
その後、東京会場のパソコン画面を見ると、会場の右半分と左半分にある画面がそれぞれ全く同じ映像を映しているのに気が付きました。東京会場の場合、会場の左右のグループごとに別のサーバーに接続されているからです。各グループのうち1人だけが60秒間の「操作権」を持ってUC-win/Roadを操作し、他のメンバーは自分の順番が来るまで、その画面を見ていたのでした。
参加者はリストから選択した視点に移動したり、道路上を運転したりと、思うままに仮想の3次元空間を楽しんでいました。そのレスポンスは軽快でした。全く違う場所にあるUC-win/Roadを遠隔で操作しているとは思えないほど、画面はスムーズに動きます。
画面のところどころに、赤い丸印がありました。これはVR-Cloud(TM)のバージョン1.1で追加された「3次元掲示板」という機能です。
3次元空間内にある建物や施設などに掲示板をリンクできるようにしたもので、設計についての説明やユーザーからのコメント、ユーザー同士でのディスカッションなどが行える面白いものです。
3次元空間内にあるものに対して議論しようとするときに、その場所を説明するのは面倒で、位置が分からなかったり、誤解を生じたりすることがありますが、そのオブジェクト上に掲示板を設けることでずっと分かりやすくなります。
似たような機能として3次元空間内に「注釈」を作る機能もあります。
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▲3次元空間に設計についての説明などを
記入できる注釈機能 |
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▲空間内のオブジェクトなどについて
議論できる3次元掲示板機能 |
●イエイリコメントと提案
VR-Cloud(TM)の開発によって、UC-win/RoadなどのVRシステムで作った仮想空間が、普通のインターネット環境で手軽に見られるようになりました。この秋にAndroid版への対応が行われると、スマートフォンなどでもVRを扱えるようになり、潜在ユーザーは爆発的に増えることになります。
その結果、まちづくりの進め方は大きく変わる可能性があります。これまでは平日の昼間に住民説明会を開いても、会社員や学生などはなかなか参加できませんでした。
ところが、まちづくりの計画をVR化してネットで公開することにより、これらの人々も時間が空いているときにアクセスし、いろいろな視点で計画をチェックするとともに、気になるところは3次元掲示板機能や注釈機能などで具体的に意見を述べることができるようになるからです。
年齢層や職業の違いを超えて、様々な人が自分たちのまちをテーマに議論することで、地域内の新たな交流が生まれることも期待できそうです。
その試金石となるのが、11月15日に開催される「第10回 3D・VR シミュレーションコンテスト・オン・クラウド2011」です。これまでとは異なり、クラウド上で作品を公開し、一般投票を実施するという前例のない方法で行われるのです。VRをクラウド化することにより、どんな人が投票に参加し、どの作品を評価するのかに注目したいと思います。
●製品の今後の展望
フォーラムエイトでは、次世代スパコン「京」を活用したスパコンクラウドサービスの提供を計画するなど、従来、ハイスペックなマシンが必要だったシステムのクラウド化を進めています。
設計やシミュレーションを行うシステムのクラウド化は、実務ユーザーにとってはコンピューターへの投資を減らせるというコスト削減のメリットが大きいでしょう。
一方、一般の消費者がVRを利用しやすくなるという側面もあります。従来、専門家だけが使っていた街のモデルデータを一般に開放することにより、わが町を舞台としたバーチャルな自動車レースや、「ハンターハンター」のような鬼ごっこなどのゲームも実現できるでしょう。その結果、地域の企業や商店街などからの広告収入を得る新しいビジネスが生まれてくるかもしれません。
街の3Dモデルデータにクラウド技術が加わることにより、BtoBのビジネスモデルだけでなく、BtoC、CtoCへと広がっていく可能性があります。
●次回は、「Engineer's Studio(R)」体験セミナーをレポート予定です。 |
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(Up&Coming'11 秋の号掲載) |
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