前回のVol.1では、3Dプロジェクションマッピングの歴史と事例を見てきました。読んでいただくと、プロジェクションマッピングの大よその流れがご理解いただけたと思います。今回は、3Dプロジェクションマッピングを行う場合に検討しなければならないことを中心として、「3Dプロジェクションマッピングの実際」を見ていきましょう。
3Dプロジェクションマッピング(その2)
実は、上のタイトルはあえて「3D」を除いて単に「プロジェクションマッピングの種類」としています。これは、「プロジェクションマッピング」と「3Dプロジェクションマッピング」が厳密には異なる表現であることを示すためです。では、どのように違うのか下記に整理してみます(これは、プロジェクションマッピングを正しく理解するために筆者が整理した分類方法であり、一般的にはこういった分類を無視して使われる場合が多いのが実情です。これらを総称する場合、ここでは「プロジェクションマッピング」と表記します)。
(1)プロジェクション
例:テレビの映像をビルの1つの面に拡大して投影
大画面で見るためのプロジェクタの基本機能であり、最もシンプルな投影方法です。つまり、みなさんが通常のプロジェクタを使用する場合とまったく同じ方法であり、プロジェクタを通して平面に映像を拡大投影するものです。
(2)プロジェクションマッピング
例:2Dアニメーションを立方体に投影
立体の投影面に映像を投影する方法です。箱であれば、斜めから投影する場合をいいます。この場合の投影面はいわゆる四角いスクリーンではなく任意形状で、これがプロジェクションマッピングの面白いところです。
四角いスクリーンを任意形状にするにはどうしたらよいでしょうか?答えは「マスキング」です。黒地の背景に白く塗りつぶされた円を書けば、実は丸いスクリーンの出来上がりです。このようにして、投影対象の立体物に合った形状のマスクを作成して投影する方法をプロジェクションマッピングと言います。必ずしも3Dモデルを作成する必要はありません、立体物からはみ出さないようにマスクができればよく、2Dの映像でもよいわけです。この場合はAdobe
After Effectsなどの2Dの合成ソフトだけで行うことができます。
(3)3Dプロジェクションマッピング
例:建築物のファサードが崩れ落ちるなどといったように、投影面に合った向きの映像をそれぞれの面に投影する方法
より高度な方法として、立体物とはまったく異なる3D空間を再現することも可能です。これは、四角い箱に斜めから投影して球体を表示する場合などで、3DCGの技術が必要となります。必要な3Dモデルを作成してテクスチャを貼り、プロジェクタの位置からレンダリングすることになります。
通常は、2D映像を3DCG上でテクスチャマッピングして動画素材を作成し、プロジェクションマッピングの手法で投影します。一方、3DCG上でアニメーションを完成させる場合は、立体物とは異なる3D空間の表現も可能となります。
(4)混同されるプロジェクションマッピングの種類
たとえば、1つの平面スクリーンに対して異なる3D空間を再現する場合は、単なるプロジェクションの手法で実現できますが、これは3DCGを単に大画面で見ているということに過ぎません。3DCGを用いる最も簡単な手法(プロジェクション)と最も高度な手法(3Dプロジェクションマッピング)の違いが一般的には分かりにくいことが、質の高いプロジェクションマッピングの発展を妨げる要因にもなっています。単なる「大画面3DCG」に甘んじることなく、立体形状を生かした高度な手法に挑戦するような作品の登場に期待したいと思います。
プロジェクションマッピングのもう1つの特長として、投影の方法があります。
台形歪
通常のプロジェクタでも同様ですが、スクリーン面に対して斜めになると投影面に台形の歪が発生します。これを修正しなければ、歪んだ映像や文字を見ることになります。多少の歪であればプロジェクタの機能で修正して使用することもありますが、大きな台形歪の場合はあらかじめそれを考慮して映像を制作する必要があります。簡単にいえば、斜めから見ても正面から見て成立するような映像を作成するわけです。分かりやすい例としては、道路の路面に描かれた速度制限表示や、サッカーの試合でゴール横に立っているように見える看板(実際は芝生の面に置かれている)のように、見る人の視点、つまりプロジェクタが置かれている場所から正対に見えるように作成します。
ブレンディング
投影面のサイズによっては、複数のプロジェクタで1つの映像を投影する場合があります。基本的には複数ディスプレイによるマルチスクリーン技術と同様ですが、プロジェクタでは単にマルチスクリーン化するだけではなく、複数のプロジェクタの映像が重なる部分に継ぎ目が出ないように滑らかに合成することが必要となります。これを「ブレンディング」といいます。
実は、プロジェクションマッピングで一番難易度が高くコストがかかるのがこのブレンディングに関することです。単に映像の継ぎ目だけでなく個々のプロジェクタの色味や輝度のばらつきも調整しなければなりません。また、左右に加えて上下方向にも必要な場合もあり、ドームへの投影のようにマスクのエッジに対してブレンディングする必要も出てきます。
ブレンディングの際にはのりしろが必要となるため、映像の制作段階からこのことを考慮しなければなりません。つまり、重なる部分の映像を多めに作成・撮影することが必要となってきます。これには以下の方法があります。
- ソフトウエアで行う場合
・After Effectsのような合成ソフトや投影ソフトで行う場合
- ハードウエアで行う場合
・プロジェクタの機能で行う場合(ブレンディング機能搭載機が必要)
・ブレンディング専用機、メディアサーバーなどのマルチスクリーン用専用機で行う場合
最近の業務用プロジェクタでは、このブレンディングの機能をプロジェクタ側で持っているものもありますが、その能力は機種により差があるようです。ハード的に行っているものでも、高価なものは光学的に行っていますが、通常は電気的に行うか、演算により行っているものなど、さまざまです。のりしろの幅をどのようにするかなど、素材の制作方法にも影響するので、必ず事前に実機で確認しておくことが必要です。
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▲メディアサーバーの接続例 |
このように、プロジェクションマッピングは映像の制作方法とプロジェクタという機材の特性、はたまた投影面の形状や素材、距離、投影角度、投影に必要な表示用のPC技術など、多くの技術要素が複合的に影響する極めて総合的な表現手法といえます。しかし、ディスプレイ枠の制約を飛び越え、街に出て自由な空間に映像を開放できる、大変魅力的な表現手法ともいえます。まずは、会社にある1台のビジネス用プロジェクタで結構ですので、壁以外の立体物に投影してみてください。そこからいろいろな発想がわいてきます。なにも建築物に投影するだけがプロジェクションマッピングではありません、身近な小物でも効果的な利用方法が見つかることでしょう。エンターテインメントだけではなく、今後はデザインシミュレーションなどの産業用途でも期待される技術です。
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▲ブレンディング機能を搭載したメディアサーバー
アズラボ株式会社製(お問い合わせ先:フォーラムエイト) |
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※社名・製品名は一般的に各社の登録商標または商標です。 |
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(Up&Coming '12 夏の号掲載) |
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