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津波、避難解析の最新知見を
現代の津波防災にどう生かすか

スパコン「京」で津波解析に挑む今村教授と避難解析の権威、ガリア教授が未来を展望

2011年3月11日に発生した東日本大震災の“1000年に1度”と言われる巨大津波による被害は、津波対策に対する考え方や認識を大きく変えつつあります。発生が予想される津波の高さや浸水範囲については、スーパーコンピュータ「京」を使った精密な解析が行われつつあります。また、津波発生後の人的被害を最小限に食い止めるためには、個人の情報認知や地域の生活文化、習慣に合った適切な警報の出し方や広範囲の避難シミュレーションなどの研究が進められています。津波研究の第一人者である東北大学災害科学国際研究所副所長の今村文彦教授と、避難研究の権威であるグリニッジ大学のエドウィン・R・ガリア教授が津波と避難の最新知見を基に、今後の展開について語りました。 (聞き手/建設ITジャーナリスト、家入龍太)


▲(左)東北大学災害科学国際研究所副所長、教授 今村 文彦 氏
(右)グリニッジ大学教授 火災安全工学グループ長 エドウィン・R・ガリア 氏
 

──まず今村先生にお伺いしたいのですが、東日本大震災以後、津波対策の課題は以前とどう変わりましたか。

今村  今日はガリア先生との対談の機会をいただき、とても感謝しています。2011年の東日本大震災の前にも、政府や専門家などの人々の協力を得て、津波の被害を最小化するための取り組みをいくつか行っていました。それまでにも、東北の三陸海岸地域は非常に多くの被害を受けてきたからです。
 しかし、東日本大震災では過去に経験したことにないような津波の大被害を受けました。まだまだ津波対策には、多くの改善すべき課題が残っていることが明らかになりました。2011年以降、大きく2つの課題が出て来たと思います。
 1つ目はリアルタイムの観測データを使って津波を正確に予測することです。地震のマグニチュードや震源の位置、発生のメカニズムなどの情報は津波の予測に欠かせません。しかし、地震発生のメカニズムは非常に複雑です。そのため、気象庁の震度や津波高などの見積もりは過小評価であることが多かったのです。
 例えば、地震発生2分後に気象庁が出した速報はマグニチュード7.9というものでした。しかし、実際にはマグニチュード9の地震だったのです。また、津波高の予測は宮城県で6m、福島県と岩手県で3mというもので、実際の津波高よりははるかに低いものでした。
 そのため、地震の規模や津波の高さの予測精度を上げることが課題です。

ガリア

 津波高を過小評価したのは、地震の規模を低く見積もっていたからですか。

今村

 はい、それもありますが、地震断層の変位分布がとても複雑だったこともあります。例えば50m以上も断層がずれたところもありました。我々の常識をはるかに超えた現象でした。
 2つ目の課題は、津波が襲ってきそうなときに人々にどう避難行動を取らせるかということです。
 例えば、津波警報を聞いても安全な場所に避難するための適切な行動が取れない人も多くいました。本来は避難すべきときに、家族と連絡を取れないので海岸沿いにある家に戻った人が多かったのです。そこに津波がやって来ました。これは都市計画とともに情報の問題でもあります。
 地震が発生したのは金曜日の午後でした。多くの人は職場や学校に出掛けている一方、高齢者は家にいた、というのが典型的な例です。


──津波対策に関する研究はどう進みましたか。

今村  1つ目の高精度に津波を予測するという課題については、ハイパフォーマンスのコンピュータを使い、よいモデルと高密度のデータで解析を行うと同時に、リアルタイム観測結果と組み合わせた研究を行っています。
 2011年当時、三陸沖でGPS付きのブイで観測を行っていました。津波警報にはとても重要な情報な観測機器です。海岸から4〜5kmも沖合にあるのに、この機器が津波の第一波として6〜7mにも達する波高データを記録したのです。これを見て、気象庁は津波の高さ予測を上方修正しました。
 しかし、この警報の修正は自動化されているものではなく、数値的な解析にも基づいていません。

ガリア

 地震発生から津波が海岸にたどり着くまで、どれくらいの時間的猶予があるのですか。

今村

 東北の三陸地方の場合は海岸から100〜200km沖合に地震活動が活発なエリアがあり、地震発生から津波到達までの時間は約30分です。GPS付きのブイは海面とともに深海にも設置してあり、津波とともに地震動も観測できるようになっています。
 概略としては、地震で発生した津波は約10分後に深海のブイ、その10分後に海上のブイが観測し、さらに10分後に海岸に到達する、といった流れです。

ガリア

 地上に達した後、津波が進むスピードはどれくらいですか。

今村

 ヘリコプターや飛行機などのビデオ映像を分析すると、毎秒3〜10mくらいになると推定されます。とても速いスピードです。

ガリア

 そうですね。

▲東日本大震災の女川市での被害
(写真:今村文彦氏)
▲災害発生時にリアルタイムで避難解析を行うイメージ
(資料:Edwin R. Galea)


──ガリア先生にお聞きしますが、最近の避難解析の技術や研究についてはどんな進歩がありますか。

ガリア  今、私の避難解析の研究対象は、複雑なビルです。ここ数年、我々の避難解析をさらに広い範囲に適用することを研究しています。都市部やさらに大きな範囲です。
 さらに人々を高精度でモデル化し、広範囲における人々の動きを解析しています。1つ目の課題は広いエリアでいかに詳細なモデル化を行うかということです。2つ目の課題は人々の動きを理解することです。建物の中で人々は異なった動きをするからです。
 英国には津波はありませんが、洪水はあります。洪水の危険が迫っているときに、避難を呼びかけても家にとどまろうとする人がいるのです。財産を守ろうとしてです。この動きをシミュレーションするのは難しいですね。危険が差し迫っているときに、人々がその危険性を理解し、避難させるようにするために、どのようなメッセージで警告したらいいのかという問題になります。
 被害を最小化するためには、人々の行動を理解することと、その行動をシミュレーションすることが必要になります。
 人々がどう行動したかは、災害時に生き残った人に、詳細なインタビューすることで分かります。そして避難行動の時間的な推移を知ることができます。
 まず1つ目の課題である広いエリアの詳細モデル化には最適化の手法を使います。1年前に「アイデラ(IDIRA)」というプロジェクトを始めました。欧州連合(EU)の7つのプロジェクトからなります。欧州の複数の国々にまたがる大規模な地震や洪水などの災害が起こったとき、効果的に対処する方法を研究するものです。
 我々、グリニッジ大学は、大規模な災害に対応するため、人々の動きをシミュレーションする範囲を拡大することです。
 4年間のプロジェクトの1年目が終わった段階ですが、避難シミュレーションとGoogle Earthやストリートマップを連携させることができました。
 Google Earthやストリートマップから地形や道路などの情報を抜き出して人々のモデルをその上のいろいろな場所に配置し、避難時にどのような現象が起こるのかや、どれくらいの時間で避難できるのかを解析できるようになりました。
 2つ目の課題は、インターネットと避難解析の連携です。例えば、橋が地震で落ちて通れなくなったとか、洪水で渡れないといった情報を携帯端末から災害対策本部に送ります。その情報を生かして避難戦略を立てるといった方法です。我々は次のステップとして、こうした情報を避難解析に生かす方法を研究しています。


──解析する範囲は何キロメートルくらいの広さを想定していますか。

ガリア  当面は1つの街レベルを考えています。7km四方程度の規模でしょうか。ドイツの街を題材に、避難シミュレーションを行ったときの結果をお見せしましょう。
 普段はすべての道が通れますが、洪水などで橋や道路が通れなくなると、避難に使えるルートは少なくなります。そんな条件を加えてシミュレーションを再度行うのです。すると、避難経路や避難にかかる時間が5分長くなるとかが分かります。
 こうした条件の変わる解析は、事前の避難計画でも活用できますが、災害時にリアルタイムな解析を行いながら、被害を最小化するために使えるというのが強みです。これを使ってどこに避難所を設けるか、避難路はどうするか、避難時間はどうかという検討を行い、通れない避難路ができたときは避難路の代替ルートはどうするか、そのとき避難時間はどうなるか、といったことがシミュレーションできます。
 避難解析にかかる時間は解析対象エリアの広さによりますが、コンピュータを並列化してすることにより、短い時間で解析が行えます。


──「京」のようなスーパーコンピュータを使うと、広い海岸地域の避難解析もあっという間にできてしまいますね。

ガリア  はい、そう思います。次のステップは人々の避難行動をどう表現していくかという問題ですね。建物の中にいる人々の行動は、避難場所を知っているか、家族で避難計画を持っているかといったことでも大きく変わります。
 例えば、津波の被害を受けやすい場所では津波警報が出たら家には戻らないで避難所で会う約束にしておくとか、高齢者のいる家では避難を手助けすることを決めておくとかです。避難計画を決め、家族が理解しておくこと、つまり教育は重要ですね。

▲スーパーコンピュータ「京」(提供:理化学研究所)

──ガリア先生は2011年の米国の同時多発テロ「9.11」のときに生き残った人々にインタビューしたそうですが、今村先生は、今回の津波避難者については調べましたか。

今村  東日本大震災の後、東北大学や中央官庁で大規模な調査を行い、生き残った人々にインタビューしました。いつ、どんな情報を得たかとか、どんなルートで逃げたかといったことです。そのため津波被災地の多くのデータがあります。もちろん、これは生き残れた人だけのデータですから内容には限りもあります。
 そこで携帯電話や車載端末のGPSデータを集めています。このデータはより実際的です。

ガリア

 9.11の時には警察にかかってきた緊急通話の録音記録も調査しました。これらの通話記録からは死亡した人が何をしたのか、なぜその行動をとったのかということも分かります。
 また、生き残った人々からも、職場から逃げるのを拒み、その場に残ろうとして亡くなった同僚の様子が分かります。


──日本の119番の通話記録も同じように利用できるのでしょうか。

今村  緊急通話の記録利用はとても限られていますが、GPSデータの解析とともに少しずつ、利用できるようになってきました。各GPS端末の電波がいつ、どこで消えたのかも分かります。また、FacebookなどSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の発信記録も少ないですが利用できるものがあります。
  グーグルの日本法人等は今年10 月、SNS による東日本大震災の実態を把握するため、さらには津波避難の解析を行えるようにするため、当面、地震後1 週間までのデータを公開しようと呼びかけました。そしてNTT ドコモやNHK、ツイッターがこれに応じています。そのおかげで、どんなデータが使えるか、今後、どんな方向でデータを生かしていくかという議論が始まっています。この議論はウェブサイトでも公開されています。


──今村先生はスーパーコンピュータを使った津波や避難解析にかかわっておられますが、研究はどのように進んでいるでしょうか。

今村  2011年以降、特に都市域での津波氾濫モデルの構築に重点を置いた研究が行われています。都市域はビルが立ち並び、道路も入り組んだ複雑な形をしています。そして多くの人々が住んでいます。
 そこで南海地震が起こったときに津波被害が予想されている高知市に焦点を当てた「複合災害」についての研究が行われています。まず地震が起こり、地震動による建物の損壊や地盤の液状化などが起こった後に津波がやってくる過程をシミュレーションしています。解析の結果、津波が陸上に上がってきたとき、建物によって津波のスピードが落ちることも分かりました。また、街中でも安全な場所とそうでない場所があることが分かりました。

ガリア

 私は火災時の炎や有毒ガスの広がりを数値流体解析(CFD)で解析し、避難シミュレーションに生かす研究を行ってきました。これを津波解析にも適用することができます。津波の先端がビルに衝突したとき、どのような現象が起こるのかや、人々の避難過程にどのように影響を与えるのかなどを知ることができます。そして安全な避難ルートを見つけることにも役立つでしょう。

今村

 現在、スーパーコンピュータ「京」で行っている都市域の津波シミュレーションは10km×30kmの地域を2m四方のグリッドという高密度での解析です。これまで10時間かかっていた計算が、京だと1時間でできます。ほとんどリアルタイムに近いスピードです。
 2Dによる解析ですが、地盤の高さはトポグラフィーで表し、建物の種類や高さのデータと合成してモデル化しています。2m四方のモデルだと航空写真やGISのデータも必要です。


──スーパーコンピュータ「京」による解析の結果、何か新しいことは分かりましたか。

今村  中心街よりも海に近いけど津波によって被害が少ない部分があったり、逆に津波同士が干渉してより高くなる部分があったりすることが分かりました。これまでは分からなかった新発見です。


──ガリア先生の研究は4年計画の1年目が終わったところですが、今後はどのように研究を進めていかれる予定でしょうか。

ガリア  人々の避難行動を明らかにするために、過去の洪水で人々がどのような行動をとったかを研究していきます。
 もう一つは森などを含む大きな地域を対象とした解析です。従来の解析方法だと、計算時間が長くなりすぎてしまいます。避難解析ソフト「EXODUS」では通常、0.5m四方の高密度メッシュを使っていますが、500m四方程度の解析であれば問題ありません。しかし、これよりずっと大きなモデルの場合は、さらに大きなコンピュータパワーが必要になります。
 そこで、場所によって計算モデルのメッシュ分割密度を3段階に分ける「ハイブリッド技術」を開発しています。例えば複雑にビルが立ち並ぶ都市域内では0.5m程度の高密度メッシュを、一方、郊外では数m程度の大きなメッシュを使い分けるという方法です。この手法を使うと数百km四方の大きな地域も解析できるようになります。


──今村先生とガリア先生の研究を組み合わせると、津波の挙動を高精度に予測し、それに基づいた広範囲の避難解析ができそうですが、可能性はどうでしょうか。

今村  人々の挙動予測は共通の課題だと思います。ガリア先生のデータと我々のデータから、モデルを作るための人間の行動に関するデータセットを作ることが考えられます。他の地域のデータと比較しながら、よりよい避難モデルを作れるでしょう。異なった文化などを反映するためには、心理学者などの参加も必要でしょう。

ガリア

 そう、文化は避難行動にも重要な要素となります。私は欧州の別の4年計画研究プロジェクトで「行動、安全、文化(Behavior, Security, Culture)」という研究をまとめました。略して「BeSeCu(ベセキュー)」と言いますが、社会文化が人々の避難行動にどのような影響を及ぼすのかを研究したものです。
 トルコ、チェコ、ポーランド、英国、ドイツ、フランスなどの結果を比較した結果、トルコ、チェコ、ポーランドの東欧3カ国は西欧諸国と比べて違った行動特性が明らかになりました。
 その1つは洪水やテロの際の行動についてのインタビューです。テロではロンドンの地下鉄テロやスペインのマドリードのテロについて聞きました。
 もう1つは、避難実験です。トルコ、チェコ、ポーランド、英国の4カ国の図書館でできるだけ条件を同じにして、文化の違いだけを比較できるように実験したのです。事前に避難訓練であることは知らせずに、人々の避難行動の実効性について調べました。
 最も重要な実験結果は、警報が鳴ってから避難を開始するまでの応答時間(レスポンスタイム)です。理屈的には対数正規分布曲線を描くはずです。
 実験の結果、分かったのは各国の文化が応答時間に大きな影響を与えることでした。予想外のことに、最も応答時間が短かったのはトルコの人々でした。これは驚きでした。逆に最も長かったのはチェコの人々です。
 英国は一番応答時間が短いだろうと予測していたのですが、実験してみるとチェコより少しましなくらいでした。
 トルコの結果がよかったのは、イズミュアという地震多発地帯にある学校の図書館で実験したためだと思います。彼らは地震への対応に慣れていたのでしょう。
 一方、他の国々の人々は警報を聞いたことがありませんでした。これまで訓練が行われていなかったのです。
 避難の様子をビデオで撮影していたのですが、トルコの人々は警報が鳴ったとたんにノートパソコンやバッグなど持ち物をその場に置いたまますぐに立ち上がって避難していました。一方、英国の人々はノートパソコンを終了させ、携帯を持ち、バッグに詰め、友達を探しながら避難していました。
 この実験結果からは、文化の違いが避難行動に大きな影響を与えていることが分かります。このことは我々も考慮しなければいけません。

▲EXODUS の解析結果を
UC-win/Road で3DVR 可視化した例
▲ハイブリッドモデルによる広域でのEXODUS解析
(資料:Edwin R. Galea)


──東日本大震災の津波の時も、石巻や大船渡など津波の経験が多い地域の人々はすぐに避難しましたが、新興住宅地では避難が遅れたという例がありましたが、今村先生はこれも文化の違いの影響があると思われますか。

今村  はい、地域や人々の経験の違いにより、異なった避難行動がありました。例えば海岸線が複雑に入り組み、これまで何度も津波の被害に遭っている地域と、仙台市の内陸部など津波の被害にあまり遭っていない地域では避難の仕方が違いました。
 都市部では石巻市や仙台市など大きな都市では迅速に避難していました。


──津波や洪水などの経験がない人々に避難の重要性を理解してもらうためには、「ビジュアライゼーション」によって今村先生やガリア先生の研究結果を説明することも有効だと思いますが、いかがでしょうか。

ガリア  ビジュアライゼーションは数多くの応用ができると思います。例えば避難訓練です。高解像度のビジュアライゼーションができれば、避難の初期行動の訓練に役立つでしょう。大きな洪水がすぐにやって来るのですぐに逃げろと言うだけでは津波の状況が想像できません。そこで近所の通りが洪水の時にどのような状態になるのかをビジュアライゼーションで表現できると、どんな水深の洪水がどれくらいのスピードでやってくるのかを人々に理解してもらうことができます。教育の手段としては効果的で、素早い避難が期待できるでしょう。

今村

 津波や海岸災害への備えにもビジュアライゼーションは重要でしょう。2011年以前は、津波という1つの災害に対するハザードマップや避難計画しか作っていませんでした。そこで想像がストップしまうことにもなりかねません。
 そこで2011年のような巨大津波には、様々なケースを組み合わせて、ビジュアライゼーションによってシナリオを想定することが必要でしょう。人々もビジュアライゼーションを通じて津波の状況を仮想体験することができます。

ガリア

 一般の人だけでなく、専門家でさえも災害の過程や結果を理解することは難しいものです。ビジュアライゼーションを使うことで、多くの事象を盛り込み、よりよく理解することができます。

▲津波解析ソフトとUC-win/Road の連携による、解析結果のビジュアライゼーション。
流線が矢印で表示されている(左)。避難解析と津波シミュレーションの連携も(右)


──フォーラムエイトでは、バーチャルリアリティーをインターネットブラウザーで使える「VR-Cloud®」を提供していますが、これはビジュアライゼーションとしてどう使えるでしょうか。

ガリア  VR-Cloud®を使った避難訓練は実現できそうですね。避難訓練をクラウド上で行うことで多くの人々が参加できます。我々の行っている研究と避難訓練をクラウド上で組み合わせることもできるでしょう。

今村

 VR-Cloud®は避難訓練だけでなく都市計画にも使えるでしょう。津波の被害を受けやすい地域で、人々がどこに住むか、避難路や津波避難ビルはどう作るかなどを計画するときに、VR-Cloud®は計画の作成やチェック、条件の検討、そして合意形成までを幅広く行うのによいツールだと思います。


──最後に、今後、津波解析や避難解析の研究はどのように進んでいきそうでしょうか。

ガリア  様々な異なる要素を扱える「バーチャルデスクトップ」を作ることです。例えば地震のほか津波や洪水、建物の崩壊、人々の避難や交通などを統合して扱えるプラットフォームです。
 これらを扱うのに様々なソフトウェアやツールがありますが、その結果を1つにまとめて共有するのが狙いです。これは大きな課題となるでしょう。
 SNSの情報にも有益なものが多く含まれているので、これをデータマイニングして解析モデルなどに取り込むことも必要でしょう。

今村

 私も全く同じアイデアを持っています。2012年4月に東北大学災害科学国際研究所に東北地区自然災害資料センターを設け、過去の災害データを1つにまとめるアーカイブやプラットフォームを作る10年計画がスタートしました。過去の災害データや様々なツールなどを他の地域の人々と共有しようという狙いです。
 ガリア先生の人々の行動に対する経験やデータと、我々が持っている日本のデータを交換することで、さらによい研究ができそうです。そして、結果を比較しましょう。

ガリア

 それは大いに賛成です。とても興味深いことになりそうです。

──どうもありがとうございました。

▲東北大学 災害科学国際研究所監修のもと作られた「減災風呂敷 結(ゆい)」。
「減災ポケットガイド」が付属している

今村 文彦(いまむら・ふみひこ)
東北大学災害科学国際研究所副所長、教授。災害科学や津波の流体波動数値計算、国内外の歴史地震津波痕跡調査、避難シミュレーション、避難時の記憶と人間行動を分析する認知心理学など、津波防災にかかわる研究に取り組んでいる。国際津波防災技術開発と移転、フラクタル幾何学など、流雪溝(2 相流体)などの研究にも従事。フォーラムエイトのアドバイザーとして、津波解析支援サービスなどへの技術指導や協力を行っている。

エドウィン・R・ガリア(Edwin R. Galea)
グリニッジ大学教授。1986年に設立した火災安全工学グループ(FSEG)でグループ長を務める。FSEGは数学者や心理学者のほか火災工学者、数値流体動力学(CFD)やソフトウェアの専門家も加わり、火災解析ソフト「SMARTFIRE」や「buildingEXODUS」などからなる避難解析ソフト「EXODUS」シリーズを開発し、世界30カ国以上で使われている。また1997年以来、短期コースで世界38カ国、500人以上の火災安全分野の専門家を育てた。


(執筆/取材:イエイリ・ラボ 家入 龍太)


     
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