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琉球大学
工学部 環境建設工学科 水工学研究室
津波への対応が喫緊の課題、大洋州への貢献にも力
ミニスパコンと連携、高度な解析やシミュレーション目指す |
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フォーラムエイトが設立されたのは、1987年5月。お陰様で今年、25周年を迎えるに至りました。その記念事業の一環として、今回の本コーナー(「ユーザー紹介」)では、「沖縄県」のユーザーを特集します。
沖縄の本土復帰(1972年5月)から40年。区切りの年を迎える中で、改めて沖縄の置かれた重要な位置づけ、あるいは私たちが自らのこととして考慮すべきさまざまな問題に注目が集まっています。一方、そのような沖縄には、当社創業当初より長くお付き合いいただく複数ユーザーが拠点を置くほか、先進の情報通信技術(ICT)を駆使するユーザーが当社製品を導入して新たなフィールドに挑む取り組みも見られます。
そこで、その取り巻く自然および地理的、社会的環境の特性を反映し、それぞれユニークな視点に立って事業や研究活動を展開する3ユーザーを取材。各ユーザーの最新のアプローチをご紹介するとともに、それらを通じて沖縄の今に迫ることを目指します。 |
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去る5月25日・26日の2日間にわたり、「第6回太平洋・島サミット」が沖縄県名護市で開催されました。これは、太平洋島嶼(しょ)国および地域が直面するさまざまな問題について首脳レベルで意見交換し、緊密な協力関係を構築しようというもの。日本がイニシアティブを取り、1997年から3年に一度開催されています。
日本はこれまで同サミットを主催、太平洋島嶼国を他に先駆けて支援してきた経緯があります。それでも今回、当該地域をめぐる国際的な位置づけが急速に変化する中、今後日本がそこで果たしていく役割がますます重要になるものと、改めて印象付けられました。
今回の沖縄特集で最初にご紹介するユーザーは、琉球大学工学部環境建設工学科。その中で、仲座栄三教授が指導する「水工学研究室」に焦点を当てます。
琉球大学は沖縄県で唯一の国立大学法人です。加えて、工学部を設けている大学も、県内では同大のみ。そのような事情もあって、周辺地域で災害など何か問題が生じると、専門家としてそれらへの対応を求められたり、技術的な質問が寄せられたりといった、県内におけるコンサルタント機能を担っている側面もあります。
実際、東日本大震災以降、同氏らは津波等への対応の研究に最優先課題として取り組むことが求められてきました。一方、前述の島サミットとも関連する大洋州への貢献は、同大が力を入れている活動の一つ。これらを具体化するアプローチで、同氏はフォーラムエイトの3次元リアルタイムVRソフト「UC-win/Road」や建築環境の避難モデル「buildingEXODUS」、雨水流出解析・氾濫解析ソフト「xpswmm」に着目。それらの活用を今年度、本格化させていく考えといいます。
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▲琉球大学工学部 環境建設工学科 水工学研究室 仲座栄三 教授 |
琉球大学の開学は1950年に遡ります。米国軍政府所管の下、戦火で焼失した首里城跡地に英語学部、教育学部、社会科学部、理学部、農学部、および応用学芸学部―の6学部構成で設置されました。
その後、米国ミシガン州立大学の協力を受けつつ、研究成果を通じた地域への貢献を標榜。組織の整備・拡充を重ねる中で、1966年に琉球政府立大学、沖縄が本土復帰した1972年には国立大学、2004年からは現行の国立大学法人として再編。現在は法文学部、観光産業科学部、教育学部、理学部、医学部、工学部、農学部―の7学部に加え、人文社会科学、観光科学、教育学、臨床心理学、医学、保健学、理工学、農学、法務といった研究科から成る大学院が設置されています。
そのうち、工学部は機械システム工学科、環境建設工学科、電気電子工学科、情報工学科により構成。さらに、環境建設工学科は土木コースと建築コースに分かれています。
仲座栄三教授は、主にその土木コースで海岸工学、海洋環境、流体力学などを担当。併せて、同氏が指導する水工学研究室では大気や河川、海洋の流れ、そこでの生態系を含む地球環境、あるいは防災に関する研究を、実験室や野外での観測、コンピュータによるシミュレーションに基づいて行っています。東日本大震災以降は、とくに沖縄における津波への対応が喫緊の研究課題として与えられており、その研究活動に占めるウェートがかなり大きくなっているといいます。
琉球大学には複数の学内共同利用施設が置かれており、2008年にオープンした「島嶼防災研究センター」はその一つ。
沖縄県は国内他地域から遠く離れ、亜熱帯環境下の島嶼群から成るなど、自然および地理的環境は他県とかなり異なる特徴を有しています。そうした特異性を活かした防災研究に取り組むべく設置された同センターの活動には、国内外の広範な分野にわたる研究者や専門家が参加。さまざまな研究成果についてはWebサイトを通じて公開しているほか、シンポジウムを開催するなど、その普及・啓発にも努めています。
その初代センター長を努めたのが仲座栄三教授で、現在は同センター担当の学長補佐を兼ねた併任教員としてその運営を支えています。 |
▲島嶼防災研究センター |
また、研究室には独自の実験施設を保有。波や川の流れを人工的に起こし、それらが建物や海岸などの構造物にぶつかった時にどうなるかモデルを使って実験。そのプロセスをセンサーなどで測定し、データを収集・分析。実験によって得られた成果は研究室でのシミュレーションに繋げられています。
同センターの誇るもう一つの設備が、今年3月に設置されたミニスーパーコンピュータ「防災シミュレーター“栄:Ei”」。これは、汎用性の高い一般的なCPUと、並列処理に特化し高速な演算が可能なGPU(Graphics
Processing Unit)それぞれの長所を統合。同センターで解析やシミュレーション用に従来使用してきた最速計算機の100倍に相当する計算速度を実現するものです。
国内でいち早く導入した最新機種ということもあり、2011年に世界最速を達成したスパコン「京」をもじり、「防災シミュレーター」には「栄える」という意味とアインシュタイン(Einstein)に因んだ、「栄:Ei」の愛称が冠されています。
「私たちはMPS(Moving Particle Semiimplicit)法により、(津波が)道路や建物にぶつかっていく様子を、そのまま3次元的に方程式を解きますので、並列計算を行うスパコンが必要になります」
つまり、津波解析は新しい時代に入ってきている、と同氏はそのベースにある観点を説きます。その上で、自らは当面、このミニスパコンを流体解析や津波のシミュレーションに利用。また連携する他の研究者が、これにより複雑な流体の流れ場、鋼構造物やコンクリート構造物の破壊のメカニズムを計算し、シミュレーションしていくとしています。
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▲研究室には独自の実験施設を保有 |
「(留学生を通じ)知識と技術、そしてその応用技術を大洋州に導入していこうというプロジェクトをスタートさせています」
大洋州をめぐっては、さまざまな思惑が交錯し、各国が競って関係強化を目指す流れにあります。その意味では、日本が主催した先の島サミットでは、
- 自然災害への対応
- 環境・気候変動
- 持続可能な開発と人間の安全保障
- 人的交流
- 海洋問題
―の5項目にわたり今後3年間の協力を謳う「沖縄キズナ宣言」を採択。併せて、日本はそのために最大5億ドル(約400億円)の援助を行う旨表明しました。
一方、琉球大学は防災をキーワードに大洋州の研究者がタイアップするプロジェクトを立ち上げるなど、独自の国際貢献を推進しています。その一環として仲座栄三教授は、スパコンの導入や維持が難しい開発途上国にとって、ミニスパコンはその機能を代替できる最適なツールと位置づけ。これと、冒頭で挙げたフォーラムエイトの3製品とをセットにし、大洋州からの留学生をトレーニングすることで、基盤となる情報通信技術(ICT)や個々のソフトに精通し、それらを駆使した災害対応技術を習得して大洋州の各国に持ち帰ってもらおうとの構想を述べます。
その背景の一端には、ソフトウェアの重要性を自身が認識してきたことがあります。つまり、研究室内だけで完結していたかつてと違い、近年は外部に向けてどんどん発信していくことが主流。そのような中で、良いソフトを積極的に活用。そこに同氏らの理論を付加することで、留学生がその成果をそれぞれの母国で実践的なツールとして普及していけるのではと期待されました。そこでまず、同氏の興味を引いたのがUC-win/Roadでした。
同氏がUC-win/Roadの存在を知ったのは数年前。その頃からその機能を気に入り、いずれ導入しようとの思いがあったといいます。
そのような折、多くの海岸構造物が整備されて以来、半世紀を経過。とくに歴史的構造物が改修されるケースも出てきたことから、それらを多様な角度やモードで見られるよう記録しておきたいとのニーズが醸成。これを受け、改修前と後の歴史的構造物をデータ化し、UC-win/Roadに取り込むことが着想されました。
その後、東日本大震災の発生を機に、津波避難に注目。ビルの火災避難を対象とするEXODUSを先進事例として、そこに込められた精神を高潮や河川の災害にも応用できるのではと考えられました。
併せて、研究成果の応用を通じた大洋州への貢献を具体化するに当たり、当該地域の洪水被害に着目。ソリューションツールとしてのxpswmmに対する評価を踏まえ、留学生がこれをマスターし、帰国後に活用してもらうことを狙いとして、これも今年導入しています。
もちろん、一義的には沖縄の洪水シミュレーションへの利用が位置づけられました。ただ、洪水のシミュレーションに関しては、沖縄と大洋州の各国との間で海や川などの地理的環境から生活習慣に至るまで類似性が多く、同大で研究開発される技術は適切な知識と応用する能力があれば、各国にもそのまま流用し、それぞれに応じた災害対応が可能になるものと想定されました。
フォーラムエイトの各製品については、いずれも今年から本格的な利用を進めていく考えといいます。
さまざまな災害研究に取り組む中で、仲座栄三教授は「スーパー減災マップ」(生活地図株式会社発行)を監修。今年初めに那覇市版を刊行しています。
これはその、住宅部分に番地を付す発想で特許を取得。それにより、限られたスペースに各家の位置を言語的な制約なしに明示することを実現。併せて、沖縄での歴史的な津波の高さを参考に海抜高度を色分けして表示。各自が自分で津波避難の経路をある程度把握することを可能にしました。
同氏らは次なる展開として、このスーパー減災マップのエリアを拡充。さらに、前述のミニスパコンをベースに、スーパー減災マップとUC-win/RoadやEXODUSなどの最新シミュレーション技術を融合させ、新たなツールの可能性を探っていきたいとしています。
「避難ルートを設定して、実際に現場に行ってみると、いろいろな障害物があってなかなか思い通りにいかないのです」。
そこで、たとえば、子供の歩き方だとどのような景色が見え、どういうところが危険なのかを可視化する、と次のステップのターゲットを描きます。
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▲仲座氏と弊社代表取締役社長 伊藤裕二。
奥に見えるのがミニスパコン「栄:Ei」 |
▲「スーパー減災マップ」と
最新VRシミュレーションの可能性に期待 |
(取材/執筆● 池野 隆) |
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