「大学(学部)」中心から「大学院」中心の組織へ転換、高度化する研究ニーズ
― 地域活性化に資する取り組みも積極的に推進
今回ご紹介するのは、群馬県の国立大学法人「群馬大学」です。
国立学校設置法を受けて49年、その前身である旧制諸学校を包括する形で学芸学部・医学部・工学部の3学部から成る新制総合大学として発足。
その後、組織の変更・拡充を経て、現在は教育学部・社会情報学部・医学部・工学部の4学部、さらに大学院・専攻科として教育学研究科・社会情報学研究科・医学系研究科・工学研究科および特殊教育特別専攻科を設置。
そのような経緯から、キャンパスも荒牧地区、昭和地区(いずれも前橋市内)、桐生地区(桐生市内)の3ヵ所に展開しています。
今回はその中で、桐生地区に拠点を置く同大「大学院工学研究科社会環境デザイン工学専攻」に焦点を当てます。
同専攻ではかねてより、同大副工学研究科長でもある鵜飼恵三教授を中心にフォーラムエイト「UC-1 地盤解析シリーズ」の核となる解析理論やそれを表現する各種ソルバーを開発。
その一方でユーザとしても、フォーラムエイトの「UC-win/Road」「弾塑性地盤解析(GeoFEAS)」「地盤の動的有効応力解析(UWLC)」「3次元浸透流解析(VGFlow)」「UC-win/WCOMD」などを複数の研究室で導入いただいています。
そこで、同専攻の研究や授業でそれらソフトウェアを実際に利用されている観点から、地盤工学研究室の鵜飼恵三教授と蔡飛(サイ・ヒ)助教、流域環境学研究室の松本健作助教と同専攻2年の配島俊一氏、コンクリート研究室の半井健一郎講師の5氏にお話を伺いました。
■研究領域も時代映し「建設工学」から「社会環境デザイン工学」に |
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「私たちの所属は、これまでの『群馬大学工学部』から『群馬大学大学院工学研究科』に変わりました」。
科学技術の進展あるいは社会における大学の役割の変化を背景に、群馬大学では今春、従来組織の大幅な見直しを実施。その際、(1)世界をリードする独創的研究拠点の形成 (2)先端的な科学・技術を担い国際的に活躍できる人材の育成 (3)地域連携、産官学連携、国際交流に基づく社会的貢献
― といった3目標を掲げています。実は以前から、とくに同大工学部では多くの学生がそのまま大学院へと進む流れが顕著になっており、近年はその比率が6割を超過。そのため、そのようなより高度な教育・研究ニーズを前提とした体制へのシフトが求められていました。そこで、従来の大学(学部)を中心に置く組織は07年4月から大学院をベースとする組織に改められました。
併せて、新体制ではそれまでの「建設工学科」も「社会環境デザイン工学専攻」として再編。そこには、単に材料を使って構造物をつくる「建設」に留まらず、構造物のあり方やその仕組み、あるいはそれらを活かした街づくりや防災、さらにそれを取り巻く環境もその研究対象としていこうとの意図が込められています。これについて鵜飼恵三教授は、研究の実態は時代とともに変化してきており、今回の名称変更はいわばそうした流れに対応したものと位置づけます。
また、鵜飼恵三教授自身がもともと担ってきた「副工学部長」の職務は「副工学研究科長」として継承。「副工学部長」は別途、入試などを担当する特命ポストとされました。加えて、学校教育法の一部改正(07年4月1日施行)により「助教授」からより研究に重きを置く「准教授」へ移行。同時に、教授らをサポートし所属組織の運営上必要な業務を行うとする「助手」から分離する形で、研究と同時に教育職も担う「助教」が新設されています。
まず「地盤工学研究室」の鵜飼恵三教授は地すべりを専門とし、現在はとくに地震時の土砂崩れをはじめとする研究に力を入れています。その契機となったのが、04年に発生した新潟県中越地震です。自ら他に類例を知らないというほど、大規模かつ多数の土砂崩れが山間部で発生したのを受け、災害調査を開始。以来、それまで十分には研究されていなかった地震時における斜面崩壊のメカニズムがほぼ解明できてきたことから、それを体系化するとともにその詳細について今後、本格的に発表していく予定といいます。
一方、蔡飛助教は地盤の数値解析をベースに地すべり対策工や液状化、浸透流解析などの研究に取り組んでいます。
前述のように鵜飼恵三教授と蔡飛助教、さらに若井明彦准教授を加えた同研究室では地盤解析へのFEM(有限要素法)利用に関する研究成果をベースとして、「UC-1
地盤解析シリーズ」を構成する「UWLC」「3次元地すべり斜面安定解析LEM 3D」「VGFlow」「GeoFEAS」などのエンジンとなるソルバーを開発。それらにフォーラムエイトがプリ・ポスト部を付加する形で製品化し、提供してきました。蔡飛助教はツールとしての機能性が高まったこともあり、自身の研究にこれらを積極的に活用。とくに「GeoFEAS」は汎用的なソフトであるのに加え、マニュアルに従って容易に操作できるため、学生教育用としてのメリットにも注目しています。
また「流域環境学研究室」では、小葉竹重機教授を中心とする水文学、あるいは清水義彦准教授を中心とする河川工学などの分野から防災や環境に関する問題が取り組まれています。そうしたプロセスにGIS(地理情報システム)や数値シミュレーション手法を駆使し、河川堤防のヘルスモニタリング・システムなどの開発に繋げようというのが、松本健作助教のアプローチです。そのベースになることを狙いに、学生が用途に応じフォートランをはじめC++、Java、BVA、HTMLなど多様なコンピュータ言語に対応できるような環境作りも目指しています。
「『VGFlow』の導入は、非構造格子を用いた数値シミュレーションにより氾濫解析を行おうとしたことがきっかけです」。もともと水の分野は構造格子に基づく手法が主流。しかも、破堤した河川の浸水区域は広範に及ぶため、膨大な数の非構造格子を一つひとつ手作業で任意の形状に切っていくというのは大きな制約になっていた、と松本健作助教は振り返ります。そこで、当初は出来るだけ簡単にメッシュを生成するためのツール(「VisualFEA」機能)として着目されました。
実際に「VGFlow」を使い非構造格子を作成する作業に当たってきた配島俊一氏は、とくに氾濫解析をする際、節点数を自由に編集できるなどのツール機能を評価。その上で、さらなる効率化へのニーズに言及します。一方、解析結果の出力は現在GIS上で2次元的にビジュアル化しています。例えば、それを3次元的に表現できればとの観点から、松本健作助教は「UC-win/Road」との連携にも期待を示します。
さらに、「コンクリート研究室」では、実験や数値解析的アプローチにウェートを置きながらコンクリートの材料・施工・構造などに関する研究を行っています。現在、同研究室で大きな柱と位置づけられている課題の一つが膨張コンクリート(ケミカルプレストレス・コンクリート)の性能評価。これについては、辻幸和教授を中心に30年以上にわたる取り組みの仕上げともなるべき作業が進行中。また、数値解析に絡む課題として放射性廃棄物の地層処分に関連し、半井健一郎講師は辻幸和教授とともにコンクリート構造物の超長期耐久性およびその促進実験について精力的に研究しています。「とくに放射性廃棄物の処分のような数万年単位の話になると、数値解析シミュレーションによる手法は不可欠です」。 |
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▲地盤研究室・鵜飼恵三教授(右)、
蔡飛(サイ・ヒ)助教(左)
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▲群馬大学 桐生キャンパス同窓記念会館
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▲コンクリート研究室・半井健一郎講師
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▲流域環境研究室・松本健作助教(左)
配島俊一氏(右)
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▲氾濫流域図
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▲氾濫解析メッシュ図 (VGFlow) |
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そのような中で、「UC-win/WCOMD」を用いた各種実験の実施や検討も図られてきました。ただ、半井健一郎講師は同ソフトウェアのエンジンとなるプログラムを開発した東京大学・コンクリート研究室に昨年8月まで在籍、その工程に携わっていた経緯があります。そのため、自身は「非常に使いやすい」と評する「UC-win/WCOMD」のプリ・プロセッサー部を専ら利用。ツール単体としては、プログラム自体の性能に精通していることもあり、学生による実験前のチェック、あるいは実験後の現象理解を支援する用途などに活用しています。「プリ・プロセッサーはかなりしっかりしているため、教育用ツールとしての使い勝手は良いかなという気はしています」
■ 地域活性化への取り組みと3D・VRへの新たなニーズ |
これら従来からの取り組みと並行し、鵜飼恵三教授は大学院が標榜する地域連携・産官学連携の具体化を視野に新しい研究対象として「花のフェンス」の普及とそれによる地域活性化に取り組んでいます。これは、県産の杉皮を活用した燃やせる土壌を25p×25p(厚さ4p)のマット状に成型(「花マット」)。これらをそれぞれ籠に入れ、さらに籠ごと専用のラティスに設置することで生花飾り付け用のフェンスにしようというもの。「農水省による高度化事業の一環で東京都が中心となって開発した考え方を基に、私たちがそのいち早い実現を目指してきたのです」。
土壌開発を含めすべて県内地場産業が協力して試行錯誤を重ねてきました。その最初の具体例を今年1月に作成。そこでの課題を反映した上でフェンスを30m繋ぐ「花の壁面アート展示」として同大学院工学研究科主催の「アースデイ
in 桐生」(4月21日開催)で初めて公開。08年3月〜6月に予定されている「第25回全国都市緑化ぐんまフェア」ではさらに規模を拡大し広く全国にアピールしていきたいとの考えを述べます。
「どのような花を、会場となる市街地にどう展示したら、どう見えるか」。それを事前にシミュレーションしたいというのが、鵜飼恵三教授が「UC-win/Road」導入を決めた狙いでした。今回は、準備作業にかなり制約があったにもかかわらず、3次元VR(バーチャルリアリティ)・CG(コンピュータグラフィックス)データ作成のメドおよびその効果についての実感が得られたとしています。
IT(情報技術)が高度化・汎用化してくるにつれ、いろいろなものへの適用が可能になってきている、と鵜飼恵三教授は位置づけるとともにその活用可能性への期待を示します。
「ただ、それだけに、常に現実に起きた現象と対比し、その方法が的確であったかどうかを検証しながら進めるということも留意する必要があると思います」
お忙しい中、取材にご対応ご協力いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。
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▲「花の壁面アート展示」 用に作成された、UC-win/Roadによる花マットのシミュレーション |
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