|
▲アイシン精機 共同館(愛知県 刈谷市) |
世界中のITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)技術の粋が集う「ITS世界会議」。その第20回の区切りと重なった「ITS世界会議東京2013」(2013年10月14日:東京国際フォーラム、15日〜18日:東京ビッグサイト)は、9年ぶり3度目の日本開催となり、かつてない盛り上がりを見せました。
同会議と並行して開催された展示会(東京ビッグサイト)には国内外の関係機関や企業などから約700小間が出展。その中で、近未来の乗り物を思わせる、洗練されたデザインの複数シミュレータを大胆にレイアウトしたアイシングループ3社(アイシン精機株式会社/アイシン・エィ・ダブリュ株式会社/株式会社アドヴィックス)による共同展示ブースが、多くの来場者から熱い注目を集めていたのが印象的でした。
今回ご紹介するユーザーは、世界屈指の自動車部品メーカーとして知られるアイシン精機株式会社。そのうち、自社による周辺監視をはじめ運転支援に関わる先進のITS技術に焦点を当てます。
少し先を行くITS関連の技術やサービスをアピールするとともに、いち早く幅広い層の人々に体験してもらおうと、同社はさまざまなアプローチを模索。そうした流れを背景に、2010年のITS世界会議(「第17回ITS世界会議釜山2010」)では、当社の3次元リアルタイムVR「UC-win/Road」を初めて導入し、ドライビングシミュレータ(DS)を開発しました。
その後も同社は、同DSの継続的な改良および効果的な活用を実施。前述の「第20回ITS世界会議東京2013」に当たっては、新たな機能やサービスの再現と併せ、よりリアリティを増した体験が可能な最新型のシミュレータを構築している、とアイシン精機株式会社第一電子技術部ITS第二グループ・チームリーダーの丹羽栄二氏は述べます。
広がるグローバルネットワークと事業分野 来年、創立50周年へ |
1965年に愛知工業株式会社が新川工業株式会社と合併し、「アイシン精機株式会社」を設立。来年(2015年)で、創立50周年の節目を迎えます。
オートマチックトランスミッション・カーナビゲーションのアイシン・エィ・ダブリュやブレーキシステムのアドヴィックスをはじめ、20カ国にまたがり連結子会社171社(国内65社、海外106社)、持分法適用会社9社(国内4社、海外5社)に上るグローバルネットワークを形成。これらの下に、同社単独では約13,000名、連結ベースでは約88,000名の従業員が活動を展開しています(数字はいずれも2013年9月30日現在)。
アイシングループの事業分野は今日までに、1)トランスミッションからボディ(車体)、ブレーキシステム、エンジン関連部品、カーナビゲーションに至る自動車部品、2)ベッドや住宅設備機器、ミシンなど住生活関連、3)ガスヒートポンプやコージェネシステムなどエネルギー関連、4)電動車いすなど福祉関連、5)光やバイオ分野などの新規事業関連 ― と多岐にわたってカバー。とくに、ほとんどすべての自動車部品を手掛けるグループの強みを活かし、車をもっと「快適で使いやすく」「燃費をよくする」「安全性を高める」取り組みを推進しています。 |
|
|
▲第一電子技術部
ITS
第二グループ
丹羽チームリーダー |
|
「ITS世界会議釜山2010」向けDSでUC-win/Roadを導入 |
今回お話を伺った「ITS第二グループ」は、自動車関連のさまざまな電子技術を取り扱う「第一電子技術部」にあって、自社で取り組む近未来のITS技術をアピールすべく企画業務を担当しています。
ITSは、最先端のICT(情報通信技術)を利用して「人」と「道路」と「車両」の間で情報をやり取り。その仕組みを通じ、安全性や環境、利便性などの面から道路交通の改善に繋げようというものです。
それに対しアイシン精機株式会社では、ドライバの異常を検出した際、警報による事故回避操作の支援、あるいは被害軽減などに繋がる、さまざまな安全運転支援システムの研究開発に力を入れてきました。
そこで同社は、「第17回ITS世界会議釜山2010」の展示会出展に当たり、自社で開発してきた先進のITS技術や提供するサービスを効果的に発信し、潜在ユーザーにそれらをいち早く体験してもらうための方法について検討を重ねました。
その結果、提供したいサービスをより理解してもらうために、UC-win/Roadを導入。自社のITS関連の技術をVR(バーチャルリアリティ)で再現し、それを市販の車両にデザインするシミュレータの開発が着想されました。
具体的には、交通事故対策として、事故を予防しドライバの運転を助ける機能(安全運転支援システム)にフォーカス。予め設定されたさまざまな危険シーンと、それらに対応したITSによる安全運転支援の各種新機能を来場者が効果的に体験できるシミュレータを実現しています。
|
▲シミュレータ体験の様子 |
「ITS世界会議東京2013」ではDSのデザインを一新
「近未来の人と車の触れ合い」を体感できる機能アップも |
|
|
|
▲ITS世界会議2013(AISINブース) |
|
▲ITSシミュレータ(AISINオリジナルデザイン) |
この2010年に開発したシミュレータを基に、アイシン精機株式会社では継続的な改良を加えつつ、その後のITS世界会議(2011年の米国・オーランド、2012年のオーストリア・ウイーン)やその他のイベントなどにも活用してきました。
「前の世代のシミュレータ(2010年)の開発から年月が経っていますので、新しいものに置き換えようと(いう基本的な考えはありました)」。ただ、「ITS世界会議東京2013」の展示用シミュレータについて検討に着手した際、「フォーラムエイトのシミュレータが(自社ITS技術のシミュレーション環境として)一番フィットしている」ほか、「これまで(フォーラムエイトと)一緒に取り組んできた経験が積み上がっており、その資産も活かしたい」との判断もあって、引き続きUC-win/Roadの利用がベースとして位置づけられた、と丹羽栄二氏は振り返ります。
「ITS世界会議東京2013」への出展に向け、アイシン精機、アイシン・エィ・ダブリュ、アドヴィックスの3社でプロジェクトを発足し、検討を重ね、「安心で楽しいサスティナブル・コミュニティ実現に向けて『人にやさしいモビリティ』」をテーマに設定。併せて、「さり気なく、隔てなく、途切れない」「誰でも安心できる」「ワクワクできる」 ― という3つのコンセプトが掲げられました。
これらを受けて展示ブースでは、アイシングループが考える近未来の運転(「近未来の人と車の触れ合い」)を模擬体験できるDSを設置するとともに、会議で発表する技術論文に関するパネルおよび関連製品を展示。またショーケース(試乗を含むデモンストレーション)では、車載カメラやナビゲーション、ブレーキシステムを活用するプログラム「コミュニティ・ゾーンにおける安全支援」を行う、との構成が計画されました。
そのうちDSについては、1)いつでもどこまでもさり気なく支援、2)見せる安心、見落とさない安心、ぶつからない安心、3)走る楽しさ ― の3つのソリューションを提案するとともするとともに、3社の技術を組み合わせてそれらを体験してもらうためのシナリオが検討されました。
具体的には、「事故を減らしたい」「より安全に」といった観点から、@実際の周辺環境に即して必要な情報を重畳表示する「AR案内」Aドライバが必要であろう情報をさり気なく提供する「エージェント」Bドライバの状態を監視しながら必要に応じて行われる「注意喚起」あるいは「自動ブレーキ」Cわずらわしい操作がなく、さりげなく駐車できる「IPA*」 ― など、多様な機能を反映したメニューが組み込まれました。
苦労した点の1つとして、前のモニターを見ながらバック駐車の感覚をいかに実現するかは大きな課題だった、と丹羽栄二氏は説きます。そこで、前のディスプレイだけで後退するシーンを表現し、駐車のサービスが行われている間は画面と連動してステアリングが動くという仕組みにより、実際のサービスに近い体感を可能にしています。
また、近未来の運転機能のシミュレーションという趣旨を考慮し、DSの外観も未来的な形をイメージ。同社のデザイン部によるデザインを基に、FRP(繊維強化プラスチック)製の筐体を作製。機能性に優れたステアリングも採用しています。
今回は、これら新しいソリューションの体験を主な狙いとし、3台のDSを用意。そのうち1台は6軸モーション制御に対応しており、より実際の動きに近い環境の創出に繋げています。
|
|
▲「近未来の人と車の触れ合い」をテーマとしたシミュレータでUC-win/RoadのVRを活用 |
「私たちが(ITSを通じ)提供したいサービスを言葉だけで(一般の人々に)理解してもらうのは難しいことから、(リアルな状況を再現した環境で)実際に(模擬)体験してもらおうというのがシミュレータです」。それだけに「画面はきれいであって欲しいとか、実際の車に近くして欲しいとか、というところにはこだわっています」
これについては、当社とギリギリまで調整しつつ作り込みが重ねられました。その結果、自身らが意図したような各種機能やリアリティの再現に近づけられた、と丹羽栄二氏は今回DSへの評価を述べます。
「ITS世界会議東京2013」での好感触を受け、同DSはその後、東京モーターショーやあいちITSワールド、デトロイトモーターショーにも活用されています。
今後は、ブレーキのフィーリングをはじめより高度なリアリティの向上を視野に、更なる活用の可能性に期待を示します。
「安心・安全のコンテンツサービスというのは、(危険性の問題もあり)実際の車などでは体験できないのです。(その意味からも今回開発した)シミュレータはリアリティに優れ、体験しやすくなっていると思います」
(執筆/取材:池野 隆) |