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▲「計算科学研究機構(左)」の隣接地に平成23年4月「高度計算科学研究支援センター(右)」が開設 |
▲スパコン「京(けい)」 |
学術研究や産業利用向けの膨大な計算処理を超高速で行うスーパーコンピュータ(以下、「スパコン」と略称)。
とくに、独立行政法人理化学研究所が神戸市に設置するスパコン「京(けい)」は、その名称の由来ともなった10ペタフロップス(1秒間に1京回の演算能力)を達成。世界最高水準(世界の高性能なスパコンを定期的にランク付けする「TOP500」で、2011年6月および11月に2期連続して1位)の高性能を誇ります。
今回ご紹介するユーザーは、神戸市です。その中でも、同市において医療産業都市を標榜しつつ、スパコン活用によるシミュレーションの普及促進とそれを通じた産業振興に注力。併せて、これらを背景に立地的優位性を活かした企業や大学、国際会議の誘致を担う、「神戸エンタープライズ プロモーション ビューロー(KEPB:神戸市企業誘致推進本部)」に焦点を当てます。
神戸市では当初、都市計画を担当する部署が数年前に当社の3次元リアルタイムVR「UC-win/Road」を導入。都市計画についてさまざまな関係者に説明するための可視化に当たり、効果を発揮してきました。その際のデータを基に、現在は別の部署(企画調整局)において、将来構想として描かれる神戸のウォーターフロントの姿を可視化しようとの試みが進行中です。
一方、神戸エンタープライズ プロモーション ビューローは当社の提案を契機とし、BIM(Building Information Modeling)を活用しながら限られた時間内で建築プロジェクトの課題に取り組む「Build Live Kobe 2011」(主催:一般社団法人IAI日本)に課題対象として参加。建築分野における先進のシミュレーション活用シーンに触れました。
その後、スーパーコンピューティングの国際会議であるSC(Supercomputing Conference)12(2012年)および13(2013年)への参加に際しては当社などと共同出展。また、香港で開催されたCGに関する国際的なイベント「SIGGRAPH ASIA 2013」では、同市のブースで「SIGGRAPH ASIA 2015」の神戸開催を誘致する活動に当社が協力。それぞれ「京」活用のシミュレーション例として、UC-win/Roadで作成した神戸市の3D・VRを使いプレゼンテーションが行われています。
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▲「SC13」神戸市ブース |
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▲ 「SIGGRAPH ASIA 2013」
神戸市ブース |
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▲海と六甲の山並みが見える神戸らしい眺望景観形成に活用されたVRデータ
は
FORUM8「第9回3D・VRコンテスト(2010年) 審査員特別賞 デザイン賞」
を受賞 |
山と海に親しみ、歴史的かつ異国情緒あふれる街並みと現代的な都市空間が調和し、多くの観光客を引きつける神戸市。そこでは「神戸らしさ」を保ち、活かすため、さまざまな都市戦略が試みられてきました。
そうしたさなかに突如、一帯を襲った阪神・淡路大震災(1995年)で同市は甚大な被害を発生。加えて、わが国の社会や経済を取り巻く情勢は大きく変化。神戸が引き続き魅力ある都市として発展していくためには、自らの都市戦略を転換することが迫られました。
その一つの解として取り組まれたのが、創造都市戦略「デザイン都市・神戸」(2007年策定)です。これは、「住み続けたくなるまち、訪れたくなるまち、そして持続的に発展するまち」を目指そうというもので、「すべての市民が神戸の持つ強みを活かし、デザインによって新たな魅力を“協働と参画”で創造する」と位置づけ。具体的には、「くらしを豊かにする」「個性と魅力を活かす」「経済を活性化させる」「創造力を高める」「心を育み次世代につなぐ」という5つの視点から、まち・くらし・ものづくりの3分野で「神戸らしさ」を見つめ直し、磨きをかける、との理念を掲げます。
市のこうした努力は、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)による創造都市ネットワークの「デザイン都市」認定(2008年)にも繋がっています。
一方、神戸市では2013年11月20日、それまで3期12年に及んだ前市長(矢田立郎氏)を引き継ぎ、久元喜造氏が新市長に就任しました。
新市長はその施政方針の中で、この「デザイン都市・神戸」を含む広範な観点から街づくりに向けたさまざまな考え方を展開。その一環として、「医療産業都市」の推進や「京」の産業利用の促進に言及。これら国家的プロジェクトと連携した最先端の医療やスパコンなどの科学技術を核とする地元経済の活性化を目指す考えを、改めて述べています。
これについて神戸エンタープライズ プロモーション ビューロー スパコン・大学グループの松崎太亮グループマネージャーは、前市長が阪神・淡路大震災からの復興に注力。それに対し新市長の施政方針では、従来の施策の流れを踏まえつつ、そこから新たな成長のステップに進み出そうとの意図が窺われる、との見方を示します。
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▲スパコン・大学グループ
松崎太亮グループマネージャー |
市とFOCUSの業務を兼務、
スパコン活用通じた産業支援 |
「私たちは、神戸市の企業誘致推進室でスパコン関連の(さまざまなニーズを有する企業などの)誘致を担当しているのと並行し、公益財団法人 計算科学振興財団(FOCUS)でスパコンの産業利用を促進する仕事も行っています」
神戸エンタープライズ プロモーション ビューローは、阪神・淡路大震災からの産業復興をどうするか、新しい産業をどう興していくか、といった課題に取り組むべく設置された、と松崎氏(FOCUS 産業利用促進シニア・アソシエイトを兼務)はまず、振り返ります。
同震災から19年。その過程では産業構造の転換が求められたほか、1998年からスタートした神戸医療産業都市構想はその後、ポートアイランド第2期を中心に高度医療技術および関連産業の集積を目指す国家的プロジェクトへと発展してきました。
また、2007年に「京」の神戸ポートアイランド内への立地が決まったのを受け、同推進室では医療産業都市とスパコンによる産業の活性化に着目。とくに、スパコンをベースとする大規模シミュレーション技術やハイ・パフォーマンス・コンピューティング(HPC)のメリットを享受し得る企業や大学を誘致。それらの成果を通じ、神戸のみならずわが国の関連分野の底上げにも繋げたいとの狙いが込められました。
そのような中、2008年に兵庫県・神戸市・神戸商工会議所が出資する財団法人として、「京」の活用により計算科学分野の振興と産業経済の発展に寄与すべく、FOCUS(2013年4月から公益財団法人)を県の庁舎内に設立。高度計算科学研究支援センターが2011年に竣工したのに伴い、FOCUSも同センター内に移転。同年4月からは産業利用向け「FOCUSスパコン」の供用を開始しています。
さらに2010年、理化学研究所が「京」の共用施設として計算科学研究機構(AICS)を設置。2012年9月からは「京」の共用がスタートしました。これに併せ、FOCUSをはじめAICS、「京」の登録施設利用促進機関である一般財団法人 高度情報科学技術研究機構(RIST)、スパコンユーザー・コミュニティの一般社団法人 HPCIコンソーシアム、あるいは神戸大学統合研究拠点や兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科などが連携してスパコンの産業利用を推進する体制が形成されてきました。
FOCUSでは現在、1)「京」の産業利用の促進、2)FOCUSスパコン活用による技術高度化支援、シミュレーションスクール開催などを通じたシミュレーション技術の普及による産業活性化、3)セミナー開催や展示会への出展、スパコン活用事例の紹介などの普及啓発 ― という3事業を柱に展開しています。
その間、もともと地域産業の復興や企業誘致に当たって「スパコンの利用促進を図る」というターゲットが共通していたこともあり、松崎氏らは2013年4月から前述のように、神戸市とFOCUSの二つの名刺を持って業務に当たるようになっているといいます。
「『京』が動き出して1年以上が経過し、ライフサイエンスやモノづくり、宇宙、ナノサイエンスなどいろいろな分野で成果が出てきています。そうした先端的な研究成果を産業に受け継ぎ、新しい技術に繋げていくため(スパコンを活用した)シミュレーションや解析を提案して、企業の皆さんに独創的な製品をつくり、元気になっていただけるよう下支えしていくことがまさに私たちの仕事です」
都市デザインへの意識の高さを反映し、神戸市では都市計画総局が数年前にいち早くUC-win/Roadを導入。都心部および東部の商業地を中心とするエリアを3D・VRで再現。作成したデータは、審議会や地元住民に対する都市計画の説明などに活用されました。
これとは別に、企画調整局では「港都 神戸」グランドデザイン(2011年策定)に基づく再開発に向け、UC-win/Roadを採用。グランドデザインを反映したウォーターフロントの将来を可視化する試みが取り組まれています。
また、神戸エンタープライズ プロモーション ビューローが直接当社と関わるきっかけとなったのは、冒頭で触れた「Build Live Kobe 2011」です。当社からの提案を受け、このBIMツールを駆使して課題の設計を48時間以内にインターネット上で行うコンペを神戸市が後援。同市が所有するポートアイランドの施設用地を課題敷地とし、「デザイン都市・神戸」にふさわしい建物の設計が課題とされました。同ビューロー スパコン・大学グループの神木与治マネージャー(FOCUS産業利用促進アソシエイト)は、これを機に、BIMの有用性を実感。その公共施設における活用可能性が確信されたと語ります。
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▲神木与治マネージャー |
一方、やはり前述した世界最大のスパコンに関するイベント「SC12」(2012年11月、米国ユタ州)および「SC13」(2013年11月、米国コロラド州)には、同市は当社をはじめ地元誘致企業や大学、研究機関と共同で出展。前者では自治体として初の出展、後者でも自治体として唯一の出展ということもあり、いずれにおいても内外の注目を集めたほか、神戸進出企業への有効なインセンティブともなりました。
とくに、当社のUC-win/Roadで作成した神戸市都心部の3D・VRは、スパコンによる高速レンダリングの効果が分かりやすく、来場者の高い関心が窺われました。
さらに、CGやインタラクティブ技術に関するイベント「SIGGRAPH ASIA 2013」(2013年11月、香港)に際し、神戸市は国土交通省観光庁の助成により出展。「SIGGRAPH ASIA 2015」の同市への招致活動と、市が保有するサイエンスコンテンツのPRに努めました。
そこでも当社による、会場候補地を中心としたエリアの3D・VRのプレゼンテーションは、市のアピールの効果的な一助になったといいます。
「私たちは神戸への企業誘致を行っていますが、メインは(スパコンベースの)シミュレーション技術の活用により日本の産業界に強くなってもらえるようにすることです」
その意味で、シミュレーションに興味はあるのに、使ったことがないといった企業が利用に向けて一歩踏み出せるような、使いやすく手ごろなシミュレーションソフトの提供を含め、何らかの仕掛けが求められます。全国の企業を年間150社程度、実際に回っているという神木氏は自身の経験を踏まえ、今後の期待を述べます。
また、松崎氏は一連のBIMやVRの活用に触れてきた中で、「社会シミュレーション」などへの展開を視野に、シミュレーション技術の多様な可能性に注目します。
「シミュレーション技術は産業界での利用はもちろん、国や自治体など危機管理や都市の未来に関わる人々が積極的に採り入れ、施策に反映していくことが必要ではと思うのです」 |
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(執筆/取材:池野 隆) |