守田教授 |
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水害防止については、大河川の治水から始まり、続いて都市河川の治水が行われ、自治体によっては安全度が高まってきました。そういった中で、近年顕著になってきたのが、内水氾濫による水害です。
これは、よく言われるように、気候変動により雨の降り方が大きく変わったことがその一因として挙げられます。1970年代には、時間50mmを超えるような雨はあまり発生していませんでしたが、現在は時間100mmを超える雨が頻発するようになってきています。
また、下水道の雨水整備計画は、60年代、70年代に時間50mm対応で策定され、整備が進められてきましたが、現在頻発する豪雨には時間50mmでは対応できないということが明らかとなって きました。
そういった中で、どのようにして水害を防止していくかということになりますと、時間や費用がかかる大構造物を整備するのではなく、既存の貯留管や調整池をうまく組み合わせて活用するですとか、貯留浸透施設を設置するですとか、大規模構造物を補う形で、いまあるものを効率的に組み合わせることが重要だと考えています。そして、都市河川、下水道システムを総体として、減災にいかに繋げていくかが課題となってくると思います。
強靭化というとハード対策の印象が強く、それは間違いではないのですが、今後はソフト対策が重要になってくると認識しています。 |
古米教授 |
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国土強靭化は、英語で「ナショナル・レジリエンス」です。この「レジリエンス」という言葉には、“強くしっかりとした”という感じがありますが、“粘り強い”ですとか“しなやかに受け流す”という意味も含まれています。
東日本大震災を経験して、今後、既往最大以上の台風や局所的な集中豪雨が発生してくることを想定しないといけません。そうしますと、土砂災害や河川氾濫、内水氾濫など様々なタイプの災害が複合的に予期しない形でやってくると思います。
先ほど、守田先生が提示されたように、これまで想定されていない災害には、既存のストックだけでは耐え切れません。ですから、ストックを最大限活用して、被害をゼロに抑えることは難しい現象が発生した場合でも、それをどのように受け流して被害を最小化するかという考え方が大事です。施設を見直して、補強を検討するなど、今ある施設能力を最大限発揮するように機能を追加していくことが必要です。
そのためには、まず現有ストックの機能を定量的に診断・評価しなければなりません。機能を数値化してモデル化し、シミュレーションをかけて定量的に評価するということが非常に重要になってきます。
そうしたときに、将来起こりそうな現象を予測するということについては、モデルはある程度不確実性があるので、そのモデルをしっかりキャリブレーションした上で、関係者全員が納得できるようなソフトウェア活用方法を確立することが必要です。
それには、河川や下水道のデータを持ち寄り、様々なモニタリングデータ、観測データ、降雨情報、水位情報、流量情報などをモデルの検証用・検定用に“アーカイブ化”することが求められます。電子化されたアーカイブとして、共有できるデータを残すことで、モデルの検定・検証がレベルアップしていきますし、ストックの効率的な運用・管理につながると思います。 |
守田 |
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先ほど、雨の降り方が変わり、豪雨が多くなったと申し上げましたが、現在は非常に狭い範囲で降る局所的集中豪雨が増えています。こういった雨の降り方は、河川よりも下水道に負荷がかかります。これまでは、ハードで下水道からの溢水を防ぐというコンセプトだと思いますが、時間あたり100mmの雨が局所的に降りますと、現在のハード施設で完全に防ぐことが難しくなります。
古米先生がご指摘した通り、今後は“受け流す”ということが必要だと思います。そのためには、平常時からの準備、豪雨時の対応、浸水箇所の復旧までの全過程を一体的に考えて、対応することが必要だと考えます。
そういったことを考えますと、先ほど、定量的な評価の必要性について触れられましたが、これからはまさに内水氾濫を精緻に解析するモデルが必要で、下水道の氾濫解析モデルはこれまで以上に重要性を持ってくると確実に言えると思います。 |
古米 |
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台風や局所的な大雨でも、浸水被害が起きやすい土地は、低平地の可能性が高く、そういったところでは、ポンプ運転をどうすればいいのかが課題となります。そうすると、河川部局と下水道部局との共通認識の中で、ポンプ運転が行われ、下流側の洪水防止とともに上流側の内水氾濫を最低限に抑えながら、全体の最適化を図ることが期待されると思います。また、浸水エリアや浸水継続時間をシミュレーションするとともに、XバンドMPレーダ(XRAIN)の情報と、気象庁の情報である降水短時間予報や降水ナウキャスト情報などを組み合わせて活用できれば、数時間先の雨の降り方を想定した形で浸水の可能性を予測することができます。
こういったことができれば、住民に対して「以前浸水したときの雨の降り方と似ているから、気を付けてください」と情報提供することもできます。
今は、ここまで出来ていませんが、これができれば、水害・都市浸水を軽減・予防する有効な雨水管理技術として、日本だけでなく、海外にも輸出できると思います。 |