はじめに
経済産業省は、今年の2月に、第4次産業革命における各種の状況を鑑み、データの利活用を促進するための環境整備をするほか、知的財産や標準の分野においてビックデータ等の情報技術の進展を新たな付加価値の創作につなげるための措置としまして、不正競争防止法等の一部を改正することを発表しておりました。そして、5月23日に、参議院本会議での審議にて、当該改正法が可決成立しました。
今回の法律改正の大まかな概要は、ビックデータ等のデータ取得・使用等に対する差止めの創設(不正競争防止法の一部改正)、JISの対象へのデータ、サービス等の追加(工業標準化法の一部改正)、中小企業の特許料等の一律半減、新規性喪失例外の例外期間の延長、手続の簡素化(特許法等の一部改正)等から構成されております。
ここでは、不正競争防止法の一部改正及び特許法等の一部改正の主要部分について詳しく紹介するとともに、実務上の注意点等を解説したいと思います。
不正競争防止法の一部改正
不正競争防止法は、事業者間の適正な競争を促進するため、「不正競争行為」に対する救済措置として、民事措置(差止請求権、損害賠償額の推定)及び刑事措置を定める法律であります。改正前においても、「不正競争行為」の主な例として、他人の著名な商品等表示の不正使用(2条1項2号)、他人の商品形態を模倣した商品の提供(同項3号)、営業秘密の不正取得・使用等(同項4〜9号)、技術的制限手段の効果を妨げる装置の譲渡等(同項旧11号)、ドメイン名の不正取得(同項旧13号)が挙げられておりました。今回の改正においては、1.データの不正取得・使用等(電磁的な方法によって管理されているものに限る)を新たに不正競争行為に追加し、2.暗号等のプロテクト技術の効果を妨げる行為に関する不正競争行為の範囲拡大が行われております(図1参照)。
1.データの不正取得・使用等を不正競争行為への追加 ID・パスワード等の電磁的な管理を施した上で事業として提供されるデータの不正取得・使用等を新たに不正競争行為に位置づけられることにより、当該行為を差止請求権等の民事措置を取りえることになります(図2参照)。
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▲図1 不正競争行為の主な行為 |
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対象となるデータとしては、(1)自動走行車両向けに提供する三次元地図データ、(2)POSシステムで収集した商品等の売上データ、(3)化学物質等の素材の技術情報を要約したデータ、(4)船主、オペレーター、造船所、機器メーカ等の関連企業がそれぞれ収集して共有している船舶運航データが考えられます。
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▲図2 改正により差止請求の対象となる行為 |
2.暗号等のプロテクト技術の効果を妨げる行為に対する規律の強化
改正前から暗号等のプロテクト技術の効果を妨げる「プロテクト破り」を可能とする機器の提供等は不正競争行為に位置づけられておりましたが、当該プロテクト破り役務として提供する行為等も不正競争行為に位置づけられることになりました。
例えば、コピーガードがなされているDVDを受け取り、当該コピーガードの無効化を行ってDVDを複製するような業者の行為が対象となります。
また、改正前においては、プロテクト技術及び当該技術が施されている対象物が、映像又は音等のコンテンツ視聴等に係るものに限定されておりましたが、情報(データ)の処理に係るものも対象となる保護範囲の拡大が行われることになります。
3.改正法の考察及び注意点
今回の不正競争防止法の一部改正により、情報化社会における重要な要素であるデータの保護が強化されることになります。ただし、不正行為によって当該データが取得された場合等に保護が及ぶものであり、当該データ自体が無条件に保護されるわけではないことには注意が必要です。
特許法等の一部改正
今回の特許法等の一部改正においては、1.中小企業による知財活用の促進、2.知財紛争処理手続の拡充、3.手続の簡素化等によるユーザの利便性向上が行われております。より詳細な内容は、図3の通りであります。
1.中小企業による知財活用の促進
中小企業の特許料等を一律半減する改正、新規性喪失の例外期間の延長する改正が行われております。新規性喪失の例外期間については、改正前では6ヶ月でありましたが、改正により1年に拡充されることになります。例えば、製品を販売した後、1年以内に出願することにより、当該販売行為によって自らの出願の新規性が否定されることがなくなります。
2.知財紛争処理手続の拡充
I裁判所が書類提出命令を出すに際して非公開(インカメラ)で |
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▲図3 改正により技術的制限手段の効果を妨げる行為に対する規律の強化 |
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書類の必要性を判断できる手続を創設するとともに、技術専門家がインカメラ手続に関与できるようになります(証拠収集手続の強化)。また、判定制度の関係書類に営業秘密が記載されている場合、その閲覧を制限することが可能になります(判定制度における営業秘密の保護)。
3.手続の簡素化等によるユーザの利便性向上
特許料等のクレジットカード払いの容認、意匠の優先権書類のオンライン交換制度の導入、商標出願手続の適正化が行われます。
4.改正法の考察及び注意点
今回の特許法等の一部改正は、中小企業の保護、及び営業秘密の保護が主要部となっており、近年において注目されている地域経済及び中小企業の活性化や、営業秘密の重要性を意識しているものと考えられます。このような改正が種々の手続及び制度において今後も行われている可能性が高いものと予想されます。
新規性喪失の例外期間が延長され、救済装置が拡充されることになりますが、新規性喪失の例外規定は、あくまで例外であって、万能な規定ではありません。例えば、自己の販売行為後に、所定の出願及び手続をすることにより、当該自己の販売行為によって新規性が否定されることはありません。しかしながら、販売された商品が改良され、第三者によって販売された後に特許出願を行っても、当該改良品によって特許性が否定される場合があるので注意が必要となります。従いまして、製品の販売・発表前に特許出願を行うという原則については、法改正後も変わりありません。
出典:ウェブサイト [1] 経済産業省ホームページ「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」に関する案内
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001.html
[2] 不正競争防止法等の一部を改正する法律案の概要(概要説明文書)
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001-1.pdf
[3] 不正競争防止法等の一部を改正する法律案の概要(スライド資料)
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001-2.pdf
[4] 不正競争防止法等の一部を改正する法律案(参考資料)
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001-3.pdf
監修:特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
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