地盤FEM解析エンジニアリングのための入門講座の8回目です。今回は、第7章「非線形解析」から、土の非線形的な材料特性を考慮できる解析手法について解説します。
地盤FEM解析における非線形には材料非線形と幾何学的非線形がある。幾何学的非線形は大変形解析となる。材料非線形は主に土の応力−ひずみ関係の非線形によるものである。土が非線形材料である場合には、構成マトリックスは一定でなく、応力もしくはひずみとともに変化する。したがって、土の非線形的な材料特性を考慮できる解析手法が必要となる。これまで、いくつかの解析手法が提案されてきた。
非線形解析では、一般的に外力による等価節点力ベクトルFをいくつかの増分に分割する。すなわち、
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ここで、nは等価節点力ベクトルの増分の数である。また、式(2)を次のような増分の形に書き直す。
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ここで、K(u) は全体節点変位ベクトルが u であるときの全体剛性マトリックス、Δui は全体節点変位ベクトルの増分(以降、変位増分と略す)、ΔFi は全体等価節点力ベクトルの増分(以降、荷重増分と略す)である。各々の全体等価節点力ベクトルの増分 ΔFi による節点変位ベクトルの増分 Δui を求めれば、トータルの節点変位ベクトルが得られる。
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増分法を用いる非線形解析では、図1に示すように、まず、荷重増分 ΔF1 を作用させ、全体剛性マトリックス K1 を、ΔF1 が作用する前の状態での応力やひずみ等を用いて評価したうえで、方程式(2)より変位増分 Δu1 を計算する。ΔF1 が作用する過程で土の剛性は一定と仮定したので、計算で得られた荷重−変位関係は図1に示す直線 oa’ となる。しかし、実は oa の間でも材料剛性は一定でなく、荷重−変位関係は oa であるため、計算誤差 a’a が出てしまう。増分法では、この誤差を無視して、計算を進める。次に荷重増分 ΔF2 を作用する。全体剛性マトリックスK2を、荷重増分 ΔF1 が作用した状態での応力やひずみ等、すなわち図7に示す点 a’での応力やひずみ等を用いて評価したうえで、変位増分 Δu2 を計算する。計算で得られた荷重−変位関係曲線は a’ b’ であり、変位の誤差は b’b となる。このように各々の荷重増分による変位増分を計算する。計算で得られた荷重−変位関係は、図1に示すように、曲線 oa’b’c’d’ となり、実際の荷重−変位曲線 oabcd と乖離しており、計算過程で誤差が累積していることがわかる。
■図1 増分法
増分法の精度は荷重増分のサイズに依存することが明らかである。荷重増分のサイズが小さければ、荷重増分の数が多くなり、解析時間が長くなるが、解析結果の精度が高くなり、実際の荷重−変位曲線に近づいていく。
増分法ではある荷重増分による変位増分を計算するとき、当該荷重増分が作用する前の応力やひずみ状態を用いて、接線剛性マトリックスを評価するので、当該荷重増分の間に接線剛性マトリックスが大きく変われば、(たとえば、弾性状態から完全塑性状態に変わる場合や、塑性状態から除荷で弾性状態に戻る場合)、計算で得られた変位増分の誤差がかなり大きくなることが明らかである。また、増分法の誤差は材料の非線形や解きたい問題の特性などによって異なるため、解析前に誤差を予測し、荷重増分の数を決めるのは殆ど不可能である。
Newton-Raphson法では、繰返し計算を用いて、増分法で各々の荷重増分の下で生じる変位増分の誤差をなくす。i 番目の荷重増分を例としてNewton-Raphson法の計算手順を説明する。また、i-1番目の荷重増分までは誤差が無視できるほど小さいものとする。i 番目の荷重増分が作用するときの一回目の繰返し計算は増分法と同じである。計算した繰返し変位増分をδu1とすれば、一回目の繰返し計算後の全変位増分Δui1=δu1である。ここで上添え字は繰返し回数を表す。図2に示すように、Δui1と Δuiの間に誤差が存在する。Δui1を用いて各要素の各ガウス点でのひずみ増分Δεi1は増分の形で書き直した式より次のように得られる。
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■図2 Newton-Raphson法
さらに、各要素の各ガウス点での応力増分および応力が次のように得られる。
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ここで、構成マトリックス D は応力やひずみの関数であり、土の応力−ひずみ関係を用いて計算する。式(5)で示す計算は応力積分ともいい、応力−ひずみ関係は非線形であるため、精度を高めるために、いつくかの計算手法(サブステップ法やリターンマッピング法など)が提案されてきた。最も簡単な方法は次のように応力増分Δσi1を計算する。
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次に、応力Δσi1と等価な節点力ベクトル、すなわち内力ベクトルを式(8)より計算する。
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ΔFiが作用しているときの外力ベクトルFiextは次のように求められる。
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力のつりあい式を満たすために、内力ベクトルと外力ベクトルは等しくなければならない。しかし、図2に示すように、一回目の繰返し計算が終わる時点では、内力ベクトルと外力ベクトルの間に差が存在している。この差は残差力ベクトルといい、次の式で与えられる。
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この残差力をなくすために、二回目の繰返し計算を行う。この残差力ベクトルを外力とし、式(2)を解くと、二回目の繰返し変位増分δu2が得られる。
ここで、K(u) は点 b での応力やひずみなどを用いて計算した全体剛性マトリックスである。二回の繰返し計算後の全変位増分は次のように求められる。
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次に一回目の繰り返し計算と同様に、二回目の繰返し計算が終わった時点でのひずみ増分Δεi2、応力増分Δσi2、応力σi2、内力ベクトルFint,2、残差力ベクトルψ2をそれぞれ計算する。
以上のように、繰返し計算が進んでいくと、図2に示すように、残差力が段々小さくなり、n回目の繰返し計算で得られた全変位増分Δuin は正解に非常に近づくことになる。残差力や n 回目の繰返し計算で得られた変位増分δun がそれぞれの許容誤差より小さければ、繰返し計算が収束したといい、繰返し計算を終了する。この時点で計算した変位、ひずみ、応力などを次の荷重増分ΔFi+1の始点とする。
Newton-Raphson法には、次のような2つの弱点がある。@各繰返しステップで全体剛性マトリックスを作り直して、式(11)に示すように全体剛性方程式を解かなければならないため、解析に要する時間が長くなる。A非関連流れ則を有する弾塑性構成則を使用する場合には、はじめは対称であった全体剛性マトリックスが非対称になり、そのためのソルバーが必要になる。
この2つの弱点を克服するために、修正Newton-Raphson法や初期剛性法が提案されてきた。修正Newton-Raphson法では、図3に示すように、任意の1つの荷重増分 において、一回目の繰返し計算で用いた全体剛性マトリックスを、2回目からの繰返し計算でも使用するため、全体剛性マトリックスの逆マトリックスを一回求めればよい。収束までの繰返し計算の回数が多くなるが、全体の計算時間を短縮することができる。しかし、修正Newton-Raphson法は、塑性状態での全体マトリックスを計算しなければならないため、Newton-Raphson法の弱点Aを克服することはできない。
■図3 修正Newton-Raphson法
■図4 初期剛性法
初期剛性法では、図4に示すように、最初の全体マトリックス、すなわち荷重増分が作用するときの一回目の繰返し計算で用いた全体剛性マトリックスをすべての荷重増分におけるすべての繰返し計算で使用する。一般に荷重が作用する前の状態では全体系が弾性状態にあり、弾性マトリックスを用いて全体剛性マトリックス(初期剛性マトリックス)を作成でき、全体剛性マトリックスが対称性をもつため、Newton-Raphson法や修正Newton-Raphson法が持つ弱点Aを克服することができる。
今回は、「土の非線形的な材料特性を考慮できる解析手法」について解説しました。しかしながら、紙面の関係でその全てを紹介することはできませんし、より理解を深めたい場合は、当社で開催している有償セミナーなどもご活用願いたいと思います。次回は「せん断強度低減法」について紹介致します。ご期待下さい。
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■『新版・地盤 FEM解析入門』目次構成 |
第1章 |
地盤工学におけるFEM 解析
地盤FEM解析の必要性・体系、解析種類、数値解析の誤差 |
第2章 |
地盤FEM 解析の基礎理論
力学の基礎、平面ひずみ問題と軸対称問題、有限要素法の基礎 |
第3章 |
地盤FEM 解析のためのモデリング技術
解析目的、手法、条件、トンネル掘削解析における応力解放率 |
第4章 |
地盤材料の構成則
応力不変量、線形弾性構成則、非線形弾性構成則 、弾完全塑性モデル、段塑性構成則 |
第5章 |
材料パラメータの決め方
等方線形弾性構成則、弾完全塑性モデル、破壊接近度法のパラメータの同定方法 |
第6章 |
地盤と構造物の相互作用
構造物のモデル化、インターフェイスのモデル化 |
第7章 |
非線形解析
増分法、Newton-Raphson法、繰返し計算における収束条件 |
第8章 |
せん断強度低減法による安定解析
せん断強度低減有限要素法の紹介と応用例 |
第9章 |
液状化に伴う自重による変形解析
解析手法、パラメータ、解析事例、柔構造樋門の設計との連動機能 |
第10章 |
解析事例
盛土の斜面安定、 擁壁杭基礎の盛土載荷問題、トンネル拡幅工事、推進工法による地盤への影響解析 |
第11章 |
GeoFEAS の操作方法
トンネル掘削に伴う近接杭基礎への影響解析、せん断強度低減法による斜面の安定解析 |
第12章 |
地中熱解析について
地中熱について、地中熱解析とは |
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