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第5回
「CIMに対するACTECの取り組みとCIM最新事情」
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一般財団法人先端建設技術センター(ACTEC)
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はじめに |
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「(ある工事現場で)ベテランの(ブルドーザ)オペレータの方が、自分のノウハウを活かす部分と(情報化施工ツールの活用により)機械にやらせておけば自分がすごく楽になる部分とをうまく組み合わせて使っていて(印象的でした。そこで)、そういうのを技術伝承できるか(どうか)聞いた時、使っていれば自分でどういう状況になるというのが肌感覚で分かるから、情報化施工のツールを使っていても昔のように自分のスキルは上がっていくでしょうとおっしゃられて、なるほどなあと(得心しました)」
調査・設計といった建設事業の初期段階から3次元(3D)モデルを導入するとともに、先進のICT(情報通信技術)を駆使。施工や維持管理など各段階で関連する情報を連携・発展させつつ共有・活用することにより、各段階での効率化、さらには建設事業全体を通じた生産性向上に繋げようという「CIM(Construction Information Modeling/ Management)」。その普及を視野に適用の可能性や課題を探る試行事業の対象は、当初の設計段階から施工段階、さらに維持管理段階へと広がりを見せています。
そのような流れを背景に一般財団法人先端建設技術センター(ACTEC)でCIM関連の活動を担当する先端建設技術研究所研究第一・第二部長の八尋裕氏は、情報化施工の現状に触れる中で、工事現場において遭遇したベテランオペレータとのやり取りを紹介。こうした従来手法の熟練者が3Dツールにも対応して使いこなしている今こそ、技術伝承に欠かせないノウハウ定量化のチャンスと説きます。
本連載はCIMの利活用、関連技術の開発や研究などに先進的に取り組まれている各界のキーパーソンに順次取材。多彩なアングルからCIMの可能性や課題、進むべき展開方向などを紹介します。その第5弾では、CIM技術検討会の活動、各種受託業務、研究活動などを通じてCIM関連技術の検討・開発、普及に取り組む八尋氏と、同じくACTECの技術調査部 兼 技術評価室参事の緒方正剛氏にお話を伺いました。 |
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建設分野の広範な先進技術をカバー、CIMへの多様なアプローチ
先進の建設技術の調査研究や開発、普及を目的に、ACTECが設立されたのは1989年。以来、1.建設技術の研究開発や開発技術の評価などを通じた普及、2.行政と民間の間での開発技術の実用化に向けた調整、3.建設技術の最新情報の収集・提供・教育、4.分野を超えた、あるいは産官学共同による技術の研究・開発 ― を推進。これらの活動の中で国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」の制度設計やNETISに機能や情報、サポートを付加した「NETISプラス」の構築・運用、あるいは総合評価方式の提案内容や無人化施工、CIMなどの検討が取り組まれてきました。
そのうちCIM関連の最近の主要な業務としては、1.CIM技術検討会での様々な活動、2.3Dデータの活用などCIMに関する国交省(国土技術政策総合研究所や地方整備局)からの受託業務、3.トンネル施工方法の一つであるD-TBM施工法の共同研究での、3Dモデルによるシミュレーションの導入や3D模型の制作と、これらを用いた広報活動、4.情報化施工におけるデータ連携に関する検討などが位置づけられます。
八尋氏はその中で、主として2014年春からCIM技術検討会をはじめとする対外的な活動にACTECを代表してあたるとともに、CIMに関連した研究活動を実施。それに対し緒方氏は、その前年からCIM関連業務を中心に、例えば次世代社会インフラ用ロボット開発・導入の一環としてマルチコプター(UAV)を用いた点検などの現場実証、情報化施工のデータ連携に関する自主研究、設計検討の受託業務を担当。併せて、土木学会の国土基盤モデル小委員会およびICT施工研究小委員会の活動を通じ、CIM講習会の企画・運営にも携わっています。
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▲一般財団法人 先端建設技術センター
先端建設技術研究所 研究第一・第二部長 八尋裕氏(右)
技術調査部 兼 技術評価室参事 緒方正剛氏(左) |
CIM関連の活動の推移、活用効果や維持管理面にフォーカス
新しい建設管理システムを構築しようというCIMの具体化に向けて2012年、国交省は直轄事業でのCIMモデル事業(試行業務)をスタート。併せて、CIMの導入促進を目的に、関係する制度や基準等の課題を整理・検討する「CIM制度検討会」を設置しました。また同年7月、CIM実現のため様々な技術的検討を行う「CIM技術検討会」が関係する11機関(2014年10月から12機関)により設立。ACTECは制度検討会にオブザーバとして参加する傍ら、技術検討会のメンバーとして活動しています。
こうした流れと連動して土木学会が2013年9月に実施、産官学が参加した米国CIM技術調査には、CIM技術検討会活動としてACTECからも団員を派遣。日本のCIMに相当するインフラ建設事業向けBIM(Building Information Modeling)活用に関する様々な取り組みや先進事例に触れる中で、同センターでは特にその維持管理段階で必要な情報を調査・設計・施工の各段階から比較的簡易に収集していくシステム「COBie(Construction Operations Building Information Exchange)」に注目することになった、と緒方氏は振り返ります。
併せて、将来的な理想の実践を目指す日本と、「見える化」や施工手順の明確化などにより既に効果を体現しつつある米国とでは、CIMの導入アプローチに違いがある反面、そこで使われるソフトウェアなどツールの技術はさほど変わらない実情を再認識。以来、同センターは受託業務にあたり、見える化と工程シミュレーションにウェートを置く形でCIM活用を推進。例えば、国交省の各地方整備局から受託した設計検討業務やPM(プロジェクトマネジメント)業務などでは、まずモデル空間を構築。その上で、施設形状の検討、関係者間での合意形成、施工法の検討、施工区間の調整、諸課題の解決などに取り組んでいるといいます。
また、欧米でのCIM導入に関する調査業務では、フォーラムエイトの海外ネットワークも活用。このような過程で、英国版COBie構築の試みが進行している状況が浮かび上がったことなどから、日本でもCOBieについて研究・検討していく体制が立ち上がっています。
これらの展開を踏まえ、ACTECは設計段階にフォーカスしたCIM導入による効率化の試みを敷衍。設計・施工段階でのCIMモデル作成仕様案検討支援や土工区間のCIMプロトタイプモデル作成に向けた取り組みを通じ、各フェーズで必要なモデル、維持管理のための最適な属性情報およびそれに合わせたモデルの精度の検討を進めている、と緒方氏は同センターにおける現行の受託業務について説明します。
さらにACTECでは自主研究として、クラウドサービスを用いて様々な関係者がCIM活用に関して情報共有できるコミュニティの運用、自ら施工現場を取材して紹介するCIM活用の実態調査、3D仮想現場の構築とその活用に向けた検討、情報化施工とCIMとの連携の検討 ― などを展開。加えて、九州地方でのCIM勉強会や(実際にデータマネジメントできる技術者を養成するための)CIMチャンピオン講座の運営も支援しています。
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▲第8回 デザインコンファランス CIMセッション
緒方氏特別講演 「CIM分野における取組みと最新動向」より抜粋 |
施工分野におけるCIM実用化の現状
「こういう時代なので、ソフトウェア的なものは(CIMに対応した製品が)どんどんつくられていき、(それに)制度面が追い付かない状況です」
CIMの実用化が進んできていると実感できる分野として、八尋氏は合意形成のための見える化と、情報化施工を挙げます。そのうち前者については、単純に「見える化」にフォーカスした3Dベースの設計が試行型あるいは希望型の案件などで適用されてきており、それらを通じて今後さらに効果的なCIM適用の具体例が出てくるのではと予想。また後者では、一般社団法人日本建設機械施工協会(JCMA)がバックアップする小規模土工現場での取り組み、既に一般化してきた出来形管理、マシンガイダンス(MG)/マシンコントロール(MC)技術利用の事例に触れ、うまく使えば施工の省力化や効率化をもたらし得る、との見方を示します。ただ、これらのメリットを定着させるためには、設計から施工、維持管理の各段階を繋げて3Dデータを回せるところまで持っていく必要があり、CIM導入に向けた制度面での整備がカギになると位置づけます。
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▲3Dプリンタと八尋氏(左)、緒方氏(右) |
CIM普及への課題、今後の展開
CIM技術検討会での議論を通じ、CIMデータの流通、維持管理段階でのデータ利用、CIMに対応できる人材の育成 ― といった課題が浮上。それと関連して、土木学会では人材育成、あるいはデータ要素など技術的課題への対応や議論が展開されている、と緒方氏は述べます。
一方、CIM技術検討会では2016年度までの先導的事業へのCIM導入に向け「とりあえずやれるところからやっていこう」あるいは「どういったところにCIMを導入していけば最もメリットがあるか、見出していこう」とのスタンスに立つ反面、その目指すべき方向が曖昧になっているとの懸念も指摘されます。そこで八尋氏は、暗黙知を形式知化してCIMシステムの中に落とし込んでいくこととともに、PDCAサイクルを回しながら、この壮大な構想の針路をしっかり見据えて取り組んでいくことの重要性に言及。その意味からも、先導的導入事業に必要な技術基準などを定めるCIM導入ガイドライン策定への期待に触れます。
また個々の担当者レベルでは、自身のやる気が不可欠で、新しいツールを積極的に調べ、最適なものを選択していく姿勢が求められます。その際、3Dのモデル化がCIMのゴールではなく、その活用により受発注者がともにメリットを享受できる仕組みをあくまでも目指す。そのためには今後何が必要になってくるかという視点を持ち続けなければならない、と緒方氏は説きます。
それについて八尋氏はさらに自身の経験を交え、実際に3Dツールを使ってやってみないと分からないことはたくさんあり、使う人を少しでも増やしていきたいとの考え方を示します。ただ、非常に細かいところにばかり留まってしまうと、大きな方向性を見失ってしまいかねないため、全体の取り組みを俯瞰する眼を保っていくことも求められるといいます。
つまり、人は概して自身の仕事を中心に物事を考えがちです。しかしそうではなく、これからの建設生産システムや社会資本のマネジメントについて見据え、その中で自分の仕事上の立ち位置や前後の(仕事との)繋がりを考えて取り組んでいくべきとの観点がそのベースにあります。
「(CIMのメリットとして挙げられるフロントローディングの発想で)自分の世界の枠組みに留まらず、広い視野で仕事をするようにしていただけると、CIMのメリットが一層活かされてくるのではと思うのです」
(執筆:池野 隆)
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(Up&Coming '15 春の号掲載) |
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