Vol.12
浸水氾濫津波
解析セミナー |
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太 |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー、有償セミナーを体験レポート |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けする予定です。
【プロフィール】
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。日経BP社の建設サイト「ケンプラッツ」で「イエイリ建設IT戦略」を連載中。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式ブログはhttp://ieiri-lab.jp |
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●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。大雨や洪水などによって、大量の水が市街地に流れ込んだときの水の流れは非常に複雑です。
地表に沿って高いところから低いところへと流れた水は、道路の側溝に入り、さらに下水道へと流れ込みます。下水管内の水位が低いうちは開水路として空気と水の2相に分かれて流れますが、水位が高くなり、管の断面全体をふさぐように流れる「満流」になると、内圧を持ちながら流れるようになります。そして流量があまりにも多くなると、今度はマンホールから地上へとあふれ出し、水たまりを作ったり、地表水と一緒に流れたりします。
このような水の流れを解析するのは簡単ではありません。地表面では地形の高低に従って2次元的に流れ、流れの幅も時々刻々と変わります。一方、側溝や下水管内では管路に沿って1次元的に流れます。
また、下水管内など閉じた管内を流れるときは、上の空間に空気があるときと、ないとき(満流)とでは、管内の内圧によって解析手法が異なります。
このように、水が流れる場所や流れる水の量によって、それぞれ違った流れの公式が適用され、すべての場所で流量の整合性がとれるようにしなければなりません。
フォーラムエイトが開発した雨水流出解析ソフト「xpswmm(エクスピースウィム)」は、こうした複雑な都市内の氾濫解析を行うことができます。さらに「ナビエ・ストークスの式」による一般的な流体解析も行えるため、津波の挙動も解析できます。
●製品概要・特長
xpswmmは、1961年に米国環境保護庁(EPA)とフロリダ大学のウェイン・ヒューバー教授らによって開発された歴史あるソフトです。米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の公式認定ソフトにもなっており、その性能はFEMAのほか英国環境庁によっても検証済みです。
米国の主要都市や群などをはじめとして、全世界で4000以上の地方公共団体や企業で使われている実績があります。
xpswmmでは、地表に降った雨が下水管に到達するまでの過程は、実際の雨水の挙動を忠実に再現します。雨水の一部は地中に「浸透」し、残りは「表面流」として地表に沿って流れます。そして地形にくぼみがあると「窪地貯留」として水たまりになります。こうした地表面での流れはプログラムの中の「水文モード」で解析します。
そして側溝に流れ込んだ雨水は「側溝流」となり、集水舛から下水管に流れ込み「下水管流」として下水管のネットワークを流下していきます。下水道の施設内を流れる水は「水理モード」で解析します。
下水管内を流れる水が満流になるまでは自由水面を持つ開水路としての流れになりますので「Saint-Venant式」を適用します。そして満流になったときは管内に水圧が発生するので普通は「ダルシー・ワイズバッハの式」など別の式を用いるところですが、xpswmmでは面白い方法を使っています。
それは管の天端に流量が無視できるくらい小さな幅の水路(プライスマンスロット)が管の上に続いていると仮定し、模擬的に開水路として1次元不定流で解析しているのです。水路の水深によって内圧を表すという仕組みです。
また、下水管内の流量があまりにも多くなると、マンホールから地上にあふれてしまう場合もあります。地表にあふれた水は、地表をメッシュ分割し、2次元不定流として解析します。そして別のマンホールまで到達すると、再び下水管内に流入する、といった挙動を再現します。
xpswmmの用途としては、河川や下水道の単独・統合解析や汚濁負荷、氾濫解析など広範囲の解析に使えます。
地形や下水管路などの入力には、GIS(地理情報システム)や数値地図から地形データをインポートしたり、マンホールや管路を画面に表示した地図や航空写真上で入力したりすることで簡単に行えます。
逆流や背水、ループといったネットワーク的な複雑な流れを管路(1次元)や地表面(2次元)の不定流解析によって厳密に解析できることも特徴です。
リアルタイムコントロール機能を使うことによって、既存の下水施設などの運用方法を立案したり、ポンプ施設などの最適な運転ルールを提案したりすることもできます。
降雨に対する浸水エリアの広がりや浸水深さ、浸水時間、流速などの解析結果は、3次元的に可視化されるとともに、アニメーションでも出力されます。さらにxpswmmの解析結果をフォーラムエイトのバーチャルリアリティソフト「UC-win/Road」と連携させることで、リアルに分かりやすく表示することも可能です。
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▲地表から下水管路までの雨水の流れ |
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▲管内水理解析と氾濫解析の方法 |
●体験内容
1月18日、フォーラムエイト東京本社で「浸水氾濫津波解析セミナー」が開催されました。いつものように、テレビ会議システムを使って、各地の営業所に設けられたセミナー会場に双方向で中継しながらの進行です。講師を務めるのは、フォーラムエイトUC-1開発第1グループの羽田誠さんと、システム開発グループシミュレータ開発チームの小川隆広さんです。
この日は午前9時30分から午後4時30分まで、途中、1時間の昼休みをはさんでxpswmmの機能をみっちりと学びました。2部に分かれたテキストは合計300ページ近いほどの充実ぶりでした。
最初の1時間でxpswmmにおける水文流出解析や1D/2Dによる氾濫解析、そして浅水長波理論による津波解析の概要について解説しました。その後は午後4時まで、4つのテーマで操作実習が続きます。受講者一人ひとりにはxpswmmがインストールされたパソコンが割り当てられ、講師の指示に従って実際にデータを入力したり、解析を実行したりしながらの実践的な講習です。
まずはxpswmmのインターフェースの基本操作やLandXMLのデータをインポートして水理解析モデルを作成する手順の実習です。xpswmmを起動させて新規ファイルを作って保存したり、単位系を設定したりという基本から入りました。画面の上には「ツールバー」、左側には「レイヤーコントロールパネル」が表示されています。レイヤーコントロールパネルは、ツリー構造で分かりやすく表示されています。これらの画面を通じて、モデルの作成や解析の条件設定や実行、そして結果の表示などを行っていきます。
解析モデル作成の第1歩として、「TIFF形式」の航空写真を背景図として読み込みました。モデルの範囲やスケールと合わせるため、表示範囲や縮尺を設定します。
次は下水への集水舛やマンホール、下水管の入力です。集水舛やマンホールは下水管路の「ノード」として入力します。左側のメニューから「ノード」を選んだ後、航空写真上でその位置をクリックしていくだけです。すると画面上に集水舛やマンホールが作られていきます。
下水管はメニューから「リンク」を選び、上流から下流に向かって先ほど入力したノードをクリックしていきます。するとノードの間に下水管が入力されていきます。下水管には流れの方向を示す矢印が付いているので分かりやすいです。
次に地表を「流域」という範囲で区切ります。これは地表のある範囲に降った雨水がどの集水舛に流れ込むのかを定義する作業です。流域内にはそれに対応する集水舛があります。流域の設定は、流域の外形に沿って航空写真上をクリックし、最後に対応するノード(集水舛)をクリックするだけです。
そして流域の面積や管路長は、xpswmmが自動的に計算してくれます。複雑な形の流域や下水管路網でも、入力はとてもスピーディーです。
既に地表面の形状や下水管路網の3次元データがある場合には、「LandXML」という、土地開発分野用に開発されたオープンなデータ交換フォーマットによって、xpswmmに読み込めます。また、フォーラムエイトの下水道設計システム「iPipe」などで設計した下水道のデータを読み込むこともできます。
最後に出来上がった下水管路網のモデルを使って簡単な解析を行いました。流れの様子がアニメーションで表示され、下水管各部の水位の変化がよく分かりました。
下水管路のモデル化に続いて、地表面での雨水の流れを解析する「水文モード」のデータ作成と解析の実習を行いました。
まず3次元の地形モデルや背景図を読み込んだ後、下水道網の入力や流域と接続します。その後、降雨量の時間的な変化を「xpxファイル」で読み込み、降雨量が地中に浸透することによる「浸透損失」や地表面にたまる「窪地貯留」、蒸発散などの設定を行います。これでリアルな地表面の流れが再現されるわけです。
降雨のうち損失量を差し引いた「有効降雨」を地表面流出解析で計算し、それぞれの流域に降った雨が対応する集水舛に流れ込む時間ごとの流量を「ハイドログラフ」として出力します。降雨量のピークから少し遅れてハイドログラフのピークが来ていることが解析結果からもはっきりと読み取れました。
午後はハイドログラフや生活排水を下水管網の入力データとして使った管内水理解析、水理モデルの下流に開水路と貯留池を設けることによるピークカット効果の定量的評価、そして地表面の建物やマンホールからの背水の影響を考慮した1D/2D統合による地表面氾濫解析など、さらに実践的で複雑な解析を行いました。
その中には、ボックスカルバートを設けたときの地表水の流れや、堤防決壊シミュレーションなどの解析も含まれており、xpswmmは災害時のハザードマップ作成や、減災のための対策を定量的に評価できることも示していました。
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▲ノードとリンクの作成はクリックだけでできる |
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▲管路縦断データの入力 |
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▲管路内の流れの解析結果 |
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▲雨量データ(上)とハイドログラフ(下)。
ピークの間に時間差があることが分かる |
●イエイリコメントと提案
東日本大震災の巨大津波によって被災した地域では、復興計画の作成作業が進んでいます。今後、想定されるすべての津波に対して耐えうる防潮堤を建設することは現実的ではありませんし、さらに“想定外”の巨大津波が起こる可能性も考える必要があるでしょう。また、海からの津波だけでなく、台風や大雨による河川からの洪水災害にも対応しなければいけません。
今後、発生が予想される津波や水害のあらゆるパターンを想定してxpswmmで解析し、シミュレーションすることで、まちづくりの課題や解決策が明らかになります。解析結果をUC-win/Roadなどと連携させることで、地域の住民にも分かりやすく効果を説明できることも、xpswmmを活用するメリットと言えるでしょう。
ある被災地では、復興計画案を3Dモデル化し、避難路や高台に造成する住宅地の計画検討に使っています。道路や法面の勾配や、防潮堤を建設したときに市街地から海が見えるかどうかなどが分かりやすく表示されるため、計画案の作成だけでなく住民を交えた説明会でも効果を発揮し、合意形成にも役立っています。
東日本大震災の被災地の復興計画にも、xpswmmの機能と分かりやすさを生かすことができればと思います。津波だけでなく、今後、予想される様々な水害をシミュレーションしながら、災害に強いまちづくりの計画が実現しそうです。
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▲洪水シミュレーションの可視化 |
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▲津波シミュレーションの可視化 |
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▲盛り土部分でせき止められた
地表水の広がり |
●製品の今後の展望
建築分野では建物の3次元形状と各部の仕様データをまとめて設計する「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の活用が進みつつあります。BIM活用の動きは土木分野にも広がりつつあり、町全体を3Dモデル化し、東日本大震災の被災地復興などにも使われ始めています。いわば、GISを3次元化したようなものです。
こうした「町のBIMモデル」のデータを活用することで、xpswmmの入力データはかなり省力化が図れるようになるでしょう。世界中に多数のユーザーを持つxpswmmの解析に必要なパラメーターをBIMモデルの属性情報として提案していくことにより、さらに便利に使えるソフトになるのではないでしょうか。
●次回は、「新道路橋示書」セミナーをレポート予定です。 |
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(Up&Coming '12 春の号掲載) |
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