前回は、「3D映像」、「3DCG」、「3D空間」というように、3Dという言葉をその機能により整理して解説しました。また、これらの機能を単独で使用する以外に、それらが交わる表現技術が最近注目を集めており、その可能性もひろがっていることを見てきました。
その例として、「3DCG」と「3D空間」が交わる表現技術としてプロジェクションマッピングや3Dプリンタ、ジャイロパノラマがあることを挙げました。(図1)
今回はその中から3Dプリンタについて見ていきましょう。 |
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▲図1 3D技術の全体像 |
3Dプリンタ入門
3Dプリンタだけでは、なにもできない
最近の3Dプリンタに関する注目度はものすごいもので、とうとう3Dプリンタで銃を製造して逮捕される事例が日本でも登場してしまいました。また、低価格な3Dプリンタが続々登場しているという話題も大きな注目を集めています。これらの話題の多くは、まさしく「3Dプリント出力」についての話題で、これに触発されて3Dプリンタを購入した方も多いのではないでしょうか?
しかし、一方では「購入しても一体何をどう出力したら良いのかわからない」、そのために購入をためらっている方も多いと思います。これは過去に3Dテレビが鳴り物入りで登場したときと同様の現象であると言えます。つまり、「見るコンテンツが少ないのに3Dテレビは必要なのか?」という市場の反応です。このように出力機能を持ったハードウエアが先行して登場すると決まってこのような状態となり、コンテンツ不足が叫ばれるのです。本来このような新しい表現技術が登場した時に最も重要なことは、入/出力システム、コンテンツ、それらを届けるデリバリや運営方法も合わせてバランスよく提供されることが必要なのです。そのためには3Dプリンティングの前後を含めたワークフローを理解し、それらを通して利活用することが重要です。
3Dプリンタのワークフローを理解する
図2が3Dプリンタ活用のワークフローです。3Dプリンタで出力する前後にも、それぞれ重要な工程があることがわかります。
▲図2 3Dプリンティイングのワークフロー
もし、あなたが3Dプリンタの購入前であればこのワークフローにあるそれぞれの段階を具体的に検討することをお薦めします。すべての段階で整合性を取りながら準備できるめどがなければ、導入は失敗するでしょう。また、できるところから始めて試したいという方であれば、自分でできる範囲の方法を見つけることができるでしょう。このワークフローは趣味であれ、本格的に業務で利用する場合でも参考になると思います。
1.活用計画:最終的に得たいものはなにか?
まず最初の工程は「作るもので何をするのか」を決めることです。
当たり前といえば当たり前ですが、単に「何を作るのか?」ということより一歩踏み込んで、作ったもので何をするのかが重要となってきます。
具体的には「単品ものを作る」のか「量産ものを作る」のかを検討します。もし「量産品を作る」のであれば、それは3Dプリンタの出力は、型として利用されるものとなるはずです。この場合はワックスで出力して鋳造するのか、硬いもので出力して真空成形するのかなど用途により3Dプリンタで扱える材質や精度を選ぶ必要があります。また、完成品の全てのパーツを3Dプリンタで作らない場合もあるでしょう。そのような場合の完成品は、切削や既存の量産品と組み合わせる必要もあるかもしれません。
2.3Dモデルデータの準備
次に考えなければならないことは、出力するための3Dデータをどうやって手に入れるかです。
そのための方法には図2にある3つの方法があります。
1)3DCG(CAD)ソフトで作成 /3Dモデルライブラリの利用 3Dモデルを作成できるソフトとしては、主に3DCG系のソフトと3DCAD系のソフトがあります。その中でも特にモデリング機能が目的にあった精度や扱いができるかかが重要になります。また、分野によっては3D形状データがライブラリのように提供されており、作る必要がない場合もあります。例えば3Dの地形データや、部品メーカーなどの自社製品の3D形状データ(機械、電子部品、建築、家具など)が手に入る場合もあります。また、3DCG用の3Dモデルライブラリの分野も最近では大変充実してきており、写真で言うストックフォトのようなサービスを多くの3Dモデルベンダーが手がけています。 この分野は無償のモデルも多く代表的なものとして下記があります。
■TurboSquid http://www.turbosquid.com/Search/?KEYWORD=Free
■Archive3D.net http://archive3d.net/
2)3Dスキャナで入力
3Dモデルを作ることが困難な場合には3Dスキャナで入力する必要があります。3Dスキャナは入力できるサイズや分解能によって建築物のような大きなものをスキャンする場合や手のひらに乗るような小さなものをスキャンする場合など、様々な機種があり目的により使い分ける必要があります。(図3)
図3にはありませんが、最近では6万円ほどで手に入る精度最高1mm、カラー入力可能なハンディスキャナも出てきており、家電量販店などでも手軽に買えるようになっています。(3D Systems社Sense 3D scanner)※3Dスキャナは入力サービスを利用することができます。
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長距形3D
レーザースキャナ |
近距離型3D
レーザースキャナ |
ハンディ型
レーザースキャナ |
測定範囲 |
3〜350m
(350mの反射率4%)
〜800m(800mの反射率20%) |
0.6m〜120m
(測定条件による) |
〜30cm |
スキャニング角 |
垂直±20°× 水平±20° |
垂直320°× 水平360° |
- |
スキャニング速度 |
2,000ポイント/秒 |
122,000ポイント/秒 |
18,000ポイント/秒 |
レーザー強度 |
クラス1 |
クラス3R |
クラス2 |
測定精度 |
標準±3mm
(100mの距離) |
±2mm
(25mの距離) |
±0.05mm |
▲図3 測定範囲による3Dレーザースキャナ比較表
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▲図4 フォーラムエイトの3Dレーザースキャナ
入力サービスで利用できる機器 |
3)画像データから3次元再構築
そのほかの入力手段として今後期待されているのが、画像データから3D形状モデルを作成する方法です。この方法はハードとしてはスマホやデジカメがあればそれを使用して周囲からその物体を全周撮影すれば、ソフト処理で3D形状モデルを作成してくれるというものです。
そのほかには、医療用に使われているCTスキャナで得られる断面画像データを積み上げボリュームデータ化する、3次元再構築法は外観以外に内部構造の3D形状データを得ることも可能です。CTスキャナには産業用のものもあり、10ミクロン程度の精度で断面のスライスデータを得たり、強力なものとしては材質が金属でもその断面データを取ることが可能です。
3.3Dプリンタで出力
ここまでの準備ができて初めて3Dプリントのことを考えることができます。まずは、入手した3Dデータ形式を3Dプリンタで扱える形式に変換する必要があります。通常は3Dプリンタで扱える3Dデータ形式に合わせる必要がありますが、3DCGや3DCADソフトから出力するときに、その形式を指定することで比較的簡単に3D形状データを準備することができます。(.STL、.OBJ、VRMLなどの形式が代表的) ただし、ここで重要なことは入手した3Dデータではそのまま出力できないことがある点です。これはデータ形式の問題ではなく、3D形状が自立できるかという極めて物理的な問題です。つまり、中に浮いている部分や内側につぼまっている部分、または薄くて壊れやすい部分がある場合などは、そのために3D形状を編集して、別途「支えや足場」を作る作業が必要となります。そのほか、内部が詰まっている場合には、空同にする作業も必要かもしれません。この作業をすることで3Dプリントアウトの材料費や時間を節約してレンタルコストを抑えることが可能となります。
データの準備ができたら、活用計画に沿って、必要な機能をもつ3Dプリンタを使用して出力します。
3Dプリンタは用途によって、主に扱える材料と精度、出力可能なサイズから選択します。(もちろんコストも)一番手軽なパーソナルタイプとしてはワックスや樹脂を線状にした材料を溶かして積み上げる、熱溶解積層法があり10万円以下〜300万円程度の製品があります。 次にププロフェッショナルな単品や試作品製造タイプとしては光硬化法や接着剤噴射法、熱溶解積層法などで、それなりの精度があるもので300万円〜2000万円程度、一方扱える素材が耐久性があり高精度となると、最終製品が可能となるプロダクションタイプとなり、粉末焼結型などが該当して、3000万円〜1億円以上の機種となります。このように考えるとコストによる制約が一番大きいように思われるかもしれませんが、3Dプリントの出力サービスを活用することで、前述の3Dデータの最適化を含めて必要なときだけ必要な材料で出力することもできます。
フォーラムエイトでも石膏による接着剤噴出法の3Dプリンタの出力サービスを行っており、手軽に利用できるようになっています。
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▲図5 フォーラムエイトの3Dプリント出力サービスで利用できる
石膏による接着剤噴出法(カラー出力が可能)と
熱溶解積層法(単色出力でバスケットボール大が可能)の3Dプリンタ |
4.仕上げ
仕上げの工程は、出力した3Dモデルに対して直接人が作業をする工程です。出力した3Dモデルには支えや足場などがついています。台座や自立を支えるのに必要な足場を除いて、不要な足場を除きます。また、精度が高いとは言え直接手で触るような手触りが、重要なものであれば、紙やすりなどでなめらかにする必要があります。 最後に着色が必要な場合は着色をして仕上げます。
5.型として利用
量産や金属などの違う材質に置き換えたい場合には、前述の仕上げで足場などを除いて完成となり、そこから先は次の製造工程で必要な作業となります。
以上で、3Dプリンターのワークフローがお分かりいただけたと思います。
このように、3Dプリンターを活用するには、手軽に利用できるレベルと、本格的な設備がないと対応できないケースまで様々な選択肢があります。一方、必要なものの3Dスキャナー入力から3Dプリントアウトまでを依頼して行うサービスや、肖像写真同様に記念に自分自身を3Dプリントしてくれるサービスなど様々なサービスも登場しています。どのような利用方法があるか、みなさんも検討されてはいかがでしょうか。フォーラムエイトでも積極的に様々なレベルのプリンタを評価していますので、ご不明な点や実物をご覧になりたい場合はお気軽に担当部署までご連絡ください。
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