− UC-BRIDGE分割施工編Ver.2.1xのトラブルについて(最終報告)− |
2000年5月30日
株式会社フォーラムエイト
サポート窓口 ic@forum8.co.jp |
1.はじめに |
本製品の分割施工に関連する計算部でトラブルがあり、全ユーザ様に多大なご迷惑をおかけしてしまいました。大変申し訳ありません。ここに、製品の修正、検証結果について総括的にまとめ、最終報告書として皆様にご報告いたします。 |
2.トラブルの内容とその影響 |
2週間程前にユーザー様から「期間0日の施工ステップで主桁自重によるクリープ力が出ているがなぜか」との問合わせを受けました。この値はコンクリートのヤング係数変動の影響を考慮したものと思われましたが、期間が0日の間にクリープ力が生じることは実態と合わないため調査を開始しました。その結果、クリープ解析における「クリープ解のヤング係数補正」と称している処理が不十分で、クリープ力が過大に評価されていることが判明しました。具体例を以下に示します。
材令10日の片持ちばりの先端を自重による弾性変形を生じた直後にピンで支えるとクリープによりその支点に反力が生じます。本製品の参考文献として用いた論文(1)では、その値がR=32.1tf(上向き)となっており、このモデルを現行製品Ver.2.13で解析すると(第1ステップは片持ちばり、同日に第2ステップとしてピン支点を挿入)、R=34.73tfと得られます。
ところが、ピン支点を挿入した後、第3ステップ以降にクリープ反力の進行度を見るために複数のダミーステップ(施工日だけ変えたもので、追加部材なし、支点の変更なし)を考慮すると、結果は下表のように増加していきました。 |
<現行版による片持ちばり先端の支点反力の経時変化>
着目材令 |
100 |
200 |
500 |
1000 |
2000 |
5000 |
9999 |
∞ |
支点反力 |
-22.97 |
-37.38 |
-43.88 |
-51.80 |
-56.54 |
-60.51 |
-67.98 |
-75.34 |
|
この原因は、クリープ力(不静定力)が生じた後のステップ(上記では第3ステップ以降)で、その不静定力による弾性変形の考慮が不十分だったことにありました。
今回のトラブルは施工方法を「分割施工」にしたときに、主桁自重、プレストレスによるFRAME解析結果に影響を与えます。 |
3.修正版の検証(1) −論文との比較− |
上記のトラブルを修正した版(Ver.2.14)で再度、片持ちばりの解析を行なった結果が下表です。
この解析ではコンクリートのヤング係数を一定(設計基準強度を使用)としました。2回のステップ数で最終反力を計算するとR=32.255となります。 |
<修正版による片持ちばり先端の支点反力の経時変化>
着目材令 |
100 |
200 |
500 |
1000 |
2000 |
5000 |
9999 |
∞ |
支点反力 |
-21.60 |
-25.08 |
-27.98 |
-29.43 |
-30.34 |
-31.53 |
-32.19 |
-32.263 |
|
別の検証例として、論文(2)に掲載されている計算例を以下に示します。この計算例は3径間連続桁を施工日数14日サイクルで順次張り出し架設するもので、下表では主桁断面力の最終値(弾性解+クリープ解)を表示しています。 |
<3径間連続桁の中間支点上曲げモーメント>
<論文の値> |
|
< 修正版による値> |
|
左側支点 |
右側支点 |
弾性分 |
-494 |
-702 |
クリープ分 |
-318 |
-179 |
合計 |
-812 |
-881 |
|
|
|
左側支点 |
右側支点 |
弾性分 |
-494.0 |
-702.2 |
クリープ分 |
-317.2 |
-182.5 |
合計 |
-811.2 |
-884.7 |
|
|
このように、論文などの開発時の参考文献との照合では修正版は良い精度で計算できていることを示しています。 |
4.修正版の検証
2) −実設計例との比較− |
次に、実設計例(平成2年実施)と比較した例を以下に示します。この計算例は5径間連続桁を施工日数40日サイクルで張り出し架設した例で、下表は最終の主桁自重による曲げモーメントを示しています。( )内の値は実設計例の値を1.0としたときの比率です。 |
|
中間支点1 |
中間支点2 |
中間支点3 |
中間支点4 |
ケース@
実設計例 |
弾性分 |
-1740.6 |
-3360.4 |
-2883.0 |
-2900.6 |
クリープ分 |
-1482.2 |
-872.5 |
-777.3 |
-1801.0 |
合 計 |
-3222.8 |
-4232.9 |
-3660.3 |
-4701.6 |
ケースA
Ver.2.14
Ec:一定
φ:未修正 |
弾性分 |
-1750.8
( 1.0059) |
-3388.7
( 1.0084) |
-2906.5
( 1.0082) |
-2925.4
( 1.0085) |
クリープ分 |
-1241.5
( 0.8376) |
-756.2
( 0.8667) |
-684.0
( 0.8800) |
-1530.0
( 0.8495) |
合 計 |
-2992.3
( 0.9284) |
-4144.9
( 0.9792) |
-3590.5
( 0.9809) |
-4455.4
( 0.9476) |
ケースB
Ver.2.14
Ec:一定
φ:変更 |
弾性分 |
-1750.8
( 1.0059) |
-3388.7
( 1.0084) |
-2906.5
( 1.0082) |
-2925.4
( 1.0085) |
クリープ分 |
-1382.8
( 0.9329) |
-887.9
( 1.0177) |
-777.4
( 1.0001) |
-1696.8
( 0.9421) |
合 計 |
-3133.6
( 0.9723) |
-4276.6
( 1.0103) |
-3683.9
( 1.0064) |
-4673.2
( 0.9940) |
ケースC
Ver.2.14
Ec:一定
φ:入力 |
弾性分 |
-1750.8
( 1.0059) |
-3388.7
( 1.0084) |
-2906.5
( 1.0082) |
-2925.4
( 1.0085) |
クリープ分 |
-13991.9
( 0.9391) |
-862.3
( 0.9883) |
-762.2
( 0.9806) |
-1755.4
( 0.9747) |
合 計 |
-3142.7
( 0.9751) |
-4251.1
( 1.0043) |
-3668.7
( 1.0023) |
-4680.8
( 0.9956) |
ケースD
Ver.2.14
Ec:若材令
φ:未修正 |
弾性分 |
-1788.9
( 1.0277) |
-3473.3
( 1.0336) |
-2974.5
( 1.0317) |
-2996.6
( 1.0331) |
クリープ分 |
-1292.4
( 0.8719) |
-782.9
( 0.8973) |
-697.6
( 0.8975) |
-1623.2
( 0.9013) |
合 計 |
-3081.3
( 0.9561) |
-4256.2
( 1.0055) |
-3672.1
( 1.0032) |
-4619.9
( 0.9826) |
|
ケース@(実設計例)とケースAを比べると、この例では、クリープ分の結果が15%程度異なっています。この違いは使用しているクリープ係数(下表)の違いによる部分もありますが、それだけではないようでした。 |
|
第1step |
第2step |
第3step |
第4step |
第5step |
最終 |
実設計例 |
0.82 |
1.06 |
1.22 |
1.36 |
1.54 |
2.54 |
ケースA |
0.909 |
1.232 |
1.376 |
1.494 |
1.657 |
2.543 |
|
そこで、原因について以下のように考察しました。
ただし、現時点では実設計例で使用しているクリープ解析プログラムの仕様が概要程度しか分からないため、その資料と解析に用いられている入出力データから推測できる範囲内での考察になっています。
クリープ解析で最も影響の大きい項目は、クリープ係数とその使い方です。本製品の場合は、着目している径間において、その変形が生じる時期(コンクリート材令)に対応したクリープ係数を計算し、それを弾性変形に乗じてクリープ変位を計算しています。
たとえば、連続桁を1径間ごとに張り出し架設する場合の第1径間に着目すると、その径間が施工されたときの変位に対しては、下図のA、B、C、Dの各点がクリープ係数になります。次に第2径間が施工されたときの第1径間の変位に対しては、A'、B'、C'の各点がクリープ係数になります。このように、変位が生じるときのコンクリート材令に応じて、同じ部材に対して異なる曲線が使用されます。 |
|
ところが、実設計例で使用しているクリープ解析プログラムの入力データ(クリープ係数)では各径間ごとに1つの曲線しか入力がなく(上図ではA-B-C-Dの曲線)、材令が進んだ後に生じる変位のための曲線(上図ではA'-B'-C'の曲線)は入力されていませんでした。
そこで、A'-B'-C'に代わるものとして、B-C-D(A-B-C-D曲線の一部)が使用されているのでないかと推測し、それを確かめるために本製品を用いて試算しました。それがケースBです。
ケースBの結果を見ると、クリープ係数の使用方法を変えるだけで(値は変更なし)、15%程度の差が6%前後まで改善されました。この値は最終値のものですが、架設途中の第2ステップ終了時における中間支点上曲げモーメントは、ケースAの場合-837.9tfm(実設計例では-1080.0)であたったのに対し、ケースBでは-1090.3tfmに変化しています。この結果を見ると、最終結果に差はあるものの、前述の推測が妥当なように思えます。
次に、クリープ係数自体も実設計例で使用されている値に変更した例がケースCです。このケースでは、第2ステップ終了時の中間支点上曲げモーメントは-1028.7tfmでした。最終結果は多少改善されているものの依然として差が残っています。この差がなぜ解消されないかは、実設計例で使用されているプログラムの詳細仕様が分からないため、検討できませんでした。
これら一連の考察と試算により、実設計例で使用されているクリープ解析プログラムと本製品ではクリープ係数の取り扱いに違いがありそうです。前出の図で曲線A-B"-C"は曲線B-C-Dを平行移動させたものになっており、両プログラムの最も大きな違いは、点B'-B"間の刄モを考慮するか(本製品)否かにあると思います。この部分は着目する径間以外を架設したときに、着目する径間に生じた変位による遅れ弾性分にほぼ相当していると思われます。
本製品ではこの刄モを常に考慮していますが、実設計例のプログラムでの取り扱いのようにクリープ係数を変更する機能を追加し、Ver.2.15として提供いたします。この版を用いれば刄モの影響(構造モデル、施工方法でかなり異なる)をお手元でも確かめられます。
最後のケースDは、ケースAでコンクリートのヤング係数の取り扱いを「一定」ではなく、着目時のコンクリート材令に応じて若材令時のヤング係数を使用した例です。荷重が載るときに、そのときのヤング係数を使用してFRAME解析をしているので初期の弾性変位が大きく、その結果クリープ変位の見積もりも大きくなってクリープ力が大きめに計算されます。弾性解も変動するのは、表示されている中間支点上の部材が1つ前のステップで施工済みのためヤング係数(剛性)が大きくなっており、その結果断面力が中間支点上に集中する傾向にあると思われます。 |
5.現行版Ver.2.13と修正版Ver.2.14の比較 |
上記までの検証で修正版は概ね妥当な結果が得られることが分かりましたので、次に現行版との比較を以下に示します。この表は、前出の実設計例を両バージョンで計算した結果です。 |
|
中間支点1 |
中間支点2 |
中間支点3 |
中間支点4 |
E現行版
Ver.2.13 |
弾性分 |
-1637.8 |
-3339.4 |
-2834.8 |
-2793.0 |
クリープ分 |
-1525.3 |
-1045.8 |
-977.4 |
-2052.7 |
合 計 |
-3163.1 |
-4385.2 |
-3812.2 |
-4845.7 |
A修正版
Ver.2.14
Ec:一定
φ:未修正 |
弾性分 |
-1750.8
( 1.0690) |
-3388.7
( 1.0148) |
-2906.5
( 1.0253) |
-2925.4
( 1.0474) |
クリープ分 |
-1241.5
( 0.8139) |
-756.2
( 0.7231) |
-684.0
( 0.6998) |
-1530.0
( 0.7454) |
合 計 |
-2992.3
( 0.9460) |
-4144.9
( 0.9452) |
-3590.5
( 0.9418) |
-4455.4
( 0.9195) |
D修正版
Ver.2.14
Ec:若材令
φ:未修正 |
弾性分 |
-1788.9
( 1.0923) |
-3473.3
( 1.0401) |
-2974.5
( 1.0493) |
-2996.6
( 1.0729) |
クリープ分 |
-1292.4
( 0.8473) |
-782.9
( 0.7486) |
-697.6
( 0.7137) |
-1623.2
( 0.7908) |
合 計 |
-3081.3
( 0.9741) |
-4256.2
( 0.9706) |
-3672.1
( 0.9632) |
-4619.9
( 0.9534) |
|
表中の( )内の値はVer.2.13の値を1.0とした場合の比率を示しています。また、Ver.2.13の結果は載荷時材令を11日に変えて再計算したもので、前回の報告(これは材令4日の場合)とは結果が異なっています。
合計値の差は、この比較では、中間支点4で最大8%程度が生じています。
次に、過去のユーザ様の質問に添付されていた設計データ(15ケース)について、現行版と修正版の比較を以下に示します。この表は、現行版の主桁自重の最終値(弾性解+クリープ解)を基準にした比を表したもので、中間支点上の曲げモーメントについて比較しています。 |
|
モデル |
Ec:一定 |
Ec:若材令 |
1 |
4径間連続桁 |
1.0133 |
1.0131 |
2 |
4径間ラーメン橋 |
0.9557 |
0.9895 |
3 |
5径間ラーメン橋 |
0.9366 |
0.9755 |
4 |
4径間連続桁 |
1.0137 |
1.0136 |
5 |
4径間連続桁 |
1.0140 |
1.0137 |
6 |
4径間連続桁 |
1.0062 |
1.0062 |
7 |
5径間連続桁 |
1.0154 |
1.0155 |
8 |
5径間ラーメン橋 |
0.9837 |
0.9926 |
9 |
7径間連続桁 |
0.9794 |
1.1004 |
10 |
8径間連続桁 |
0.9263 |
1.0380 |
11 |
4径間連続桁 |
1.0474 |
1.0031 |
12 |
4径間連続桁 |
0.9997 |
0.9999 |
13 |
5径間ラーメン橋 |
0.9838 |
0.9830 |
14 |
2径間ラーメン橋 |
0.9997 |
0.9997 |
15 |
3径間ラーメン橋 |
1.0084 |
1.0082 |
|
構造モデル、施工方法などにより異なりますが、中には10%(ケース9)の差が生じているケースもあります。したがって、既に現行版(Ver.2.13以前の版)で分割施工の検討をされている場合は、Ver.2.15(Ver.2.14にクリープ係数の使用方法を変更できるようにした版:前出)で再計算していただきますようお願いいたします。
なお、前出の実設計例などのように過去の実績の多くがコンクリートのヤング係数を一定として計算しているようです。このため、本製品でもそのような取り扱いが可能なように機能を追加しています(Ver.2.14から)。本製品の使用目的が過去の実例との比較などにある場合、分割施工基本データに含まれているフラグ「若材令時のEcの推定」は「設計基準値(入力値)」をお選びください。 |
6.おわりに |
今回のクリープ解析に伴うトラブルではユーザ様に多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした。昨年12月に分割施工版をリリースする際に参考文献の例題とは結果を照合していたものの、より発展させた検証が不十分であり、過去の実設計例との比較が行なわれていませんでした。
また、分割施工版になってから使用方法が難しくなったために多くのユーザ様から設計例を提供してほしい旨のご要望を受けていながら、それに対応しないまま今日に至ってしました。
初期リリースの時点で本報告のような実設計例と比較した使用例を提供していれば今回のようなことは避けられたと思います。
今後は、単にテストを繰り返すのみではなく、過去の実績ある製品との比較や製品の検証を行い、ユーザ様にすべての情報をオープンにしていくことで、製品の信頼性を高めたいと考えます。 |
以上、報告いたします。 |
<参考文献> |
今回の報告書作成で参考にした資料を以下に示します。ただし、実設計例を除きます。
(1)佐藤、渡辺ほか:変位法によるコンクリート構造物のクリープ・乾燥収縮解析の基礎理論、
プレストレストコンクリート、Vol.22、No.2、Apr.
1980
(2)山家、渡辺:分割施工されるPC連続桁橋の遅れ弾性を考慮したクリープ解析、
プレストレストコンクリート、Vol.21、No.5、Oct.
1979 |
<検証データ> |
今回の報告書作成で使用したデータ(下表)はVer.2.15に付属しています。Ver.2.15以降の版でご利用ください。
ファイル名 |
説 明 |
Kensyou_02 |
参考文献(1)の計算例 |
Kensyou_03 |
参考文献(2)の計算例 |
Mykensyou_08 |
実設計例との比較のうち、ケースA(B、Dはこれを修正) |
Mykensyou_08z |
実設計例との比較のうち、ケースC |
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