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ユーザー紹介/第126回
ARTC
車両研究測試中心(台湾)

自動運転の乗り心地もリアルに再現。台湾の自動車技術を担うシミュレーター

ARTC(車両研究測試中心)
URL http://www.artc.org.tw/
所在地 No.6 Lugong S. 7th Rd., Lukang Township,
Changhua County 50544, Taiwan (R.O.C.)
事業内容 :台湾政府よって1990年に設立された自動車関連技術の研究、試験施設。台中市近郊の鹿港鎮(ろっこうちん)に位置する。

ARTC メカトロニクス・システム統合技術
部門のベクター・イェイ(葉智榮)部長

台湾・台中市近郊にあるARTC(Automotive Research & Testing Center)。車両研究測試中心)は、台湾政府により設立された自動車技術の研究や試験を行う専門機関です。ここでは台湾の交通状況をリアルに再現するため、フォーラムエイトのUC-win/Roadと6自由度のモーションプレート付きドライビングシミュレーターを導入し、電子制御が進む自動車のセンサーや車両挙動、自動運転などの研究を行っています。

ARTCの役割は、主に台湾の自動車産業に対して技術支援や品質向上をサポートすることです。今回、取材したメカトロニクス・システム統合部門の主な業務は、台湾の自動車産業の品質向上と品質改善を支援することです。電子制御やセンサー、通信技術などの研究開発を担当しているほか、開発段階でのメカトロニクス的な実証実験も行っています。

台湾には数社の自動車メーカーがありますが、現在の技術開発のテーマは世界でも研究が進んでいる、ADAS(先進運転支援システム)と自律走行技術が中心です。ADASとは、ドライバーが安全・快適に運転できるようにするため、自動車自体が周囲の情報を把握し、表示や警告を行うほか自動制御で運転を支援したりするシステムです。

ドライビングシミュレーターを使った研究としては、車外の障害物を検知するセンサーの開発や、複数のセンサー情報を統合する技術があります。このほか、電子式ステアリングブレーキ制御技術やADAS制御技術、高精度位置決め技術、自動運転時の意思決定や走行軌跡計画技術の開発なども対象です。約80人の研究員が、ドライビングシミュレーターを活用できる環境にあります。

また、将来はドライビングシミュレーターを使っての運転教育訓練や、ADASや自動運転の制御装置の実証実験を行うことも計画しています。

上下左右前後の変位と回転を再現する6自由度のモーションプレート付きドライビングシミュレーター

「ARTCには以前から、ハンドルやアクセルを統合した簡易的なバーチャルリアリティー(VR)環境を構築していましたが、路面の摩擦や凹凸、加減速時の車両挙動を忠実に再現することはできませんでした。フォーラムエイトの6自由度モーションプレート付きドライビングシミュレーターの導入を検討することになりました」と、ARTC メカトロニクス・システム統合技術部門のベクター・イェイ(葉智榮)部長は説明します。

ドライビングシミュレーターを導入する前は、カメラで撮影したような静かな映像だったので、道路の変化や振動、加減速時の実車の揺れなどを再現できませんでした。しかし、そのようなテスト結果を実際の車に載せた後は、予期しない問題が発生しやすくなります。

また前方の障害物との衝突を防ぐための自動緊急制動装置(AEB)や、前のクルマとの車間距離を一定に保ちながら走るための定速走行・車間距離制御装置(ACC)などの試験をする際に、従来のシミュレーターでは運転手や乗客の主観的な乗り心地を評価することができなかったという問題もありました。

ARTCがフォーラムエイトのドライビングシミュレーターを導入したきっかけは、東京に本社を置くサイバネットシステムの海外子会社であるサイバネットシステム・タイワン社(CYBERNET SYSTEMS TAIWAN)とARTCとの長年の協力関係にありました。

「当社はARTCに対して、世界中の自動車会社が使っているリアルタイムシミュレーションシステムを導入するなど多数のコラボレーションを行ってきた実績があります」と、サイバネットシステム・タイワン社のマリー・シェイ(謝孟娟)マネジャーは説明します。

そこで2016年にARTCが新しい車両シミュレーターの導入を検討していることを知り、フォーラムエイトのUC-win/Roadやドライビングシミュレーターなどのソリューションを積極的に紹介したことが、導入のきっかけとなりました。その後、ハードウエアのインテグレーションや、通信インターフェースの開発などにも参加し、今回のドライビングシミュレーター導入もサポートしました。

取材で訪れたスタッフのスマートフォン。
機密保持のためARTC入場時に、カメラのレンズ部分に
シールが張られている

「数あるドライビングシミュレーターの中から、フォーラムエイトの製品を選んだ理由は、設定が簡単で柔軟にカスタマイズでき、リアリティーも優れていることです。また、Mechanical Simulation Corp.(日本ではバーチャルメカニクス社が代理する)の車両運動シミュレーションソフト『CarSim』や、実車に近い運転感覚が得られるセンソードライブ社のフォースフィードバック機能付きハンドル装置など、他社のハードやソフトとスムーズに連携できる点もありました」とイェイ部長は語ります。

またサイバネットシステム・タイワン社は、以前から台湾の自動車業界に働きかけてノウハウを蓄積してきました。それがARTCの研究や試験を助け、将来もよい研究成果につながると言う期待もありました。

台湾の交通事情を再現したドライビングシミュレーターで試験走行を行う
研究スタッフ
6自由度のモーションプレートは、車の動的特性を忠実に再現する
ドアミラーに映る映像も小型モニターで再現 バックミラーには後方のクルマが映る

ドライビングシミュレーターの使用目的は、現段階では、主に自動車の動的特性を再現し、車両の動きとリアルタイムセンサー、制御ユニットとの関係を検証します。将来的には自動運転の体験や制御アルゴリズムの試験、検証にも使えるでしょう。

「6自由度のモーションプレートを持つという特長により、基本的な運転教育訓練に使えるだけでなく、自動運転車両をシミュレーションできるということが最大のメリットと言えるでしょう。ユーザーは、自動運転制御によって車両の乗り心地を直接体験することもできます。またクルマの動的特性がセンサーに与える影響の程度も考慮することができます。

UC-win/RoadはWindowsパソコン上で走っており、インターネットプロトコルの一種であるUDP(User Datagram Protocol)ネットワーク通信を介してドライビングシミュレーターのコントローラーと通信し、CarSim計算によって出てきた車両の動きを6自由度のシミュレーションプラットフォームで再現します。

台湾特有の交通事情に対するカスタマイズは、UC-win/Roadで作成できます。例えば、台湾の信号機や看板など、台湾の交通シーンを簡単にマッピングすることができます。

交通標識はUC-win/Roadでも描画することができます。例えば、台北の南港ソフトウェアパークに基づいたシーンを作りました。 自動車の車体の動きは、CarSimソフトウェアを使用して計算します。このソフトは、さまざまな道路条件下で車両の応答を正確に表し、ドライビングシミュレーターを通して、臨場感のある環境の中で運転感覚を表現できます。」と、サイバネットシステム・タイワン社の技術エンジニアの辜冠榮は説明します。

「フォーラムエイトのドライビングシミュレーターを使ってみた感想は、UC-win/Roadのスクリーンレンダリングや、CarSimの車両によるモーションプラットフォームの動的な結果を通じて、実物同様の運転感覚を再現できたということです。UC-win/Roadは、非常にリアルな状況を作り出し、自動運転車が遭遇する運転状況と、台湾の実際の交通状況を再現するために今後も使いたいです」(イェイ部長)。

今後の研究の方向性は、自動運転アルゴリズムによる車両制御による運転で、乗客の乗り心地や車両の反応を感覚的に評価することを計画しています。その結果、自動運転アルゴリズムの調整やパラメータのチューニングも行えるでしょう。またHiLをテストする際、自動運転制御ユニットをドライビングシミュレーターと接続することで、制御ユニットの反応がテストできます。危険なシーンもシミュレーションによってテストできるので、実車によるテストに比べてリスクも下げられると考えています。

6自由度のドライビングシミュレーター導入にかかわった関係者。
執筆:家入龍太
(Up&Coming '19 盛夏号掲載)



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