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Users Report ユーザー紹介/第116回

パイオニア株式会社 川越事業所
自動運転事業開発部 事業企画部
商品統括部 技術開発部 先行開発部

加速する高度運転支援/自動運転技術の進展に対応、新たなコックピットHMIを探求、独自提案のインビークルコンテクストアウェアネスをUC-win/Roadベースのシミュレータで体感

 User Information
パイオニア株式会社 川越事業所
URL ●http://pioneer.jp/
所在地 ●埼玉県川越市
研究開発内容 ●自動運転のキーテクノロジーやコックピットHMIの企画/先行的な自社技術のPoC 


「研究開発した自社技術を活用し、パートナー会社やクルマメーカー様が考えていることを先読みした形でお見せする、PoC(概念実証)を行うことが我々の大きなミッションです」

技術開発を行う部門において、実際の製品設計を行う部署や、研究開発の部門とは別に設けられ、「次どうするか」という観点から先行的な開発にフォーカスする自部門の役割を、パイオニア株式会社 川越事業所 商品統括部 技術開発部 先行開発部の榎本清部長はこう説明します。

▲パイオニア株式会社 川越事業所

一方、自動運転に必要なキーテクノロジーを実現するための各種要素の企画・開発を担うのが同事業所自動運転事業開発部。同部事業企画部 企画課 主事の下平真武氏はそこで、主に自動運転に向けたコックピットにおけるHMI(ヒューマンマシンインターフェース)の方向性に関する企画業務を担当しています。今回のプロジェクトでは、同部を中心とした企画チームで新たに企画されたHMI「インビークルコンテクストアウェアネス(以下、IVCA)」に対し、それを具体的なモノとして開発・実装し、有効性を検証しています。その検証するプロセスにおいて、前述の先行開発部 1課に所属する大石智也氏を中心にシミュレータの構築作業が進められています。

今回ご紹介するユーザーは、創業以来様々な「世界初」の技術を世に問いつつ、近年はカーエレクトロニクス分野を柱に新技術や製品の開発、新規事業の創出に力を入れるパイオニア株式会社。その中で、川越事業所を拠点とし、高度運転支援や自動運転に関わる新たなHMIの実現に向け、そのコンセプトをシミュレーションするシステムの開発に連携して取り組む「自動運転事業開発部 事業企画部」および「商品統括部 技術開発部 先行開発部」に焦点を当てます。

同社では、前述のシミュレータを構築するため、2015年春にフォーラムエイトの3次元(3D)リアルタイムVR「UC-win/Road」ベースのドライブ・シミュレータ(DS)を導入。それを利用して完成したコックピット・デモ機は、同年秋の東京モーターショーをはじめ国内外のイベントで運用されています。

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▲左:商品統括部 技術開発部 先行開発部 1課 主事 大石智也 氏
  中央:商品統括部 技術開発部 先行開発部 部長 榎本清 氏
  右:自動運転事業開発部 事業企画部 企画課 主事 下平真武 氏

 カーエレ事業が柱、世界初の多彩な製品化で高い評価

パイオニア株式会社は1938年、ダイナミックスピーカーの開発を機に創業。その後、1947年に福音電機株式会社として設立、1961年から現社名に変更しています。

以来、「より多くの人と、感動を」との企業理念を体現する形で、車載用や家庭用、業務用の幅広いエレクトロニクス分野で数々の世界初となる製品技術を提供するなどし、国内外で事業を拡大してきました。

現在、東京都文京区の本社および川越事業所のほか、国内23・海外48に及ぶグループ企業を抱え、連結ベースで約17,000名の従業員が各拠点で業務を行っています(数字は2016年3月末現在)。

同社はコンポーネントカーステレオ(1975年)を皮切りに、GPSカーナビゲーションシステム(1990年)、有機ELディスプレイ搭載カーオーディオ(1997年)、ヘッドアップディスプレイ搭載「サイバーナビ」(2012年)などを、いずれも世界で初めて発売。特にカーエレクトロニクス分野においては、常に市場をリードする技術を提案し、高い評価を得ています。

同社の売上(連結ベース)の約8割を占めるカーエレクトロニクス事業は
大きく、1)市販事業、2)OEM事業、3)地図事業・自動運転関連の3領域に分けられます。市販向けに提供しているカーナビゲーションシステムでは、クルマ同士を通信で繋ぎ情報共有する「スマートループ」や、画像解析技術やプローブデータを活用した安心・安全運転支援機能など先進機能に対応した「サイバーナビ」と、使いやすさと高性能を両立させた「楽ナビ」をラインナップ。また、スマートフォン連携商品としては、Apple CarPlayや、Google Android Auto対応モデルなどが製品化されています。そのほか、地図情報サービスやFA機器、光ディスクなどの事業や、新規事業の育成にも力を入れています。

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  高度運転支援/自動運転向け コックピットHMIの開発へ

高度運転支援や自動運転に向けた技術開発が急速に進展する中、2020年頃には高速道路や自動車専用道路で、さらに2025年頃には一般道路も含めて自動運転の試用が始まるものと見込まれます。それに対し同社では後者をターゲットに走行空間センサー「3D-LiDAR」の活用や高精度地図の作成、新たなHMIの開発に取り組んでいます。

そのベースとなるのが、自社の光やナビゲーションシステムに関する技術の蓄積です。具体的には、走行しながら前方風景に表示物を重ねて表示するAR-HUD、後に詳述するインテリジェントコックピットHMI、ドライバーセンシング、3D-LiDAR、高精度地図、および自動運転LiDAR技術を活用した地図更新システム「高度化地図データエコシステム」などを基に、統合コックピットシステムや自動運転センシングシステムの開発を目指している、と下平氏は説明しています。

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その一環として同社は、先読み技術を用いてドライバーにとって最適な場所に最適な情報を最適なタイミングで提示する「IVCA」というコンセプトを構築。そこでAR-HUDやHUDアイボックス自動調整、「3D-AUI(聴覚ユーザーインターフェース)」、タッチパッド型ユーザーインターフェース「アクティブFeely」、ドライバーディスプレイ、生体センサー、車室内カメラ、走行レーン認識、行動予測エンジンといった技術を集積して一つのコックピットに搭載し、実際に運転しながらそれらを体験できるようなシミュレータの開発に着手しました。

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  IVCAの構築とUC-win/Roadベースのコックピット・デモ機開発

「IVCAは、私たちが取り組んでいる大きなテーマです」(榎本氏)

自動運転に向けた技術的な潮流が明らかになりはじめた2013年頃、技術的なシーズや市場のニーズを視野に下平氏らの企画部門で高い次元のソリューションを模索。高度運転支援技術も含め、いかにそれらを安全に使えるようにするかを考える中で、IVCAのコンセプトが発想されました。これを受け2014年春、IVCAを実体化しようという先行開発プロジェクトが榎本氏を中心にスタート。翌年には先行開発部に同氏が部長として着任し、前述のプロジェクトが同部のミッションとなりました。

必要な情報を運転に邪魔にならないよう提供するにあたり、当初は走行するクルマから撮影したビデオ映像を前方に映し、それを見ながら操作するコックピットを製作(2014年末)。しかしそれでは再現性は高いものの、操作が画面に反映されず、インタラクティブ性が得られませんでした。そこで、以前から関心のあったUC-win/Road・DSに注目。2015年春にそれを利用したシミュレータ(コックピット・デモ機)の開発に着手しました。

その際、ドライバーや同乗者が必要になると予測される情報を最適なタイミングで提供するためには、背景を含む運転シーンを再現する必要がありました。加えて、利便性が高く、運転の邪魔にならない状態で情報提供できることを確認するために、提示や操作の方法をいろいろ工夫・模索するための高い再現性も求められました。

IVCAをテーマとし、体験しながら価値を検証できる先進のコックピット・デモ機(Pioneer Advanced UX Cockpit)は2015年10月に完成。国内外の実態に合わせ、左ハンドル(地図データはラスベガス版)と右ハンドル(地図データは日本版)の2台が製作されました。その後、「東京モーターショー」(同年10月末から11月初め)で初披露。以降、「CES 2016」(2016年1月、米ラスベガス)、「CES ASIA 2016」(2016年5月、中国上海)と相次いで展示・運用されています。

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▲インビークルコンテクストアウェアネス(IVCA)展示システム

  シミュレータの評価と期待、今後の展開

PoCという形でシミュレータを使い、いろいろな技術を集めた未来の運転シーンを体感してもらう初の試みは、個々の自社技術の顧客向けアピールや社内における先行的な検討の場面で高い有効性を発揮。とりわけ、一年間にわたり国内外のイベントなどで運用する中で、シミュレータがトラブルなく活躍してくれたのは有り難かった、と榎本氏は述べています。

そうした高評価もあって、2015年に並行して進められていた高度運転支援に関する異なるプロジェクト向けにも別途、当社DSが導入されています。

一方で、自動運転の走行シーンをシミュレーションする場合、ヒトにかかるG(重力加速度)の再現がなければただ座って見ているのに等しい。とはいえ、それに対応しようとするとシステムが大掛かりになり、コストも高くなることから、それをより簡易な形でどうクリアするかが今後の課題と言います。

また実際にシミュレータ開発に関わる観点から、大石氏は当社DSの再現性の高さを評価しつつ、クリープ現象などデモの目的によっては過度にリアリティのある機能をオフに出来るカスタマイズ性能や、シナリオ作成で参考になるサンプル集の提供に期待しています。

さらに同社では、生体センシングの精度向上を図る狙いから検証プロセスでの同シミュレータの活用も検討。そこでは環境の変化に敏感な生体反応を出来るだけ正確に捉えるため、各種の振動も含め五感に訴えるリアルな再現が求められます。下平氏は、没入感のあるシミュレーション環境をいかに整えてもらえるか今後に期待したい、としています。

執筆:池野 隆
(Up&Coming '17 新年号掲載)



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