そうした背景もあり、鬘谷教授は東京大学生産技術研究所在籍中に同大で博士号を取得。2001年度から和洋女子大学へ移籍するに当たっては、化学分野とともにコンピュータ関連の授業科目をカバー。同氏は現在、学士課程教育では1)化学、色彩の科学、パソコンの基礎と応用、など全学共通の教養科目、2)繊維学、機器測定法、繊維学実験およびコンピュータグラフィックスなど服飾造形学科向け専門教育科目を、それぞれ担当しています。
またこの間、鬘谷教授は繊維材料を取り扱う実験や機器測定の授業に、ICT(情報通信技術)の知見を応用。学生グループのテーブル毎に置かれたパソコンと教卓のパソコンをすべてWi-Fiで繋ぎ、教卓のパソコンから実験操作を説明するパワーポイントファイルや課題のエクセルファイルを送ったり、
全ての学生のパソコン画面をリアルタイムで共有し前方のスクリーンに投影する双方向の教育システムを構築。また、光学顕微鏡や電子顕微鏡、赤外線・紫外線・可視光の分光装置、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)などを操作しながらその分析結果を比較したり、顕微鏡で見て欲しいところを示したりすることで、教員側の意図の明確化や学生側の理解向上を実現しています。
CG科目でのShade3D利用、服作りのための立体感覚強化へ
「服を作るに当たって、面白いのは和服が平面構成なのに対し、洋服が立体構成ということです」
つまり、和服は平たく畳むことが出来る半面、着る時にはその平面(2D)の布を体に合わせて立体(3D)にし、帯で絶妙な位置に固定しています。それに対し、洋服は3Dの出来上がりのもの(立体構造物)であるため、平たく畳もうとすると無理があるものの、着るのは容易 ― 鬘谷教授は両者の違いを端的にこう位置づけ、その上で洋裁の立体裁断を例に、平面の紙から立体の型紙を作るプロセスに触れ、そこには着心地など立体構成学に関わる多くのノウハウが盛り込まれている、と説きます。
そうした背景を反映し、服飾造形学科の専門教育科目として「コンピュータグラフィックス」の開講を検討した際、「学生にとっては3Dの感覚が重要で、CGの勉強を始めるということであれば、2Dと3Dの違いを正確に把握するためにも、しっかり3Dを扱いたい」と鬘谷教授は模索。2Dと3Dの世界の理解に向け、「コンピュータ上で正しく3Dのものを扱うためには、PhotoshopやIllustratorのみでは十分でなく、上面図/正面図/右面図を頭の中で合成しながら構築物を作っていくShadeを用いることで初めて可能になるはず」と着想。平面で立体を捉えることにより服作りに向けた立体感覚を養うべく、上述の3種類のツールを利用する服飾のためのCG導入教育をスタートしています。 授業ではまず、初めてのShade3D体験として学生が雪だるまのCGを作成。次いで、3Dを適切に扱うためのトレーニングとして、「ガラスのボール状の容器にビリヤードの玉と水晶玉のような3個の球がそれぞれめり込まないよう、互いの表面が接する程度の位置関係に描きなさい」といった課題にチャレンジ。最終的には動物のCG作成、さらに3Dプリントへの応用などへと展開しています。
「そのように3D(CG作成)の仕掛けを与えると、学生は見よう見まねでやりながらShade3Dの使い方を覚えていきます」
加えて、パソコンやShade3D自体が年々高性能化。例えば、Shade3Dのプレビューレンダリング機能により設定した絵の動きをリアルタイムに確認できるなど、使いやすさが着実に向上している、と鬘谷教授は言及。服作りを専門とする学生たちは面白がってShade3Dを使い、感覚的な捉え方で操作方法を吸収している、との見方を示します。
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服飾造形学科ではShade3Dによる3DCGの授業を実施している |
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また、文部科学省では2009年度から教員免許更新制を導入。教員が免許状の有効性を維持するため、10年毎に必要な最新の知識技能を身に付けるべく2年間で30時間以上の免許状更新講習を受講することが義務付けられています。これに対し、同大では複数の更新講習を実施。その一環として鬘谷教授は情報教育関連分野を担当。その中で教員が3DCG制作について学ぶためのツールとしてShade3Dを利用し、興味を持たれているとの感触を述べます。
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服飾デジタルデザインを学ぶ上で必須となる立体構造の考え方に、Shade3Dを通して触れている |
研究における今後のShade3D活用の可能性
「Shade3Dで直接、自分の研究に関する専門的な資料を作ることはないのですが、プレゼンテーション用にShade3Dで3DCGのオブジェクトを作って、それで解説資料の材料にしたりしています」
鬘谷教授は研究室において、大学院生の研究指導では服飾素材としての繊維に、自身の研究としては機能性食品などに、様々な分野に取り組んでいます。その際、分子模型の作成などには、コンピュータケミストリ分野に高度に特化した専門ソフトを主要なツールとして利用。中でも、化学の世界は「分子レベルで3Dの世界を考える事が重要である」との観点から、Shade3Dの今後の活用可能性への期待を語ります。
「私もShade3Dをもっと勉強して、生体分子と機能性物質の相互作用の3DCGアニメーションなどを作りたいですね」
そして、化学で説明できる様々な現象を従来のような2Dのマンガではなく、3Dのアニメーションで表現できれば俄然説得力が増すはず。鬘谷教授はそれを、授業で学生への説明に使えるような教材開発に繋げたいと考えています。
2020年に創立125周年、伝統と先進性が調和
和洋女子大学
1897年、現在の東京都千代田区富士見町に創設された裁縫(和裁・洋裁)の専門学校「和洋裁縫女学院」を起源とする、和洋女子大学。戦災により九段校舎が焼失したのを受け、1946年に和洋女子専門学校(当時)は現在の国府台キャンパス(千葉県市川市)へ移転。戦後の学制改革を経て、1949年に生活学科と被服学科からなる家政学部を擁する現行の和洋女子大学としてスタートしています。
その後、組織の拡充・再編を重ねる中で、伝統ある女子大学としての地歩を着実に構築。併せて、常に時代のニーズに即した女子教育の実践を標榜。その一環として、学生にとって魅力ある学部構成の展開に努めてきました。
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同大は現在、1)日本文学文化学科、心理学科、こども発達学科から成る人文学部、2)服飾造形学科、健康栄養学科、家政福祉学科から成る家政学部、3)看護学部(2018年4月に設置)、4)国際学部(従来の人文学部国際学科が独立し2020年4月から新設)の4学部、および大学院の2研究科(人文科学と総合生活)により構成。大学・大学院を合わせて約2,900名(2019年5月現在)の学生が在籍しています。
また、国府台キャンパスには同大と和洋国府台女子中学校高等学校を収容。旧九段校舎跡に設置された和洋九段女子中学校高等学校とともに構成する学校法人和洋学園は2022年、創立125周年を迎えます。
JR市川駅からバスで市街地を縫うように走って8分ほど。20年あまりにわたる大幅なリニューアルが一段落したところという国府台キャンパスにはレンガ色の学舎群が効率的に配置。併せて整備された桜並木とも調和し、清潔で落ち着いた雰囲気を醸成しています。 |
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