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Academy User vol.5愛知県立大学情報科学部 小栗研究室生体信号処理のノウハウ蓄積、新たなドライバー状態推定技術の開発へ Academy Information愛知県立大学 情報科学部 小栗研究室URL ● http://www.ist.aichi-pu.ac.jp/ 所在地●愛知県長久手市 研究内容●生体信号解析、ドライバーの状態推定 名古屋市の都心部から市営地下鉄、愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)を乗り継いで40分余。リニアモーターカーが発着する愛・地球博記念公園駅の北側に広がる森林の中に、自然と一体化してレイアウトされた愛知県立大学長久手キャンパスはあります。ドライブシミュレータを自ら製作し改良を重ねながら、それらを駆使してドライバーの様々な生体系データを取得。そこからドライバーの状態を推定する技術の高度化を図っていく先で、安心・安全・快適な次世代モビリティ社会の実現に繋げたい。キャンパス内を連なる学舎群の最深部に位置する棟に研究室と演習室を構える愛知県立大学情報科学部の小栗宏次教授は、自らの研究課題の一端をこう紹介します。そこでは、よりリアリティの高いシミュレータ開発に向けたアプローチを通じ、フォーラムエイトの3DリアルタイムVR「UC-win/Road」を採用。最近、その最新版へとバージョンアップされたばかりです。 地域社会への新たな貢献模索、モノづくりをICT面で支援▲愛知県立大学 情報科学部 小栗 宏次 教授 愛知県立大学は、1947年創設の愛知県立女子専門学校にその起源を辿ることが出来ます。その後、改組・拡充を重ねる中で、1966年に男女共学の愛知県立大学として再編。1998年には、それまで拠点としてきた名古屋市内のキャンパスが手狭となったこともあり、同市の北東部に隣接する愛知県長久手町(現長久手市)の東部丘陵の一角に移転しました。 一方、愛知県では日本国際博覧会「愛・地球博」の開催(2005年)に合わせ、主会場となった愛知青少年公園(その後、「愛・地球博記念公園」に改称)を含む名古屋東部丘陵を「あいち学術研究開発ゾーン」と位置づけ。研究・研修機関の立地を活かした頭脳拠点の形成を目指すこととしました。同大の移転はその構想とも連動するもので、近くにはその一環として付加価値の高いモノづくりを支援するため県が整備を進めている「知の拠点あいち」が設置されています。 そうした背景もあり、同大は新キャンパス移転に際し、初の理系学部として情報科学部を創設しました。これには、世界的なモノづくり産業が集積する愛知県ではそれに関連した分野を専門とする大学も多く見られたことから、それらの各種技術と情報科学を繋ぐ分野を補強する狙いが込められた、と小栗教授は説明します。 同大は現在、長久手と守山の2つのキャンパスを擁し、前者には外国語学部、日本文化学部、教育福祉学部および情報科学部を、後者には看護学部を配置。国際文化、人間発達学、看護学および情報科学の各研究科から成る大学院も設置されています。 そのうち情報科学部では、入学後の2年間に情報基礎技術を習得。3年進級時に情報システム、メディア・ロボティクス、シミュレーション科学の3コースに分かれ、専門性を高めるべくカリキュラムが構成されています。特に、RoboCup(ロボット工学と人工知能の融合、発展のための自律移動ロボットによるサッカー世界大会)では例年好成績を収めているほか、ITS(高度道路交通システム)にフォーカスした研究は同学部のユニークな側面を表していると言えます。 小栗教授はまた、大学に付属する情報科学共同研究所の所長を兼務。学生に対する教育と並行し、モノづくりが盛んな地域社会に対して情報通信技術(ICT)活用の面から競争力強化に貢献すべく研究活動を展開しています。 生体信号解析からそれをベースとするドライバー状態推定へ小栗教授はもともと生体信号処理が専門です。したがって、前職の名古屋工業大学在籍当時は、地域の複数の他大学医学部と提携。病院から心電図や脳波、血液検査などのデータ、あるいはその他の生体信号を提供してもらい、それらのデータ解析や有意な情報の抽出(データマイニング)を通じ、例えば病気の早期発見や個々の疾患に効果のある薬の種類の推定を実施。さらに、高度化するコンピュータ技術を活用した心電図順方向・逆方向問題のシミュレーションなどにも取り組んでいました。 愛知県立大学に移籍(1998年)した折、「地域の産業に資するような、あるいは地域の課題解決に資するような研究を」との要請があり、同氏はそれまでとは違う新しい研究テーマを模索。その後、自動車業界関係者からの「病院の患者の生体信号から疾患状態を推定するような技術がドライバーの生体信号解析から居眠り検知に使えるのでは」とのヒントを受けて試行し、その可能性に注目。さらに、「ITS世界会議愛知・名古屋」(2004年)や「愛・地球博」(2005年)を控えていたことから、それらに合わせてITSをターゲットとした研究を進める流れに至りました。 以来、ドライブシミュレータを使って車輌情報のみならず、被験者から生体信号を取得し、医学的にドライバーの状態を推定。つまり、ヒトから直接的に得られる情報とクルマを運転している際の挙動とを結び付け、例えば運転中の脳血流の測定や顔画像解析などを通じ「ドライバーがどういう状態で運転しているのか」「眠い時はどうなるのか」「どういう状況になると事故を起こすのか」というようにドライバーの状態と運転との関係性を探る研究に注力。現在は生体医工学系の研究が 3、4割。ITS(予防安全技術)に関する研究が半分以上を占めるようになってきたと言います。 そうした中で近年、同研究室において取り組まれた興味深い研究の一つとして、"指差し喚呼"による安全確認があるそうです。小栗教授は鉄道などで実施されている"指差し喚呼"に注目し、"指差し喚呼"をするとドライバーの脳がどう変化するか計測した例に言及。近赤外光脳計測システム(NIRS:Near Infra-Red Spectoroscopy)を用いてドライブシミュレータ運転中のドライバの脳活動を計測することで、"指差し喚呼"することで脳が非常に活性化し、見落とし現象の防止に効果的ということが示された、と解説します。 「愛知県は何年にもわたり交通事故死者数ワースト1を続けています。そのため、(自身らの)研究を通じて新しい安全技術を開発し、(それにより)交通事故を少しでもなくせることができるよう貢献していきたいと思っています」 クルマの運転と体調管理現代社会ではヒトにとってクルマの運転は生活の一部を成す、と小栗教授は述べます。 一方、今日では様々な形でライフログの取得が可能なことから、例えば「病気になったから病院へ行って治療する」というのではなく、「日常の体調変化を見ることで出来るだけ病気にならないようにする」といったアプローチに着目。それであれば、「クルマを運転している時の状態は体調を測る上で優れたバロメーターになるはず」との観点を説きます。 つまり、健康寿命を延ばし、ヒトがアクティブに暮らし続けられるようにするためには、クルマを単に運転しているだけではもったいない。運転中に得られるデータを基にドライバーの状態推定を行うことで、「クルマが動く診療室」のように機能する。しかもその成果は同時に事故防止にも繋げられる。さらにその結果として、渋滞が回避され、ストレスも低減する―と、同氏は自身が理想とするサイクルを描きます。 DSを自作するプロセスにUC-win/Roadを適用▲ドライブシミュレータ 「ないものはつくるしかない」 前述のような経緯でクルマに関する研究に着手して以降、当初は十分な設備もなかったこともあり、小栗教授は基本的にシミュレータをすべて自身で手作りしてきました。コンピュータでプログラミングしシミュレータを作成。ハードウエアは、外部から購入してきたクルマのパーツを自ら組み立て、ゲーム用のコントローラーを接続するなどしてドライブシミュレータ(DS)として製作し、生体信号の取得から解析まで行っています。 2、3年ほど自作のシミュレータを改良しつつ研究を進めていたころ、展示会でフォーラムエイトのUC-win/Roadに出会いました。「これはコースのエディティング機能があり、つくりたいコースが比較的容易につくれ、ビジュアルも良く、操作性にも優れており、私が3年ぐらいつくってきたものより出来が良かったので」(小栗教授)早速これを購入。ただ、最初は口惜しさもあり「もっと良いものをつくってみせる」と思っていたものの、本来の多様な研究をこなす中でシミュレータの作成のみに時間を割くわけにもいかず、以来 UC-win/Roadを活用しながらよりリアリティの高いDSの開発に努めていると言います。 同研究室では現在、4 種類のDSを並行して利用。その中の一システムでバージョンアップを重ね、3世代目となるUC-win/Roadを使って作成したシミュレータ(プログラム)を搭載し、自身らが製作したDSは現在メインで使用されているものの一つになっています。なお、同研究室にとって4世代目となるUC-win/Roadの最新版がこのほど導入されたところです。 今後の状態推定技術とDSへの期待ほとんどの交通事故はヒューマンエラーから起きており、それを少しでも減らす技術開発をしたい。一方、クルマを運転することでドライバにはワクワク・ウキウキといった高揚感が生じ脳の活性化が図られる事がわかってきました。そこで、この事を利用することで高齢者のアクティビティが維持され健康寿命を延ばす効果も期待されます。にもかかわらず、最近は特に認知症の高齢者による事故の問題が指摘されていることから、高齢者の運転そのものを抑制しようという動きが見られます。そこで、クルマの運転に付随する危険と効果の見極めに繋がるような状態推定技術の開発をしていきたい、と小栗教授は今後の展開方向に触れます。また、自動運転化が進む中、自動運転とドライバーによる運転の切り替え、あるいはそこでのヒトの挙動などの評価も重要になります。 これらに対応するため同氏は今後のDSに求められる機能として、①本物に近い動きをするMotion Reality ②高解像度で没入感を増すVision Reality ③本物に近い状況そのものを創出する Emotion Reality ― という3要素を列挙。そのうちMotionとVisionのRealityについてはその精度の向上が見られるものの、Emotionについては「ほぼ手つかず」の状態と述べます。 例えば、現在のDSでヒヤリ・ハットの状況をつくろうとすると、コース内で無理やり自転車や歩行者が飛び出す形にする場合が多く、この場合はシナリオ型で決まった位置やタイミングで構築するといった表現にならざるを得ません。この場合、運転中のドライバは意識がはっきりした場合もあれば、漫然状態で運転している場合もあり、希望するタイミングで危険な状態をシミュレーションすることができないのです。しかし実際にはドライバーが不安定な状態時に事故は起こるものです。こうした状態での挙動こそDSでシミュレーシ ョンしたいのです。小栗研究室のこれまでの研究によりドライバーがそのような不安定な状態になるタイミングを生体信号から把握できるようになってきたため、それをDSに反映したいのだがなかなか実現に至らない、と小栗教授は課題を指摘。それがクリアされれば事故シーンのより詳細な分析や安全装置の開発も可能になると期待します。 ▲愛知県立大学 小栗研究室の皆様 |
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