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現在開発中の港湾シリーズの内、リリースとなりました「矢板式係船岸の設計計算」について紹介させて頂きます。
本製品は、平成19年9月末に大幅な改正が行われた港湾の施設の技術上の基準の解説書である「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(以下「港湾基準」と略す)、並びに、「漁港・漁場の施設の設計の手引」(以下「漁港基準」と略す)に準拠した設計計算プログラムです。
●港湾シリーズ再開発の経緯
港湾シリーズは、1990年代初めに、DOS版として、「矢板式係船岸の設計計算」、「自立矢板式係船岸の設計計算」、「重力式岸壁・護岸の安定計算」、「直ぐい式横桟橋の計算」の4製品を自社開発し、多くのお客様にご利用頂いておりましたが、諸般の事情により開発を中止し、昨年9月までは、他社製品を紹介プログラムとして取り扱うことで継続的なサポートを行って参りました。しかしながら、
(1)早期に大幅改定した港湾基準に対応した製品を提供する。
(2)近い将来FEM地盤解析を利用した性能設計に対応する(図-2参照)。
(3)さらに、3次元解析への対応を見据える。
といった見地より、本シリーズを再び自社開発することになりました。
▲図-1.矢板式係船岸メインウィンドウ |
▲図-2.岸壁におけるFEM地盤解析イメージ図 |
●港湾基準の改定概要
これまで適用には課題が多いとされてきた、地盤・土構造物に対しても、性能規定化や照査方法に関して精力的な研究が行われ、土構造物に対する性能規定化に対する港湾基準も改定されました。
2007年4月:「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」改定
2007年4月:「港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示」改定
2007年9月末:「港湾の施設の技術上の基準(上・下)」刊行
性能目標として、設計条件とそのときの信頼性を明示して設計する性能設計が、国際的な流れとなってきています。改訂の基本的主旨は、近年の経済、社会活動のグローバル化、ボーダレス化が進む中で、国際規格への対応であり、「港湾の施設の技術上の基準」を全面的に見直し、仕様規定型から性能規定型へ移行するとにあります。これにより、自由な発想に基づく設計法の導入等、多様な創意工夫が可能となり、コスト縮減の取組みの進展等を期待されます。
下図は、地盤工学会の「既存の包括的設計コード(いわゆる地盤コード21)」に記載された性能設計の階層性を示した概念図に対して、港湾基準の位置づけを追加記入したものです。
▲図-3.性能設計の階層性を示した概念図 |
性能照査手法の具体的仕様については、基本的には法的拘束力のない任意事項となりますが、地盤コード21では、WTO/TBT協定による設計の自由化の動向と欧州統一基準に代表される設計の統一化という相矛盾する2種類の動向に対して、照査アプローチAと照査アプローチBの2つのアプローチを許容する形式を取っています。照査アプローチAは、性能規定を一定のある適当な信頼性で満足することを示しており、前述の再開発理由の(2)(3)に該当します。照査アプローチBは、当該構造物の事業者が指定する固定基本コード等に基づいて性能を照査することを意味し、再開発理由の(1)に該当します。
●矢板係船岸の設計計算の紹介
■対象構造物
前面矢板壁の壁体種類は、鋼矢板、鋼管矢板です。控え工のサポート形式は直杭式、矢板式、組杭式の3形式で、初版では控え版は扱えません。
■検討ケースと設計部材
検討ケースは、永続状態(常時)、変動状態(レベル1地震動)、変動状態(牽引時)の3ケースで、牽引時につきましては、「タイ材」と「腹起し材」の設計計算のみの扱いになります。この扱いは、港湾基準の性能照査に準じています。
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部材 |
永続状態(常時) |
変動状態(地震時) |
変動状態(牽引時) |
前面矢板 |
○ |
○ |
× |
タイ材 |
○ |
○ |
○ |
腹起し |
○ |
○ |
○ |
控え工 |
○ |
○ |
× |
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■前面矢板壁の主な照査項目と対応状況
フリーアースサポート法(仮想ばり法)、たわみ曲線法、ロウの方法により、前面矢板壁の検討が出来ます。断面照査につきましては、基本的に、港湾基準は限界状態設計法、漁港基準は許容応力度法の扱いになります。
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照査項目 |
計算方法 |
港湾 |
漁港 |
根入れ長照査 |
フリーアースサポート法 |
○ |
○ |
フィックストアースサポート法(たわみ曲線法) |
○ |
○ |
ロウの方法(弾性ばり解析法) |
○ |
× |
断面力計算法 |
仮想ばり法 |
○ |
○ |
フィックストアースサポート法(たわみ曲線法) |
○ |
○ |
ロウの方法(弾性ばり解析法) |
○ |
× |
矢板断面照査 |
降伏応力度照査/許容応力度照査 |
○ |
○ |
タイ材照査 |
引張降伏応力度照査/許容応力度照査 |
○ |
○ |
腹起し照査 |
曲げ降伏応力度/許容応力度照査 |
○ |
○ |
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※たわみ曲線法
たわみ曲線法とは、矢板上部のタイロッド設置点(ここでは、上部構造との結合点)および矢板の先端で単純支持され、受働側圧および主働側圧を受けるはりの先端でのたわみ角が0となる点で矢板が安定していると考える設計法です。
本プログラムでは図-4(a)に示すような処理の流れで解析を行います。構造骨組面内解析は当社Frame解析部を使用しております。図-4(b)が解析モデル図、図-4(c)が変位結果図で、これより、矢板壁先端の回転変位がゼロに近い状態であることがわかります。
▲図-4(a).たわみ曲線法解析フローチャート |
▲図-4(b).解析モデル図 |
▲図-4(c).収束後の変位図 |
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※ロウの方法
弾性ばり解析法は矢板壁の根入れ地盤に弾性的な地盤反力係数を設定し、矢板壁に弾性床上の梁の理論式を適用する方法です。ロウの方法は弾性ばり解析法であり、図-5に示すように矢板根入れ部分の受働土圧を古典土圧論によらず、矢板の横方法の変位(y)および海底面からの深さ(x)に比例する地盤反力とします。
高橋、菊池らは、ロウの方法に基づいて、さらに矢板壁根入れ部背後の主働土圧と前面の静止土圧を考慮して、実際の矢板壁の挙動特性とよく対応するように修正しています。ロウの方法により、根入れ長、断面力、変位、反力が得られます。
図-5.ロウの方法
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■控え工の主な照査項目と対応状況
控え直杭、並びに、控え矢板は、港湾基準では港研方式、漁港基準ではチャンの方法で検討します。
組杭は軸方向支持力のみで抵抗するという考え方で支持力検討、断面照査を行います。
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照査項目 |
計算方法 |
港湾 |
漁港 |
直杭/矢板 |
港研方式(港湾基準) |
○ |
× |
Changの式(漁港基準) |
× |
○ |
設置距離の計算 |
○ |
○ |
突出杭の扱い |
○ |
○ |
曲げ降伏応力度/許容応力度照査 |
○ |
○ |
矢板 |
長杭とみなし得る場合 |
○ |
○ |
長杭とみなし得ない場合 |
× |
× |
組杭 |
各杭の軸方向支持力のみで抵抗すると考える方法 |
○ |
○ |
杭の曲げ抵抗、杭の軸直角方向支持力も考える方法 |
× |
× |
支持力の検討(打撃工法による打ち込み杭) |
○ |
○ |
軸方向降伏応力度照査/軸方向許容応力度照査 |
○ |
○ |
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●今後の予定
今回は、港湾シリーズ第一弾である矢板式係船岸の設計計算を紹介させて頂きましたが、本製品では、今後、さらに、(1)控え版への対応、(2)自立矢板式係船岸への対応などを予定しています。
また、現在、港湾シリーズ第二弾として、「重力式係船岸の設計計算」を現在開発中です。こちらは、ケーソン式係船岸(図-6(a))、セルラーブロック式係船岸(図-6(b))、ブロック積式係船岸(図-6(c))などをサポートする予定でおります。
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▲図-6(a).ケーソン式係船岸 |
▲図-6(b).セルラーブロック式係船岸 |
▲図-6(b).ブロック積式係船岸 |
■矢板式係船岸の設計計算 リリース日:2007年12月18日 |
(Up&Coming '08 新春特別号掲載) |
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