構造物の耐震設計 建築と土木の違いは? |
■保有水平耐力法の違い
土木構造物、建築構造物とも、利用期間中に遭遇する可能性の高い(=L1)地震に対して、そして一部の構造物については極めて希に発生する(=L2)地震に対しても、安全性を検証します。その検証には、L1地震に対しては許容応力度法を、L2地震時に対しては保有水平耐力法を用いています(図1、表1)。
建築構造物では、構造計算が省略できる建物(2階建の戸建て木造住宅など)もありますが、これに加えて、L1地震時の変形制限が建築基準法で規定されており、層間変形角で1/200以内であることが求められます。また、保有水平耐力は、層の変形が安全限界あるいは外装材の変形制限から決まり、層間変形角で1/100程度の値が用いられます。この保有水平耐力は各階に生じる水平力であるため、建物の層数分、値が得られます。
一方、橋脚などの土木構造物では、L1地震時の変形制限は設けられないことが多いようです。また、保有水平耐力は、部材が終局状態(コンクリートの場合、その圧縮破壊)に達する時の水平力として求めています。この保有水平耐力は、慣性力作用位置の水平荷重として求まるため、構造物に対し一つの値となります。
以上から求めた保有水平耐力Qu(土木橋脚構造ではPaに相当)が、必要保有水平耐力Qud(土木橋脚構造ではkhc・Wに相当)を上回ることを確認します。
■静的設計における地震荷重の大きさと作用方法
土木構造物では、構造物を1質点振動系に置換え、その質点に作用する震度が応答スペクトルで規定されます。また、L2地震としては、応答スペクトルで1G〜2G程度の地震力を作用させます。橋脚など地上部分には、これが一様に作用するとします(図3)。
建築構造物では、1階柱基部における標準せん断力係数(水平震度のようなもの)が規定され、上層階にいくほどそれを増加させる方法(=Ai分布)が一般的です(図3)。その標準せん断力係数は、建築基準法に、L1地震で0.2以上、L2地震で1.0以上と規定されています。4階建て建物の最上階では、1階柱基部の1.6倍程度の係数になってきます。
■時刻歴応答解析法の位置づけ
兵庫県南部地震以降、計算機能力の急速な向上に伴い、地震時の揺れを正確にシミュレーションできる時刻歴応答解析法が脚光を浴びるようになりました。この手法は、どんな構造物でも取り扱うことができるためです。
土木構造物では、道路橋、地中構造物、盛土構造物に至るまで広く利用されています。
建築構造物では、まだ、超高層建築物(60m超)に限って適用しているにすぎませんが、水平2方向地震動が同時に作用する場合の挙動についても、適切に考慮することが求められています。土木構造物のように、時刻歴応答解析法を適用する構造物は、将来、増えてくるでしょう。
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土木構造物
(道示V) |
建築構造物
(建築基準法) |
L1地震 |
安全性の検討 |
許容応力度法 |
許容応力度法+層間変形角 |
地震の大きさ |
地表面の応答スペクトル
最大で0.3G |
柱基部(≒地表面)
Co=0.2(以上)+Ai分布
※4階建物最上階で0.3G程度 |
L2地震動 |
安全性の検討 |
保有水平耐力法 |
保有水平耐力法 |
地震の大きさ |
地表面の応答スペクトル
最大で1G〜2G |
柱基部(≒地表面)
Co=1.0(以上)+Ai分布
※4階建物最上階で1.6G程度 |
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