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ユニバーサル・コミュニケーションデザインの認識と実践

太田 幸夫
ビジュアル・コミュニケーションデザイナー、太田幸夫デザインアソシエーツ代表
特定非営利活動法人サインセンター理事長、多摩美術大学 前教授
LoCoS研究会代表、日本サイン学会理事・元会長、日本デザイン学会評議員
一般財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会評議員
A.マーカスデザインアソシエーツ日本代表
 

Vol.9 「避難誘導サイン・トータルシステムRGSS」の可能性
   
「避難誘導サイン・トータルシステム」(Refuge Guidance Sign Total Syatem)は1980年、非常口サインデザインの制作と全国施行、1985年にその国際規格化、1992年中央労働災害防止協会全国職場安全標識のデザイン制作、2000年、全国避難場所表示ピクトグラムデザインとその国家規格化、そして2011年には蓄光式避難誘導システムを日本代表として10年余り国際審議した後、そのISO規格を改良して国家規格(JIS Z 9095)に至る35年余の筆者の実践を踏まえた民間主導型恊働プロジェクト。

3.11の複合災害による甚大な被害によって、縦割り行政の限界を知った。各国代表の見舞いのメールに対して「初めからやり直しだ」と返信した。広く民間の力を束ねて再出発と考えた筆者の提案に、60社120名余の賛同を得て協働し、全国版として活用できる成果に至った。

基本構想は、非常時の必要性を内包した平常時のサイン環境を新たに創り出すこと。平常時には環境と調和し、災害時には、人々を避難場所へ迅速に誘導するサインを、トータルシステムとして整える。

トータルシステムとは、昼夜分かたず、非常時と平常時を統合し、屋内と屋外を一貫する手立て。災害の種類や、言語、年齢、学歴、経験、文化の違いを超えて安全への誘導を可能にする。

個別災害だけでなく、複合災害にも対応し、全國共通の手立てでありながら、地域の個別性にも役立つこと。国内標準でありながら、国際的にも有効で、民間の協働成果もトータルに活かせるシステムを目指している。

3.11の直後、基本構想をセミナーで発表し具体化のための連続ワークショップを6ヶ月間、開催してきた。続く半年間で避難誘導サインを試作し、「太田幸夫の絵文字デザイン展」(刈谷市美術館主催)の期間中(2012年8月)、警察、自治体、美術館、一般市民の協力を得て、誘導サイン30種類100点を公道に仮設置し、昼と夜、避難場所までの誘導効果と環境との調和を実地に調査した。

一般市民100名の協力による高い評価データに日本政府は関心を示し、世界に日本をPRする電子メディア “Highlighting Japan”で「命を守るデザイン」と謳って世界に報道した。また、歴代7代の内閣総理大臣を支えた石原信雄元官房副長官からは、全国すべての自治体に送る「広報」誌で特集報道していただいた。

2回目、2013年9月の刈谷市津波避難訓練でも、避難誘導サイン220点を5本の公道1100mに、訓練日の9日前から取り付け、市民100名以上から、日常学習効果を含む評価データを得た。第1回目以上の高い評価を得ることができた。しかも30種類だった誘導サインのデザインはRGSS参加メンバーの意向で、わずか2種類に絞られた結果、全国バージョンとしての有効性が明らかになった。

3種類の津波ピクトグラムのデザインも比較・調査した。一つは国家規格と国際規格になっているもの。二つは筆者のデザイン。その中から津波らしいと思うデザインをひとつ選んでもらった結果、全国施工済みの現行のデザインを選んだ人は、119名中わずか一人。他の118名は全て残り二つのデザインが津波を表すのに適していると答えた。

防災情報機構NPO法人からの依頼で筆者は2000年に避難場所と津波のピクトグラムをデザインした。神戸・横浜での震災対策技術展で全国の防災関係者に発表し、国連防災会議の新聞でも紹介されていた。その後、国家規格・国際規格を審議する経産省の委員会に、京都大学防災専門教授推奨の民間デザインが持ち込まれた。筆者がそれを見た瞬間、崩れ落ちる波の前に水深が描かれているので、津波表示にはふさわしくないと判断した。

担当の委員はその形の理解度調査をした結果、「76%の人が高波と答えている」と報告しつつ、歴史上津波を一度も経験していない英国民などには、津波高波と分かればよい、と押し切って国際規格化した。国家規格になった「高波」のピクトグラムが「津波」の標識として全國に設置されている。

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