発明について特許を受けるには、特許庁に対し、特許出願をする必要があります。特許出願から特許取得までの手続では、特許法等の法律の専門知識が必要であることから、多くの場合、特許事務所の弁理士に手続を依頼することになると思いますが、依頼する出願人においても留意すべき事柄があります。
今回は、特許出願から特許取得までの流れについて簡単に紹介した上で、特許出願をする上で出願人が留意すべき事柄について説明します。
■特許出願から特許取得までの流れ
特許出願から特許取得までの流れの概略について、図1を参照しながら簡単に説明します。
■1.特許出願
発明について特許を受けるには、特許庁に対し、願書に必要な書類(特許請求の範囲、明細書、必要な図面、要約書)を添付して特許出願を行う必要があります(特許法第36条)。
■2.出願公開 特許出願は、原則として出願から1年6ヶ月後に、出願公開されます(特許法第64条)。出願公開によって、その特許出願の発明は、誰でも観ることができるようになります。出願公開された特許出願は、例えば特許電子図書館(IPDL)のウェブサイトで検索して閲覧することが可能になります。
■3.出願審査の請求 特許出願した発明について特許を受けるためには、審査官による審査を受ける必要があります。そして審査官による審査を受けるためには、出願から3年以内に出願審査の請求をする必要があります(特許法第48条の3)。
出願から3年以内に出願審査の請求がされなかった特許出願は、自動的に取り下げられることになります(みなし取り下げ)。
■4.拒絶理由通知への対応
審査段階では、法定の拒絶理由(特許法第49条)が発見された場合、審査官から拒絶理由通知がなされます(特許法第50条)。この拒絶理由通知に対して出願人は、応答可能な期間内に、審査官に意見を述べるための意見書を提出したり、拒絶理由を解消するための補正を行う手続補正書を提出したりすることができます。
■5.特許権の設定登録
審査において拒絶理由が発見されなかった場合、あるいは拒絶理由が発見されたが補正等で解消した場合には、特許査定がなされます(特許法第51条)。そして特許査定から所定期間内に特許料を納付することで、特許権の設定登録がなされ、特許権が発生することになります(特許法第66条)。
特許権の設定登録は、特許公報の発行によって公示されます。特許権の存続期間は、特許出願の日から20年をもって終了します(特許法第67条)。
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▲特許出願から特許権取得までの流れ |
■出願人が留意すべき事柄
特許出願をする上で出願人が留意すべき事柄について、特に重要なものについて幾つか説明します。
■1.先行技術調査
特許出願をしようとしている発明と同一の先行技術が存在する場合、あるいは特許出願をしようとしている発明が先行技術から容易に想到できる発明である場合には、その発明は特許を受けることができません(特許法第29条)。
先行技術調査は、そのような先行技術の存在の有無を事前に調査するものであり、より有益な特許出願をする上で、行うのが望ましいと言えます。
尚、先行技術調査は、出願人が自ら行うことも可能ですが、特許事務所の弁理士に依頼することも可能です。
■2.発明の新規性の保持
特許出願をして特許を受けるためには、その発明が従来無かった新しい技術思想であること、つまり新規性があることが必要です(特許法第29条第1項)。
この新規性の判断の時期的基準は、その特許出願の出願時です。したがって少なくとも特許出願をするまでは、その発明の内容を秘密の状態に保持して、新規性を喪失しないようにする必要があります。また新規性の判断の地理的基準は、世界であり、日本国外で新規性を喪失すれば、やはり特許を受けることができなくなります。
例えば特許出願をしようとしている発明の学会発表、学術論文の掲載、特許出願をしようとしている発明を用いた製品等のプレス発表や販売、広報、宣伝広告等は、日本国内のみならず外国においても、特許出願をするまでは控えるべきです。
また例えば取引先に対するプレゼンテーションや試作品の納品等で、特許出願の前に発明の内容が取引先に知られ得る状況となるような場合には、事前に秘密保持契約を締結しておくのが望ましいと言えます。
尚、特許出願前に発明の新規性が喪失してしまった場合でも、法定の要件を満たす場合には、新規性の喪失から6ヶ月以内に所定の手続とともに特許出願をすることによって救済される場合があります(特許法第30条)。
■3.特許を受ける権利
現行の特許法では、特許を受ける権利は発明者に原始的に帰属するとされています(特許法第29条)。その一方で、特許を受ける権利は譲渡することが可能です(特許法第33条)。そして特許を受ける権利を有しない者がした特許出願は、特許を受けることができません(特許法第49条)。
例えば会社の従業員がした発明については、その会社が出願人となって特許出願をするのが一般的です。この場合は、特許を受ける権利を発明者である従業員から会社に譲渡して特許出願をする必要があるということになります。
特許を受ける権利の譲渡は、後々問題になることがありますので、例えば譲渡契約書を作成する等して明確にしておくのが望ましいと言えます。
■4.共同発明の場合
例えば複数の会社、あるいは会社と大学等とが共同で研究開発を行い、その結果なされた発明を特許出願する場合があります。このような発明(共同発明)については、原則として共同で特許出願をする必要があります(特許法第38条)。
また共同研究開発の契約には、特許等の知的財産に関する条項が含まれている場合もありますので、その点にも留意が必要です。
■5.外国出願
属地主義の下、日本の特許権の効力が及ぶ範囲は日本国内のみであることから、日本以外の国で特許権による保護を求める場合には、その国ごとに特許出願をして特許権を取得する必要があります。例えば発明品について、外国での製造・販売や輸出等の可能性がある場合には、その発明について外国出願も検討することになります。
日本で特許出願をしてから1年以内であれば、その日本の特許出願(第1国出願)を基礎として、いわゆるパリ条約上の優先権(以下、「パリ優先権」)を主張して外国出願(第2国出願)をすることが可能です。
パリ優先権を主張することによって、その外国出願は、パリ優先権の基礎となる日本の特許出願の出願日を基準として、新規性等の特許要件が判断されるという利益が得られます。
このようなことから外国出願ついては、日本で特許出願をするのと同時に、あるいは遅くとも日本で特許出願をしてから1年を経過する前に、検討し、出願を完了させるのが望ましいと言えます。
パリ優先権は、パリ条約の同盟国に外国出願する場合に主張することが可能です。また外国出願をしようとしている国が特許協力条約(PCT)の加盟国であれば、国際特許出願(PCT出願)も可能です。日本の他、アメリカ、欧州、中国、韓国、インド、ロシア、ブラジル等、多くの国は、パリ条約の同盟国であり、特許協力条約の加盟国です。
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▲外国出願 |
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