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Vol.5 安全安心のピクトグラム
 
太田 幸夫
ビジュアル・コミュニケーションデザイナー、太田幸夫デザインアソシエーツ代表
特定非営利活動法人サインセンター理事長、多摩美術大学 前教授
LoCoS研究会代表、日本サイン学会理事・元会長、日本デザイン学会評議員
一般財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会評議員
A.マーカスデザインアソシエーツ日本代表

『避難誘導サイントータルシステム(RGSS)ガイドブック』刊行

昨年の『安全安心のピクトグラム』に続く姉妹本『避難誘導サイントータルシステム RGSSガイドブック』がフォーラムエイトパブリッシングより刊行された。この1冊は自然災害に対してこれまで、誰も示し得なかった手立てを開示したものだ。屋内から非常口を通って避難場所に至るまでの昼夜間、災害種や年齢、教育・経験、言語、宗教・文化の違いを超えて、一貫した避難誘導サインのトータルシステムを世界で初めて具体的に示したものと言える。

それまで37年間、関係する全中央省庁にお声がけいただき、毎年200日ほど使って国家規格や国際会議などに協力してきた。その結果が、あの3.11の歴史的被害と犠牲が何よりの証拠となって役に立たなかった。国の縦割り行政で打ち建てられた防災の柱には、桁(ケタ)も梁(ハリ)も渡っていないため、それが柱の将棋倒しの原因であることを悟った。

今回の出版は、民間に軸足を置いて、民間のノーハウとネットワークと技術と材料と製品を束ねて6年間、新たな協働プロジェクトをスタートさせてきた。本書はその成果である。再スタートの当初、基本構想をセミナーで業界と学会に示した時には、その場で複数の学会を含む65名、45社が即座に参加された。今ではその数は倍加して、120名、100社にも及んでいる。


本書ではまず、災害時に命を守るデザインを説明した。現代ますます機能が重層複合化してブラックボックス化する都市環境にあって、サインコミュニケーションデザインの代表格と言えるピクトグラムが、非常口や避難場所の場所を、年齢や経験や言語の違いを超えて、分かりやすく誘導してくれる。

第1章では、そのサインコミュニケーションデザインの機能を分類し、安全性、機能性、利便性など都市のアメニティーを高める手立てを最初に解説している。そしてRGSSの基本構想を、理念、目的、構成、開発経緯など異なる観点から説明する。防災関係の全省庁への37年間に及ぶ筆者の協力が3.11で役立たなかったことによって、縦割り行政の限界を知り、代わって、民間関連業界の協働と自治体+市民の連携に軸足を置いた結果、非常時の必要性を内包する平常時の構築が、新たな目標になったことを明らかにした。

第2章の表示デザインではピクトグラムと色彩、特に蓄光材の色と地図デザインを取り上げ、第3章の素材・加工デザインでは路上誘導サインなどの事例を具体的に示した。小さいサイズながらフレームレスデザインが環境の中で魅力的なアイキャッチャーとなり、環境を損ねることなく、環境との程よい調和を保ちながら、見る人の無意識の意識の中に誘導機能を刷り込んでくれる。安全で安心なサイン環境の良好な形成である。

非常口のピクトグラムも避難場所のピクトグラムも、そのデザインは筆者、太田幸夫の手になるものだ。自分の二人の娘のようで、愛着が深い。ところがその二人はこれまで、出会うこともなかった。総務省消防庁に電話して「どうして非常口から避難場所まで誘導サインで誘導しないんですか?」と聞いてみた。「私どもの所轄ではありません」の一言であった。3.11の3日後、国土交通省の委員会に呼ばれ、「今度こそ真剣にやります。」と始まった2時間余りの会議中に聞かれる単語は「津波」だけ。「どうして複合災害の観点から検討しないのですか?」と発言すれば、全員の冷酷な視線が集中する有様であった。ところがようやく本書によって、そうした既得利権の弊害がなくなり、命を守るデザインを広く知ってもらうことが可能になった。発行元のフォーラムエイトには、深く感謝を申し上げたい。

第4章では屋内誘導サインの関連法規を解説した。第5章では最も重要な屋外避難誘導サインのトータルシステムRGSSの利活用をガイドし、そのプロトタイプを豊富な写真で紹介した。

利活用の前提には、自分の命は自分で守る、という原則を置いている。これまで国が自分たちの命を守ってくれると思っていたらそれは違う、という仕組みだ。もちろん国との連携協力は重要としても、まず始めに、自分と自分たちの主体性の重要性をしっかりと自覚し、その上での共同とグループ活動であれと言いたい。RGSSのガイドラインを、そのような見取り方で活用いただければありがたい。そして本書の内容が常にチェックされ、改訂版の刊行が継続することを願いたい。

避難誘導シミュレーション事例の第6章以降では、日本の玄関、東京丸の内街区の屋内と屋外にRGSSを適用させた三菱地所への提案レポートをそのまま紹介した。また、RGSS協力メンバーであるゼネコンが進めている小学校等建設計画の実施設計の中に、具体的なRGSSの施工事例を見とれるようにした。これまでの研究・調査と提案の段階から、RGSSは社会的実践の段階に入ろうとしている。全国の地域社会が、一街区で試験的に試用して、市民の評価をデータで手に入れれば、瞬く間に本採用に進展する可能性が大きいはずである。それほど、全ての地域にとって、全ての人にとって、必要不可欠なインフラ(社会基盤)と言える安全な環境整備の手立てである。また、それほど、費用対効果が大きい防災対策である。

町内会や商店街が自治体と共に子供から高齢者まで協力しRGSSを利活用することで、最小の費用で最高に安全・安心な街づくりが可能となる。巻末には6年前にスタートしたRGSS協力メンバー100社120名のリストも掲載した。素材も加工もデザインも施工も全て必要なスペシャリストが揃った集団である。また、本書に掲載のデザインや素材の基準に適応するかどうかを認定・認証する第三者評価委員会の設立を準備している。



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