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Vol.4 安全安心のピクトグラム
 
太田 幸夫
ビジュアル・コミュニケーションデザイナー、太田幸夫デザインアソシエーツ代表
特定非営利活動法人サインセンター理事長、多摩美術大学 前教授
LoCoS研究会代表、日本サイン学会理事・元会長、日本デザイン学会評議員
一般財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会評議員
A.マーカスデザインアソシエーツ日本代表

防災ピクトグラム:非常口から避難場所へ

1972〜73年、大阪と熊本のビル火災で、どちらも100名余の犠牲が出た。蛍光灯10W1本内蔵の非常口サインは、1文字8cmほどの漢字3文字。煙で見えなかったのではないかと国会でも取り上げられて、40W蛍光灯の巨大文字サインにした結果、商店街のインテリアを壊すとか、病院で安眠妨害になるとか、全国的悪評にさらされた。

国際標準化機構ISOでは当時、非常口サインの各国ピクトグラム案を審議しソ連案が国際規格の最終案になっていた。3年ほど遅れて日本では1975年、消防庁関係のピクトグラム懇話会にデザイン界から筆者が唯一人呼ばれてピクトグラムデザインの話をしていた。デザイン料の実費すら国費で計上せず、国は業界に肩代わりを頼んで断られていた。やはり予算なしの東京消防庁からは別途、池袋駅最大地下コンコースに非常口サインのピクトグラムデザインを頼まれ、64基の出口表示非常口サインを取り付けて、25年間使用した(図1)。

一方、総務省消防庁は1978年、懸賞なしの非常口アイディアを公募して、全国から3337点のアイディアを集めた。煙の中での視認テストなど5種類の評価実験で1点に絞り、筆者が中心となって非常口ピクトグラムをデザインした(図2)。

■図1 池袋駅コンコースの出口表示非常口サイン

1. 2. 3.
■図2 1.公募案  2.日本発国際規格案  3.国際規格ソ連案

160社からなる日本照明器具工業会は倉庫に山積みの蛍光灯ボックス大中小の利用と表示面中央にピクトグラムを要求。消防法規定の縦横比率1:1から1:5までの可能性と非常口が所在する避難口誘導灯の緑バックと途中の通路誘導灯の白バックの2種類を含めて、版下の煩雑さの回避も強く求められた。
紙と比べて耐候性に優れたリスフイルムを左右3ピースに分けて伸縮可能とし、正方形ユニットからなる表示面レイアウトの版下1種類で全てを可能とした。東京都庁の大会議室で2回、1.5時間を使った版下使用法の説明会を開いた。

1980年の全国施行では、天文学的数量の非常口サインが、1点の狂いもなく取り付いた。同年、消防庁はISOに遅ればせながらと日本案を提案した。筆者は唯一人、日本案が国際規格にならなかったら、日本だけが世界と異なる非常口サインを使って行くことになる、と心配していた。ソ連は激怒して抗議文を日本に送ってきた。困惑した政府に頼まれて筆者は、デザインの立場からソ連案を批評した。
各種実証実験結果のレポートも功を奏して1985年、ソ連は自国案を取り下げ、日本案が1987年、国際規格になった。ただしイギリスの修正案によって足元を横に閉じる改変がなされた。足元が空いていれば走る人型を包む白い空白が、見ている人の空間と心理的につながり、自分の姿と取ることができる。閉じてしまうと、見る人と関係ない走る絵柄に終始してしまう。
陸続きのヨーロッパでは1時間も走れば異なる言語の道路標識に出くわして、新たな学習が必要になっていた。そうしたモータリゼーションの初期、色と形とピクトグラムで言語の違いを乗り越える国連標識が1949年に提案されて普及した。その全ての標識の外形を丸、三角、四角の枠で囲む形式が、ISOの安全標識に影響した。「標識は何でも枠で囲むもの」という誤解が根付いた結果だ。特に道路標識の場合は、法律であるため、デザインの良し悪しでなく、そのまま覚えて実行しろとなって、80年来、一度の評価実証実験すら行われていない。

避難場所表示ピクトグラムは1973年、民間のデザインが横浜西口のハイポールに掲げられ、30年後関東1円に広まっていた。安全標識で目にする緑十字を手前が切り離れた枠で囲ったものだ。防災情報機構(当時石原信雄会長)では、アラブ地域でミドリ十字が禁忌とされ、国際性がないとの理由で見直すことになった。筆者のところに玉田三郎理事長が出向いて、新たな避難場所デザインを依頼された。同日、消防研究所次郎丸誠男元所長からも電話が入って、非常口ピクトグラムで使っている走る人型を使って欲しいと要望された。「どうしてですか」と問いただしたところ、「避難のイメージで、非常口と共通のイメージにしたい」と説明され納得した。
後年、玉田理事長との面談に消防庁関根則之元長官も同席され、「避難場所のデザインは私のデザインだ」と、明言された。走る人型の共用提案は、関根長官であったのかと思った。全ての人の命に関わることであれば、なおのこと、少しでも多くの人の参加と協力が望しい。

筆者がデザインした避難場所ピクトグラムは1種類ではなかった。石原信雄会長のその後のコメントでは、7省庁を集めて緑の楕円上を伸ばした足が踏まえている現行のデザインを選んだという。消防庁の研究レポートでも、そのデザインがベストとして推奨され、全国に取り付いた。
この楕円は上空から見下ろせば、円形になる。地面に目線を近づければ、横棒になる。2014年4月、国民安全法が一部改正されて、新しい地図記号が翌年全国施行された。ハザードマップ上でその2〜3mmの極小地図記号が使われる。国土地理院はその横棒を避難場所表現に使うことにした。しかも避難場所の種類と災害種の種類の乗算の結果も、その極小表現で識別できて、適切に避難できねばならないのだ。
この困難なデザイン処方を、本年11月にフォーラムエイトパブリッシングより発行の『避難誘導サイン・トータルシステムRGSSガイドブック』の中で、改善案にして示してみたいと思う。



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