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Vol.7
UUC-1設計成果チェック支援システム
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太
イエイリ・ラボ・体験レポート
建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー有償セミナーを体験レポート
建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーの体験レポート。
新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。
製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望の内容など、全12回にわたってお届けする予定です。

【プロフィール】
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。
日経BP社の建設サイト「ケンプラッツ」の人気コーナー「イエイリ建設ITラボ」を連載。
「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。公式ブログはhttp://ieiri-lab.jp


●はじめに
 建設ITジャーナリストの家入龍太です。今から30年前くらいですが、私は土木工学科の学生として構造力学や耐震工学を学んでいました。当時も大型コンピュータを使って複雑なトラス橋や連続梁橋などを設計する技術があり、データの入力だけすれば設計ができる状況になっていました。

 当時から既に「コンピュータ依存」の風潮があり、それに疑問を持つある教授が、授業中に紹介したエピソードがとても印象に残っています。

 「ある役所に若い設計者がコンピュータで設計した図面を誇らしげに持ってきた。それを見た古参の技術者は図面上の一点を指さして、『ここが間違っている』と一瞬で指摘した。コンピュータは間違うはずがないと信じる若い設計者が渋々、チェックしてみたところ、ある部材の断面量を一桁間違えて入力していることが分かった」、というものです。

 コンピュータのなかった時代には、このような設計の"名人"がたくさんいて、直感的に設計ミスを発見することができました。しかし、当時とは比べものにならないほど設計業務の量は増え、構造も複雑化している現状では、昔のような牧歌的な方法ではとてもチェックしきれません。
そこで、コンピュータを使って、効率的で正確なチェックを行うことが求められています。

 こうしたニーズにこたえて開発されたのが、フォーラムエイトの新製品「UC-1設計成果チェック支援システム」です。

 
 ▲UC-1 設計成果チェック支援システム   ▲4月5日、フォーラムエイト東京本社で開催された「設計成果チェックシステム体験セミナー」


●製品概要・特長
 フォーラムエイトはこのソフトの開発に際し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した平成21年度第2回「イノベーション推進事業(産業技術実用化開発助成事業)」に「土木構造物の設計成果チェック支援システムの開発」として応募しました。
その結果、提案が採択されて事業化され、助成金を受けることができました。
こうした経緯からも、このようなソフトが幅広く求められていることが分かります。

 ソフト開発の目的は「構造寸法や使用材料に大幅な変更を要するような重大な瑕疵(かし)を見逃さないためのチェックシステムの開発」というものです。つまり、絶対に見逃してはならない設計ミスを発見する現代の"名人"としての役目を担っているわけですね。

 設計ミスがあるかどうかは、設計用のソフトを使ってもう一度設計すればいいのではと思う人もいるでしょう。

 しかし、最近の設計ソフトは非常に複雑な構造や設計条件にも対応できるように、操作が極めて難しくなっており、「スイッチ」と呼ばれる設計条件などの変更機能も多く付いています。とても設計のチェックだけのために使うのは難しいのが現状です。

 そこで「最小の入力で、最大の精度」を得ることを目指して、開発されたのがこの設計成果チェック支援システムなのです。そのチェック方法は大きく分けて2つあります。

 一つ目は「過去の近似構造物との照合確認機能」によるチェックです。橋の場合、スパンや構造形式が決まると鉄筋量や鋼重などは妥当な範囲というものがあります。そこで、設計した構造物の鉄筋量などが過去に設計された構造物に対してどのような位置にあるのかをデータベース的にチェックする方法です。橋梁上部工や下部工、ボックスカルバートなどの設計チェックには特に有効です。

 二つ目は「必要最小限の条件設定による設計結果の照合機能」です。設計と同様な手順で、必要最小限の構造物の寸法や形状、荷重などを入力して構造計算を行うことにより、応力計算結果などが正しいかどうかをチェックする方法です。
この方法は、橋梁の上部工や下部工、基礎工のほか擁壁やボックスカルバートなど、幅広い工種に活用できます。

 UC-1 設計成果チェック支援システムは、「システムA」から「システムD」の4つのサブシステムで構成され、上記の二つの方法を用いて、対象となる構造物の設計結果をチェックします。

▲設計成果チェック支援システムの構成


 「システムA:橋梁構造物Web照合チェックシステム」は橋梁を対象に他の構造物のとの比較により設計をチェックします。
また、設計した構造物が「合格」の場合は、その結果をデータベースに登録する機能もあり、今後の設計に生かすことができます。

 
▲システムAで他の構造物のデータと照合し、
設計の妥当性を確認するイメージ
  ▲システムAの照合データベースのイメージ図。データにアクセスできるユーザーを制御できる


 「システムB:橋梁構造物概算値チェックシステム」は現在、橋梁上部工、擁壁、ボックスカルバートがチェックの対象になっています。
このシステムでは、構造物の主な諸元や荷重条件を入力し、実際に構造計算を行って部材厚や鉄筋量などの概略値を算出します。
設計された構造物の部材厚などが概略値より大きければ「合格」となるわけです。

▲システムBによる擁壁の検証。
左がチェックの対象となる設計、
右が支援システムの出力結果


 「システムC:耐震性能静的照査システム」と「システムD:耐震性能動的照査システム」はセットで動くもので、耐震設計を静的、動的解析によりチェックします。チェックの対象は橋梁上部工/下部工と基礎工です。

 
▲静的耐震照査を行うシステムCの画面例   ▲システムCにより設計チェックを行った例


●体験内容
 4月5日の午後、フォーラムエイト東京本社で「設計成果チェックシステム体験セミナー」が開催されました。会場には受講者18人と、23人の新入社員が研修のため会場後方に陣取り、熱気があふれていました。

▲真剣な表情で受講するフォーラムエイトの新入社員

 講師を務めるのはフォーラムエイトUC-1開発第1Group長の中村淳さんと、同主事補の水野義明さんです。いつもの無料体験セミナーのように、名古屋、大阪、福岡の各会場ともテレビ会議システムでつないでの中継です。東京会場同様に、他の会場も参加者が多いのが分かりました。このシステムに対する期待の高さが参加者の人数からもうかがえました。

 まずは中村さんがシステムの開発経緯や機能についてざっと説明した後、水野さんがシステムA〜Dについて操作実習を行いました。受講者も一人1台のパソコンを使って実際にチェック支援システムの使い方を体験しました。

 初めのシステムAでは、橋梁構造物の設計が妥当かどうかを他の構造物とウェブ上で照合することによって確かめる実習です。
入力項目は非常に少ないのが特徴です。ボックス桁の場合は「連数」、建設場所の都道府県、適用基準、地域区分、地盤種別、基礎形式をプルダウンメニューやチェックボックスで入力して検索します。すると登録されている設計データの一覧が出てきます。

 次に「照合」画面に進んで、過去の設計例と比較するためのグラフ表示設定を行います。例えば、横軸にボックス桁の「平均内空幅」、縦軸に「合計壁厚」を選び、それと照合するために今回の設計で得られた平均内空幅、左側・右側の壁厚を入力します。そして「計算」ボタンをクリックすると過去の設計結果のグラフとともに、今回の設計結果がプロットされ、妥当な位置にあることが確認できました。

 続いてシステムBの体験です。これは地中に埋設されたボックスカルバートが題材でした。システムAと違うのは、構造設計ソフトで計算を行うように、データを細かく入力していくことです。ただ、入力項目は最小限に絞り込んであります。舗装や盛土の単位重量、主鉄筋のかぶり、鉄筋材質や鉄筋径、ピッチなどの数値を、設計計算書から拾って入力します。

 そして計算ボタンをクリック。画面には設計をチェックする構造物のデータと、チェック支援システムで計算したデータが並んで表示され、部材厚や鉄筋量などの諸元がチェック支援システムの計算値より大きければ「合格」となります。

 休憩をはさんでシステムCで橋梁下部工の耐震性を静的解析で行いました。システムAやBに比べると、かなり入力項目が多くなるため、あらかじめ入力したデータを開いて計算しました。鉛直死荷重反力や上部工分担重量などの各項目について設計値とシステムCの計算結果を比較し、大きな違いがないかを確認しました。

 システムDによる動的解析は、システムCで計算した結果をインポートして行います。設計チェックの支援とはいえ、フォーラムエイトの非線形動的解析プログラム「Engineer's Studio(R)、UC-win/FRAME(3D)」を利用し、「道路橋示方書IV下部構造編」や「道路橋示方書V耐震設計編」に基づいて計算するという本格的なものです。

 実際のチェックでは、「タイプI」と「タイムII」の地震動各3波ずつに対して橋軸方向・橋軸直角方向の2方向の計算を行ってチェックします。
しかし、動的解析は1回の計算に40分くらいかかることも珍しくないため、体験セミナーでは入力用のデータと計算結果のデータを確認しました。
▲システムDで動的耐震照査を行う橋梁モデルの例


●イエイリコメントと提案
 コンピュータがなかった時代には、一つの設計計算を行うのに、計算尺や手回し式計算機を使って長い時間と労力がかかっていました。
その分、設計者の頭にも構造や鉄筋量、部材厚などの関係がしっかりとたたきこまれ、構造物の設計を重ねるごとに経験値として頭の中に蓄積され、それが「勘」として設計の善しあしを判断する物差しとして機能していたのではないでしょうか。

 システムAで活用されている他の構造物の設計データと比較する方法は、インターネット社会ならではの名人の知恵を借りる方法だと思いました。発注者や設計者、施工者の内部で情報共有を行える場合は、ある程度、有効に使えるでしょう。

 しかし、一つの組織だけが持つデータ量ではまだ不十分でしょう。この方法がうまく機能するためには、橋梁の場合にはいろいろなスパン、橋梁形式、設計基準などに基づく様々な「公開データ」をできるだけたくさん集めることが必要です。

 「他人のデータは活用したいけど、自分のデータは出したくない」という傾向があり、思うようにデータの蓄積は進んでいないのが現状のようです。ここに今後の課題がありそうです。

 この課題をどう解決するべきか。まずは、設計チェック支援システムを多くの構造物を管理する公的な発注者に使ってもらうことだと思います。自分たちが設計をチェックする上で一番基本となるシステムAを便利に使うためには、たくさんのデータがあった方が便利なので、まずは内部の業務改善のためのデータ蓄積を狙います。

 その便利さが分かってくると、設計成果品の納品時に構造物の基本的な諸元を登録する制度の創設にもつながるのではないでしょうか。

 または、システムAに必要なデータは、設計の機密性を損なうほどの内容ではありませんので、良質な構造物を日本国内で構築するための連携として、設計チェック支援システムのユーザー間でのデータを公開し合う「コンソーシアム」のようなものを作ってもいいかもしれません。


●製品の今後の展望
 「最小の労力で、最大の精度」を追求する設計チェック支援システムが開発できた裏には、建設コンサルタントを前身とするフォーラムエイトの設計力や解析力がありました。

 構造物の設計チェックを行う場合、どの部分に目を付ければ確実なチェックが行えるかを、構造物ごとにリストアップし、それをシステムに入出力項目として実装していく作業には、構造技術者とソフトウエア開発者の連携が欠かせません。

 現在、設計チェック支援システムの対象は橋梁構造物や擁壁、ボックスカルバートなどが中心ですが、今後は河川や下水道などの流量計算を必要とするものや、建物の構造など建築基準法との整合性をチェックするものなど、対象とする構造物の拡張が求められていくと思われます。

 すると、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のモデルデータから構造物の諸元や寸法、形状を読み取ってチェックするシステムへと発展していく可能性があります。

 昔は紙の図面や設計計算書を見て設計の名人が直感でミスを発見しましたが、構造物をデジタルモデルで表すことにより、名人の役割をコンピュータが果たせるようになりつつあるのでしょう。

●次回は、「スパコンクラウドサービス」体験セミナーをレポート予定です。

     
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