はじめに
建設ITジャーナリストの家入です。大雨や地震などのとき、山間部の斜面が崩れて土砂と水が混ざって渓流を流れ下る土石流は、すさまじい破壊力を持っています。放っておくと、渓流だけでなく平野部まで流れ下り、人々の命を脅かします。
フォーラムエイトでは、土石流対策のソフト開発に力を入れており、様々な製品を発売しています。例えばUp&Coming2019年10月号の当コーナーでは、フォーラムエイトの「地すべり対策ソリューション」の数々を紹介しました。
今回の体験セミナーでは、土石流の被害を食い止める“最後の砦”ともいえる砂防堰(えん)堤を3Dモデルで設計する「砂防堰堤の設計・3DCAD」がテーマとなりました。
もし、砂防堰堤がないとどんなに被害が広がるかは、次の「土石流シミュレーション」の結果を見てもらえば一目瞭然です。もし、砂防堰堤がなければ土石流が扇状地に沿ってひろがり、平野部に大打撃を与えてしまいます。
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▲砂防堰堤の例。香川県内場川砂防事業。「不透過型」を採用している |
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国土交通省が推進する「i-Construction」施策も、砂防・地すべり対策分野に拡張されつつあります。地すべり対策に3Dモデルを活用するCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)試行に向けて、CIMモデルの詳細度や作成方法を記載した「地すべり対策編(素案)」が2018年度に作成されました。
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▲「土石流シミュレーション」による解析結果。砂防堰堤なしの場合は、
扇状地に沿って土石流が広がり、大打撃を与える |
▲砂防堰堤ありの場合は、被害は最小限に抑えられる |
製品概要・特長
「砂防堰堤の設計・3DCAD」は、「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説および土石流・流木対策設計技術指針 解説」に準拠して設計計算を行うプログラムです。
砂防堰堤は従来、重力式コンクリートダムのように河川断面をふさぐような形をした「不透過型」と呼ばれるものが主流でしたが、最近はコスト削減や河川環境保護のため、河道の真ん中にスリットを設けて水や砂を通せるようにした「透過型」や「部分透過型」もあります。このプログラムは、これらすべてのタイプの砂防堰堤に対応しています。
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▲プログラムは不透過型、通過型、部分通過型の砂防堰堤に対応している |
このプログラムは、荷重に対する設計の照査だけではなく、2次元図面やCIMモデルの自動作成機能も持っています。砂防堰堤は、直線的な形ではあるものの、複雑な渓流の地形に合わせ、流水量に対応した設計を行うため、1つ1つ大きさや形が違います。
また今後、i-Constructionが砂防堰堤分野に適用が広がると、設計業務や工事の成果品として、砂防堰堤の3Dモデルを提出しなければならない日もやってくるでしょう。しかし、砂防堰堤のように傾いた部分が多い構造物を3次元CADでCIMモデルを作って行くのは結構、手間がかかりそうです。
「砂防堰堤の設計・3DCAD」は、CIMモデルを自動的に作成するツールとしても、生産性向上に大きく貢献しそうです。
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▲部分透過型(左)と不透過型(右)の計画捕捉量の違い |
▲buildingSMARTの「IFC検定」に合格した
BIM/CIMモデルのIFC変換機能 |
体験内容
2月25日の午後1時半から4時半まで、フォーラムエイトの東京本社で「砂防堰堤の設計・3DCADセミナー」が開催されました。講師を務めたのは、フォーラムエイトUC-1開発第1グループの成松さんです。いつものように、テレビ会議システムを通じて札幌、岩手、仙台、名古屋、金沢、大阪、福岡、宮崎、沖縄の合計10会場にも配信されました。
そして、最近の話題としては、新型コロナウイルスの流行により、従来のように多くの参加者が集まるセミナーが行いにくくなっていることもあります。そこでフォーラムエイトでは、今回のセミナーを「WEBセミナー」として、会場以外の場所でも受講できるようにしました。
ちなみに3月以降に開催予定のフォーラムエイト主催セミナーでは、視聴のみの「Webセミナーライブ」(参加費は、有償セミナーが9000円、無償セミナーは無料)と、視聴に加えて講師への質疑応答が可能な「Webセミナーインタラクティブ」(同、1万8000円、無料)という2種類のWebセミナーがラインアップされています。VRやスパコン分野で、早くからクラウド化に取り組んできたフォーラムエイトらしく、セミナーのクラウド化への対応も、大変、スピーディーですね。
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▲2月25日 東京本社を本会場として全国各所TV会議にて開催。
今回はWEBセミナーでも多数の受講者があった。 |
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今回のセミナーでは、プログラムの機能を説明した後、設計計算に準拠している基準として「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説 平成28年4月」と、「土石流・流木対策設計技術指針 解説 平成28年4月」の解説も行いました。
砂防堰堤を設計する上での主なポイントは、(1)川の設計流量を算出すること、(2)水を流下させる「水通し」の幅や高さを設計すること、(3)設計外力に対する安定計算を行うことです。
設計基準では、それぞれの理論に基づく計算式やパラメーターが用意されており、セミナーではどんな場合にどんな計算式やパラメーターを使うのかについて、詳しい説明がありました。
このほか、砂防堰堤がせき止める土砂や流木の量である「計画捕捉量」の計算も重要です。この製品の元になった「砂防堰堤の設計計算」では、砂防堰堤単体の安定計算をメインに計算していたので、これまで砂防計画に関する機能がありませんでした。今回、新たに搭載された「計画捕捉量の概算」機能は、砂防計画に関する初めての機能となっています。
計算結果に基づいて、図面や数量計算書の作成が自動的に行われます。そのため、成果品の作成作業が大幅に効率化されます。このほか、i-Constructionの砂防堰堤分野への拡張を視野に入れた機能として、砂防堰堤の3Dモデルを作成し、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)/CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)モデルのデータ交換標準である「IFC形式」に書き出す機能も用意されています。IFC形式の書き出し機能は、一般社団法人 buildingSMART Japanが実施する「IFC検定」に2019年4月18日に合格していますので、他社のBIM/CIMソフトとデータ交換する際も安心です。
一連の解説が終わった後、休憩をはさんで「砂防堰堤の設計・3DCAD」を実際に使いながら、ケース1として「不透過型砂防堰堤」、ケース2として「透過型砂防堰堤」の設計計算から図面作成までの一連の操作実習を体験しました。
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▲ケース1:不透過型砂防堰堤 |
▲ケース2:透過型砂防堰堤 |
砂防堰堤の設計流量を計算するためには、渓流横断面を覆うように堰堤の高さや位置を設定しなければいけません。この作業は複雑な渓流横断図を画面に表示させながら、堰堤が断面を覆うように調整するなど、ビジュアルな方法を使いました。
また、砂防堰堤には本堤の下流部に「副堰堤」が設けられ、その間には本堤を越えてジャンプしてくる水流を受け止める水叩き工と側壁があります。これらも経験式や半理論式を使って計算します。
続いて任意の荷重に対する堰堤の安定計算と渓流横断部にたまる計画捕捉量を算出すれば、計算は終わりです。
そして最後にこれらの計算結果をもとに図面や数量表、CIMモデルを自動作成します。
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▲砂防堰堤が渓流横断面をカバーするように位置や高さを調整する作業 |
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▲本堤(右側)と副堰堤(左側)の間に設ける水叩き工の設計イメージ |
▲計算結果をもとに図面やCIMモデルなどを自動作成する |
イエイリコメントと提案
フォーラムエイトは30数年前から様々な土木構造物の設計プログラムを開発・販売してきました。従来は設計計算書を効率的に作成することが、プログラムの主な目的だったと思います。
しかし、今回のセミナーの題材となった「砂防堰堤の設計・3DCAD」(製品価格:232,000円)という製品は、末尾に「3DCAD」が付いていることでわかるように、i-Constructionの中核とも言える3DのCIMモデルを自動作成する機能が含まれていることも、大きな意味を持っています。
CIMモデルの活用が増えたとは言え、一から3Dモデルを作って行くことができる人はごく限られています。しかし、作られたCIMモデルを部分的に修正したり、変更したりという程度ならできるという人はかなり多いと思います。
今回の「砂防堰堤の設計・3DCAD」は、設計計算が終わると基本となるCIMモデルまで自動的に作ってくれますので、後は現場の細かい条件に応じて部分的に修正するだけで、従来よりもスピーディーかつ簡単にCIMモデルの作成までが行えます。今後は「砂防堰堤のCIMモデル自動作成プログラム」というネーミングでマーケティングを行っていく方法もありそうです。
新型コロナウイルスの流行によって、在宅勤務を採用する企業が急増していますが、これをキッカケとして在宅勤務やWEBセミナーのよさが多くの人に理解されると、クラウドを使って「移動のムダ」をなくした働き方改革やイベントの開催などが増えてくるかもしれませんね。フォーラムエイトのソリューションにはクラウドに対応したものが多いので、今後の新しいワークスタイルを先取りしたものと言えそうです。
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