●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。工事の入札価格をはじき出す積算作業のイメージは、図面から掘削土量やコンクリートの打設数量、鉄筋量などを1つ1つ拾っては、施工条件に応じた歩掛や単価を積算用の資料を見て記入していくという地道なものがありました。
ところがこうした作業はIT(情報技術)の導入で、変わりつつあります。例えば、土木構造物の設計ソフトで作成した3Dモデルや図面から数量データを取り出して積算用に使う、電子データとして提供される単価データベースを利用する、といったことです。こうしたデータの有機的な活用により、手作業による入力が減り、積算作業が効率化してきました。
また、発注者側も積算が効率的に行えるよう、機械土工や擁壁工、橋梁の踏掛版など標準的な工種については、含まれる工種をひとまとめした単価をもとに積算する「施工パッケージ型」の積算基準が平成24年度に導入されました。以後、毎年「施工パッケージ型」への移行が進んでいます。
平成26年度の国土交通省土木工事積算基準の改定では、土木インフラの補修・維持管理のニーズ増大を反映して、橋梁の断面補修やひび割れ補修、表面被覆工などの維持修繕に関する標準歩掛が新設・改定されました。
また、施工個所が点在する工事の間接工事費も1kmの範囲内にある施工個所ごとに算出するように改定されたり、小規模施工用の間接工事費率が改定されたりしました。
このほか、工事の一時中止に伴う費用の算定方法や、東日本大震災で被災した3県で、建設機械損料の見直しが行われました。そして44工種が「施工パッケージ型」に移行したのです。
▲施工個所が点在する工事の間接工事費算出イメージ
●製品の特長
積算作業は、頻繁に改定される積算基準や単価の最新情報を常にチェックする必要があり、幅広い知識と熟練を要するものです。フォーラムエイトでは、こうした積算作業にITを生かすことで、ユーザーが様々な情報やデータを「連携」しながら「簡単」に使え、必要に応じて「サポート」も受けられるようにした積算システム「UC-1 Engineer's Suite積算」を開発・提供しています。
まず、積算で多くの手間がかかる数量データについては、UC-1 Engineer's Suiteの製品と連携することで積算効率を高めています。
例えば「橋台の設計」、「橋脚の設計」、「ラーメン橋脚の設計」、「BOXカルバートの設計」、「擁壁の設計」、「柔構造樋門の設計」、「土留め工の設計」、「仮設構台の設計」など、図面機能を持つ製品との連携を先行して行っています。
これらのUC-1 Engineer's Suite製品からは、積算に必要な数量などの情報を取り出した 「F8積算連携ファイル(FLK形式)」を書き出し、UC-1 Engineer's Suite積算はそのファイルを読み込むことでデータ連携を行っています。
また、ExcelやPDF形式の設計書を読み込むこともでき、積算のもとになる数量をスピーディーに取り込めるようになっています。
最近の建設需要の高まりを反映して、頻繁に変わる工事費の単価データは、建設物価調査会の「建設物価」や「季刊 土木コスト情報」、経済調査会の「月刊 積算資料」、「季刊 土木施工単価」などの単価データベースと連携することで、最新の情報を間違いなく積算に使えるようにしています。
平成24年度から導入された「施工パッケージ型」積算に対しては、橋台と接続する道路を段差なくスムーズにつなぐために設けられる「踏掛版工」などのパッケージが用意されています。
▲踏掛版工の施工パッケージ型積算機能
●体験セミナーの内容
3月17日の午後1時30分から行われた体験セミナーに参加しました。講師を務めたのは宮崎支社UC-1開発第2グループの岡崎正さんです。テレビ会議システムによって、宮崎支社、仙台事務所、東京本社の3会場を中継して行われました。いつものように、テレビ会議システムの音声や映像はクリアで、まるで目の前に講師が立っているかのような臨場感です。
冒頭の45分間は、「UC-1 Engineer's Suite積算」や、土木工事積算基準についての解説があり、その後、このソフトの大きな特徴でもある「施工パッケージ型積算」の実習に移りました。
▲課題の平面図
▲課題の標準断面図
題材は河川の築堤護岸工事です。川の上流から採取した約1500m3の土砂で既存の堤防をかさ上げし、高水護岸にコンクリートブロック張り、低水護岸に間知ブロック積みを施工する、という内容です。この工事を宮崎県内で行うという条件で、直接工事費(掘削工)と間接工事費(運搬費)を、土木工事積算基準マニュアルに基づいて算出しました。
直接工事費の算出は、ツリー状に整理されている工事工種を順にたどって入力していきます。例えば「掘削」の場合は、「築堤・護岸」→「河川土工」→「掘削工」→「掘削」という順にたどりながら入力していきます。
▲ツリー状に整理された工種をたどって「掘削」を入力する
次は単価の入力です。直接工事費の名称欄に現れた「掘削」の行を選択し、「単価検索」のボタンをクリックすると、単価データベースが起動します。そこで単価の年度と月を選び、「施工パッケージ型単価」のタブをクリックすると、単価データが表示されます。
▲施工パッケージ型積算用の単価
その画面で「掘削」を選び、さらに「土質:土砂」、「施工方法:オープンカット」、「押土の有無:無し」、「障害の有無:無し」、「施工数量:50,000m3」など、施工方法や現場条件に合ったものを選んでいくと、「197.9円」という施工パッケージ型積算用の単価が自動的に入力されます。
最後に施工数量を「1500m3」と入力すれば、数量(1500)と単価(197.9)を掛け合わせた金額「296,850円」が積み上げられます。
▲積み上げられた直接工事費
その後、間接工事費として土砂の運搬費を算出します。直接工事費の算出と同じようにツリー状の工種をたどって入力し、単価データベースから該当する単価を検索して入力する、という方法で行います。
最後にイメージアップ経費、共通仮設費、現場管理費、一般管理費を基準の式に従って計算すると、合計の請負工事費が2,095,200円と算出されました。
▲算出された請負工事費
約10分間の休憩をはさんで、実習は後半に入りました。ここではUC-1 Engineer's Suite製品との連携や、計算書取り込みによる積算を体験します。
前述のように、UC-1 Engineer's Suite製品は、設計した土木構造物の設計データから、積算連動用ファイルとして「FLK形式」を書き出せるものがあります。
▲積算連動用のFLKファイルを読み込む
実習では設計ソフト「橋台の設計」から書き出したFLKファイルを読み込みました。すると、積算用の画面には橋台を構成する「胸壁」や「左翼壁」、「踏掛版」など、多数の部材の名前や規格、数量が既に積算基準の階層に従って入力されています。
あとはそれぞれの部材に対して、単価データベースから最新の単価を割り当てるだけです。橋台の工事費として、「5,931,898円」がスピーディーに計算できました。
最後に「金抜き設計書」と呼ばれる数量総括表をExcel形式などで読み込み、単価データベースを割り当てて工事費を積算する体験を行いました。
●イエイリコメントと提案
積算は人間の判断による部分が大きく、建築分野ではBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のデータを使っても、効率化できるのは2〜3割と言われています。
しかし、土木の図面は建築と異なり、鉄筋の1本1本に至るまで書かれているので、図面やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)のデータと連携した場合には、かなりの効率化が図れそうです。
単価を設定する際には、施工方法や現場条件、数量などによって人間が選んでいくようになっていますが、3Dや時間軸を加えた4Dによる施工シミュレーションで、これらの条件を入力し、積算まで連携するシステムが今後、できてくれば積算もほぼ自動化することが期待できます。
●製品の今後の展望
現在、UC-1 Engineer's Suite製品と積算とは、FLK形式によって連携しています。さらに一般的なCIMモデルからFLK形式に書き出せるコンバーターが実現できれば、UC-1 Engineer'sシリーズだけでなく、広範なCIMソフトとの連携も可能になるでしょう。
建設会社にとっては、単価データベースを自社歩掛によって構築することも、利益確保に対するリスクを減らす上でますます重要になってきます。
これまで"どんぶり勘定"だった自社の施工原価を見える化し、経営力を強化していくためにも、UC-1 Engineer's Suite積算は有力なツールになりそうです。
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