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連載 【第8回】
「疲れ」に対するセルフケア
疲れない生活を目指して
profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬塾
クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録医・評議員、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著など多数。


仕事と日常生活に追われ睡眠時間も短くなり、気が付けば週末には家でゴロゴロして、身体はだるく、「疲れ」を感じてはいませんか。「疲れ」は疲労のことですが、不定愁訴としての疲れ、多様な疾患の自覚症状として全身倦怠感を今回とりあげ、統合医療の視点から疲れない生活を目指して考えてみます。

疲れと全身倦怠感

   
  日本疲労学会では、「疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義しています。過度の身体へのストレスによって、ホメオスタシス(生命を維持するために身体の状態や機能を一定に保とうとする恒常性)を保つことができず、疲れが生体防御反応としてアラームの役目になっています。主観的な多岐にわたる自覚症状の訴えの一つとして疲れがあり、検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる疾患が分からない場合の不定愁訴の一つにもあげられます。つまり未病の状態であるといえます。そして回復しない疲れが長期間続くことで「全身倦怠感」として受診するようになります。「全身倦怠感」は身体がだるい自覚症状です。表1にあげたように全身倦怠感の特徴によってその背後には身体疾患や精神疾患があります。
全身倦怠感の特徴
身体疾患
によるもの
気力はあるが、やりとげられない、急性発症、期間が短い、休息・睡眠で軽快、労作で悪化、体重減少、見た目がつらそう。
精神疾患
によるもの
行動自体やる気がしない、長期間持続、休息で改善しない、付随するさまざまな身体症状、何らかのイベントに引き続き起こる、抑うつ的、きついといいながらもやり遂げる。
労作ではむしろ倦怠感はかんじない、睡眠障害がある。
複合によるもの 多くの身体疾患も長期化すると精神的要素が加わってくる。すでに精神的な部分が前面に立っている場合もあり、わかりにくいが、必ず発症時の状況を詳しく尋ねるようにする。どちらが先かわからない。
表1 全身倦怠感の特徴(内科外来マニュアル:医学書院より)
 
 


疲れのメカニズム

痛み、発熱、疲労は身体にとっての生体防御反応ですが、痛み、発熱のメカニズムがかなり解明されているのに対し、疲労が起こるのは複合的な原因であることから十分わかっていません。疲労を身体的疲労(末梢性)と脳疲労(中枢性)に分けて考えますが、末梢性疲労のメカニズムとして筋肉細胞、神経細胞の過活動から酸化ストレス状態が生じ、重要なタンパクや脂質などが酸化され、細胞そのものや細胞内器官などが傷害されることが分かっています。このことで免疫系細胞が応答して修復を試みるのですが、この修復エネルギーが十分でないと疲労が遷延します。かつては乳酸が筋肉疲労の原因とされてきましたが、乳酸は疲労原因物質でなく、疲労回復に役立つ重要な分子であることが分かっています。

 

 

一方脳疲労では身体に「疲れた」という信号を出すことで、私たちは「なんとなく全身がだるい」と感じるようになります。脳は常に体温や血流、呼吸をコントロールしてベストな状態に保ち続ける指令を出しています。また言語や理論に関係する大脳新皮質と、本能的な欲求や感情を司る大脳辺縁系は情報交換を行い、間脳は双方から指示を受け自律神経や食欲をコントロールしています。身体的な疲労から休みたいという大脳辺縁系からの情報と「働かなければならない」と大脳新皮質からの矛盾した指令が間脳にとどくことで自律神経や食欲を制御できなくなり、不眠や過食などが起こることもあります。
脳疲労の原因としてセロトニン過剰仮説より、セロトニン系疲弊仮説が最近わかってきています。

日常生活での「疲れ」ないためのセルフケア

基本的にはストレスマナジメントと同じで、働き過ぎない、エネルギーを使いすぎないようにすること、意識的に心も身体も「休める」「ゆるめる」ことが大切です。その中で食や睡眠に気を付け、適度の運動やりリラクゼーションを取り入れましょう。

1.食・栄養
抗炎症食;抗酸化作用の食品をとる
抗炎症ピラミッド(図1)を参照にしてください。

  • 食べものはできるだけ新鮮なもの、できるだけ自然なかたちに近いもの
  • 抗酸化物質を多く含むものをとる
  • 食事中のオメガ3脂肪酸を増やす
  • グリセミックロードが低い炭水化物を食べる
  • フィトケミカルを含む野菜と果物をたくさん食べる
抗疲労食品;ビタミンC、コエンザイムQ10、茶カテキン、D-リボース、クエン酸、クロセチン、ビタミンB1誘導体、イミダゾールジペプチド(カルノシン、アンセリン)などがいわれています。

2.質の良い睡眠

  • 午後11時から翌日午前6時までの7時間がベスト
  • 就寝と起床の時間を規則正しくし、寝床は暗いところで点滅する光がないようにする。概日リズムを考え、起床時明るい光にあたる
  • 夕食は抜かない、就寝時間1時間以上前にすませる
  • 遅い時間に運動をしない。
    刺激の強すぎる行動;テレビを見ること、コンピューターで仕事をすることを避ける。その代わりにリラックスできる本を読むか、静かな音楽を聴く

3.ウォーキングの習慣
1日10分程度を3回など合計で1日30分程度

4.呼吸によるリラクゼーション
4・7・8呼吸(Dr.Andrew Weil)

図1 抗炎症食(4・7・8呼吸:わかさ出版より抜粋)
 


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