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WebLesson:#8

多層ラーメン構造 −中層RC造建築の動的応答挙動−

株式会社 フォーラムエイト 技術サポートグループ

はじめに
オフィスビルや集合住宅を始めとして,中層および高層建築が広く普及している。近年,高層化が著しく,50階建てに及ぶ超高層マンションも出現し,その高さも200m近くに達している。
1998年より建築確認申請業務が民営に広く開放されたこともきっかけとなり,一般集合住宅向けの中高層建物に対する動的解析が,計算環境の発達とともにめざましく普及している。
一方,兵庫県南部地震では,1981年以前の建築基準法に従って設計された建物が多くの被害を受けたことは記憶に新しい。さらには,1981年以降の新耐震に従って設計された建物は,被害総数としては少なかったものの,地盤増幅によって大きな揺れを生じ,被害を生じた例もある。兵庫県南部地震以降,その観測記録を超える大きな地震は頻発しており,入念な安全性評価が必要である。また,建物本体の被害は軽微であっても,エレベータ,上下水道等の設備が被害を受けると,日常生活に支障をきたした例は多い。
ここでは,鉄筋コンクリート構造の4階立て建物を対象にして,3次元骨組みモデルを用いた動的非線形解析を実施し,地震時に生じる建物の被害程度の推定を試みる。


写真−1 RC造建築の例:4層(左)および6層(右)純ラーメン構造


1. 解析概要

写真−1に示す,RC造建築構造物の例(4層および6層純ラーメン構造)であるが,本例では,このようなRC造純ラーメン構造を標準化して,図−1(a)に示すような4層ラーメン構造(階高4.5m,軒高13.5m)を設定し,梁/柱の断面諸元についは,図−2(b)および表−1のように設計した。これは,現行の建築基準法を概ね満足する耐震性能を有するものである。なお,短辺方向には耐震壁による抵抗が期待できるが,長編方向には期待できない構造となっている。
 このような構造物を3次元骨組み構造にモデル化し,断面にはファイバーモデルを適用して,2軸曲げを受ける非線形挙動を忠実に表し,動的非線形解析を実施する。


図−2 解析対象:標準化した4層ラーメン構造

表−1 設計条件と諸元
使用材料 コンクリートσ’ck(N/mm2) 24
軸方向鉄筋 σy(N/mm2) 345(SD345)
帯鉄筋 σy(N/mm2) 345(SD345)
形式 建物 4階立てRC造 (地階無し)
基礎 べた基礎


2.解析条件と解析モデル

図−2(a)のような構造物を,3次元骨組み構造にモデル化(図−3(a))する.1層分の部材は,図−3(b)のように塑性化が想定される梁および柱の端部に,ファイバーモデルを用いた梁要素を適用し,柱/梁接合部には剛域を設けた。各層の上層下半分と下層上半分の重量を,各層床位置に集中させる。基礎底面は,柱株位置において水平・鉛直方向を固定条件とする。
また,解析条件ついては表−2に一覧化したように,ファイバー要素と梁要素には材料非線形モデルを与え,かつ幾何学的非線形を考慮することによりP-Δ効果を取り入れる。
入力地震動は,兵庫県南部地震(1995)において,神戸海洋気象台で観測された加速度記録を利用する。解析Caseは表−3に示したとおり3ケースを設定した。Case1は,最大速度を50kineで基準化した地震動を,建物長辺方向(=X方向)に入力する。Case2は,X方向の入力地震動の最大速度は,Case1と同じ50kineであるが,実際の地震と同様に水平2成分を同時に入力する。Case3は,Case2と同様の加振方向であるが,90kineの地震動強さで入力する。
ここで採用した入力地震動の強さは,動的応答解析を適用した超高層建築物の耐震設計,および過去の観測記録に基づくもので,次のとおりである。
 ・50kine:建築構造の設計において「希に起こる地震動の強さ」とされている大きさ
 ・90kine:兵庫県南部地震において,神戸海洋気象台で観測された地震動の大きさ


図−3 解析モデル:立体骨組み構造


表−2 解析条件
解析種別 動的非線形解析
(Newmark-β法,β =1/4,冲=0.01sec)
幾何学的特性 大変位
減衰 要素別剛性比例減衰
粘性減衰定数:2%
部材 梁・床 線形梁+非線形梁(ファイバー要素)
耐震壁 無視
線形梁+非線形梁(ファイバー要素)
基礎 完全固定
地震動 兵庫県南部地震(1995.1.17)観測波形
(神戸海洋気象台)

表-3 解析Case
  加振方向 X方向地震動
最大速度(kine)
柱主鉄筋 備考
X Y Z
Case 1 - - 50kine D25×16 標準ケース
Case 2 建築基準法想定レベル
Case 3 90kine 兵庫県南部地震レベル


3.解析結果

1)その1:ひずみ,および,変形による被害程度の評価

  • 図−5(Case1):コンクリートの損傷状況
    コンクリートの最大圧縮ひずみの分布を4段階で表している。損傷レベル3は,終局ひずみε’cu(ここではε’cu=0.0035)を超える損傷となるが,抵抗力は未だ保持している状態である。1階隅柱基部において,損傷レベル2と3が認められるが,他の部位ではそれより小さい損傷レベルである。

  • 図−6(Case1&2):1階隅柱の損傷状況とコンクリートの履歴
    Case1と2の柱の損傷状態は,次のとおりである。
      Case1: コンクリートの損傷レベルは「3」であるが,被りコンクリートのごく一部に生じている程度である。十分な鉛直支持機構を保持している状態と推察される。
      Case2: 同様に,コンクリートの損傷レベルは「3」であるが,柱内部(コアコンクリート)までに達している。鉛直支持機構は保持されていると推察されるものの,余震に対する安全性低下が懸念される。

  • 図−7(Case3):コンクリートの損傷状況と最終変形状態
    同様に,最大圧縮ひずみの分布を4段階で表している(左図)。コンクリートが軸方向に対する抵抗をほとんど失う,損傷レベル4(ここではε’c≧2×ε’cu)にまで達している。大きな地震動が作用したことにより過大な水平変形が生じるとともに,P−Δ効果により大きな曲げが柱に付加され,鉄筋の座屈や被りコンクリートの剥落が顕著となり,鉛直支持力が低下して建物が傾いている。また,耐震壁の抵抗が期待できない長辺方向に傾き,倒壊に至っている(右図)。


図−5 コンクリートの損傷状況 (Case1)




(a)Case1



(b)Case2




図−7 コンクリートの損傷状況(左)と最終変形状態(右)(Case3)

2)その2:時刻歴波形
  • 図−8(Case1&2):最上層における変位軌跡
    横軸はX方向変位,縦軸はZ方向変位を表し,上から建物を見た時の変位応答の軌跡を表している。Case1では,X方向への地震入力のみとなるため,変位軌跡はほぼ直線状になる。Case2では,X・Z方向同時に作用する地震入力となるため,複雑な軌跡となっている。

  • 図−9(Case1&2):1階隅柱における軸力〜軸ひずみ履歴と時刻歴図
    軸力〜軸ひずみの履歴(左図)と,軸力応答の時刻歴波形(右図)を示している。Case1では,軸力応答は圧縮領域内にとどまるが,Case2ではわずかに引張領域に達している。死荷重時の軸力は約1200kNであるので,死荷重時軸力の約2倍の幅で,軸力が変動していることになる。

  • 図−10(Case1&2):2層目床位置における応答変位の時刻歴図
    左図にX方向の,右図にZ方向の応答変位の時刻歴波形を示す。X方向では,最大応答変位が48mmに達しており,層間変形角にして1.1/100(=48/4500)に達している。Z方向の最大応答変位は15mmで,X方向に比べると非常に小さいが,これは,剛性の高い耐震壁が有効に作用しているためといえる。


図−8 最上層における変位軌跡(Case1&2)

図−9 1階隅柱における軸力〜軸ひずみ(左)と時刻歴図(右)(Case1&2)

図−10 2層目床位置における応答変位の時刻歴図[X方向(左)・Z方向(右)](Case1&2)


3)その3:曲げモーメント〜曲率履歴
  • 図−11(Case2&3):1階隅柱の基部断面の曲げモーメント〜曲率履歴
     1階隅柱の基部断面について,直交する2軸に関する曲げモーメント〜曲率の履歴を示している。Case2では,死荷重作用時の軸力できまるM−φ関係の幅に収まっているが,zp軸回りでは,終局に達するほどの大きな応答が生じている(左図)。一方,それと直交するyp軸回りのM−φ履歴は,死荷重時のM−φ関係に比べ,曲げモーメントの最大値は大きく低下している(右図)。これは,zp軸回りの大きな応答が,それと直交しているyp軸回りの抵抗力(=耐力)を低下させたためである。2軸曲げが作用する棒部材の非線形挙動における,最大の特徴といえる。この傾向は,Case3においても同様であるが,zp軸回りにおいて曲げモーメントが軟化域に達するほどの過大な応答が生じており,yp軸回りの曲げに対する抵抗力はさらに減少している。
図−11 1階柱基部断面の曲げモーメント〜曲率履歴(Case2,Case3)

4.考察
  • 本例の場合,建築基準法で想定されている地震動(最大速度50kine程度)が作用した場合では,倒壊・崩壊は生じない。
  • ただし,地震動が2方向同時に作用すると,倒壊は逃れているように見えるが,建物全体が傾いており,地震後に建替え,または,大規模の補修/補強が必要と推察される。
  • 水平地震動を建物の1方向だけに作用させると,このような損傷が再現されず,地震時の損傷を過小評価している可能性がある。
  • 兵庫県南部地震で記録した地震動(最大速度90kine程度)が作用すると,この建物は倒壊する結果となり,人命に関わる被害が生じる。
参考文献
[1] 株式会社日建設計東京オフィス構造設計室:建築物の性能設計と検証法,オーム社,2003
[2] 吉川弘道:鉄筋コンクリート構造物の耐震設計と地震リスク解析, 丸善, 2008.1


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