WebLesson:#11
3次元動的非線形解析による橋梁の被災度推定
〜加振方向及び加震方法の影響〜
株式会社 フォーラムエイト 技術サポートグループ |
近年,加速度応答スペクトルをみれば,周期帯域によっては兵庫県南部地震を大きく上回る強さの強震記録が得られており,地震時安全性の照査にこのような記録を用いることがある.
強震記録を用いて地震時安全性の照査を行う際,地震動の方向性に配慮する必要がある.そこで,RC橋脚を有する5径間連続免震橋を対象に,まず,K-NETの強震記録を用いた3次元動的非線形解析を行い,地震動の方向性の影響を示す.そして,その結果から,復旧性の判断に利用される「被災度」に与える影響を,合わせて示す. |
Key Word:地震動,ひずみ,被災度,動的非線形解析 |
1. 解析対象
1.1 解析対象
解析対象は,図-1に示す,支間40m,高さ10m,5m×2.2m断面のRC橋脚を有する5径間連続免震橋である.
(a)全体図
|
正面図 |
側面図 |
平面図 |
図-1 対象構造物一般図 |
表-1に,構造諸元および設計条件を示す.本橋梁は,高減衰積層ゴム支承を有する免震橋で,地震時保有耐力方に基づき設計されている.図-2に,橋脚断面の配筋図を示す.軸方向鉄筋はD29を1.5段配筋とし,横拘束筋として帯鉄筋および中間帯鉄筋を配置している.ここでは,全橋脚同一断面とする.図-3に,本橋梁の橋脚の,タイプ2地震動に対する水平荷重−水平変位関係を示す.橋軸方向の靭性率は280/32.1=8.7,直角方向は169/24.5=6.9で,直角方向は橋軸方向の約2倍の耐力を有している. |
表-1 構造諸元および設計条件
形式 |
5径間連続免震橋 |
重要度の区分 |
B種の橋 |
地域区分 |
A地域 |
耐震設計上の地盤区分 |
I 種地盤 |
地盤条件 |
N値50(軟岩)の支持層 |
活加重 |
B活荷重 |
使用材料 |
コンクリート |
σck=21N/mm2
Ec=23.5kN/mm2 |
鉄筋 |
SD295
Es=200kN/mm2 |
橋脚 |
T型橋脚 |
基礎 |
直接基礎 |
支承の種類 |
高減衰積層ゴム支承 |
柱高さ |
10.0m |
スパン |
40m×5径間 |
幅員 |
全幅員12,000m |
固有周期 |
橋軸方向 |
0.86s |
橋軸直角方向 |
0.68s |
|
図-2 配筋図
|
|
|
(a)橋軸方向 |
|
(b)橋軸直角方向 |
図-3 水平荷重−水平変位関係(タイプ II ) |
1.2 解析モデル
(1)骨組みモデル
図-4に,解析対象の外観図,解析モデルの要素分割図の立体図と要素分割図を示す.同図(a)は全体図,同図(b)は橋脚の詳細図である.
解析モデルは,節点数115,要素数101(うちファイバー要素は16)で構成されている.橋脚柱部の基部2D区間にファイバー要素を用い,フーチングは剛域,免震支承はばね要素,その他の部材は弾性梁要素でモデル化している.
|
|
|
外観図 |
|
要素分割図 |
(a)全体図 |
|
|
|
外観図 |
|
要素分割図 |
(b)橋脚
図-4 連続桁橋の立体図と要素分割図 |
|
(2)材料非線形履歴モデル
図-5に,ファイバー要素に適用する材料非線形履歴モデルを示す.同図(a)はカバーコンクリートに適用する材料非線形履歴モデル(=応力ひずみ曲線)で,圧縮強度(=ピーク)に達した後,σ=0の点まで降下する.同図(b)は,コアコンクリートに適用する材料非線形履歴モデルで,横拘束効果を反映したピーク応力σ’ccに達した後,緩やかな勾配で応力は降下するが,0.2・σ’ccを保持するものとしている.なお,カバーコンクリートは横拘束効果を考慮しないため,ピーク以降の勾配について,コアコンクリートよりも大きな値(=急激に応力が低下する)とし,10kN/mm2を与えている.同図(c)は,鉄筋に用いる材料非線形履歴モデルで,骨格はバイリニア型,履歴モデルは,堺・川島による修正M-Pモデルとしている.
|
|
|
(a)カバーコンクリート |
|
(b)コアコンクリート |
|
|
|
(c)カバーとコアの骨格 |
|
(d)鉄筋 |
図-5 材料非線形履歴モデル |
|
1.3 解析方法
ここでは,新潟県中越地震(2004年10月23日17時56分)の際にK-NET観測点で得られた,小千谷,小出,十日町,長岡支所の強震記録を用い,3成分(EW,NS,UD)同時に作用させるものとする.
この時,地震波の入力角度が,構造物の損傷に与える影響を検討するために,構造物(X-Z座標系)と方角(E-W軸)のなす角度θを,0度から180度まで10度刻みに変化させ検討する.この角度θは,
N-S軸と橋梁のZ軸のなす角度とし,図-6に示すようにN-S軸がZ軸に一致するときを0度と定義する. |
図-5 θ=0における橋梁と方角の関係 |
1.4 地震動
解析に用いる地震動の例を,図-6に示す.図(a)は十日町,図(b)は長岡支所における強震記録である.最大加速度については,十日町で1750Gal(3成分合成),長岡支所で921Gal(3成分合成)である.地震動の最大加速度だけで見ると,十日町の記録は非常に大きい.
EW方向 |
NS方向 |
UD方向
(a)十日町 |
EW方向 |
NS方向 |
UD方向
(b) 長岡支所
図-6 解析に用いる地震動 |
|
2. 動的非線形解析結果に与える加震方向の影響
2.1 最大圧縮ひずみの結果
後述する被災度推定に用いる指標に合わせ,ここでは,3次元動的非線形解析により得られた,コンクリートの圧縮ひずみε’cに着目する.
図-7(a)は,横軸に入力角度,縦軸に3次元動的非線形解析により得られた最大圧縮ひずみε’cとし,解析結果を整理したものである.地震動によって,最大圧縮ひずみの大きさが異なるとともに,いずれの地震動においても,最大圧縮ひずみが最も大きくなる入力角度の存在がわかる.
これを,より明確にあらわすために, 同図(b)のように整理した.これは,同図(a)の縦軸の値を,式(1)によって正規化した値である.
α=maxε’c/minε’c (式 1)
ここで,
maxε’c : 0°〜180°に入力角度を変化させたときの最大圧縮ひずみの最大値
minε’c : 0°〜180°に入力角度を変化させたときの最大圧縮ひずみの最小値
すなわち,αが大きい地震動ほど,強い方向性をもつと考えることができる.すると,同図(b)において,小千谷,小出,十日町,長岡支所のいずれの結果においても,最大圧縮ひずみが最も大きくなる入力角度,および,最も小さくなる入力角度が,明確に表れる.従って,いずれの地震動にも,方向性が強く存在すると考えられる.また,最大圧縮ひずみは,入力角度により4〜5倍程度変化し,入力角度に対し連続的に変化することも読み取れる.
ここで,図-7より,maxε’cおよびminε’cが生じる入力角度と,その差|θ2−θ1|を整理し,表-2に示した.|θ2−θ1|に着目すると,概ね90度程度であった.一般に,地震動の強さは,断層直行方向で最大となり,走行方向で最小となる特性から考えると,この角度差|θ2−θ1|は90度前後となることが予想される.これと,本解析結果の値は,概ね一致していた.
表-2 maxε’cおよびminε’cが生じる入力角度
|
観測点 |
maxε’c が生じる入力角度θ1 |
minε’c が生じる入力角度θ2 |
|θ2−θ1| |
連続桁橋 |
小千谷 |
50 |
140 |
90 |
小出 |
20 |
130 |
110 |
十日町 |
110 |
20 |
90 |
長岡支所 |
120 |
10 |
110 |
|
(a)最大圧縮ひずみε’cと入力角度θ |
(b)正規化した最大圧縮ひずみαと入力角度θ
図-7 入力角度による圧縮ひずみの変化 |
2.2 被災度の評価
(1)被災度の定義
一般に,被災度の判定は地震後の外観調査によって行われる.表-3は,日本道路協会:震災対策便覧に示される「橋脚基部に損傷が生じる場合」の被災度の判定表である(ただし,実際の被害写真を加筆).同表には,あわせて残留変形性能の目安が示されており,残留変形性能が0%とは,地震時の最大応答が終局状態に達したことを表している.
このような,外観の損傷状況をシミュレーション技術はまだ途上にあるため,解析結果に基づき被災度の評価・推定を行うには,現状では工学的指標に頼らざるを得ない.そこで,ここでは,ファイバー要素を用いた動的非線形解析の結果から得られる「応答ひずみ」に着目し,定量的に被災度を推定する方法を提案する.
震災対策便覧を基に,鉄筋,コアコンクリート,カバーコンクリートそれぞれの損傷状態と最大圧縮ひずみの関係を整理すると,次のようになる.
(1)鉄筋降伏後は被災度ランクC以上
(2)カバーコンクリート終局後は被災度ランクB以上
(3)コアコンクリート終局後は被災度ランクA以上
さらに,「コアコンクリートが破壊(圧縮ひずみで約10%)に至ったものは被災度ランクAs」と仮定する.これらを反映し,表-4に示す被災度推定表を作成した.
表-4 ひずみに基づく被災度推定表
被災度 |
D (無被害) |
C (小被害) |
B (中被害) |
A (大被害) |
As (倒壊) |
鉄筋εs(引張) |
εs≦εy |
εy<εs |
コンクリートε’c(圧縮) |
カバーコンクリート |
ε’c≦ε’cu |
ε’cu<ε’c |
コアコンクリート |
ε’c≦ε’cu |
ε’cu<ε’c |
(0.1≦ε’c) |
|
表-3 鉄筋コンクリート橋脚基部に損傷が生じている場合の被災度判定表
|
(2)圧縮ひずみの分布と推定した被災度 |
(a)長岡支所
(b)十日町
図-8 入力角度による圧縮ひずみの分布図と被災度 |
図-8に,長岡支所および十日町における強震記録を用いた場合の,柱基部断面のひずみの分布,ならびに,被災度(D〜A)を表す.ひずみの分布図は,断面内の各分割点(セル)における最大圧縮ひずみを色分けして示したものである.
長岡支所の記録を用いた場合は,θ=90°〜170°において,コアコンクリートの圧縮ひずみが終局ひずみε’cuを超えており,被災度はAとなっている.被災度は,入力角度の変化に対しC〜Aまで変化している.その内,θ=120°のとき圧縮ひずみが最大となり,θ=10°のとき圧縮ひずみは最小であった.
一方,十日町の記録を用いた場合は,被災度は入力角度に対しD〜Cまで変化している.その内,θ=110°のとき圧縮ひずみは最大となり,θ=20°のとき圧縮ひずみは最小であった. |
3. 動的非線形解析結果に与える加震方法の影響
これまで,地震動は3成分同時入力を行った.ここでは,橋軸方向,あるいは,橋軸直角方向別々に地震動を入力し,2章の結果(=3成分同時加震時の結果)と比較してみる.この時に用いる地震動は,断層走行に対し直行方向の地震動を用いる.断層の走行角の算出は,気象庁が発表している発震機構解を参照する(図-9).この方向の地震動は,震源断層で生じる地震動において,その強さの卓越方向の地震動とされる. |
図-9 初動発震機構解 |
例として,図-10に,長岡支所および十日町における強震記録を用いた場合の,柱基部断面のひずみの分布,ならびに,被災度(C〜A)を示す.長岡支所の記録では,橋軸方向および橋軸直角方向への1方向入力時の被災度は,それぞれDとAであるのに対し,3方向同時加震時の最大被災度はAであった.十日町の記録では,橋軸方向および橋軸直角方向への1方向入力時の被災度は,それぞれDとCであるのに対し,3方向同時加震時の最大被災度はCであった.すなわち,長岡支所の記録では,1方向加震により,3方向同時加震の被災度を評価できているのに対し,十日町の記録では,1方向加震による結果は被災度を過小評価していることになる. |
4.まとめ
- 新潟中越地震の記録(水平・鉛直3成分)を用いて,5径間連続免震橋の非線形動的解析を行った.
- 地震動の入力角度によって,柱基部に生じるコンクリートの圧縮ひずみは,4倍程度の差異が生じた.
- 十日町の地震動は,長岡支所の記録に比べ最大加速度は約1.9倍と大きいが,それによる被災度では最大でもCであった.一方,長岡支所の記録では被災度はAに達し,入力角度により2ランクの差異が生じた.
- 断層の向きから予想される最大強度の地震動を用いても,1方向入力の解析では被災度を過小評価する危険性がある.
- 被災度を評価するには3成分(少なくとも水平2成分)同時入力による耐震性能照査が必要である.
|
(a)長岡支所
(b)十日町
図-10 1方向加震時と3方向加震時の圧縮ひずみの分布図と被災度 |
参考文献
- 社団法人 日本道路協会:道路橋示方書・同解説 V耐震設計編,P.148-153,平成14年3月
- 社団法人 日本道路協会:道路橋の耐震設計に関する資料,平成9年3月
- 株式会社FORUM8:UC-win/FRAME(3D) Ver.3 参考資料
- 防災科学技術研究所:強震ネット K-NET,http://www.k-net.bosai.go.jp/k-net/
- 社団法人 日本コンクリート工学協会:コンクリート構造物の災害復旧・耐震補強技術と事例,平成10年8月
- 武蔵工業大学工学部都市基盤工学科災害軽減・吉川研究室 鎌田麻美:PCラーメン橋の動的非線形解析と被災度の推定―ひずみによる被災度推定と損失率の評価―,平成20年度卒業論文
- 国土交通省 気象庁:気象統計情報 発震機構解,http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/mech/index.html
- 防災科学技術研究所:強震ネット K-NET,波形表示ツールsmda2 (Ver.2.1.1), http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/share/utility_top.html
|