(Up&Coming 2008年7月号) |
UC-win/Roadをめぐる最新情報と高度化する3D・VR利用の現状
2008年5月20日、「第9回 UC-win/Road協議会」を東京コンファレンスセンター
品川で開催致しました。
「UC-win/Road」の初版を2000年5月にリリースして以来、本協議会を毎年実施。継続的なソフトウェアの改良に反映すべくユーザの皆様からさまざまなご意見をいただく一方で、バージョンアップなどの発表も行っています。
今回は、リリースを間近に控えた新バージョン(UC-win/Road Ver.3.4)やUC-win/Roadの次期戦略製品と位置づけ現在開発中の「VR-Studio」、そのほか関連する新製品の最新開発情報をご紹介。併せて、バーチャルリアリティ(VR)活用事例としてユーザによる最新ケーススタディ、環境・建築デザイン分野におけるVR活用でアカデミックかつ国際的に活躍される視点からの特別講演などにより構成しました。さらに、メイン会場前のオープンスペース(ホワイエ)には各種シミュレータを設置、UC-win/Roadによる最新のドライビング・シミュレーションを体感していただきました。 |
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■ 開発者講演 : UC-win/Road最新開発情報 |
午前11時、協議会は開発者講演で幕を開けました。
まず、当社社長伊藤裕二より、昨年5月に前回(第8回)協議会が開催されて以降のUC-win/Roadに関わる主なトピックスを整理。07年7月に現行のUC-win/Road
Ver.3.3をリリースしたのをはじめ、CADとの連携ではCivil 3Dに加えInRoadsとのデータ交換対応、従来の大学生らを対象としたアカデミー版に加えて小中高生向け「UC-win/Road Education Version」の発売、ドライビング・シミュレーション関連では「UC-win/Road ドライブシミュレータ」のプラグイン・オプションとともに、パッケージシステムとして簡易シミュレータ「Demo
Simuator」および研究用シミュレータ「Compact Research Simulator」のリリース
― などを挙げて振り返りました。
また、02年から毎年実施している「3D・VRシミュレーションコンテスト by UC-win/Road」と併せ、内外の各種セミナー・展示会などに取り組む一環として、07年8月に米サンディエゴ(カリフォルニア州)で行われたCG・インタラクティブ技術に関する世界最大規模のイベント「SIGGRAPH
2007」への初出展にも言及。これを契機として来るべき「VR-Studio」の国際展開を視野に、建築系研究者による国際学術グループ(「World8」)を結成、前述のコンテストと連携する形でVRにフォーカスした国際シンポジウム開催へと至る経緯を説明しています。
とくに、米国国立科学財団(NSF)が08年2月に公表した、21世紀における14の重点技術目標(21st
Century grand engineering challenges)の一つとして「VRの高度化」を挙げていることに注目。UC-win/Road、さらにVR-Studioを通じ、そこで大いに貢献できるよういっそう開発に力を入れていきたいとの決意を示しました。
引き続き当社担当者がUC-win/Roadに関わるホットな情報として、5月から6月にかけてリリース予定の「UC-win/Road
Shapefileプラグイン」と「UC-win/Road for EXODUS」を紹介。次いで、8月にリリース予定の「UC-win/Road Ver.3.4」の特徴について、 (1)交差点テクスチャ編集支援機能 (2)フルスクリーンおよびシミュレーションパネルへの対応 (3)運転インタラクション機能 (4)Vista対応
― などのポイントを説明。さらに、ドライブシミュレータの利用目的に応じたラインナップ拡充および機能向上について技術的側面から詳述しています。
第9回UC-win/Road協議会 レビュー
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▲会場・東京コンファレンスセンター・品川 |
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▲UC-win/Road最新開発情報 |
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午後1時からの「技術セッション」は、Stream-1「最新ケーススタディ」、Stream-2「CAD&VR」、Stream-3「新規開発オプション」の3部から構成しています。
Stream-1「最新ケーススタディ」最初のユーザ特別講演は、法政大学大学院政策創造研究科専任講師(エコ地域デザイン研究所兼担研究員)の恩田重直氏による「日本橋川プロジェクト」です。
文科省の学術フロンティア推進事業の一環で04年に設置され、水辺空間の再生による都市・地域づくりを活動の柱に据えるエコ研。05年暮れに当時の小泉首相が日本橋川に架かる首都高速道路の地下化構想を掲げたのを受け、07年4月から2年間に及ぶ「日本橋川プロジェクト」はスタートしています。当初は徹底的な現状把握を目的にEボートを使い、日本橋川沿いの連続立面図を2Dでデータベース化。その後、UC-win/Roadによる3D・VRの可能性に着目し、08年初めから3月末までに三崎橋から豊海橋まで約5qのVRデータを作成。その過程で江戸時代以降の遺構の存在が多く窺われたことから、今後は幕末まで
時代ごとに遡る過去、および将来提案にも繋がるVR空間の構築を図っていきたいとしています。
続いて、大成エンジニアリング(株)新規事業部室長の広重登氏が自身の経験をベースに「土木建設コンサルタントにおける3次元VR(UC-win/Road)の活用と事例」を講演。その冒頭、それまでの3Dモデリングソフトを用いたVRデータ作成から、02年頃にUC-win/Roadを導入して以降実感したそれによる効率面や機能面のメリットを説きます。
その上で同氏が実際に3D・VRを駆使した具体例として、(1)高速道路における端末ICの構造形式に伴う交通事故防止対策の検討 (2)新設ICにおける料金所のカラーリング検討 (3)追加JCTの設計に伴う案内標識の設置位置とその構造形式に関する提案 (4)小河川の付替に際しての建設内容と構造形式の地元説明
― などを列挙。今後はより早く、低コストで、高度な再現性を目指すとともに、道路から他業務、建設から維持・管理段階といった具合に3D・VRの適用対象を広げていきたいとの意向を述べます。
第9回UC-win/Road協議会 レビュー |
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▲政大学大学院
エコ地域デザイン研究所
恩田重直 研究員 |
▲大成エンジニアリング(株)
広重 登 氏 |
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Stream-2「CAD&VR」の前半はまず、英国交通研究所(TRL)交通グループマネージャーのAlastair
Maxwell氏が「TRANSYT、OSCADY PRO ― 交通信号デザインと評価ソフトウェア」と題し、同社のさまざまな交通デザインソリューションの中から、とくに交通信号設計支援ツール(「TRANSYT」)と交通ネットワークの交通信号制御を最適化する「OSCADY
PRO」に焦点を当て紹介しています。
次いで、当社担当者が日英の交通信号基準などの相違と両ツールの日本ローカライズに関して説明。さらに(社)交通工学研究会が運営する各種交通シミュレーションモデル6項目のうち、UC-win/Roadで検証されている3項目(車両が生成される時間間隔の計測、ボトルネック容量の再現性、合流部での容量と容量比)についてデモを交えつつ解説しました。
後半は、XP Software社副社長のAnthony Kuch氏が「浸透、貯留、氾濫解析におけるモデリングおよび可視化の技術進歩」について講演。降雨流出に着目した自然域と都市域との相違、とくに都市域での複合現象を解析・可視化する際の「xpswmm」の利点、その解析結果に対しUC-win/RoadによるVR化プロジェクト(「Road for
xpswmm」開発)などに言及。都市浸水被害が多発する折から、両者連携がもたらすメリットに期待を示します。
第9回UC-win/Road協議会 レビュー |
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▲英国交通研究所
Mr. Alastair Maxwell |
▲XP-software Pty Ltd.
Mr. Anthony Kuch |
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Stream-3「新規開発オプション」では、「UC-win/Road GIS」の一環としてまず、6月にリリースされる「UC-win/Road
Shapefileプラグイン」の概要と操作の流れを説明。次いで、08年末リリース予定の「GISプラグイン」の概要や対応フォーマット、既存ツールからの移行、データ交換の対象拡張などを解説。最後に、応用開発キット「GDK(GEOMania
Development Kit)」を基本に構成、開発目的に応じたツールとの組み合わせで幅広いGISシステムを構築する「GEOMania」について、「揺れやすさマップ」を例に紹介しています。
続く「UC-win/Road for EXODUS」では、避難シミュレーション「EXODUS」と火災シミュレーション「SMARTFIRE」についてさまざまな適用事例と併せ、今後予定される新機能を説明。また、それらの解析結果などをVRでいっそうリアルに表現できる「UC-win/Road
for EXODUS」への連携、期待されるメリットなどに言及。さらに、広域避難計画・シミュレーションへの対応をはじめVR-Studioを視野に入れた展開にも触れています。
第9回UC-win/Road協議会 レビュー |
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▲UC-win/Road GIS |
▲UC-win/Road for EXODUS |
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■ 特別講演 : VRプレゼンテーション技法 |
後半最初の特別講演は、大阪大学大学院環境・エネルギー工学専攻環境設計情報学領域准教授の福田知弘氏による「VRプレゼンテーション技法」。冒頭、実際のプロジェクトを通じ、環境デザインやコミュニケーション技術に関する多様な研究開発に取り組む中で、近年自身が携わった主なプロジェクトやVR技術との関わりの推移を振り返ります。
自ら設計しながらVRをプレゼンテーションに活用した具体例の一つとして紹介するのが、高松4町パティオ。そこではまず現状のVRを作成し、構成要素を引き算した後、計画案を表現。関係者が常に情報共有できるよう、VRとブログを連携させた4次元デザインシステムも構築しています。また、大阪府堺市で現在検討されているLRT(次世代型路面電車システム)を活かしたまちづくり計画では、計画検討に向けたVRコンテンツを整備。LRT導入による自動車交通量や沿道景観などの変化をシミュレーションするため、複数計画案について作成しています。これらの経験を踏まえ、コミュニケーション媒体としてのVRを使いこなすべく更な
る努力が必要との考え方を示します。
第9回UC-win/Road協議会 レビュー |
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▲大阪大学 福田 知弘 准教授 |
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■ 特別講演 : 米国最新VRモデリングと3Dモデルツールの開発 |
もう一つの特別講演が、アリゾナ州立大学(ASU)建築環境デザイン学部建築・ランドスケープ学科助教授の小林佳弘氏による「米国最新VRモデリングと3Dモデルツールの開発」です。
急速な膨張に伴うスプロール化に曝される地元フェニックス市。その対策となるダウンタウン再開発と連携しASUが設置したのが、7枚のスクリーンによる260度の3DパノラマビューでVRのイマーシブ(没入感)な世界を体感できる「ディシジョン・シアター(意思決定シアター)」。そのベースとなる過去・現在・未来の同市および同都市圏に関する3Dデジタルコンテンツを提供しようという「デジタル・フェニックス・プロジェクト」では、交通シミュレーションを可視化するための3D都市モデル作成に自ら取り組んできました。
そうした作業を通じ、08年末に完成するLRTがダウンタウンの交通に与える影響などをシミュレートし、VRモデルを作成。また、I-MOVEとUC-win/Roadによるリアルとバーチャルの同時可視化などの試みを重ねました。そのほか、VRに関するさまざまな活動を追求する延長上で、VRやデザインに精通した研究者が共通のプラットフォームを使い、技術や知識を提供し合う場が求められたと、「World8」構想に至った経緯を語ります。
第9回UC-win/Road協議会 レビュー |
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▲アリゾナ州立大学
小林 佳弘 助教授 |
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■開発者講演 : UC-win/Roadの今後の展開 ― VR-Studio |
協議会を締めくくる講演は、FORUM8 New Zealand社シニアエンジニアのPeter
Simmons氏による「UC-win/Roadの今後の展開 ― VR-Studio」。開発が進む「VR-Studio」の特徴の一端としてマルチユーザによる編集対応、大きなスケールの地形情報、CADスタイルのユーザインターフェース、セクションパーツの導入などについてデモを交えて紹介しました。
第9回UC-win/Road協議会 レビュー
すべての講演終了後には関係者およびユーザの皆様にとって情報交換あるいは交流の場としていただくネットワーキング・パーティを開催。引き続き多くのご参加が得られ、有意義な機会となりましたことを重ねてお礼申し上げます。 |
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▲UC-win/Road今後の展開
- VR-Studio |
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