(Up&Coming 2009年1月号) |
気鋭の建築系研究者による国際的なネットワーク、
浮かび上がる3D・VR利用の新たな針路と可能性
フォーラムエイトは2008年11月19日、「第2回 国際VRシンポジウム(The 2nd
International VR Symposium)」を東京コンファレンスセンター 品川で開催いたしました。
2000年5月の初版リリース以来、継続的な機能強化と応用分野の多角化に努める中で、3次元リアルタイム・バーチャルリアリティ(VR)ソフトウェア「UC-win/Road」の活用シーンは着実な広がりを見せています。その次期戦略VR製品として期待される「VR-Studio」のリリース(2009年予定)も間近に迫ってきました。もともと「VR-Studio」の開発に拍車が掛かる中、これを核としていっそうVRの世界展開を強化すべく、当社が2007年にスタートさせた「国際VRシンポジウム」。今回も昨年と同様、7回目を迎えた「3D・VRシミュレーションコンテスト by UC-win/Road」( 翌11月20日に同じ会場にて開催)と連携する形で実施しています。
●「World8」構想の経緯と具体化の流れ
この「国際VRシンポジウム」は「SIGGRAPH 2007」(2007年8月、米サンディエゴ)出展の折、アリゾナ州立大学(ASU)建築環境デザイン学部建築・ランドスケープ学科の小林佳弘助教授から世界の建築分野における3D・VRモデリングをめぐる現状、課題あるいはニーズを踏まえ、建築系研究者による新しい国際的な連携の枠組み構築についてご提案いただいたことが発端です。
道路事業をはじめ幅広い公共事業の合意形成を支援するツールとして開発された「UC-win/Road」は、その優れたVR作成・編集機能に加え、各種のデータやツールとも連携、多様かつ高度なシミュレーションを可能にします。また、これまでに日本語のほか英語、中国語、韓国語といった複数言語に対応。当社自ら新規利用分野の開拓に力を入れてきたこともあり、前述のコンテストでは近年、海外からの参加やユニークな応用例が目立つようになってきていました。
このような背景の下、小林佳弘氏により (1)交通・人間モデルを含む動的なエージェントやコンテンツを伴う新たなVRアプリケーションの探究 (2)世界の建築系学識経験者とソフトウェア開発企業(フォーラムエイト)とを繋ぐ研究開発のための新たな枠組みの構築 (3)共通のプラットフォームを使う3D都市のモデル化・可視化に関する世界的な専門ワーキンググループの形成
― を柱とする構想が描かれました。これはまさに、VR分野で世界展開の推進を目指すフォーラムエイトの経営方針と一致するものでした。
次いでその具体化に当たっては、(1)共通プラットフォームとして「UC-win/Road」を用いさまざまな視点からVRモデルを作成する (2)共通プラットフォームを通じ各研究者が開発する3Dモデル化・可視化についての知識を共有する (3)その先一年間にわたる活動を通じ共通プラットフォームとしての「UC-win/Road」を利用するためのツールを開発する
― といったミッションを策定。
これらの趣旨にご賛同いただいたハーバード大学大学院デザインスクールのコスタス・タージディス准教授および同デザインスクール博士課程の楢原太郎氏(いずれも米国)、マギル大学建築学科長のマイケル・ジェムトラッド准教授(カナダ)、ニューキャッスル大学建築・都市計画・景観学科のカルロス・カルデロン教授(英国)、バーレーン大学工学部建設・建築工学科のワーイル・アブデルハミード
アシスタントプロフェッサー(バーレーン)、ザーイド大学ドバイ校総合科学部造形学科のロナルド・ホーカー准教授(UAE)、チリ・カトリック大学建築・設計・都市研究学部のクラウディオ・ラバルカ・モントーヤ准教授(チリ)、大阪大学大学院環境・エネルギー工学専攻の福田知弘准教授(日本)、および小林佳弘氏
― の7ヵ国にわたる8大学9氏により国際学術グループ「World8」が構成されました。
その皮切りとなった活動が「第1回 国際VRシンポジウム」(2007年11月20日、フォーラムエイト東京本社)。そこでは「World8」設立を宣言するのと併せ、各メンバーによる研究およびVRモデル活用事例の発表、その他講師による招待講演が行われました。
次いで、2008年8月12〜14日に米フェニックスで「VRワークショップ at ASU」を実施。「UC-win/Road」の利用研修、「World8」としての中間報告および協議などで構成しました。
これら「World8」の活動の区切りとして位置づけられるのが、今回の「第2回
国際VRシンポジウム」で、特別講演と併せ、各メンバーによるこの間の取り組みとVR応用作品が発表されています。
●「第2回 国際VRシンポジウム」の構成
「第2回 国際VRシンポジウム」は、「World8」およびその一連の活動をコーディネートしていただいてきた小林佳弘氏の挨拶からスタート。続いて、英国ティーズサイド大学理工学部のナシュワン・ダーウッド教授、英国グリニッジ大学計算数理科学部のエドウィン・R・ガレア教授がそれぞれ特別講演を行いました。
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■特別講演1
「VR Application to Construction PM」 Nashwan Dawood 教授(ティーズサイド大学、英国) |
シンポジウムの冒頭は、英国ティーズサイド大学理工学部建設イノベーション研究センター(CCIR)長のナシュワン・ダーウッド教授により「建設プロジェクト・マネジメントへのVRの適用」と題する特別講演です。
建設マネジメントと情報技術(IT)を専門とする同氏は、初めに自身がセンター長を務めるCCIRについて紹介。次いで、ヨーロッパの建設業界が今日抱えるさまざまな課題を挙げ、それらを解決するツールとしてVRのリアルタイムな可視化シミュレーションなど各種の機能性に着目。VRの活用が建設プロセスやその成果物にもたらす将来の改善可能性を描きます。
その上で、バーチャルな建設現場の計画フェーズへVRシミュレーションを活用することによる改善効果を研究する試みに触れ、4次元や5次元ベースの考え方について解説。実際にそれらのモデルを導入して実施したさまざまなプロジェクト例について映像を交えながら説明します。
そのほか、最近のユニークな例として、GPS(汎地球測位システム)を使った拡張現実(AR)技術の応用に関するユーティリティ企業との共同研究、都市モデリングをベースに社会・環境・経済への影響分析と連携させる都市計画の研究プロジェクト、半年前にスタートしたばかりの大型プロジェクト「IntUBE(Intelligent
Use of Buildings' Energy Information)」においてBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ベースの可視化やシミュレーション手法によりエネルギー消費削減に繋がる技術を開発しようという取り組みにも言及しました。
さらに、注目されるVR・シミュレーション技術、新しい研修・教育手法について紹介した後、これらが今後の建設や都市計画の分野において変革の駆動源になり得るとの見方を示します。
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▲Nashwan Dawood 教授 |
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▲「VR Application to Construction PM」講演の模様 |
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▲Construction Innovation and Research |
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▲Application of 4D to town planning |
Nashwan Dawood 教授(ティーズサイド大学、英国)
総合建設とITを専門に活動。英国Teesside大学において、建設技術革新研究センター所長。近年は、土木業界におけるプロジェクト・リスクマネージメント、原価予測と分析、施工手順におけるVRと可視化の適用、4D施工計画とスケジューリング、プレキャストコンクリート業界におけるシミュレーション最適化技術、そしてゲームエンジンの施工トレーニングへの適用などをテーマに活動中。 |
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■特別講演2
「EXODUS / SMARTFIRE」 Ed Galea 教授(グリニッジ大学 火災安全工学グループ、英国) |
英国グリニッジ大学計算数理科学部火災安全工学グループ(FSEG)長のエドウィン・R・ガレア教授の講演は「計算火災工学」と題し、とくに「火災と避難のコンピュータ・シミュレーション」に焦点を当てます。
初めに、グリニッジ大学の概要およびFSEGの設立経緯・組織・主な研究対象などを紹介します。その中で、FSEGが20年間にわたる研究を通じて開発してきた計算火災工学とそれに基づくアプリケーション・ツールに言及。それが火災や避難という複雑な概念に対してどう理解し、モデル化を図ってきたかという観点から、パニックへの着目とその分析を踏まえた人間の挙動のモデル化について説明します。
そのベースとなっているのが、FSEG自ら取り組んできた多くの調査・実験。火災や事故など多様な状況下で人々が実際にどう避難したかに関する精力的なデータ収集を行っています。その一環として同氏が注目しているのが、人々の挙動への文化の影響ということ。ロンドンの地下鉄テロと韓国の地下鉄火災における乗客の避難時の挙動、あるいは中国とスペインにおけるエスカレーター利用時の行動パターンなどを例に、文化的な背景による明らかな差異が窺われるとしています。
続いて、FSEGが開発した建築環境向け避難モデル「building EXODUS」、海洋環境向け避難モデル「maritime EXODUS」、火災モデリング用のCFD(計算流体力学)ソフト「SMARTFIRE」それぞれの機能やさまざまな活用事例を紹介。さらに、エスカレーター・エレベーター・階段の利用と人間の挙動との関係、あるいは「building
EXODUS」の新機能など開発中の取り組みにも触れます。
Ed Galea 教授(グリニッジ大学 火災安全工学グループ、英国)
1986年より、英国グリニッジ大学の教授。また、同大学に設立されている火災安全工学グループ(FSEG)のディレクターとして活動。(FSEG:火災や人間行動、避難、通常時における群集の挙動について研究。)"SFPE
Jack Bono Engineering Communication Award(2008)"をはじめとした多数のアワードを受賞。現在も様々なプロジェクトへ参加し、検証実験、調査等の活動や論文発表など精力的に活動中。 |
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「World8」の研究発表に先立ち、小林佳弘氏がまず、「World8」としての一年間にわたる活動を整理。冒頭で触れたビジョンやミッション、あるいは現状の課題認識を改めて確認。その上で今回、メンバーがそれぞれのアイディアについて「UC-win/Road」で表現した成果を発表することの意義を説きます。そこで今後は、その研究成果を外部へ積極的に発信していくとともに、これらの成果を利用してさらに大きな研究プロジェクトへと発展させていきたい、などとしています。
引き続き、現在自身が取り組む「デジタル・フェニックス・プロジェクト」について、プロジェクト全体の概要と最新状況、そこでのVRモデル作成の流れ、それをベースとする新たな応用例および自身の関連する研究について説明しました。 |
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Overview of World8 Activity |
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▲Prof. 小林 佳弘 (アリゾナ州立大学, USA) |
コスタス・タージディス氏は、まず自身の最近の取り組みとしてストキャスティック・サーチ(確率論的探索)について解説。その観点から「UC-win/Road」を使って作成したVRによるシミュレーションへの見方を説明します。また、実際に自らVR作成を試みながら、その自動化されたVRの作成・編集機能への注目を述べます。
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▲Prof. Kostas Terzidis (ハーバード大学, USA) |
楢原太郎氏は、建築空間の特性に対する人間の心理的反応を可視化可能な人間行動モデルを開発し、それをデザイン検討に利用したいという従来からの発想とその利用イメージを紹介。その上で、モーションキャプチャファイルを用いてリアルな人間の動きを再現するモデルをつくり、それを「UC-win/Road」に移し、なおかつ心理的な要素をそこにどれだけ盛り込めるかにチャレンジした今回の試みを解説。その結果、それが間接的ながら可能であることを確認できたとしています。
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▲楢原 太郎 氏 (ハーバード大学, USA) |
次いで、ビデオ参加のワーイル・アブデルハミード氏は、実際に自らリーダーとして参加したエジプトのプロジェクトを例に、「形態計画プロジェクトにおけるVR利用」と題して発表。「UC-win/Road」を使い作成した複数VRモデルを基に、抽象的な要素を評価や意思決定プロセスに反映する試みについて説明。アウトプットをリアルタイムに可視化できるなど、「UC-win/Road」のプランニングやデザインツールとしての可能性に注目します。
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▲Prof. Wael A. Abdelhameed (バーレーン大学, Bahrain) (ビデオ講演) |
マイケル・ジェムトラッド氏に代わって講演に立ったマギル大学建築学部客員教授のトーベン・バーンズ氏は、都市デザイン研究開発プロジェクトへの「UC-win/Road」の利用可能性について、最近のモントリオールにおける路面電車を中心とした公共交通インフラの検討を例に紹介。そこでは「UC-win/Road」を開発およびコミュニティとの対話ツールとして利用しており、実際に作業に当たったメンバーからの使い勝手への評価や改善提案を報告しました。
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▲Prof. Torben Berns (マギル大学, Canada) |
ロナルド・ホーカー氏は、授業を通じ実践的演習にウェートを置く上で、応用研究プロジェクトのカリキュラムへの統合と不十分なリソースをどうするかが問われてきたと説明。その観点から、自身が取り組むUAEの歴史・文化の基本データをデジタル文書化して蓄積することの意義を説きます。そこではさまざまなソフトウェアが使われている中で、「UC-win/Road」による可視化は多様なレベルやアングルの視点が得られ、プライバシーを守りつつ各システムの構造を把握できるなどのメリットを実感しているとしています。
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▲Prof. Ronald Hawker (ザーイド大学, UAE) |
クラウディオ・ラバルカ・モントーヤ氏は、3D都市モデルやシミュレーションを自身のデザインプロセスに取り入れる一方、都市コードとも連携させてサンティアゴ市内のさまざまな箇所に適用してきました。ここでは同市郊外のスキーリゾートを中心とする道路整備に関するプロジェクト向けに行った3Dモデルによる可視化を含むデジタル・プランニングについて紹介。そこでの「UC-win/Road」を利用した作業手順、浮かび上がった課題やメリットなどを説明。今後の活用可能性に期待を示します。
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▲Prof. Claudio Labarca Montoya (チリ・カトリック大学, Chile) |
メンバーの最後の研究発表は、福田知弘氏により「環境デザインのための3D
CG/VR」と題して行われました。まず、環境デザインの対象や3D CGとVRの違いなどについて解説。この一年間の取り組みとして堺市で計画中のLRTプロジェクト、台湾のNext
Geneプロジェクト、高校生との共同プロジェクトを紹介。そこでの「UC-win/Road」や3D
CGの利用とさまざまな工夫、トラフィックシミュレーションやヒューマンアクティビティ、イージーモデリングについて詳述します。その上で、いかにVRの魅力や訴求力を強化していくか、建築の世界での利用の場を広げていくか、オンサイトで検討するためのユビキタス対応、などを今後の課題と位置づけます。
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▲Prof. 福田 知弘 (大阪大学, Japan) |
なお、「World8」メンバーのうち、カルロス・カルデロン氏は急用のため、今回シンポジウムでの研究発表は不参加となりました。「World8」メンバーの皆様にはご多忙の中、その趣旨をご理解賜り一年間にわたってご対応いただきましたことを改めてお礼申し上げます。
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■特別講演3
「Analysis of Tsunami and Disaster Control」 今村 文彦 教授(東北大学、日本)
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今回シンポジウムの最後を飾った特別講演は、東北大学大学院工学研究科土木工学専攻の今村文彦教授による「津波解析と災害制御」です。同大工学研究科付属災害制御研究センターにおいて津波工学や自然災害科学に関わる幅広い研究を行う観点から、ここでは津波による災害の実情と避難警報など津波被害を軽減するための数値シミュレーション技術について述べます。
まず、津波の基本的な理解のため、地震によって津波が発生、海域を伝播し、沿岸部に遡上して陸上の人的・物的被害をもたらすというメカニズムを解説。その上で、過去に日本で起こった津波の例、また日本が世界的にも高頻度で津波が起きている実態に触れ、過去の津波についてその発生・伝播・遡上といったメカニズムの数値シミュレーションを開発してきた経緯を振り返ります。
とくに同氏が注目するのは、2004年のスマトラ沖地震・津波です。歴史的な規模だったとはいえ、今後日本でも起こり得ないわけではないとの発想から、その詳細なデータを基にメカニズムを分析し、NHKと協力してCGを作成。地震発生を受けて海面が隆起し、それが陸地へと向かう様子、沿岸部では引き波の後、大きな押し波が襲ってくる様子、津波が街中を遡上してくる様子、などをリアルに再現しています。
その際、リアルタイムなシミュレーションを行うには非常にハイオーダーのモデルが必要となり時間を要することから、ここでは独自の数値計算法により地震の発生場所や規模、メカニズムなどを入力することによりリアルタイムで実際に近いシミュレーションを可能にしていると説明します。
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▲今村 文彦 教授 |
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▲「Analysis of Tsunami and Disaster Control」
講演の模様 |
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▲Analysis on Tsunami and Research for disaster control |
今村 文彦 教授(東北大学、日本)
東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センターにおいて、災害科学、流体波動数値計算(津波等)、国際津波防災技術開発及び移転、歴史地震津波痕跡調査(国内外)、地形・かたち(フラクタル幾何学など)
、流雪溝(2相流体)、避難シミュレーション(北海道・奥尻を対象に開発中)
、認知心理学(記憶と人間行動)などを研究テーマに活動中。 |
この後、小林佳弘氏の司会で「World8」の各メンバーによるディスカッションを展開。最後に、コスタス・タージディス氏および福田知弘氏の「World8」としての研究成果に対し、それぞれアカデミー奨励賞が贈られました。なお、海外からの聴講者にも配慮し、いずれの講演・発表とも日英の同時通訳が用意されています。
すべての講演終了後、「VRプレゼンテーションと新しい街づくり」の出版記念パーティを兼ね、交流の場としてネットワーキング・パーティを開催、多くの皆様にご参加いただきました。有意義な機会となりましたことを重ねてお礼申し上げます。
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