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関西大学カイザー・プロジェクト 特別セミナー
主催:関西大学カイザー・プロジェクト
●日時 :2012 年12 月18 日 ●会場 : 関西大学東京センター
(Up&Coming 2013年4月号)
「関西大学カイザー・プロジェクト」(代表:関西大学総合情報学部田中成典教授(フォーラムエイト技術顧問))は2012年12月18日、「時間項を考慮した3次元CADエンジンの開発に関する最終報告会」と題する特別セミナーを関西大学東京センターで開催しました。
同プロジェクトは、わが国建設業界で汎用的に使える3次元CADエンジンの開発を目的として2008年にスタート。研究には、フォーラムエイトを含む民間企業9社が参加したほか、国内外の複数大学が連携。
4年間にわたる活動を通じ、「調査報告書」「概略設計書」「基本設計書」「詳細設計書」の4編から成る仕様書をまとめるのと併せ、プロトタイプを開発して各仕様書を検証。
それらの成果を基に、時間項を考慮した汎用3次元CADエンジンの開発を完成しています。
その最終報告会と位置づけられたセミナーの一環として、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のトーマス・フローズ教授が招かれ、「建設業のための情報通信技術のトレンド ― 過去、現在、そして今後」と題する特別講演を行っています。以下にその要点をご紹介します。
■ブリティッシュコロンビア大学工学部
教授 トーマス・フローズ氏
特別講演:
「建設業のための情報通信技術のトレンド ― 過去、現在、そして今後」
ブリティッシュコロンビア大学工学部教授 トーマス・フローズ氏
「Building Information Modeling(BIM)」とは、施設(建物)の物理的・機能的特性をデジタル表現するもの。したがってBIMは、(建設の)初期段階から施設のライフサイクルにわたって、当該施設に関する情報のための知的共有資源として利用され、さまざまな意思決定の根拠を形成する ― 。
トーマス・フローズ教授は講演の冒頭、NBIMS(National BIM Standard)プロジェクト委員会(米国)によるBIMの定義を掲示。しかし実際には「BI M」が、(公式の意味というよりも)建物の建設プロジェクトに関わる任意の形式のデータモデルの意味で、かなりインフォーマルに用いられている、と語ります。
ICT への自身の関わりと2D CAD ベースのトレンド
情報通信技術(ICT )の過去のトレンドに迫る前段として、フローズ教授はコンピュータに関しては1970年代半ば、エンジニアリング・ソフトウェアに関しては1980年代初めに遡り、自身の個人的な利用の推移を紹介。併せて、1986年までにシンプルな3D CADエンジンを開発、1990年頃にはデータモデリングを始めたほか、1990年代と2000年代のほとんどを通じてデータ標準の開発に関わる複数の活動に携わってきた、と振り返ります。
その上で、2D CADの分野で実際に辿った技術採用のトレンドは、3D CADのそれを考えるのに有用な比較モデルになると位置づけ。D. Neeleyの、建築家やエンジニアによる2D CADの技術採用曲線を例示しながら、1982年から1997年の約15年をかけて業界全体にその導入が浸透してきた流れや、長期にわたり続く市場採用に先行した技術開発の取り組みを解説。また、1950年代以降の初期のCAD技術および商用CADの開発の歴史にも触れます。
さらに同氏は、その他のBIMに先行するデータモデリング技術の動向として、オブジェクト指向データモデルの普及プロセスやそのメリットを説明。BIMへと導くもう一つの重要なトレンドとして、IGESやDXF、SXFといった国際的なデータ交換標準開発の取り組みに言及します。
BIM の技術開発と標準化
次いでフローズ教授は、前述の2D CADの採用曲線とBIM 技術の採用曲線とを対比。2000 年代初頭から採用され始めたBIM が2D CADよりもかなり短期間で市場の高い採用率を達成してきたと述べます。
また、それに先行する技術開発に関しては、1970年代のソリッドモデリングに関する初期の技術開発、1980年代半ば以降の3D CAD 技術や初期の商用BIM ソフトウェアの出現、1990年代後半から2000年代前半にかけてのBIMソフトの普及などを列挙。2002年頃からのBIM という用語の普及に至る流れを紹介します。
併せて、建物モデルとデータ標準の面からは、1983年に活動が始まり、1994年に最初の成果がリリースされたSTEPに着目。建物建設に関連して
STEP 技術に基づくデータ交換標準の構築を目指すさまざまな研究やプロジェクトが展開。その多くが完成に至らなかった中で、建物要素の形状表現については1999年にSTEP標準が発表されたと語ります。
こうした動きの中から1994年に組織されたIAI は、独立した国際組織として中立かつオープンなCADデータモデルの仕様であるIFCの作成を推進。同氏は1997年以降、多様なIFC標準がリリースされてきたとした上で、その求められた背景や目的、STEPとの関わり、進展のプロセス、各国での取り組みの広がりについて説明。IFCを用いたプロジェクト例に触れた後、IFC開発の過程で浮かび上がったさまざまな課題に言及。それを受けて2005年にbuidingSMARTへと改称した経緯や新たなフォーカス、最近の活動や成果にも触れます。
BIMの現状と新たな動き
BIMの現状については、フローズ教授は英国、ニュージーランドおよびカナダで近年実施されたBIMへの認知や利用の有無に関する調査を基に概説。例えば、調査対象者のうち、「BIMを知らない」人が英国では2010年の約40%から2011年には約20%に半減。また、英国やニュージーランドでは2012年時点で約40%の人が「BIMを使っている」とする半面、今後の利用については二三年のうちにほとんどの人が「使う予定」と回答。BIMの使用目的については80%以上が「可視化」、半数近くが「スケジュールの自動作成」を挙げる、といった実態を明らかにしました。
次いで、最近のBIM 使用例として、米国カリフォルニア州で取り組まれた病院プロジェクトへと話を展開。新しい耐震基準の下、短期間に複数の病院プロジェクトを同時進行させるのに加え、BIMやIPD(Integrated ProjectDelivery)、リーン・コンストラクション(Lean Construction)といった手法への対応を求められるなど、さまざまな点で先進事例となったプロジェクトの概要、そこでのBIMの機能性、それらの成果を説明しました。
一方、最近のBIM をめぐるトピックとして、BIMモデルの技術やデータ標準から、これらの新技術をどう使っていくかというBIMのプロセス面へ焦点がシフトしてきている、と同氏は指摘。各国ではそのための利用ガイドラインや標準が整備されていると語ります。
また、相互運用性の考え方は当初からIFCのビジョンに込められたものでした。しかし、実際にはそれぞれ独立したBIMモデルが使用されているのが現状。そのため、コミュニケーション・シーンなどでBIMモデルが活用されているとはいえ、そのデータ交換にはかなり制約があって限定的なレベルに留まっている、などの課題を挙げました。
BIMの今後
BIMは導入が進んできた半面、限定的で困難な側面もあります。そうした異なる観点からBIMの技術および導入について、レベル0(Flat CAD)・1(2D-3D CAD)・2(BIM)・3(iBIM) の4段階に分けて考える、英国で開発された「BIMの成熟度モデル(Bew-RichardsBIM Maturity Model)」に、フローズ教授は注目します。これに前述の採用曲線を組み合わせ、レベルごとに採用される技術を整理。レベル2とBIM使用率の約30%が重なる辺りが現在の位置ということになり、レベル3の統合されたBIM(iBIM)の採用曲線はまだ始まっていない、と説きます。
では、今後のBIMはどうなるのか。同氏は英国のBIM 標準に由来するiBIMを踏まえ、
1) 複数分野にまたがるBIMモデルが用いられ、
2) ほとんどのデータのマスター版はオリジナルのBIMソフトウェアに保持され、
3) モデル間では慎重に管理されたデータ交換が個別に行われ、
4) マスターデータをシェアするのではなく、各モデルの内容を伝達するために情報がこれらのモデルからエクスポートされ、
5) 異なるユーザーやBIMの間で、更新や変更依頼を通知するためにメッセージの送受信が行われる
― といったイメージを描きます。
ただ、そうした技術がいつ実現するかを予測するのはいっそう困難としつつ、レベル3のBIMに関わる技術の大半はパイロット事業での利用が可能と想定。統合化の進んだBIM の市場採用はまもなく始まるはずで、併せて、レベル3のBIM に関する技術採用も一般的なレベルに達するものと期待を述べます。
(執筆:池野隆)
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