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Users Report   ユーザ紹介/第92回
 宮城県   東北ユーザ特集 3

有限会社SSEpro

自然への畏敬新たに、
技術者としてのスタンスを模索
UC-win/FRAME(3D)の先駆的活用で
独自の領域を開拓 


 User Information
 有限会社SSEpro
  所在地● 宮城県仙台市  事業内容● 橋梁の概略・予備設計、補修・補強設計、架設計画、耐震構造解析


 「ちょうど顧客と電話で話をしていたところに、揺れが始まったのです」
 仙台駅から徒歩10数分のオフィス街の一角。3月11日午後2時46分頃に発生した東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)により、その一帯は震度6強の激しい揺れに襲われました。

 公共事業に携わる建設業界が年度末を迎え、多忙な作業に追われていた金曜日の午後、有限会社SSEpro代表の鈴木茂氏はビルの7階にある設計業務室で社員二人とともに納品間近の仕事に取り組んでいました。

 たまたま電話で打ち合わせ中だった同氏が「地震ですね」と電話の向こうの顧客に話しかけるうち、電話機が吹っ飛んでしまい、そのまま強い揺れが収まるまでしばらくの間、机にしがみついて周りのものが倒れないよう押さえるのに必死でした。

 これまでの地震であれば押さえようもあったが、今回は本棚が倒れ、パソコンのディスプレイはかろうじて机上に留まったものの、本体はすべて床に落下。それでも、パソコンの故障など大きなダメージは免れたといいます。

 しかし、再度、仙台市内で震度6強の揺れが観測された余震(4月7日午後11時32分頃発生)でもパソコン本体がすべて落下。その際はサーバが壊れる被害をもたらすに至っています。

 今回3社目にご紹介するユーザーは、有限会社SSEpro。今年、第9期目を迎えた同社は創業早々、フォーラムエイトの立体骨組み構造の3次元解析プログラム「UC-win/FRAME(3D)」を導入。現在ではその利用をベースとする動的解析を自社の主要技術の一つに掲げます。また昨年、新たに3次元プレート動的非線形解析「Engineer's Studio®」もそのツールのラインナップに加えています。

 同社は建設コンサルタント業の傍ら、鈴木茂氏自身が登山などアウトドア活動の教室も運営しています。今回取材では当社ユーザーとしてのお話と併せ、後者の事業を通じ交流のあるフリーの山岳カメラマン、東野良氏(元NHKカメラマン)がたまたま登山中の金華山で遭遇し、撮影・制作した学術的にも貴重な画像を使い、本震の直後、宮城県の沿岸部を襲った津波が刻々と変化する様子も解説していただきました。

▲有限会社 SSEpro代表 鈴木茂氏。震災の教訓と復興への視点を語っていただいた


 橋梁の概略・予備設計、動的解析にウェート  一貫してペーパーレスを推進

 SSEproの社名は、「Super Structure Engineering professional」の略称に由来します。
 同社の創業は2003年4月。現在の体制は技術者3名を含む社員4名により構成。本社事務室(仙台市太白区)および設計業務室(仙台市青葉区)を拠点に事業を展開しています。

 もともと橋梁設計、とくに橋梁の概略設計や予備設計を柱にスタート。それらの業務は現在も同社の中核を成します。

 その後、橋梁の補修設計や補強設計にも注目。近年、新橋の建設が少なくなるとともにその比重自体が高まっていますが、同社では補修・補強に関する設計技術を独自に模索しながら、東北地方においていち早く取り組んできた、と鈴木茂氏は語ります。

 「補修・補強(設計)が難しいのは、経験(に基づく知見の蓄積)が必要なことです。と言って、既成概念に囚われてしまっても駄目なのです。独創性がないと」。しかも、安全側にフルに設計しようとすれば、コストが増大してしまう。それをいかにコンパクトにできるかを問われるところが、個人的には好きなのだと言います。

 その意味では、橋梁の架設計画も一般的には作業が面倒で敬遠されがちとしつつ、やはり自身の好きな仕事の一つと位置づけます。同氏が大学卒業後に就職し最初に興味を持ったのが構造解析、中でも振動関係でした。これについては、創業早々にUC-win/FRAME(3D)を導入以来、同社の主要技術として着実に発展。昨年受注した業務の半分強を動的解析が占めるまでになっています。

 「設計業界は紙の洪水が古くから課題とされており、紙をなくすことは(独立した)当初から決めていました」
 そこで創業に当たって、当時はまだ少なかった複合機をまず導入。基本的にプリンターは使わず、各種要領・基準などの資料はスキャニングし、成果やメールもすべてデータとして別媒体に保管。その際、ファイル名の頭に年月日を示す6桁の数字を付加、仕事単位で区分けするなど、検索や再利用が容易になるよう工夫しています。

▲同社では創業早々にUC-win/FRAME(3D)を導入。受注業務は動的解析がウェートを占めている


 余震でサーバ破損もミラーリングで難回避

「構造が専門ということもあり、地震後は梁や柱、基礎などがどうなっているかと、すぐにビル内を見回り。ヒビ割れの生じている箇所は認められましたが、いずれも内装までで、予想以上にしっかりしていると感じました」

 あまりの揺れに、自社のビルも、窓外に見える高層ビルも倒れてしまわないかと不安がよぎるほどでした。しかしその後、周辺のビル街を見て歩いても、10階前後のビルの2階辺りにせん断破壊を起こしている様子は複数窺われた反面、窓ガラスが割れたり、ビルが倒壊したりといったケースは見当たりませんでした。加えて、近隣のライフラインの復旧状況などから、当該エリアの地盤の特性とともに免震・耐震技術や共同溝の効果を再認識した、と鈴木茂氏は述べます。

 一方、大手建設コンサルタントを通じて同社が手掛ける業務は、地元仙台はもちろん、北海道、関東、中部、関西にわたり国・県・市町村が発注するプロジェクトをカバー。前述のように、年度末の納品が迫る中、(元請を介して受注している)地元以外の発注者に対しては被災を理由とする納期の延長ままならず、通勤に支障を来した社員は3週間、オフィスに連泊するなどして対処しました。

 3月11日の本震で机の上にあったパソコン本体がすべて床に落下した際、同氏が最も心配したのは仕掛かり中の仕事や過去のデータを蓄積するサーバのことでした。

 自宅が近いこともあり、電気の復旧を待って翌12日に改めて出社。まずパソコンの電源を入れ、すべてが使えることを確認し、安心したといいます。

 ところが、4月7日の余震ではサーバのMBとHDDが落下した衝撃で破損。以前からミラーリングしていたおかげで、別のハードディスクに入れられていたデータが無事だったため、データを消失する事態は回避することができました。


 UC-win/FRAME(3D)の導入、きっかけは助言  近年は動的解析が最大の武器に

「実は、会社をつくって間もない頃、(橋梁関係の)プログラムはいろいろあるけれど、これからそろえるならフォーラムエイト(製のもの)がよいのでは、と助言されまして」

 事業のスタート時から支援してくれた元請企業の担当者の「中身は一番しっかりしていそうで、自分のところでもそれを使うから」という推薦もあって、当社の橋梁関連ソフトウェアを主に採用してきた、と鈴木茂氏は説明します。

 そのような中で、SSEproが一般的な構造解析の業務を依頼された当時、構造解析のツールは既に市場には複数流通していました。しかし、独立前にそのいくつかを実際に使用していた経験から、「ツール自体は優れているようだが、使いきれない面がある」あるいは「担当者に質問しても的確な回答を得にくい」といった難点が見られたといいます。

 その際も「なかなか面白いソフトだよ」と紹介されたのが、UC-win/FRAME(3D)でした。当時は製品自体がリリースされたばかりで、まだあまり使われていない。でも、価格はさほど高くないし、使ってみて問題が出てきても対応が良いからという話を受け、「よそ(少なくとも仙台では)が使っていないなら、今のうちにそれで行こう」と導入を決めています。

 実際に使ってみて当社担当者に質問すると、「自社でつくっていますから」という言葉通り、対応は的確で迅速。「このことは強みで、それがなければちょっと使えなかった」と振り返ります。

 そのうちに「お宅で(3次元の動的)解析を出来ると聞いて」という問合せも寄せられるようになり、受注が着実に増大。近年は同社にとって「最大の武器」(鈴木茂氏)と言えるまでに定着しています。

 「それまでコストが掛かる動的解析は(顧客に)敬遠されがちでした。それが3、4年前から複雑な解析を求められるケースが増え、私たち(が提供するサービス)への認識(の浸透)と重なってきました」

 UC-win/FRAME(3D)について同氏はまず、断面形状がフリーで、かつ材料を選ばないという2点に注目。しかも、この価格でそれらを実現していることを高く評価しています。

 また、同ソフトが当初対応していなかった鋼橋の耐震解析に関する機能について当社の営業担当者を通じて提案したところ、翌年に開発。「期待した通りに、早速つくってくれたのには感心しました」

 その一方で、UC-win/FRAME(3D)をはじめとする各ソフトの入出力のインターフェースの統一、ソフト間のいっそうの連携、任意の鋼構造物に対応するソフトの拡充などを当社に対する要望として挙げます。

 同氏が現在関心を持っているUC-win/FRAME(3D)の機能の一つは、構造物の動的な変形を動画で再現できること。「技術者にとって、こういうことができればよいなと思い描いていた夢みたいな話です」。今回震災では実際に建物が大きく揺れる様子を目の当たりにし、まさにアニメーションを見ているような世界だったと実感。本来はこのような動的解析とそれに基づくモデルなどを前提に設計していくべきでは、と説きます。


 震災の教訓と復興への視点

 今回震災を受け、SSEproではデータ容量の拡大と併せ、データの保管体制を刷新。サーバのバックアップ体制の重要性を再認識したことから、従来のミラーリングに加え、毎日夜間に自動的にバックアップを取るシステムを構築しています。

 また「技術者が自然に対して畏敬の念を持つべきこと」、そして「技術に奢ってはいけないということ」を今回の震災では改めて考えさせられた、と鈴木茂氏は述べます。

 つまり、「絶対に安全なもの」も「絶対に間違いないもの」もあり得ない。したがって、今回の震災を拙速に自然災害として論じるのではなく、とくに道路や橋梁などをつくる仕事に携わる技術者は、人間が自然の中で生かされているという視点を忘れてはいけないといいます。

 「復興に向けても、単純に阪神大震災などと比較するのではなく、被災地である東北をめぐる環境や実情を考慮した検討が必要だと思います」

▲地震により破損したプロテクトキー(無償交換)

(取材/執筆●池野 隆)



仙遊観人写真館

有限会社SSEpro代表 鈴木茂氏は、建設コンサルタント業の傍ら「仙遊観人」という雅号で登山などアウトドア活動の教室も運営されています。この雅号は、伊達政宗公が仙台開府にあたり、未来永劫の繁栄を願い、地名の由来とした漢詩「同題仙遊観」より引用しています。今回は、鈴木氏が震災後に撮影された山岳と仙台近郊の写真をご紹介いたします。

「プロの登山家でもなく、写真家でもない、普通人が目にする山の光景から大自然への感動と畏敬の心を呼び起こし、
私達が失いかけている大切なものを一人でも多くの人々が気付くことを願って山を歩く。」
(鈴木氏自己紹介より)


     
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