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ユーザ紹介第82回
筑波大学大学院
システム情報工学研究科 リスク工学専攻 認知システムデザイン研究室
Laboratory for Cognitive Systems Science,
Department of Risk Engineering, Graduate School of Systems
and Information Engineering, University of Tsukuba
筑波大学 認知システムデザイン研究室のホームページ
http://www.css.risk.tsukuba.ac.jp

リスクの予測や制御を通じ、人と車の新たなインタラクションのデザインへ
 −各種センサーやDSを駆使、ドライバーの状態の検出・推定から適切な支援の手法構築目指す


 事故や災害はもちろん、急速な情報通信技術(ICT)の進展を反映したその利便性と裏腹のリスクなど ― 現代社会において私たちはさまざまなリスクにさらされています。
 今回ご紹介するのは、筑波大学大学院システム情報工学研究科リスク工学専攻です。そこではこうした時代のニーズに対応し、広範にわたるリスクを大きく4分野に分類。多様なリスクの発生からそれらの解決に至る間の各種問題について、柔軟かつ先導的な教育・研究を行っています。その中で、人と機械との関係に特化し、先進のシミュレーション技術およびセンシング技術を活用しながら、人の認知や意思決定に関わる特性・メカニズムの解明、それらを考慮したシステムとしての人への支援の在り方を探ろうという「認知システムデザイン研究室」稲垣敏之教授、伊藤誠准教授の取り組みに焦点を当てます。
 わが国では、交通事故対策技術の研究開発が重要課題に位置づけられています。これに対し同研究室は、人の認知システムに関する研究に当たり、ドライバーと車のインターフェースをその対象として設定。多彩なアングルからドライバーの状態を計測・検出・推定し、車両側からドライバーを支援するシステムのデザインを目指してきました。そうした過程で実験を重ねる間、異なるニーズに柔軟に対応し、実際の走行シーンに近い環境を容易に再現し得るドライブ・シミュレータ(DS)が求められました。そのような経緯からフォーラムエイトの3次元リアルタイムVR(バーチャルリアリティ)ベースの四輪実車型「UC-win/Roadドライブ・シミュレータ」が採用されています。
 そこで、同DSの導入決定、その後の活用にも率先して当たられている同研究室の伊藤誠准教授にお話を伺いました。

■研究室の位置づけとその研究対象

 筑波大学は1973年、東京教育大学の移転を機に、総合大学として発足。以来36年を経る中で、筑波・東京(大塚地区および秋葉原地区)の3キャンパスに7学群(人文・文化、社会・国際、人間、生命環境、理工、情報、医)・2専門学群(体育、芸術)・8大学院研究科(教育、人文社会科学、ビジネス科学、数理物質科学、システム情報工学、生命環境科学、人間総合科学、図書館情報メディア)を有するまでに発展。所属する学生数は学群10,190名、大学院6,556名、計16,746名。外国人留学生は101ヵ国・地域から1,527名に上ります(2009年4月1日現在)。
 そのうち、同大学院システム情報工学研究科は社会システム工学、経営・政策科学、リスク工学、コンピュータサイエンス、知能機能システム、構造エネルギー ― の各専攻から構成。ただし、前2専攻は博士前期課程のみ、後期は代わって社会システム・マネジメント専攻が加わります。
 さらに、リスク工学専攻では現代社会で起こり得る多種多様なリスクを、トータルリスクマネジメント、サイバーリスク、都市リスク、環境・エネルギーリスク―の4分野に大別。それぞれの分野に対して複数の研究室・グループが対応し、具体的にリスクを予測・制御する能力の育成、理論・応用研究の成果を通じた社会への貢献、世界的視野に立った斯界におけるリーダーシップの発揮を目指しています。
 今回取り上げた認知システムデザイン研究室は、学際的なトータルリスクマネジメント分野に位置づけられます。テーマは「人と機械の関係をデザインする」。状況に応じた人間とコンピュータの協調の在り方、およびそれを実現するためのヒューマンインタフェースの研究をターゲットとしています。それに向けたアプローチとして、(1)人の認知特性と意思決定過程を考慮しつつ人間の行うタスクを支援するシステムをデザインする (2)人間の意思決定過程の数理モデルを構築・解析、それにより人間の振る舞いを予測する (3)DSなどを用いた心理学的実験を通じ数理モデルを改良、それに基づくシステムデザインの認知工学的評価を行う ― としています。
 以前は、高度に自動化された人と機械が関わるシステムとして航空機に着目していました。しかし、そうした技術は次第に自動車にも浸透。一方、交通事故による死亡者数はピーク時と比べて減少傾向にあるとは言え、事故件数は依然高い水準にあり、その対策技術開発への期待が高いことなどから、近年は後者が主要な研究対象となってきています。
 その際、たとえばITS(高度道路交通システム)は人と道路と車両の3者を最先端のICTで繋ぎ、道路交通問題の解決を図ろうという考え方に立つ。これに対し、同研究室のスタンスとして当面は人との関係から車単体にフォーカスしている違いがあるといいます。

■自身の研究では追突の問題にウェート

 このような研究室の特徴の一端を示す取り組み例として、伊藤誠准教授は文部科学省科学技術振興調整費((独)科学技術振興機構)による重要課題解決型研究プロジェクト「状況・意図理解によるリスクの発見と回避」(2004〜2006年度)を挙げます。これは、同研究室の稲垣敏之教授を代表者に多数の大学・研究機関が参画。交通事故に繋がる「事象の連鎖」を断ち切ることを目的に、連鎖の上流でリスクを回避するため、ドライバーが漫然運転などの潜在的不安全状態となることを防止、たとえそうなったとしても早期に安全な運転行動への復帰を促そうという仕組みを開発しています。
 同プロジェクトでは、状況とドライバーの意図との間にリスクに繋がる齟齬があるかどうかを検討。そこでまず、走行中のドライバーおよび外界の状態を観測しました。「それまでのシステムは外界のみを見ていて、ドライバーの状態も踏まえるという形にはなっていなかったのです」。しかし、ドライバーの支援ということを考えると、外界の状況に応じたドライバー側の知覚・認知・判断・操作といった状態を計測・検出・推定した上で、適切な支援がなされるべき。つまり、ドライバーの状態をどう推定するかがポイントになったといいます。
 この「ドライバーの状態を知ること」、またその上で直面しているリスクの大きさや時間的な余裕の程度によって「支援の仕方をどうするか」は、現在も同研究室において重要な課題と位置づけられています。支援には、たとえば、警報やリマインダーといったマイルドな手法から、システムがドライバーに代わってブレーキを掛けてしまうようなものまでさまざま想定されます。そこで、どこまでなら安全確保のための制御にシステムが介入して良いのか、さらにそうした機能を車に搭載した時に何が起こるか ― を理論的に考える必要があります。加えてその際は、実際にドライバーがそれぞれの支援をどう感じ、どういう行動をとるかも重ねて見なければなりません。このような目的から同研究室ではこれまでもDSを使い、ドライバーの状態の推定と支援の確認に取り組んできています。
 ドライバーの状態を知る方法ということでは、同氏は圧力分布センサーに着目しています。これは荷重が掛ると圧力分布が変化し、ドライバーの姿勢の変化を追随して認識できるというもの。カメラで撮った顔画像を使う方法と比べドライバーへの精神的な負担が少なく、座席にセットしておくだけと扱いもシンプル。ドライバーの姿勢の推定については概ねその有効性が認められるほか、たとえば、ACC(車間距離制御)システムによる走行時にブレーキペダルを踏もうとする直前の姿勢と踏む意思がない時の姿勢との違い、走行時に疲れや眠気を催している状態などの推定にも応用できそうとしています。「その意味では、いろいろあるディストラクション(運転への注意の低下)の状態の多くは圧力分布センサーを使う方法により検出できそうで、現在はその精度向上に力を入れているところです」
 一方、支援の仕方に関しては、たとえば、追突が迫っている状況下でドライバーの注意が他に向いてしまっている場合、システム側がいつ強制的にブレーキをかけるかというデザインの問題も検討中。日本ではASV(先進安全自動車)の基本的な考え方として、ドライバーがブレーキを踏むという意思表示をしない限りシステムが介入できないとされています。ただし衝突がほぼ確実な時、それによる被害を軽減するためであれば例外的に認められている(プリクラッシュセーフティシステムなど)というのが実情。しかしこの間、海外の自動車メーカーが低速度領域での強制介入を実現したことから、高速度領域での新たな開発に繋げるべく対応が求められてきました。そのため学外とも連携。ドライバーの過信を生まないための理論化や物理的な追突のリスクの評価が進められています。
 最終的にはこれらを統合。ドライバーの状態を推定し、システムをデザイン。併せて、ドライバーに過信が起こらないようにうまくマネジメントしていきたい考えです。
▲筑波大学総合研究棟B棟

▲伊藤誠准教授

▲四輪実車型「UC-win/Roadドライブ・シミュレータ」

▲UC-win/Roadドライブシミュレータによる研究発表資料
▲UC-win/Roadドライブシミュレータによる研究発表資料
▲自動運転機能を利用し、車間距離を保ったスムーズな
走行を再現
■DS利用の更なる研究展開

 同研究室では実験用として早くからDSを活用してきました。一つは高速道路コースのみの定置型システム。もう一つは高速道路のほか市街地などのコースも備えたモーション機能付きシステム。いずれもコースは出来あいで設置してすぐ利用できるなど、それぞれ優れた特徴があった半面、いろいろなシチュエーションを設定して実験をやりたいというニーズが高まる中、それにはなかなか対応できないという難点もあったといいます。
 そのような背景から伊藤誠准教授は当社の「UC-win/Roadドライブ・シミュレータ」に着目。2007年の導入へと至りました。
 これを受けて、先の研究プロジェクト終了後、自身を代表者とする文部科学省科学研究費補助金((独)日本学術振興会)の研究プロジェクト「非拘束モニタリングにもとづく追突防止支援と過信抑制インタフェース」(2006〜2008年度)に取り組む過程で、前述の圧力分布センサーを同DSに装着して利用。続いてスタートしたばかりの同研究プロジェクト「自然な運転状況の中での人間-機械双中心型多層的追突回避マネジメント」(2009〜2011年度)にも活用していく予定です。
 またそれと並行して今年前半、リスク工学専攻の学生向け授業で取り組まれた「高速道路への完全自動運転導入によるリスク低減効果の分析」の研究では、学生の一人が使い方の勉強を含め約一ヵ月間で三郷料金所〜守谷SAまで11.3km区間をモデル化。それをベースにDSを用いた分析が行われています。
 「まさにこのDSだからこそ短期間にコースを作成でき、しかもかなり正確に地形を再現したと思っています」。伊藤誠准教授はこうした一連の当社DSの利用を踏まえ、今年度中のさらに複数の研究をはじめ、積極的な活用を図っていきたいとしています。
 お忙しい中、取材ご対応ご協力いただきましたことに改めてお礼申し上げます。



  
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