騒音音響スパコン解析・シミュレーションサービス(以下、本サービス)とは、UC-win/Roadの騒音シミュレーションオプションのデータを、財団法人計算科学振興財団(FOCUS)のスパコンを用いて解析し、その結果を提供するサービスです。本サービスを利用することにより、スパコンならではの高い演算性能を利用し、短時間で大規模なデータの解析を行うことが可能になります。以下に、その概要を紹介します。
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ここでは「騒音」と表現していますが、実際には「人の耳で感じることができる空気の振動」の全般を処理の対象とすることができます。
音の挙動をデジタル的に表現する方法として、以下の2つに大別されます。
- 境界要素法などのように波動現象の方程式を離散化する考え方
- 音の直進性を利用して、有限数の音線を仮定する考え方
弊社のシミュレーションでは後者の「音線」を利用しています。
騒音シミュレーションのデータの構成要素は「音源」、「障害物」、「受音点」の3つです。
(1)音源
無指向性の点音源を前提とします。複数の周波数構成でそれぞれに音響パワーレベルを与えることができます。
移動する音源について、音源を直接に移動させることはできませんが、音源ごとに有効時間帯の設定を可能としており、移動経路上に複数の音源を配置してそれぞれに速度に応じた有効時間を設定することにより、移動と同じ効果を与えることができます。音線の方向は全球方向とし、音線の数は所定の規則のもとで変更可能です。
(2)障害物
具体的には、たとえば路面、他車両、沿道の構造物や建物になります。それぞれの表面に音線が到達したとき、反射または透過の発生を考えます。反射率によっては反射と透過の両方が発生しますが、この場合はもとの音線を2本に分岐させて考えます。
また、このシミュレーションでは回折と干渉は考えません。
(3)受音点
受音点は任意の位置に設置できます。また、無指向性として考えます。受音点に対する音線の寄与について、受音点からある音線に下ろした垂線を想定し、その垂線の長さが音源から受音点までの距離に応じた所定の長さより短い場合にその音線を有効とします。
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以下に解析事例を示します(図1)。現場状況としては、領域の図内で上寄りにひとつの音源があり、音源脇を通り右上から左下にかけて長さ20mの壁を想定しました。領域の大きさは80m×80mです。
その他の条件は以下のとおりです。
- 音源レベル:112dB
- 音源周波数:1000Hz
- 解析上の経過時間:0.26秒
- 解析時間きざみ:0.01秒
このデータの本サービスでの計算時間は1ノードを使用して2分間でした。
(参考費用:オプション基本料金18,000円/月、2分間使用料400円、税別)
■図1 解析事例
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騒音シミュレーションは、音線や受音点の数を増やすことにより、計算精度が大きく向上します。ただし、計算精度を上げようとすると、以下の問題が生じます。
- 計算精度に応じて計算時間が増す。数時間から数十時間、場合によっては数日要することもある
- 必要メモリが増加するため、メモリ不足により計算できないケースが生じる
このような問題は、スパコンを用いることで解決できます。スパコンを用いることのメリットは以下のようなものです。
- 高い演算能力を持つことから、解析時間を大幅に短縮できる
- 大容量メモリを搭載しており、パソコンでは対応ではないような大規模データの解析が可能
- ローカルマシンのCPUを占有しないため、他の仕事の生産性が向上
- 専用のハード、動作環境が不要であり、ロースペックマシンでも高い演算性能を利用可能
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スパコンは、ノードと呼ばれる計算機の集合によって構成されています。FOCUSのスパコンは、200を超えるノードを有しており、本サービスでは、このうち4ノードを用いた計算を行います。1ノードあたりのコア数は12個であるため、図2のように、合計48コアによる並列計算が行われることになります。また、1ノードあたりのメモリ容量は48GBであり、これが4ノードあるため、パソコンとは比較にならない程の大きなメモリ領域を用いることができます。
なお、本サービスでは、MPI(Message Passing Interface)と呼ばれるインターフェースを用いてこれらの多数のCPUコアを用いた並列計算を行います。MPIでは、図3のように、それぞれのCPUコアごとに独立したプログラム(プロセス)を起動します。また、プロセスごとに独立したメモリ空間を割り当てます。このような並列処理は、分散メモリ型並列システムと呼ばれており、それぞれのプロセスが、自分が担当する解析処理を自ら判断し、解析を行い、最後に全プロセスの結果を集計し最終的な結果としています。このような並列計算を行うことにより、高い演算性能を発揮しています。
図4に、UC-win/Roadのサンプルデータの解析時間を示します。一般的な性能のローカルマシンと比較すると、数十倍の性能を発揮しています。最新型のパソコンであればこの差は縮まりますが、概ね20〜30倍程度の速度で解析することが可能です。
ただし、クラウドサーバシステムやスパコンの間でデータファイルの受け渡しが必要になることや、多数のCPUコアを起動したり同期を取ったりするときにオーバーヘッドが発生することから、小規模なデータの場合、逆に効率が低下するケースもあります。
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■図2 ノード構成と主記憶容量 |
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■図3 MPIによる並列計算 |
■図4 サンプルデータの解析時間 |
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本サービスは、以下の手順で利用できます。まず、UC-win/Roadの騒音シミュレーションオプションからスパコン解析用のデータファイルを生成し、これを図5のWebアプリケーションのアップロード画面から登録します。これにより、自動的にスパコンによる解析が実行されます。
解析が完了すると、登録したアドレスにメールが転送されますので、Webアプリケーションから解析結果を取得し、UC-win/Roadに取り込むことで結果を確認できます。
■図5 解析データのアップロード画面
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本サービスでは、解析処理のアルゴリズムの見直しにより、さらなる解析時間の短縮を検討しています。また、騒音シミュレーションオプションでは、解析ステップごとの結果表示機能の追加、特定の基準や指針に準じた解析への対応などを検討しています。
今後も改良・改善を加えていきますので、どうぞご期待ください。 |
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