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ユニバーサル・コミュニケーションデザインの認識と実践

太田 幸夫
ビジュアル・コミュニケーションデザイナー、太田幸夫デザインアソシエーツ代表
特定非営利活動法人サインセンター理事長、多摩美術大学 前教授
LoCoS研究会代表、日本サイン学会理事・元会長、日本デザイン学会評議員
一般財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会評議員
A.マーカスデザインアソシエーツ日本代表
 

Vol.3 新しい絵ことばLoCoS
   
LoCoSはLovers Communication System の略。世界の人が言語や文化の違いを超えて、恋人のように理解しあえるコミュニケーションメディアを目指して1960年代前半、太田幸夫がイタリアのベニスで考案し、1971年ウイーン国際会議で発表して大きな反響を呼んだ絵文字のシステム(絵ことば)です。

単純な19種類の幾何形態を組み合わせて、見るだけで誰でも意味がわかる単語の形をつくる。精神統一や葛藤など抽象的な意味も、8種類の意味の要素を使って容易に表現できます。
文章の組み立ては英語に準じました。文が始まった左は過去、文が終わる右は未来、中央なら現在形とする時制を、点(存在)の位置で示します。動詞(〜する)の働きは“関係づけるもの”と考えて、横棒で表現しました。目の形に横棒がそえられるだけで、名詞の目が動詞の「見る」になる。S+V+Oなどの構文は英語と同じ「SはOをVする」となり、SとOはVによって関係付けられていると考えます。横棒を斜めに切れば「Vしない」棒の左右に存在の点を配せば「Vした」または「Vするだろう」となる。
文章は横一列とはかぎらず、上または下にくる単語(または文)が副詞(句/節)の働きをします。これにより中央にくる主要部分を把握しやすくなり、文章全体が見取りやすくなります。単語の形は同じでも、上に置かれれば副詞、下に置かれれば形容詞の働きをします。こうした仕組みによって、単語学習の負担は激減します。

またLoCoSは読み書き両用のシステムなのです。あらゆる単語をつくる形の要素に18種の子音をあてがい、枠内の位置に母音をあてがえば、すべての単語が発音できるようになります。そして形と発音と意味が一致するわけです。形を見れば意味がわかり発音できる。発音を聞けば形を表現できて意味もわかるのです。
アメリカの有名な文化人類学者マーガレット・ミードが指摘しているように、そうした絵ことばは世界でLoCoSだけといわれます。またLoCoSの単語は象形性が高いので、国際的理解も容易で、ウイーン会議で依頼され各国で講演や特別授業を半年間続けた結果、誰でも30分で理解できて使えるようになることがわかりました。
インドのアーメダバードの大学で連続授業をした際、世話になった家の娘姉妹は、40分説明しただけなのに、LoCoSで書いた普通の手紙を別れ際、手渡してくれました。

けれどもLoCoSは現在まだ、私案の域に留めています。考案者が一人で完成すべきものでもないし、みんなでよりよい絵文字に進化させなければならない。単語の意味と形の関係、英語に準じた文法の是非、発音の子音と母音の相関その他いろいろ、地球市民として世界の人と一緒にバージョンアップさせねばならない、と考えています。
多くの意見や提案を取り入れ改善するため、1973年、講談社の依頼で300頁の本にまとめたのは、年齢や職業をこえて多くの人にLoCoS研究の恊働を呼びかけるためでした。ところが研究会の多くのメンバーは、LoCoSの普及を熱望するばかりでした。
今後LoCoSのバージョンアップで必要なことは、多次元化です。2次元の平面上で左から右に上下3段の逐語処理的表現の現状から、絵画のように色や質感を伴って広がる表現。瞬間で全体が見とれて、感動とともに意味が把握できる。さらに動きや形の変化や音を伴う3次元、4次元の表現。視覚言語から感性言語に進化しなければなりません。
しかもすべての人の日常生活の経験の中に共通に持っているセマンティックス、シンッタクティックス、プラグマティックス、つまり形と意味、形と形、見る人と形の関係を整えて行きたい。その時、30分の学習すら必要なくなる。ユニバーサル・コミュニケーションデザインの出現です。

   
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