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新連載(全5回)
統合医療とメンタルヘルス
第1回 これからの医療からみた心のケア
安田病院心療内科、統合医療アール研究所所長 板村 論子 (いたむら ろんこ)
プロフィール 関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。
マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録 本統合医療学会認定医 ・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。
『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著
など多数。
はじめに

2017年1月号から5回にわたり『統合医療とメンタルヘルス』について紹介します。
現代社会はストレス社会といわれています。心のバランスを崩し、不安や抑うつ状態から適応障害、パニック障害、うつ病、統合失調症など心の病気になる人が多く、特にうつ病の患者さんの増加は社会問題となっています。統合医療は、最先端医療と伝統医療や相補・代替医療を融合させ、患者さん一人ひとりの生きかたにあった医療を提案しています。すでにメンタルの問題を抱え薬物療法を受けているがなかなか薬が減らない、何とか仕事をしているが眠れない、いつも疲れを感じている、何らかのメンタルの『不調』を抱えている、あるいは身体の不調から自律神経失調症ですよと言われて薬を服用している、このような場合西洋医学に基づく従来の医療だけでは改善しないことが多いのです。
自分の心と体に目を向けて、健康な心身をつくるためにどうすればよいのか、統合医療からメンタルヘルスを考えてみたいと思います。


統合医療とは

統合医療とは医療の受け手である「人」を中心とした医療システムです。
近代西洋医学に基づいた従来の医療の枠を超えて、種々の相補・代替医療、生きていくために不可欠な「衣・食・住」、さらには自然環境や経済社会をも包含する医療です。これまでの従来の医療は「治療」を目的とする医療供給側からみた医療でした。近代西洋医学に基づいた疾患(Disease)に対応して治療が行われています。

そのため高度化・細分化された医療が提供されていますが、その一方で病気(Illness)である「人」への全人的な視点が抜けがちです。受け手である「人」ひいては社会からみた医療が統合医療です。病気になる前に予防する、病気を抱えながらもよりよく過ごすこと(生活の質の向上:QOL)を目指し、統合医療は従来の治療法を超えて、遺伝子治療をはじめとする最先端治療や相補・代替医療をも柔軟に取り込みながら、真の意味で「人」のためになる医療を提供するシステムが統合医療なのです。

人は一生を通じて「健康(Wellness)」と「病気(Illness)」を行き来します。健康な状態であれば、そうした「ゆらぎ」を維持する生活スタイルが大切です。疾患名のついた病気であれば、基本的には近代西洋医学に基づく従来の医療の範疇ですが、「未病」であれば相補・代替医療を視野に入れることも重要です。このような多様な解決法を、あなた自身が能動的に選択していく。それが統合医療です。図1に示すように統合医療では「人」の生老病死に関わり、健康維持や予防のための食・運動・睡眠・生活スタイル、そして未病な状態では相補・代替医療を取り入れ、病気になれば最先端医療や専門の治療を受けることができます。統合医療は「人」の身体症状だけでなく、心理的、社会的な面を含め、一人ひとりを診るオーダーメイド医療であり、全人的に「人」を診る医療です。

図1 統合医療

補足;
相補・代替医療(Complementary and Alternative medicine:CAM):厳密な定義はありませんが、一般に近代西洋医学領域以外のすべての医学や医療の総称をいいます。中国伝統医学、漢方、アーユルヴェーダ、ホメオパシー、アロマテラピー、鍼灸、カイロプラクティック、オステオパシー、整体、マッサージ、食事療法、植物療法、サプリメント、精神療法、芸術療法など幅広い分野の手技なども含み、民間療法として知られているものも多くあります。

ホメオパシー:230年の歴史を持つドイツ発祥の相補・代替医療です。現在は世界保健機関(WHO)が認め、世界の80カ国以上で用いられています。特に欧州では人口の約30%が利用しています。発祥国のドイツでは75%もの家庭医がホメオパシー薬を処方しています。ヨーロッパや南米では保険が適用される国も多くあります。


統合医療先進国『キューバ』の医療

次号で世界の統合医療の流れを紹介する前に、昨年と今年に統合医療の先進国ともいえるキューバの医療を視察したので紹介したいと思います。

キューバでは1959年、先日亡くなったフィデル・カストロ、カミーユ・フォルネ、チェ・ゲバラの3人の指導者のもとに革命が起こりました。チェ・ゲバラはアルゼンチン人医師であることから革命後、健康・医療システムの構築は教育とともに最も重要な国策となっています。キューバの医療水準は高く、幼児死亡率 1000人あたり4.2人(米国6.17人、日本2.13人)で、平均寿命 79歳となっています。キューバ憲法50条に国民が医療を受ける権利を持っていると記され、キューバの医療はキューバ国民なら無料で受けられます。実際医師の数も人口10万人当たりでは日本の3倍以上です。図2にキューバの医療システムを示しています。一次医療としてのプライマリケアが非常に充実しています。プライマリケアとしてポリクリニックとファミリードクター(家庭医)の間に基本的な医療グループがあり、そのチームがファミリードクターの補助と患者の健康を含め指導するようになっています。ハバナのポリクリニックでは近代西洋医学に基づく医療だけでなく、食事指導、ホメオパシーや鍼灸などの自然伝統医療(MNT)が統合して患者に提供されていました。約30%の患者さんに自然伝統医療を用いているということでした。写真1はハバナのポリクリニックのファミリードクターと薬局です。薬局で患者はドクターに処方されたホメオパシー薬(レメディ)を受け取るようになります。キューバでは2015年まで医師の卒後研修として自然伝統医療(鍼灸、ホメオパシー、植物療法、オゾンテラピーなど)が教育されていたのですが、2016年度から医学部教育(6年間)の内科、外科、産婦人科、皮膚科、精神科など西洋医学の必須科目と同等に、自然伝統医療が取り入れられるようになりました。医師は全員医学部の授業で自然伝統医療を学び、看護師や薬剤師、理学療法士など医療従事者は卒後研修として自然伝統医療の専門性を取得しています。

処方箋を持っておくとホメオパシー
薬(レメディ)を薬剤師より受け取る
図2 キューバの医療システム 写真1 ハバナのポリクリニックのファミリードクターと薬局

一方、市町村の一次医療機関でも統合医療が実践されています。写真2はハバナから車で約1時間ほど離れたプライマリケアの診療所(Camilo Ciefuegos)です。地方の中核となる診療所ですが、自然伝統医療(MNT)の診察室があり鍼灸やホメオパシーだけでなく、食事療法や運動療法にも力を入れていました。リハビリテーション施設もありました。

写真2 地方の一次医療の診療所での自然伝統医療 写真3 キューバ最先端病院風景

さらにハバナの三次医療、最先端医療を実践している644病床を有するハーマノス・アメエヘイラス病院(写真3)では、副院長や麻酔科医、精神科医、自然伝統医療専門医と自国の統合医療について意見交換をしました。

自然伝統医療部門が病院内で活発に稼働していて、手術前後にホメオパシーやオゾンテラピーが行われていたり、精神科領域では特にホメオパシーが有用であるということでした。また都市にはいくつかの二次医療の専門病院があります。ハバナにある整形外科専門病院(Fructuoso Rodrigue )では統合失調症の80才の女性が骨盤骨折で入院していました。

骨折による侵襲から統合失調症で高齢者であることから精神的なコントロールとして術前にホメオパシーが投与されていました。また手術では腰椎麻酔に鍼灸も行われる予定だと医師が説明してくれました。(写真4)

キューバの医療は 1)治療 2)予防 3)健康増進 4)リハビリ を目的としています。自然伝統医療はその目的に応じて近代西洋医学に基づく従来の医療と統合的に実践されています。

 

医療が無料で受けられ、プライマリケアの充実は日本と大きく違うところですが、日本でも統合医療先進国といえるキューバの医療から学ぶべきことは多いように思いました。これからの超高齢化社会で統合医療を行うことは重要な要となると予想されます。

滞在は10日間ほどでしたが、キューバの医療全体を視察することができたことは今後の日本における医療の進むべき方向が統合医療であると確信しました。
写真4 ハバナの整形外科専門病院で

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