はじめに
2017年1月号から5回にわたり『統合医療とメンタルヘルス』について紹介します。
現代社会はストレス社会といわれています。心のバランスを崩し、不安や抑うつ状態から適応障害、パニック障害、うつ病、統合失調症など心の病気になる人が多く、特にうつ病の患者さんの増加は社会問題となっています。統合医療は、最先端医療と伝統医療や相補・代替医療を融合させ、患者さん一人ひとりの生きかたにあった医療を提案しています。すでにメンタルの問題を抱え薬物療法を受けているがなかなか薬が減らない、何とか仕事をしているが眠れない、いつも疲れを感じている、何らかのメンタルの『不調』を抱えている、あるいは身体の不調から自律神経失調症ですよと言われて薬を服用している、このような場合西洋医学に基づく従来の医療だけでは改善しないことが多いのです。
自分の心と体に目を向けて、健康な心身をつくるためにどうすればよいのか、統合医療からメンタルヘルスを考えてみたいと思います。
統合医療とは
統合医療とは医療の受け手である「人」を中心とした医療システムです。
近代西洋医学に基づいた従来の医療の枠を超えて、種々の相補・代替医療、生きていくために不可欠な「衣・食・住」、さらには自然環境や経済社会をも包含する医療です。これまでの従来の医療は「治療」を目的とする医療供給側からみた医療でした。近代西洋医学に基づいた疾患(Disease)に対応して治療が行われています。
そのため高度化・細分化された医療が提供されていますが、その一方で病気(Illness)である「人」への全人的な視点が抜けがちです。受け手である「人」ひいては社会からみた医療が統合医療です。病気になる前に予防する、病気を抱えながらもよりよく過ごすこと(生活の質の向上:QOL)を目指し、統合医療は従来の治療法を超えて、遺伝子治療をはじめとする最先端治療や相補・代替医療をも柔軟に取り込みながら、真の意味で「人」のためになる医療を提供するシステムが統合医療なのです。
人は一生を通じて「健康(Wellness)」と「病気(Illness)」を行き来します。健康な状態であれば、そうした「ゆらぎ」を維持する生活スタイルが大切です。疾患名のついた病気であれば、基本的には近代西洋医学に基づく従来の医療の範疇ですが、「未病」であれば相補・代替医療を視野に入れることも重要です。このような多様な解決法を、あなた自身が能動的に選択していく。それが統合医療です。図1に示すように統合医療では「人」の生老病死に関わり、健康維持や予防のための食・運動・睡眠・生活スタイル、そして未病な状態では相補・代替医療を取り入れ、病気になれば最先端医療や専門の治療を受けることができます。統合医療は「人」の身体症状だけでなく、心理的、社会的な面を含め、一人ひとりを診るオーダーメイド医療であり、全人的に「人」を診る医療です。
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図1 統合医療 |
補足;
相補・代替医療(Complementary and Alternative medicine:CAM):厳密な定義はありませんが、一般に近代西洋医学領域以外のすべての医学や医療の総称をいいます。中国伝統医学、漢方、アーユルヴェーダ、ホメオパシー、アロマテラピー、鍼灸、カイロプラクティック、オステオパシー、整体、マッサージ、食事療法、植物療法、サプリメント、精神療法、芸術療法など幅広い分野の手技なども含み、民間療法として知られているものも多くあります。
ホメオパシー:230年の歴史を持つドイツ発祥の相補・代替医療です。現在は世界保健機関(WHO)が認め、世界の80カ国以上で用いられています。特に欧州では人口の約30%が利用しています。発祥国のドイツでは75%もの家庭医がホメオパシー薬を処方しています。ヨーロッパや南米では保険が適用される国も多くあります。
統合医療先進国『キューバ』の医療
次号で世界の統合医療の流れを紹介する前に、昨年と今年に統合医療の先進国ともいえるキューバの医療を視察したので紹介したいと思います。
キューバでは1959年、先日亡くなったフィデル・カストロ、カミーユ・フォルネ、チェ・ゲバラの3人の指導者のもとに革命が起こりました。チェ・ゲバラはアルゼンチン人医師であることから革命後、健康・医療システムの構築は教育とともに最も重要な国策となっています。キューバの医療水準は高く、幼児死亡率
1000人あたり4.2人(米国6.17人、日本2.13人)で、平均寿命 79歳となっています。キューバ憲法50条に国民が医療を受ける権利を持っていると記され、キューバの医療はキューバ国民なら無料で受けられます。実際医師の数も人口10万人当たりでは日本の3倍以上です。図2にキューバの医療システムを示しています。一次医療としてのプライマリケアが非常に充実しています。プライマリケアとしてポリクリニックとファミリードクター(家庭医)の間に基本的な医療グループがあり、そのチームがファミリードクターの補助と患者の健康を含め指導するようになっています。ハバナのポリクリニックでは近代西洋医学に基づく医療だけでなく、食事指導、ホメオパシーや鍼灸などの自然伝統医療(MNT)が統合して患者に提供されていました。約30%の患者さんに自然伝統医療を用いているということでした。写真1はハバナのポリクリニックのファミリードクターと薬局です。薬局で患者はドクターに処方されたホメオパシー薬(レメディ)を受け取るようになります。キューバでは2015年まで医師の卒後研修として自然伝統医療(鍼灸、ホメオパシー、植物療法、オゾンテラピーなど)が教育されていたのですが、2016年度から医学部教育(6年間)の内科、外科、産婦人科、皮膚科、精神科など西洋医学の必須科目と同等に、自然伝統医療が取り入れられるようになりました。医師は全員医学部の授業で自然伝統医療を学び、看護師や薬剤師、理学療法士など医療従事者は卒後研修として自然伝統医療の専門性を取得しています。
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