株式会社アーバン設計 耐震設計部
大葉 勇輝
使用製品 UC-BRIDGE(分割施工対応)(旧基準) Ver.10 、基礎の設計・3D配筋(旧基準) Ver.2、Engineer’s Studio® Ver.11
前回は既設橋梁の耐震補強設計にて、PCラーメン式橋脚のプレストレスを考慮した初期断面力を「UC-BRIDGE」、動的解析用の固有周期算定用基礎ばね値を「基礎の設計」によって算出し、それらをEngineer’s Studio®と連動させる活用法について主に紹介した。今回の後編では、Engineer’s Studio®で行った補強検討の詳細内容などを紹介する。
レベル2地震時の橋梁耐震補強設計における設計・解析ソフトの活用について 【後編】
株式会社アーバン設計
耐震設計部
大葉 勇輝(おおば・ゆうき)
2013年、株式会社アーバン設計入社。主に既設橋梁のメンテナンス業務に従事する。近年では、既設橋の耐震性能を非線形動的解析により照査し、対策工法の計画と立案を行う耐震補強設計業務に携わる。
現況の照査では、橋軸方向タイプⅠ、タイプⅡ、橋軸直角方向タイプⅠ、タイプⅡのすべてのケースで許容曲率、せん断耐力ともにNGとなった。補強検討に当たり、NGとなっている箇所について詳細を把握し全部材ではなく補強する部材を特定した。次に、補強対象部材に対して有効な補強方法を検討し順次段階を追って繰り返して行くこととした。
前編でも紹介したが照査は各橋脚に対して、PC橋脚の梁は、降伏耐力My及び終局耐力Muの判定を鉄筋及びPC鋼材による限界状態で行った。また、下部工に対して曲げ変形(降伏曲率φy、許容曲率φa、終局曲率φu)、せん断耐力の照査などを部材に応じて行っている。その結果、橋軸方向タイプⅠ、タイプⅡ、橋軸直角方向タイプⅠ、タイプⅡすべてのケースにおいてNGが発生した。なお、橋軸方向に比べて橋軸直角方向がより厳しい結果となっている。そのため参考に橋軸直角方向タイプⅡのNG箇所図を示す(NG要素=赤色部)。
補強検討1は現況照査の結果より、曲率、せん断耐力照査共にすべての橋脚でNGとなっているが特に最も大きい断面の柱の結果が厳しいためその柱断面を対象に補強を行う事とした。
補強方法:RC巻き立て、使用材料:コンクリート=24Mpa、鉄筋=SD345
ファイバー要素のヒステリシスには、補強による横拘束効果を全断面で考慮することとした。なお、ファイバー要素では断面の主軸方向毎に横拘束材料を作成し、橋軸方向と橋軸直角方向解析時でモデルを分けて設定している。横拘束効果の設定に必要な横拘束筋の体積比ρsは、下記式より既設鉄筋も含めて算出した。既設鉄筋の材質(SD295)と補強鉄筋の材質(SD345)の違いについては、降伏強度比を考慮して鉄筋断面積を算出している。
ρs:横拘束筋の体積比、Ah:横拘束筋1本当りの断面積(mm2)、s:横拘束筋の配置間隔(mm)、d:横拘束筋の有効長(mm)
以下にその算出例を表形式で示す。
次に、横拘束効果を考慮したコンクリートのヒステリシス(応力-ひずみ関係)を図5に示す。
許容曲率
許容曲率は、対象断面のM-φ特性を作成しそこから算出することとした。なお、ラーメン構造のため軸力変動が生じるので許容曲率算出に使用する軸力は同時性を考慮している。これによって動的解析結果より算出された応答曲率が発生した時の軸力を用いて、Engineer’s Studio®が自動で許容曲率を再算出する。ファイバー要素は逐次軸力変動に対応した結果となっているため、この処理により許容値との整合性を取っている。
M-φ特性算出用の準拠基準は、既設橋のため「H14年、道路橋示方書Ⅴ(耐震設計編)」を基本としている。ただし、補強後の断面の扱いでは「既設橋の耐震補強設計に関する技術資料、国土交通省国土技術政策総合研究所、H24年11月」(※以降国総研資料第700号という)に沿った内容とした。その主な内容は以下となる。
補強後の塑性ヒンジ長
補強後橋脚の塑性ヒンジ長の算出では、「H14年、道路橋示方書Ⅴ(耐震設計編)」を基本としてそこに補正係数CLPを乗じた値とした(「既設道路橋の耐震補強に関する参考資料、H9年8月、日本道路協会」等参照)。
照査結果:補強検討1
補強検討1における補強概要及び、照査結果の一覧表を右に示す。
補強を行った柱については橋軸直角方向のせん断照査で何れもNGの結果となっている。
補強検討1の結果より、補強の対象と巻き立て厚さは同じとして、主鉄筋径と帯鉄筋径及びピッチを変更して検討する。補強検討2における補強概要及び、照査結果の一覧表を右に示す。P3橋脚においてせん断耐力の照査を満足する結果となったが、P4とP5についてはNGのままとなった。
次の補強検討では、補強対象箇所を増やす事とした。補強方法についてはRC巻き立てとし、主鉄筋径は変更せずピッチを大きくし、使用材料をSD490とした。帯鉄筋は補強検討2の仕様のままとした(材質とも)。補強検討3における補強概要及び、照査結果の一覧表を以下に示す。
次の補強検討では、補強対象箇所を更に増やす事とし、かつ、補強方法についてもRC巻き立て以外の工法を検討することとした。これに伴い主鉄筋の材質をSD345に戻し主鉄筋径を小さくしたが、帯鉄筋は基本的に補強検討2の仕様のままとした。別工法としてはP3の中柱とP4の右柱において鋼板巻き立て工法を採用することとした。ただし、橋脚柱基部及び、上部では施工上アンカー定着とできないため非定着としている。これにより鋼板巻き立てによる横拘束効果は見込まず、曲げ耐力及び、せん断耐力の向上のみを考慮することとした。補強検討4における補強概要及び、照査結果の一覧表を以下に示す。
次の補強検討では、柱ごとの補強方法を再検討して変更することとした。また、RC巻き立て補強箇所については、鉄筋材料はSD345のままとして主鉄筋径とピッチを変更することとした。補強検討5における補強概要及び、照査結果の一覧表を以下に示す。この検討にて、すべての照査でOKとなったため完了とした。
「UC-BRIDGE」「基礎の設計」を使用して、Engineer’s Studio®の既設橋現況解析モデルを作成し、補強検討まで行い、今回はその補強検討の詳細について記述した。Engineer’s Studio®では解析モデルにファイバー要素を使用し、許容曲率はM-φ特性より自動で算出させることが出来るため作業の効率化を図れた。また、補強工法についてもRC巻き立て、鋼板巻き立てなど複数の工法にも対応できる利点があった。
(Up&Coming '24 春の号掲載)
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