Vol. 46
このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。電子帳簿保存法に関して、2024年1月より変更になった事項を取り上げて解説いたします。
 
『年収の壁』への当面の対応について ~厚生労働省 年収の壁・支援強化パッケージ~

 昨年の最低賃金の大幅な引き上げ、2024年10月からの短時間勤務者への社会保険の適用拡大に伴い、いわゆる『年収の壁』への当面の対応策として、2023年10月に、厚生労働省より支援強化パッケージが発表されています。

年収の壁・支援強化パッケージとは……?

 人手不足への対応が急務となる中で、パートやアルバイトなどの短時間労働者が『年収の壁』を意識せず働くことができる環境づくりを、国が臨時・緊急的に支援するものです。


年収の壁とは……?

 配偶者の扶養となり、パートやアルバイトで就業している方が一定の年収を上回ると、自身で社会保険に加入することになり、配偶者の扶養から外れ、手取りが減ってしまうことから、その年収を超えないように働き方を制限(就業調整)してしまう従業員がいます。このように就業調整を意識する年収について、就業の壁となることから『年収の壁』と表現することがあります。
 この年収の壁は、いくつか段階がありますが、今回大きな問題となったのが、社会保険加入に関係する『106万円の壁』と『130万円の壁』です。


図1 年収と手取り収入の変化のイメージ

図2 年収による税・社会保険料の負担のイメージ

106万円の壁(図2の赤の囲みの部分)

 パート等の短時間労働者(次の要件にすべて当てはまる労働者)の勤め先が、被保険者101人以上の企業(→今年10月より被保険者数51人以上の企業へと変更)の場合、勤務先の社会保険(短時間被保険者)に加入することとなります。なお、この要件に当てはまる場合には、雇用保険についても加入となります。
 ① 週の所定労働時間が20時間以上あること
 ② 雇用期間が2ヶ月を超えて使用される見込みであること
 ③ 賃金の月額が8.8万円以上であること
   →この要件から『106万円』の壁と言われます!
 ④ 学生でないこと


130万円の壁(図2の青の囲みの部分)

 パート等で働く従業員の年収が130 万円以上となると、原則として、配偶者の社会保険上の扶養から外れなくてはなりません。これが、『130 万円』の壁です。
 1週間の所定労働時間および1 ヶ月の所定労働日数が、通常の社員の3/4 以上の場合(1日8時間が所定労働時間の事業所であれば、週30時間以上で該当)は、勤務先の社会保険加入となりますが、勤務時間等が少ない場合でも、年収が130万円以上となれば、ご自身で国民健康保険、国民年金へ加入となります。
 なお、勤務先の社会保険へ加入することで、手取り額が減ることばかりに目が行きがちですが、会社が保険料を折半で負担してくれており、万が一病気やケガで長期に休むことになっても健康保険から手当が受けられ、将来の年金の増額に繋がるといったメリットも知っておく必要があります。


他にも、103万円の壁

 103万円の壁とは、『所得税の壁』と言われるものです。
 年収が103万円以下の場合、本人の所得には税金がかかりません(※図2参照)。また、扶養する側(夫や妻)の税金も増えないことで、この103万円を超えないように、パートやアルバイトが働き方を制限(就業調整)してしまう壁です。
 では、これらの壁を意識することなく、パートやアルバイトが働くことができる環境づくりのための国の施策である今回の支援強化パッケージについて見ていきましょう。


106万円の壁への対応

 先程お伝えした通り、将来の年金が増える、万が一の保障もあると分かっていても、現時点での手取りが減ることについて拒否感が強く、年収を超えないように就業時間を短く調整してしまう方は少なくありません。今回の支援強化パッケージは、そんな従業員が『年収の壁』を意識せず働けるための対応策となります。パートやアルバイトの方が、新たに社会保険に加入しても手取りを減らさないで済むように、手当の支給や賃上げ、労働時間の延長などの取組みを行う会社に対して、国が従業員一人当たり最大50 万円を助成するという制度です。
 106 万円の壁への対応は、以下の通りです。

(1)社会保険適用促進手当等の支給メニュー
 パートやアルバイトの方が、年収『106 万円の壁』を超え、新たに社会保険に加入した場合に発生する保険料の負担を軽くするための手当(社会保険適用促進手当等)の支給です。1年目、2年目は、賃金の15%以上の手当を支給すること。3年目は賃金額を18%以上増やすことが要件となります。

(2)労働時間延長メニュー
 パートやアルバイトの方が、労働時間を延長することで年収の壁を超え、新たに社会保険に加入した場合に、国から助成が受けられる制度です。ただし、延長した時間が週4 時間未満の場合は、労働時間の延長に加えて、賃金を5 ~ 15%以上増やすことが要件となります。

(3)社会保険適用促進手当と労働時間延長の併用メニュー
 上記(1)社会保険適用促進手当等と(2)の労働時間延長の併用タイプです。
 新たに社会保険に加入したパートやアルバイトに、1年目は『社会保険適用促進手当』を支払うことで負担を軽減し、2年目からは労働時間や賃金を増やすことで助成されるメニューです。

 なお、いずれのメニューも新たに社会保険に加入したパートやアルバイトに対し、追加の手当等の支給や昇給(時給アップ)などを行うことにより、パートやアルバイトが、106万円を超えて働き、社会保険料を負担した場合でも、それ以前と比べて手取りが減らないようなメニューとなっています。なお、2026(令和8)年3月末までの時限措置となっています。

[新設]キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
 (1)手当等支給メニュー


(2)労働時間延⾧メニュー


※ 助成額は中小企業の場合、大企業の場合は3/4の額。
※ 1年目に上記(1)の取組みによる助成(20万円)を受けた後、2年目に上記(2)の取組みによる助成(30万円)を受けることが可能。

社会保険適用促進手当
 事業主が、従業員が社会保険に加入することで手取り額が減らないように手当を支給した場合は、本人負担分の社会保険料相当額を上限として社会保険料の算定対象としません。



※ 社会保険適用促進手当については、標準報酬月額104千円以下の労働者が対象。
※ 労使ともに社会保険料の算定対象外、最大2年間の時限措置。
※ 手取り収入は税金については考慮していない。


130万円の壁への対応

 130万円の壁への対応は、以下の通りです。簡単に言うと、一時的に年収が上がった場合に、事業主が証明することで引き続き配偶者の扶養でいられる措置となります。
 繁忙期でやむを得ず働く時間を増やしたことで年収が130 万円を超えた場合などで、会社が『一時的に収入が上がった』ことを証明すれば、引き続き社会保険の被扶養者のままでいられるという制度です。

《例》毎月10万円で働いているパートが、一時的な残業により収入が増え、年収130万を超えるとき


※ 同一の者について原則連続2回までが上限。
※ 一時的とは、同僚の退職により代わりに働く必要があった、急な受注で業務量が増えたなどのケースを想定しています。

この他に、配偶者の扶養から外れた場合に多くの企業では配偶者手当(家族手当)の支給をなくすことが多く、この手当が外れてしまうことも就業調整の一因となっているとされていることから、この手当の見直しについても企業へ理解・促進をするための手順やフローチャートについての資料作成、公表が予定されているようです。具体的な内容については、公表され次第、またお伝えいたします。


最後に

 ご紹介した支援強化パッケージは、2026(令和8)年3月末までの時限措置となっています。2026年4月以降どのようになるかは今のところ決まっていません。ですので、この支援強化パッケージを利用できる期間は利用し、支援期間が終わったらまたもとに戻そうではなく、この支援期間中に、各年収の壁を超えた働き方についてパートやアルバイトと話し合いをし、これからの働き方の見直しのきっかけとして欲しいと思います。


資料

厚生労働省『年収の壁・支援強化パッケージ』
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html

監修:久次米公認会計士・税理士事務所

(Up&Coming '24 春の号掲載)



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